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本編
838 全体攻撃魔法
しおりを挟む空が青くない。
これほどまでの高度に上がったのは、教団ブチのめした時以来だった。
「この高さに最上階って……まともに攻略させる気ないだろ……」
球を半分に割った表面のような天界神塔の最上階を目の前にして、そんなことを呟く。
世界一を誇る山よりもさらに高い位置。
空気さえ、もうあんまり存在しないんじゃないかなってくらいの位置まで建っていた。
何の対策も無しだと、長時間の活動すらできないだろう。
え、飛空船に乗る俺たち?
そもそもの耐久性能が違うし、環境ダメージ無効なんで……はい。
それで無酸素状態でも息ができるか、といえばそうではないけど。
一般客も乗る予定の飛空船には、ちゃんと酸素発生装置をつけている。
「下から追っかけて来てるわね」
「敵さんも、この速度での上昇は考えてなかっただろうしね」
またしても、ダーティーな方法で最上階まで直通だ。
もっとも、ダンジョンコア相手に正攻法なんて、馬鹿のすることである。
そんな風に正当化して、下から追いかけてくるガーディアンたちを迎撃。
「イグニール、全力出して良いよ」
「そ? なら──」
と、彼女は珍しく長めの詠唱へと移った。
飛空船を取り囲むようにして、大量の魔法陣が浮かび上がる。
幾重にも、幾重にも重なり合い、つながりあい。
歯車のように、連動して動いていた。
「え、なにこれ?」
「全体攻撃魔法」
「そ、そうなの?」
「さっき、なんか全体攻撃魔法じゃないんだよなあ、ってトウジ残念がってたでしょ? だから見せたげようかなって」
な、なるほどね。
別にそんな意味で残念がってたわけじゃなく、昔を思い出していただけなんだが……。
気を利かせてくれたってことで、よしとしておこう……。
「火球でも威力激ヤバだったけど、これは」
「初めて使うからわかんないわよ。でもここなら使っても周りに影響なさそうじゃないかしら?」
「そ、そうだけど」
ちょっと怖えよ。
前もなんか飛空船の近くでぶっ放して、ちょっとやばいことになってなかったっけな?
「とりあえず準備で魔力消費しちゃう類だから、もったいないし撃っちゃうね」
「あっはい」
封開けちゃったから食べちゃうね、みたいな、そんなノリで。
イグニールは全体攻撃魔法、まさしく究極と言えるかもしれないスキルの名をつぐむ。
「──オービタルフレイム・インフィニット」
生み出された広範囲の魔法陣から、まさに無限の火球が射出された。
無限の火球は、往路でガーディアンを粉砕。
復路でもう一体粉砕して戻ってきて、再び射出される。
……それが、数えるのも面倒なくらい大量だ。
往復のデフォルト2連撃。
超範囲、超連射、超火力。
圧倒的過ぎる手数は、俺のセコい常套手段さへも霞むほど。
「スキルってすげーな」
「装備のおかげよ」
「そ、そうだね」
俺はスキルを持った装備を身につけないとその恩恵はあやかれない。
だからあまり実感はないのだけど。
目の前の光景を見て、
──スキルはとんでもなく強い代物だってことを改めて実感した。
素の殴りとは、倍率が違うんだよなあ……。
ゲームでも、スキルで攻撃力の1000%ダメージとか普通にあった。
俺の装備+イグニールの素質=最強。
以前も考えていたこの図式が、今日をもって証明された形である。
「これ、エンドコンテンツのボスクラスも廃人ユーザー向けに強化されてなかったら即死だわ」
ダメージ表記が出るゲーム内だったら、驚くべきほどのダメージを映し出していたはず。
エフェクトが重いから、レイド戦では使いどころ選らんでねと言われるだろうな。
「……アイテム回収できる分だけしとくか」
戦闘はイグニールの超すごいスキルに任せて、俺はワシタカくんに回収を頼んだ。
全ての回収は難しいが、ドロップアイテムが見えるワシタカくんが巨大な網の装備を引っ張って飛び回る。
感覚的に言えば、漁に近い。
=====
5巻、3月24日発売ですが、20日ほどから都内の書店には並び始めているそうです。
書影に関しては、ポチかわいいです。ツイッターに先行で載せております。
後々こっちの方にも載せる予定です。
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