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本編

873 魂の約束・繋いだ手

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 “残った力は止まらない……私には、止められない!”

「でも、ビシャスの悪意は俺がなんとか、うわっ!?」

 メイヤの魂から吹き荒れる魔力の暴風。
 スタンス状態で弾き飛ばされはしないのだが、掴み上げられた。
 凡ゆる攻撃に対して、ビクともしないスタンス。
 しかし、地面に体が縫い付けられているわけではないのだ。

 “ダメ! やめて! お願い!”

 メイヤの懇願が虚しく響く。
 まるで別の意思をもっているかの様に、俺を地面に叩きつけた。
 不純物を追い出す様に、自分の魔力領域の外へと。

 ドゴォン!

「……う、ぐ」

 全身が地面にめり込み、激しい痛みを感じる。

「ど、どういうことだ……」

 悪意は抜けたはずなのに、何故止まらない。
 さらに、今までの俺を学習したかのような、この挙動。
 メイヤの意思とは、関係なく動いている。

 体を起こし、秘薬を飲んで体力を回復させたところへ。
 すぐに腕を振りかぶった精霊の叩きつける様な追撃。

「プルァアアアアアアアアアアアアアア!」

 間一髪、中央からダッシュで戻ってきたキングさんが間に合った。
 腕を横から殴りつけて、無理やり逸らす。

「主よ、何が起きた!」

「わからない……でも、メイヤの声は聞こえた」

 だから、彼女の意識は戻ったはず。
 本当ならば、これでこの自体は収束する……と予想していた。

「むしろもっと凶悪になっている様にも見えるが?」

「……間違えたかな」

 俺の持っていた水をぶちまけ。
 それからハッピーナイフでメイヤ自身から悪意を取り除く。
 万事それでオッケーだと思ったんだが、この状況。

「あれか、悪意だけがあの魔力を乗っ取ったのか?」

 どっかの漫画で見たぞ。
 純粋悪というやつではないか、これ。

 俺のナイフでは、悪意や恨みの類をどうにかすることはできる。
 でも、存在したままの力をなかったことにすることはできない。

 結果として、無邪気なメイヤは分離できた。
 が、飛び出した余計なものは、そのまま魔力に乗り移った。

「……って、ことかもしれない」

「余計な真似を、と言いたいところだが、誰が予測できようか」

 こんなことになるなんて、誰も思わない。
 むしろ、なんでこんなことになったってレベルだ。

「主よ、どうする!」

「そ、そういわれても……」

 キングさんの言葉に、俺はただただ立ち尽くしながら呟くように答えた。
 こうなることが予測できず、浅はかな考えで動いていた自分を殴りたくなる。

 思い返せば、だ。
 スピリットマスターが封印していたのだって、そうじゃないか。
 再びマイヤーに少しづつ還していくのだって、そうじゃないか。

 一度でもこうなれば、取り返しのつかないことになる。
 それを予期していたからこそ、サミュエルは苦渋の決断をしたわけだ。

「くっ……」

 中央にいるメイヤが心配だ。
 未だに魂はこの力の核として利用されたまま。
 俺が使った僅かな水のみで意識を保っている。

 再び飲み込まれた場合。
 次は取り戻せるかわからない、本当に絶望的な状況へ。

「プルァ! 情けない姿で立ち尽くすな、考えろ!」

「で、でも」

 メイヤを救ったとしても、あの化け物がまだ残っている。
 余波は、タリアスの首都まで響くんじゃないか?
 地下に作ったダンジョンにまで、届くんじゃないか。
 ナイフが迂闊なことだったからこそ、踏み切れない自分がいた。

