492 / 650
本編
792 過剰なる復活の儀
しおりを挟む「全部むしるわよ! 余すことなく全部よ! むしり取ってくれる!」
骨の説明により、俺の毛は全て刈り取られた。
イグニールが万全を期して全部刈り取った。
ご丁寧に、最近開発したバリカンと言う名の魔導機器をローディが持って来た。
ストーキング行為を働いていたとか、そんな理由はひた隠しにして。
お姉様、最近開発したバリカンの試作品です、と御都合主義を演じてだ。
(これ、蘇生してる最中なんだよな)
「そうですぞ」
俺がその辺に幽霊になっていると周知されたから、骨は骨のままで普通に喋っている。
「ボン、トウジはなんて言ってるの?」
「まだうだうだ言って乗り気じゃないみたいですぞ」
「まったく、髪の一本や二本でうだうだ言わないの」
(全部じゃん)
「全部じゃんって愚痴ってますぞ」
その伝え方悪意あるだろ。
付け足すなよ。
「髪があってもなくてもトウジはトウジ! 私の旦那!」
イグニールにそう言われると、もう何も言えなくなる。
「何も言わなくなりましたから、観念したっぽいですぞ」
「なんなら下も全部剃るわよ、万全にするためにね」
丸坊主だなんて、人生で初めての体験だ。
いや丸坊主どころが全身脱毛だ。
(ハハ、しばらく公衆浴場とか入れねぇなこりゃ)
「しばらく温泉に入れないって文句言ってますぞ」
だから言うなって、独り言だろ。
おちょくってんのか、おちょくってんだろ。
こいつめ! 骨のくせに!
「大丈夫よ。なんか可愛いし。私も剃って二人一緒なら恥ずかしくないでしょ?」
「イグニールさんのその発言もどうかと思いますぞ……」
夫婦脱毛プレイとか、どこの上級者だ。
まだ何も先に進んでないってのにさ。
……ま、剃ってと言われたら喜んで剃らせていただきますが。
「ボン、全部回収したわよ?」
「でしたら、ウィンストさんが魔法陣を用意してくれている部屋に移動させましょう」
別室では、骨にやり方を教わったウィンストが蘇生用魔法陣を準備している。
そこに俺の体と毛を並べて、全員で魔力を流して蘇生するという算段だ。
(でもさ、聖女だったら普通に蘇生のスキルとか使えるんじゃないの?)
こんな魔法陣を使わなくてもできるんじゃないか。
なんとなくそう思って、骨に尋ねてみる。
すると、骨はシュバっと霊体になって俺の前に来ると言った。
(もう使ってしまったんですぞ。多分、自分に)
(ああ、そっか)
だから骨になっても生きている、という結果につながっているのだろう。
死にたくないという思いが、そのスキルを勝手に発動させたのだ。
(変なことを聞いて悪かったな)
「いえいえ、良いんですぞ」
だが、骨状態で復活したってことは、元の体は奪われた状態だと言える。
すなわち、取り戻す可能性があるってことで良いのだ。
可能性がゼロになったわけではなく、むしろ増えたとみて良いだろう。
(しかし、奪われたと思った性欲が幽霊になって戻るとは……)
墓ドロしたことによって、色々とその辺がリセットされたのかな?
ってことは、髪だって元に戻る可能性があるんじゃないか?
(希望が、希望が見えて来たぞ!)
「なんだかトウジさんの急にテンション上がりましたぞ」
「なんて言ってるの?」
俺をお姫様抱っこして部屋を移動するイグニールの問いに骨が答える。
「死んで奪われた性欲が戻ったそうですぞ。それで希望がどうたらと」
「ふ、ふーん?」
おい、その言い方は語弊があるだろ。
そう言うことじゃないんだよ。
復活した瞬間、イグニールと微妙な空気になったらどうするんだ。
くそが。
「さ、連れて来たわよ!」
「うむ、こっちも準備は大方完了した。チビにも全力を出させる」
「ギャオ!」
用意されたどでかい部屋に、どでかい魔法陣。
その側にウィンストとドラゴン化したチビも待機。
「ありったけの魔力を込めれば良いんだし?」
「そうですぞ~」
「よ、よし、うちも微力ながら手伝うで!」
「俺も、トウジにはお世話になったからな、魔力回復に良い料理食って来た!」
ジュノー、マイヤー、パインのおっさん。
みんなが協力して魔力を流してくれるそうだ。
……なんだか、すごく嬉しかった。
毛がどうとか、そう言う話は抜きにして。
こうしてみんなが助けてくれる。
そんな様子が、見ていて少し涙腺にきた。
「お姉様、私もお姉様のために頑張ります」
「ありがとうローディ。バリカンも助かったわよ」
「えへへへ」
このストーカーは、なんかもう死ねって感じ。
「待て、フルチャージした飛空船の魔力も使おう。多いに越したことはないのだろう?」
「そうですぞ~」
何故かローディとともにやってきたオスローも、でかいバッテリー五つを背に仁王立ちしていた。
なんとも、大掛かりな蘇生の儀式である。
全ての人の協力を受けて、一度死んだ俺は、再び異世界に爆誕するってことだ。
「……多分」
いざ、みんなで魔力を流そうと言う段階で、骨がボソっとそんなことを呟いた。
(おいちょっと待て、多分ってなんだ、多分って)
(そんなこと言われましても、まさかこんなに大掛かりになるとは思いませんでしたぞ)
シュボっと霊体になって俺に告げる骨。
(当初の予定ではウィンストさん、ジュノーさん、イグニールさんでいけると思ってたんですぞ)
(で、でも多いに越したことはないんだよな? ないんだよな?)
(ないです。多分)
(多分って何!)
なんかいきなり怖くなってきたんだけど。
本当に大丈夫?
(ま、トウジ様。大は小を兼ねると言うじゃないですかぞ~)
(……ば、爆発とかしないよな?)
(それはさすがに大丈夫だと思いますが、まあやってみてのお楽しみってことで)
シュンッ。
骨はそう言い残すと、自分の体に戻って号令をだす。
「ではいきますぞ~」
みんなの魔力が魔法陣に流し込まれた。
魔法陣がまばゆい光を放つ。
もう、すごく明るい。
なにこれぇ。
霊体だった俺は、魔法陣の中にある自分の体に吸い込まれた。
=====
やりすぎ。
71
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。