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本編
850 トウジがいない間に進む話
「約束が違うである。一発だけ受ける、という約束だったはずである」
鋭い目つきでアローガンスが凄む。
私は目を回しながらも、なんとかジュノーを守るために体勢を立て直した。
「約束……? いや、全然違ってないわよ」
目の前の男から逃げるためには、どう活路を見出すべきか。
トウジなら、どうする?
散々彼のやり方を見てきたわけだけど、未だに底が知れない。
考えてないように見えて、考えていたり。
考えているように見えて、考えてなかったり。
でも一つだけ確定していることがある。
こんなピンチの時は、絶対何か思いついて行動に移している。
だから、とにかく時間を稼ぐために言葉を紡いだ。
妻なんだから、ずっと側にいたんだから。
トウジが言いそうなことくらいはわかる。
「ええ、全然違ってない。こっちは全く破ってないもの」
「屁理屈である。それを許されるのは我のみである」
「筋は通ってるわよ。あんたが約束したのはジュノーでしょ」
「……ぷ、ぷはっ! そ、そうだし! あたしだし!」
胸元から顔を出したジュノーも、私の言葉に乗ってくれた。
そうよ、トウジの時もそうだった。
アローガンスは一撃のやり取りに拘っている。
何故そんな非効率なことをしているのかはわからない。
おそらくだけど、自分の力を相手に見せつけるためだけね。
名前の頭に傲慢の、と付くくらいなんだから。
「屁理屈である。2発である」
「いや、一発だ。我と戦っている最中に、ジュノーにあんな提案をするのが悪い」
「そうだし! キングっちとは戦ってる途中だったし! だからあたしは一発だし!」
キングも話に加わり、とにかくアローガンスに言葉攻めを行う。
相手の思う壺にならないように、相手の土俵に立たないように。
「ぐぬぬぬぬ!」
「それに、さっきだってそっちがいきなり殴ってきたし! びっくりしたー!」
「そうね、これでジュノーの分はちゃらよね。いやむしろロイと私の分があるわよ?」
どうするの?
と、私は問いかける。
「キングの一撃はロイの分でチャラ。まだ私の分が残ってる状況だけど」
超速で激しく体をぶつけまくったもんだから、ロイの体は少し小さくなっていた。
無敵の時間が切れた際、私たちを守るために尽力してくれたらしい。
さすがにその状況ではろくに戦えないので、一撃を許すのならば私が出る。
相手の土俵に立たないように、と言っても、結局は土俵に立つしかない。
半端に攻撃を仕掛けて、普通の戦いが始まるくらいなら……。
一撃受けさせることを確約して、そこに全力を注いだ方が良いはずよ。
「ぐぬぬぬ……貴様は確か、我のガーディアンを葬った火炎使いであーるな」
「そうね。あれ、ぶつけようか? あんたに耐えられるかしら?」
「見ていたが、あの魔法は一撃の範疇が定かではない。もし失敗すれば……」
一度言葉を飲んで、アローガンスは言う。
「とんでもないしっぺ返しが来るかもしれないが?」
「承知の上よ」
オービタルフレイム・インフィニットは、込めた魔力分、永遠に続く火球の連鎖。
もし火球の一つひとつを一発換算された場合、恐ろしい結果が待ち受けている。
「えー! あれで一個の魔法なんだから一発は一発でしょ!」
「なら我の超絶無限連鎖パンチも一発扱いにするであるか?」
「なんだしそれ!」
「我が飽きるまで続く連続パンチであーる」
「今考えたし! そんなの無しだし!」
「それと一緒であーる」
こればっかりはアローガンスの言う通りよね。
ただの攻撃を連続のもので、これで一つの攻撃だって言い張ると収集がつかなくなる。
「まったく、そんなことも理解できないお子ちゃまはさっさと引っ込むであーる」
「むかーっ! また小石ぶつけるし!」
「貴様らお得意の一発換算するが、いいのであるか? お?」
「むかーっ! むかつくむかつく!」
後ろでロイが「子供の口喧嘩だな……」と呟いていた。
本当ね。
「ジュノー、詠唱に入るから、ちょっとどいてもらえるかしら?」
「……やだ!」
「これが終わったあと、あなたまで巻き添いになっちゃうかもしれないのよ」
「それで良いし! あたしがここにいる限り、絶対イグニールは死なないんだから!」
「え……?」
どういうことかと首を傾げていると、アローガンスが教えてくれた。
「ふむ、ついにその手で来たか。貴様の件に関しては、憤怒から聞いているである」
「ジュノーの件?」
「なんでかわかんないけど……」
ジュノーが胸元から私を見上げて言う。
「あいつらは私に直接攻撃しようとしたらできないんだし」
断崖凍土でビシャスに連れ去られた時に発覚した謎の力。
