装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera

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本編

888 不穏な空気

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「……着替えの面倒とか全部見てもらえるのはありがたいですけども」

「一応、上等な奴だから、それ」

「なんか複雑な気分です……」

 ブツクサと文句を言うエリナはさておいて、俺たちはトガル国境の街サルトへとたどり着いた。
 エリナの乗っていた籠は、全部中身をそう取っ替えすることになった。
 波乱の経験値を積んでいないと、誰しもがああなってしまうだろう。

「それにしても、ここがトガルのサルトですか~!」

 ましてや、ろくに外に出たこともない町娘なら尚更と言うものだった。

「ギリス首都は平地だもんな」

 山麓に築かれた町は別に珍しくもないのだが、ここまで大きいのは有数。
 山脈の巨大な裂け目に、斜面に沿った巨大な都市は見慣れた俺でもやはり圧巻の一言。

「一応仕事ですから観光気分なのもどうかと思いますけど……すごいですね~!」

「……オデッセイの時はもろに観光気分だったくせにな」

 思えば、あの時から担当の同行というものが試験的に始まっていたのかもしれない。
 彼女は、はからずしも前例となってしまっていたのだろうか。

「しかしトウジさん、なぜ一度サルトに来たんですか?」

「ん?」

「どうせなら、国境を越えたウィリアムまで行ってしまった方が手間が少ないと思いますが」

「あー、ちょっと知人を訪ねておこうと思ってね」

 確かに彼女の案はもっともだ。
 しかし、深海のダンジョンへ赴くには、案内役が必要になってくる。

「今回の依頼で結構重要になる奴だから」

 ウィンストがいれば、わざわざ面倒な冒険をしないで済むんだ。

「重要ですか。まあいち職員でしかない私よりも、慣れたトウジさんにお任せします」

「はいよ」

 さてと、ウィンストはどこに滞在してたっけな……。
 牛丼屋に入り浸ってるだろうし、メッシに聞けば居処が掴めるかもしれない。
 こういう時、ケータイやスマホの様に、気軽に連絡を取れる手段がないのは苦痛だ。
 助けてオスえもーんって泣きつけば、作ってくれないだろうか?

「なんだ、お前ら国境を超えるつもりなのか?」

 俺たちの話を聞いていたのか、何者かがそんなことを言いながら近づいてきた。
 出で立ちは冒険者っぽい格好の男は言う。

「だったら今はやめておいた方がいいぜ」

「そうなんですか?」

「おうとも。今のデプリ国内は、正直言ってボロボロだからな」

「そうなんですか?」

「そうなんですか?」

 エリナも俺と一緒に男の話に耳を傾ける。
 男は「それしか言えねえのか……」と呆れながらも説明してくれた。

「勝手な勇者召喚でつけ上がった天罰が下ったんだよ」

「天罰?」

「勇者を失ってから、権威の象徴である大聖堂の消滅……まさに天罰だぜ」

「はえー」

 男の話を聞いて素直に驚くエリナ。
 彼女たちを見ていて、俺はなんとも言えない気持ちになっていた。
 大聖堂の消滅って、俺とキングさんでぶっ潰した一見だよな?

「もともとデプリが勝手に戦争しようと呼び寄せたんだ、仕方ないぜ」

「なんだかんだ、他の国は賛同してませんでしたしねえ……」

 ……あまりこの話題に口を出さないことにしよう。
 何かの拍子に口が滑っては元も子もない。

 ちなみに、クロイツに再召喚された勇者は、存在自体が包み隠されている。
 あんなでも一応この世界のヒーローみたいなもんだ。
 寝たきりになりました、なんて公表できるわけがない。
 一部上層の人しか、真相は知らないのだ。

 再召喚なんて真似をしたクロイツは、寝たきり勇者のおかげでそこまで脅威だと思われていない。
 むしろ、勝手に始まりかねなかった戦争を事前に阻止したという評価までされてそうだ。
 あの狸小僧ならば、その辺はうまく立ち回っているだろうよ。

「……かわいそうに」

 ふと、そんな言葉が漏れた。
 高校生はまだ子供だ。
 勝手に呼び出されて、勝手に使命を背負わされてって考えると……。

 昔は卑屈に捉えていたが、子供が生まれる今なら少しだけ理解できる。
 悪いのは全部異世界側じゃないか、と。

 別にこの世界を嫌いになるわけではない。
 俺はこの世界が好きだ。
 ただ、召喚魔法なんてなくなってしまえばいいのに、と。

 ……思わなくもない。

 いや、みんなと出会ったきっかけだから、一概に悪くも言えないか。
 こうしよう、未成年はダメだぞ、と。
 俺みたいな前の世界に未練がないようなタイプを連れて行け。

「ともかくだ。国内は荒れてんぜ? 王は信用できないっつって、領主の力が増してんだ」

「えっと、王家対貴族で争いが起こってるってことですか?」

「王家は戦う力もねえよ。抑えが効かなくなった貴族たちが、やりたい放題だってことさ」

「あんまり戦争ごとには詳しくないんですけど、貴族同士で色々やってるんですか?」

「おうとも。これを機に格を上げてやろうって野心を持った奴がたくさんいんのさ」

 一方が、他の領地を奪おうと動き出した際。
 もう一方もそれを防衛しなくちゃならなくなる。
 ギスギスだ、ギスギス。

「みんな国を離れようとしたぜ。俺もきな臭さを感じて一目散に逃げてきた口だからな」

「だから色々と物知りなんですね~」

「おう。でもって、流出を恐れた貴族たちが外に出ないように縛ってやがる」

 だから、行くのはやめた方がいいと男は言った。
 行けば、無事に帰ってこれるかもわからない。
 それだけ荒れた空気が山脈の向こう側には蔓延しているそうだ。

「なるほど……」

 少し、デプリに暮らす友人たちが心配だ。
 新緑の風の面々は、大丈夫だろうか。
 イグナイト家は、大丈夫だろうか。

 山脈の裂け目を通り、下ってくる風。
 いつもはカラッとした良い風なのに……。

 ……今日は少しだけ、不穏な何かを感じた。







=====
コミックス1巻発売しました!
ここまで来れたのも、皆様の応援のおかげであります。
なかなか更新が捗らずに申し訳ない気持ちでいっぱいです。
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