531 / 650
本編
831 唐突な訃報
しおりを挟むトガル南の海峡を超えた先に存在する国、タリアス。
空高く聳え立つ大迷宮、天界神塔を保有する大国だ。
「わー! トガルとあんまり代わり映えしないし!」
「どういう感想……?」
タリアス北端の港町を見渡したジュノーの感想。
トガルもどちらかと言えば暖かめな国。
海を隔てた隣国だから、大した違いはあまりない。
強いて言うならば、石でできた建物が多いってところかな。
そして日に焼けた浅黒い肌を持った人が多く、格好もまあ……。
「開放的ね」
「あだっ……! そ、そっすね」
透け感を重視した格好の人々に視線を向けていると、イグニールに腕をつねられた。
「目立つから、現地の服でも買いましょ? あとで装備に見た目写してもらえるかしら?」
「オッケー」
俺たちの身につけている装備は、気候の変化を一切感じない優れたもの。
しかし、周りの視線が痛い気がしたので、多少は変えておくことにした。
「これとかどうかしら?」
「イグニール、結構攻めてるし……胸と下半身以外見えてるし……」
「くびれが綺麗な人はお腹を出すのがトレンドなんだって?」
「へー、ならあたしもお揃いのにするし!」
服屋へ向かい、女性陣が衣服を選ぶ間、ポチを抱っこしながら待つ。
ほうほう、へそだしルックのイグニールか……。
最高じゃないか。
「アォン」
「ん? 俺は服を選ばないのかって? 着慣れてないのはちょっとな……」
今身につけてる服が一番なんだ。
流石にフードは脱いでおくけど、シャツとベストは欠かせない。
「アォン」
「え? 長袖は見てるだけで暑いって?」
腕まくりしときゃ、別に良いだろ。
下着や肌着以外は常に同じ格好ってのが、引きこもりのルーティンなのだ。
ポチとそんなことを話している間に、イグニールたちが戻ってきた。
ちなみに初めての町ではゴレオを出すわけにもいかんので、図鑑でお留守番だ。
「お待たせ」
「待たせたし! 野郎どもー!」
サービスシーンを期待している方もいると思うが、まだ着ていない。
ジュノーに合うサイズがない故に、一度カナトコで見た目をコピーしないといけないからだ。
「ほらさっさと見た目変えるし!」
「へいへい」
早く着たくてたまらない、といった面持ちのジュノーのためにさっさと変えといた。
そして再び服屋の試着室を借りて、タリアス式の衣服を身にまとった女性陣。
「どうかしら?」
「どうだし!」
「よく似合ってるよ」
眼福である、本当に。
二人ともタリアスでは基本的にこの格好で過ごすそうだ。
旅行を楽しんでいるのは結構だが、趣旨はそこではない。
「はやくマイヤーを探さないと」
「そうね。縁談先の人と出会っちゃう前に抑えないとね」
予想では、すでに船を降りて首都へと向かっているはず。
一応港町に降りた理由は、無事に船が着いたか確かめるためだ。
天候によっちゃ出航しないことなんて普通にあるからね。
「──号外号外! 大ニュースだ!」
新聞配りの子供が、駆けずり回りながら何やら叫んでいる。
「トウジ、大ニュースだって! なんだろ?」
「迷宮で何かすごいものが出たとかじゃない?」
天界神塔を中心として成り立つ国だ。
日夜行われる迷宮探索で、何かすごい掘り出し物が出たのだろう。
「謎の海上災害で、貿易船団が全滅だって! こりゃ大変だよ!」
「えっ!? ちょっと、一枚ください!!」
貿易船団だって!?
すぐに新聞を買うと、そこにはこう書かれていた。
“──貿易船団、全滅。生存者なし”
“被害総額20億ケテルを超える!”
「う、嘘だろ……」
タリアスとトガルを結ぶ海峡を渡っていた貿易船との連絡が途絶え、すぐに調査へ赴くと、大海原に船の残骸のみ浮かんでいる状態だったらしい。
新聞の訃報欄に、乗っていた人の名前が記載されている。
──“マイヤー・アルバート”
俺は手に持っていた新聞をくしゃくしゃに握りつぶした。
55
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつもりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。