もともと本体は別にあるから死なないとしても。
八大迷宮と呼ばれる者たちに対して、絶対的な防御となる。
「そんなことが……トウジは知ってるの……?」
「…………何度も言おうとしたんだし」
でも、言えなかったらしい。
理由までは、聞く必要ないわね。
どうしてそんな力を今まで黙っていたのか。
なんて咎めようもない。
あの状況は、キングもロイも私も間に合わなかったのだから……。
トウジ本人だって、そんな力をあてにするはずがない。
身内が傷つくのを誰よりも嫌う人なんだから。
「あと、ジュノーはジュノーよ。今はそれだけ言っておく」
「イグニール……」
なんとなくだけど、言い出し辛かった気持ちがわかる気がした。
私たちは現状維持を強く望む。
何かがきっかけて変わってしまうことを強く恐れている。
トウジがそうだから、ではない。
私たちだってそうなんだ、ってことよね。
もっとも、私はそれを一番最初に破っちゃったわけだけど……。
「つまらん話はもう良いであーるか?」
「あんたにとってはそうかもね。で、どうするの? 私が仮に一撃はなったあと、あんたは攻撃できないけど?」
不毛な争いはここで手打ちにできないだろうか。
向こうが一発多い状況なら、そもそも乗らなくて良いってまである。
「やり方はある。誰かを介した攻撃や何かと一緒に巻き込むような攻撃なら通るのは確認済みであーる」
「……それも考えた上で?」
「我が興味を抱いた貴様らがこの国に来た時から知っていた考えていたであーる」
どうだか。
でも、頭が良い振りして実はバカってタイプじゃないのは確かだ。
バカな振りして実は頭が切れるタイプでもないけど。
「手打ちにするつもりはないの? こっちの一発受け損で終わりにしたいんだけど」
「それでは面白みがないであーる。それに我の攻撃もあまり通ってないからむしろこっちが損であーる」
「あらそうなの、不思議ね」
無敵に勘付いている節があるので、なんとか誤魔化しておかないと。
「それに、久方ぶりにこんなに誰かを殴ったである」
どこか遠い目をしながら、アローガンスは言葉を続ける。
「多少のウォーミングアップも済んだ。もうしばらく暇つぶしに付き合うくらい……む──?」
が、そこで急に私たちから視線を逸らし、明後日の方角を向き始めた。
大穴から、ダンジョン内へと何者かが乗り込んで来る。
「──お前のくだらん遊びもその辺にしておけ、傲慢のアローガンス」
「これアローガンス! 我らが同盟のジュノーっちは無事なんじゃろうな! 何もしとらんじゃろうな!」
=====
ぱぱぁっ!!
言えない理由は別にあります。774話参照。
あと1話続くので、今日は二回更新するだでやー!
新作の下調べしようと課金してキャラ強くしようとしたら大爆死した鬱憤を書いて晴らします。
せめて経費にならねぇかな……ならねぇよな……。
鋭い目つきでアローガンスが凄む。
私は目を回しながらも、なんとかジュノーを守るために体勢を立て直した。
「約束……? いや、全然違ってないわよ」
目の前の男から逃げるためには、どう活路を見出すべきか。
トウジなら、どうする?
散々彼のやり方を見てきたわけだけど、未だに底が知れない。
考えてないように見えて、考えていたり。
考えているように見えて、考えてなかったり。
でも一つだけ確定していることがある。
こんなピンチの時は、絶対何か思いついて行動に移している。
だから、とにかく時間を稼ぐために言葉を紡いだ。
妻なんだから、ずっと側にいたんだから。
トウジが言いそうなことくらいはわかる。
「ええ、全然違ってない。こっちは全く破ってないもの」
「屁理屈である。それを許されるのは我のみである」
「筋は通ってるわよ。あんたが約束したのはジュノーでしょ」
「……ぷ、ぷはっ! そ、そうだし! あたしだし!」
胸元から顔を出したジュノーも、私の言葉に乗ってくれた。
そうよ、トウジの時もそうだった。
アローガンスは一撃のやり取りに拘っている。
何故そんな非効率なことをしているのかはわからない。
おそらくだけど、自分の力を相手に見せつけるためだけね。
名前の頭に傲慢の、と付くくらいなんだから。
「屁理屈である。2発である」
「いや、一発だ。我と戦っている最中に、ジュノーにあんな提案をするのが悪い」
「そうだし! キングっちとは戦ってる途中だったし! だからあたしは一発だし!」
キングも話に加わり、とにかくアローガンスに言葉攻めを行う。
相手の思う壺にならないように、相手の土俵に立たないように。
「ぐぬぬぬぬ!」
「それに、さっきだってそっちがいきなり殴ってきたし! びっくりしたー!」
「そうね、これでジュノーの分はちゃらよね。いやむしろロイと私の分があるわよ?」
どうするの?