「全てを出し切ったのか? 足掻いて足掻いて、足掻き抜いたのか?」

 血だらけで、死にかけで、それでも俺の目は諦めていなかった。
 ソルーナとの戦いで、転がっていた俺の目はそうじゃなかった。
 キングさんは、そう叫ぶ。

「戦いに来たのではなく、助けに来たのだろう! 見失うな、己を!」

「キング、さん……」

「今ある手札を絞り出して、全てを尽くせ! その時間くらい」

 そう言って、キングさんは王冠の中から秘薬を二つ取り出して飲む。
 前もっていくつか渡していた、小人の秘薬だ。
 ペナルティによって、どんどん大きくなっていくキングさんは言う。

「我が、稼いでやる──プルァァアアアアアアアアア!」

 山の如し大きさへと至り、魔力の塊と正面からかち合った。

「盟主様、どうか諦めないでください」

 遠くで控えていたフォルも俺のそばへとやってきて、激励の言葉とともに消えていく。
 進化したキングさんは、雄叫びとともに魔力の塊を押し返していた。

「キングさん、フォル……」

 みんな俺を信じて、やるべきことをしてくれている。
 だったら俺も、信じてくれたみんなのために。

「やるしかないんだ!」

 策は……正直ない!
 でもやるしかない!

 とにかくメイヤだけは助ける。
 彼女の側に行くんだ。

 何故、死の精霊は俺を掴んで外に投げ飛ばした。
 俺の命なんて、少し頑丈なだけでそこらの草木と変わらない。
 力にだけ悪意が移ったと言うのならば、俺は関係ないはずだ。

「俺が……何かするのを怖がったんだろ……ッ!」

 核となったメイヤに何かするのを、恐れた。
 それしか考えられない。
 いや、もうそれしか考えねーぞ俺は。

「そうか、ひとつだけ……まだ残ってんじゃねーか!」

 キングさんが押しとどめてくれる時間を使って俺は走る。
 襲ってくる亡者たちはもういない。
 精霊はキングさんと戦うので精一杯。

「救うための切り札が、まだあったぞ!」

 拳を握りしめて、俺は再びメイヤを目指して魔力の塊の中を駆け抜ける。

「メイヤ! まだ、いるのか!」

 “トウ……ジ……”

 聞こえてくる微かな声は、再びノイズに包まれていた。
 俺がもたもたしている間に、再び取り込まれようとしているようだった。

 “わた、しは、も……いい……”

 水はもうないとわかっているからか、彼女の逃げる様にいう声。

「まだだ!」

 水の魔力が、彼女を構成するものの一つだった。
 そこに彼女の記憶やら思いの丈が詰まっているのならば……。

「あるぞ!」

 今まで忘れていた。
 ユノからもらった力、救うためだけの純粋な力。

 それを今、ここで使うべきだ。

 ダンジョンコア相手に使う予定だったけど、別に1回限りじゃない。
 どこかでビシャスが見ているからと言って、出し惜しみはしない。



「たとえ過ごした時間は少なくても──」



 巨大な精霊の腕が、キングさんを無視して俺の元へと降り注ぐ。

「プルァ! 我との戦いでよそ見をするとは良い度胸!」

 腕は引っ込められ、今度は再び亡者の様な人間大の分体がうじゃうじゃわく。
 どうしても、どうしても俺をメイヤの元にまで行かせたくないらしい。



「その時間は無駄じゃないんだって──」



 人間大の大きさならば、どれだけしがみつかれようが関係ない。
 力を必死に振り絞って、俺は一歩一歩、メイヤに近づいて行く。



「──俺は、思ってるぞ!」



 もう一度、魂に触れた。
 次はナイフではなく、俺の手でしっかりと気持ちを込めて。
 悪かったよ、あんなもの突き立てて。

 手をつないで欲しい……だったよな?

 こんな形になっちゃったけど。
 どこが手かもわからないけど。

「しっかりつないどけよ」

 それだけあれば、何度でも引っ張り上げる。
 俺はありったけをぶつける様に、魔力を込めた。
 レベルも、ステータスの全ても、流し込んだ。










=====
何度も何度も書き直してたら、こんな時間になってしまいました。
遅れてすいません。
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