装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera

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本編

802 ちょっとした昔話

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「な、涙……?」

 憤怒のそんな姿に唖然としていると、イグニールが言う。

「アイス急に食べたら頭痛がするから、仕方ないわよ。ほらあんな風に」

「っつああーーーーー!!」

 頭を抱えるマイヤー。

「いや、違うだろ」

 二日酔いの時もだいたいあんな感じでゴロゴロ転がっている。
 頭キーンとするのは基本一気食いの時だ。
 一口食べて、こうして涙を流すのは、何かが心に響いた訳で。

 言葉に詰まる瞬間だった。
 あまり深いところまでプライベートを聞くわけにもいかん。
 不味そうにしてるわけじゃないから、別に良いんだけどな。

「この味を、覚えている」

 そう考えていると、憤怒が静かに話し出した。

「思い出した、故郷の味だ……」

「故郷?」

「自らの体を封印するよりもずっと前のことで、すでに曖昧な記憶になっているのだが……」

 憤怒は語る。
 どれだけ時が過ぎたのかもわからなくなってしまったほどの大昔の記憶。

「すでに滅びた竜の民は、冷静だが、一度怒れば手に負えなかった」

「別に憤怒のダンジョンコアだから、とかではないんですね」

「ああ、元からそう言った感情を力に変える種族だ」

 怒りをパワーにって、なんだかんだバトルものありがちだけど。
 実際は、現実でもよくあることだ。

 アドレナリンだっけな?
 怒りの感情はアドレナリンを多くする。

 血管、つまり酸素の通り道を広げて集中力向上。
 さらには筋肉に行き渡る分も増えて身体能力が爆上がり。

 火事場の馬鹿力ってよく言われるように。
 窮地に対してまさに全力の全力を出すことができる。

 故に、怒りの力で強くなる、とは別におかしくもなんともない。
 そんな現実的な作用。
 それが異世界で摩訶不思議物質の魔力と合わされば、やばいな。

 憤怒だから、特殊な力を持っているというか。
 もともとがそう言った種族であり。
 その力がさらに増幅されてウルトラクラスになっているってことだな。

「そして、普段の小競り合いくらいならば、どうとでもないのだが……」

 憤怒は話を続ける。

「一度箍が外れてしまうと、どちらかが死ぬまで竜人族は戦いをやめない」

「おおう……」

 普段は理性的でも怒ると容赦しないってタイプだな。
 それのすごい版か。

「故に、もともと少ない数を自分たちで減らして行っていた過去があった。私が生まれる前のことらしい」

 自滅か。
 ま、それも自然淘汰みたいなもんだな。
 って、憤怒が生まれる前っていつだよ。

「それを解決するために、凍てつく氷の地へと移り住み、アイシクルミントを好んでいた……記憶がある」

「ん? 防ぐために食ってたんじゃないんですか?」

 なんかおぼろげな言い方である。

「長らく、私の他に竜族はラブのみだ」

 他所との関わりを立っていれば怒りに飲まれることなど到底ないと思っていて、なおかつ上手くいっていた。
 邪竜イビルテールが現れるまでは。
 その頃には、ダンジョンコアとしてずっとずっと孤独に生きてきたから、忘れていたとのこと。

「……ラブは、この存在を賢者から聞いたと言っていたな」

「昔封印した際に切り札になるとかならないとかですよね?」

 まさかとは思うが、アイシクルミントの存在を外に流したのって、賢者か?
 運命を嫌っちゃいるが認めてるみたいな感じの体裁だったからな、書物では。

「再び、助けられたようだ、召喚者に」

 改めて、アイスを片手に憤怒は頭を下げる。

「ありがとう」

「いえいえ、お礼を言うならば、娘さんに言ってあげてください」

 ずっと待ってたんだからな。
 どんな危険があろうとも、あんたを見守る。
 そのためだけに、一人でダンジョンに残る。

 それは、とても悲しいことなんじゃないか、と改めて思った。
 ダンジョンコアというものの見方が、俺の中で少し変わる。

 ──みんな、なんか抱えたものがあるんだろう。

 大きな力を持つ存在に、悩み事なんてつきものだ。
 俺だって、すごい力はないけれど。
 ちっぽけでせこい力だけど、同じように悩みを抱えていたしな。

「これが故郷の味だと、ラブにも伝えてあげたら良いです」

「そうだな。たくさん話そう。これからは、たくさんだ」

「もし何かあれば、すぐに俺を呼んでください。駆けつけます」

「……さすがにそこまで協力してもらうわけには」

「乗りかかった船ですよ」

 拭くならケツまでしっかりと。

「うちのジュノーと親友ですからね」

 立ち行かない事情だってあるかもしれないけど。
 できる限りのことはしよう。
 昔、船の上でマイヤーに言われたことだ。

「……ありがとう。アキノ・トウジ」

 再び頭を下げる憤怒。
 ふと、俺の視線がマイヤーに向いた。

 …………。

 ──こう言うことでは、すんなり覚悟を決められるのにな。






=====
いつかどっかでこの辺の話をかけたら良いな、とは思います。
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