と、私は問いかける。
「キングの一撃はロイの分でチャラ。まだ私の分が残ってる状況だけど」
超速で激しく体をぶつけまくったもんだから、ロイの体は少し小さくなっていた。
無敵の時間が切れた際、私たちを守るために尽力してくれたらしい。
さすがにその状況ではろくに戦えないので、一撃を許すのならば私が出る。
相手の土俵に立たないように、と言っても、結局は土俵に立つしかない。
半端に攻撃を仕掛けて、普通の戦いが始まるくらいなら……。
一撃受けさせることを確約して、そこに全力を注いだ方が良いはずよ。
「ぐぬぬぬ……貴様は確か、我のガーディアンを葬った火炎使いであーるな」
「そうね。あれ、ぶつけようか? あんたに耐えられるかしら?」
「見ていたが、あの魔法は一撃の範疇が定かではない。もし失敗すれば……」
一度言葉を飲んで、アローガンスは言う。
「とんでもないしっぺ返しが来るかもしれないが?」
「承知の上よ」
オービタルフレイム・インフィニットは、込めた魔力分、永遠に続く火球の連鎖。
もし火球の一つひとつを一発換算された場合、恐ろしい結果が待ち受けている。
「えー! あれで一個の魔法なんだから一発は一発でしょ!」
「なら我の超絶無限連鎖パンチも一発扱いにするであるか?」
「なんだしそれ!」
「我が飽きるまで続く連続パンチであーる」
「今考えたし! そんなの無しだし!」
「それと一緒であーる」
こればっかりはアローガンスの言う通りよね。
ただの攻撃を連続のもので、これで一つの攻撃だって言い張ると収集がつかなくなる。
「まったく、そんなことも理解できないお子ちゃまはさっさと引っ込むであーる」
「むかーっ! また小石ぶつけるし!」
「貴様らお得意の一発換算するが、いいのであるか? お?」
「むかーっ! むかつくむかつく!」
後ろでロイが「子供の口喧嘩だな……」と呟いていた。
本当ね。
「ジュノー、詠唱に入るから、ちょっとどいてもらえるかしら?」
「……やだ!」
「これが終わったあと、あなたまで巻き添いになっちゃうかもしれないのよ」
「それで良いし! あたしがここにいる限り、絶対イグニールは死なないんだから!」
「え……?」
どういうことかと首を傾げていると、アローガンスが教えてくれた。
「ふむ、ついにその手で来たか。貴様の件に関しては、憤怒から聞いているである」
「ジュノーの件?」
「なんでかわかんないけど……」
ジュノーが胸元から私を見上げて言う。
「あいつらは私に直接攻撃しようとしたらできないんだし」
断崖凍土でビシャスに連れ去られた時に発覚した謎の力。
もともと本体は別にあるから死なないとしても。
八大迷宮と呼ばれる者たちに対して、絶対的な防御となる。
「そんなことが……トウジは知ってるの……?」
「…………何度も言おうとしたんだし」
でも、言えなかったらしい。
理由までは、聞く必要ないわね。
どうしてそんな力を今まで黙っていたのか。
なんて咎めようもない。
あの状況は、キングもロイも私も間に合わなかったのだから……。
トウジ本人だって、そんな力をあてにするはずがない。
身内が傷つくのを誰よりも嫌う人なんだから。
「あと、ジュノーはジュノーよ。今はそれだけ言っておく」
「イグニール……」
なんとなくだけど、言い出し辛かった気持ちがわかる気がした。
私たちは現状維持を強く望む。
何かがきっかけて変わってしまうことを強く恐れている。
トウジがそうだから、ではない。
私たちだってそうなんだ、ってことよね。
もっとも、私はそれを一番最初に破っちゃったわけだけど……。
「つまらん話はもう良いであーるか?」
「あんたにとってはそうかもね。で、どうするの? 私が仮に一撃はなったあと、あんたは攻撃できないけど?」
不毛な争いはここで手打ちにできないだろうか。
向こうが一発多い状況なら、そもそも乗らなくて良いってまである。
「やり方はある。誰かを介した攻撃や何かと一緒に巻き込むような攻撃なら通るのは確認済みであーる」
「……それも考えた上で?」
「我が興味を抱いた貴様らがこの国に来た時から知っていた考えていたであーる」
どうだか。
でも、頭が良い振りして実はバカってタイプじゃないのは確かだ。
バカな振りして実は頭が切れるタイプでもないけど。
「手打ちにするつもりはないの? こっちの一発受け損で終わりにしたいんだけど」
「それでは面白みがないであーる。それに我の攻撃もあまり通ってないからむしろこっちが損であーる」
「あらそうなの、不思議ね」
無敵に勘付いている節があるので、なんとか誤魔化しておかないと。
「それに、久方ぶりにこんなに誰かを殴ったである」
どこか遠い目をしながら、アローガンスは言葉を続ける。
「多少のウォーミングアップも済んだ。もうしばらく暇つぶしに付き合うくらい……む──?」
が、そこで急に私たちから視線を逸らし、明後日の方角を向き始めた。
大穴から、ダンジョン内へと何者かが乗り込んで来る。
「──お前のくだらん遊びもその辺にしておけ、傲慢のアローガンス」
「これアローガンス! 我らが同盟のジュノーっちは無事なんじゃろうな! 何もしとらんじゃろうな!」
=====
ぱぱぁっ!!
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あと1話続くので、今日は二回更新するだでやー!
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