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本編
797 空は青いけれど
しおりを挟む「その、結婚おめでとう」
窓際から流れる雲を見ながら、答える。
「ありがとう」
鈍感系主人公だったらどう答えるのか。
俺にはわからない。
けれど、イグニールと夫婦になると決めた。
できるなら関係性が抉れないでくれ。
そう思うのは、俺の自惚れだろうか。
「トウジ、所帯持ったけど」
「うん」
「うち、あの家居てええの……?」
来てしまった、この言葉。
願わくば、と思っていたが、やはりそうなる。
どうするべきか。
どちらに筋を立てるべきか。
普通だったら嫁さんだよな。
と、思うのだけど。
いつも家で待っていてくれたマイヤーを追い出す。
そんな結果になって欲しくはなかった。
その部分を許容する。
果たしてイグニールが許してくれるのかは知らない。
彼女だったら許してくれるのかもしれない。
けど、俺の価値観がその部分をどう受け止めるのか。
「うち、出ていこか」
考え込む長い沈黙を裂いて、マイヤーはそう言う。
「いや」
「……いや?」
そのまま窓の外を見ながら言おうとした。
でも言葉が喉元から出てこなかった。
気を使ってそう言ってくれているマイヤー。
その厚意を無下にしてしまっても良いものか。
このまま一緒に暮らしていても……。
良いのか、悪いのか。
「えっと……」
今俺がどんな顔をしているのかわからなかった。
気難しい顔をしているんだろうな、きっと。
こう言う状況はわかっていたはずなのに。
でも答えを出さない。
その選択肢が一番失礼なんじゃないか。
結論を急ぐってことはないけれど。
すでに決まっている状況で、だらだらとぬるま湯に浸かる。
果たしてそれは良いことなのだろうか。
「もー、しゃっきりせえや」
「は、はい」
黙っている俺を見て、マイヤーは笑いながら言った。
「困るんもわかるわぁ、うち、正直驚いた」
「……」
「嬉しいと思う反面、少しだけ悲しくなったりもした」
それは、とマイヤーは続ける。
「もうわかっとるかもしれんけど。ずっと好きやった」
「……」
自惚れてあってくれ、と心から思っていたが。
やはりそうだったのだろう。
思い当たる節はたくさんあると言うか。
果たして一人の女性が男と住むことを許すのか。
そういう話には興味がないのかなと思っていた時期もあったが……。
結局のところは、そうなんじゃないかな、と気づくのが普通である。
「でも、もうイグ姉の旦那さんなんよね」
「そうだよ」
そこばっかりは濁しちゃいけないと思ったのではっきり告げた。
「この状況でこんな話をするのもなんやけど、さ」
「うん」
「トウジいつもどっか行っとるから……」
冒険に出ると、だいたいマイヤーは家で一人である。
ストロング南蛮やリクールもいるが、みんなで揃うことは最近は稀だった。
俺はみんなで食べる飯がうまいと言っておきながら、彼女を一人にしている。
そりゃ商会だってあるし、学校だってあるし。
俺も頼って色々と任せているから自由に冒険に出るってことは無理だ。
しかしながら、そこに甘え過ぎていたのかもしれない。
「マイヤー」
「ん?」
「いつも一人にして、ごめん」
ひねり出すように出た言葉。
その瞬間、彼女の涙腺は大きく緩んでしまった。
「祝ってんのに謝るってなんなん、もう」
「あ……」
また間違えてしまったのだろうか。
俺は愚か者だ。
=====
約束しますみんな幸せになります必ずです。
約束します。約束します。約束します。誓。
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