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本編
801 魅惑のチョコミントバニラ・後編
しおりを挟むテーブルの上にしこたま並べられていた料理は完食。
そしてデザートの時間となった。
「さ、お待ちかねだぜ! 食後のデザートだ!」
「ォン!」
みんなで飯を食うのも目的だが、発端となったのはアイシクルミント。
色々と思い入れのある素材を使ったデザートは、なんとも感慨深いな。
「それにしてもよく食べたわね、トウジ」
「せやなあ、いつも以上にがっついとった」
「自分でもこの食欲にはびっくりだ」
なんだかわからないけど、復活を遂げてからすごくお腹が空く。
暴飲暴食の枷から解放されたように、ドカ食いをしてしまった。
「ォン」
「ポチ公の言う通り、よく食べることは、別に悪いことじゃねえよ」
そんな俺の様子を見て、そういうポチとパイン。
「ついさっきまで死んでたんだ。そりゃ生き返ったら腹は減るぜ?」
「いや、それはあんまり関係ないと思いますけど」
蘇生と言うより、新しく体が構成されたような感覚である。
前の俺ではないという、そんな感覚もあった。
なんだろう……。
連続した時間の中で、一度切り離された感?
前の俺は、フレームレートのどこかに取り残されて。
今の俺は、新しく描写されているって感じかな。
「ま、いいか。歳だけくって食欲不振になるよかね」
「そうよ。食べて元気になりなさい。精力つけなさい」
「あっはい」
いちいち言葉の最後に精力的な意味合いをつけるイグニール。
そんなキャラだっけな……。
「にゃはは! 暴飲暴食気にしなくてよくなったんなら、暴飲もいけるやんな!」
「いや、マイヤーそれは全く意味が違う」
気にしないでもいいからってできる証明にはならん。
今後とも、健康管理には気を使っていこうと思う。
秘薬がある限りどんな病気も怖くないが、できる限り自然的な健康でいたいのさ。
「おら、話は終わりだ。ここに来た目的のブツを……持って来てやったぜ!」
ドンッ、とテーブルに置かれるのは風呂桶みたいにでかい丸桶だった。
「アォン」
「そうだ。ポチ公の言う通り、作っちゃいました桶アイス」
桶、アイス──!
「ふわぁー!」
「んほぉー!」
ジュノーとラブの目がキラキラに輝いていく。
桶の中は、なんか知らんけどすげぇカラフルだった。
バニラ、チョコ、チョコミントの他に。
ジャムとかナッツを使用しているアイスもある。
「桶でやる必要あるのか……?」
溶けて混ざればみんな同じに見える。
そう呟くと、ジュノーが切れた。
「トウジにはこのロマンがわからないんだし!」
「えっ」
次にラブも。
「たわけめー! 見よこの調和! これだけいっぱい味があって素敵じゃろー!」
「えっ」
いや、だから普通にまとめる必要ないんじゃない?
バケツプリンとかみたいに、でかけりゃ良いってもんじゃない。
「まあまあ、あんたの装備へのこだわりと一緒よ」
「せやな。どっちかって言えばジュノーたちの方が夢があるやん」
「えっ」
女性陣から散々な言われようだった。
装備へのこだわりと甘いものが一緒だと?
相容れないぞ。
俺の装備は、強い。
そして生き抜くために必要不可欠。
まさに生きる歓びを表している。
「腑に落ちねえ」
「……その表情は納得いってないわね」
「……せやね」
ため息を吐かれたぞ。
「ふーむ、これだけバラバラな味をまとめあげるとは逆にすごい手間がかかりそうだ」
オスローの一言にパインとポチが偉そうな顔をして言い返す。
「苦労したぜ! 仕込みの9割をここに費やした!」
「アォン!」
「いかに、他の味を邪魔せず、上から食べていけば良い感じに混ざって良い感じの味になるかってのを、だ!」
「アォーン!」
「実に洗練された無駄のない無駄な努力だ。アーティファクトの研究と通じるものがある」
「へへ、それが料理ってもんだぜ」
「ォン!」
お、俺だって無駄な装備たくさん作ってるけど無駄じゃないもん。
分解したら素材になって再利用できるし?
家具とかにカナトコで見た目写せばすごく頑丈になるし?
実は切れ味がめっちゃ良い棍棒とか作れるんだぞ?
「なんか悔しい」
つーか、別々に作ってコーンの上にお好みで乗せるのとかどうだろう。
俺は自分でカスタマイズできるそっちの方が好みだなあ。
「まあまあ、何で怒ってるのかわからないけど、アイス食べましょ」
「うん。まあ別に怒ってないけどね?」
「露骨に悔しがっとるやんけ」
「悔しがってねーし!」
とりえがそれしかないんだよ!
まあいい、とにかくチョコミント食べる。
他にも色々と美味そうなものはあるが……。
やっぱり来た目的のチョコミントだろ!
「甘いもの同盟! 出陣だしー!」
「ぬおー! 食べつくすのじゃー!」
桶にむしゃぶりつく二人は放置して、俺は個別に用意された小さめのアイスにありつく。
「ヒューリーさんもどうぞ。アイシクルミントを使ったデザートです」
「う、うむ」
初めて食べるものだったのか、少し困惑した顔を浮かべる憤怒。
だが、ラブが目を輝かせる姿を見て、小さく笑顔を作っていた。
愛娘が美味しそうに食べるもの、それが不味いわけがない。
「いただきます」
「いただこう」
一口。
爽快感が口の中で爆発して全身に満ちていくようだった。
清々しい丘の上で風に吹かれた気持ちの良い感覚がする。
「うおお……」
「なんか、すごいわね」
「せやな、これすごいわ」
同時に食べたイグニールやマイヤーもほんのり顔を紅潮させていた。
突き抜ける感覚とともに広がっていく美味しいという気持ち。
心の中が清々しい、なんだこれ。
「──ああ」
ちらっと、憤怒の方を見ると。
上を見上げて涙をこぼしていた。
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