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本編
905 ディアマイベイビー
しおりを挟む「…………なんですか急に武器を切り替えて……それは、ガラガラ……?」
片手剣の代わりに持ち替えたものは、ガラガラ。
そう、赤ちゃんをあやす時に使う代物だ。
【ガラガラ】
必要レベル:1
攻撃力:1
VIT:1(+100)
UG回数:0
特殊強化:◆◆◆◆◆
限界の槌:0
装備効果:音撃
=====
潜在等級:レジェンド
潜在能力:攻撃時30%の確率で爆笑
攻撃時30%の確率で幸福
攻撃時30%の確率で睡眠
装備の内容はざっとこんな感じである。
生まれてくるであろう我が子のために作ったガラガラ。
音撃という能力を持った武器は、ライデン考案。
もともと爆音轟く爆弾見たいなものだったが、威力を最低限にしてもらった。
そして市販のガラガラの見た目を写せば完了である。
うーむ。
気が早い、と思われかねないかもしれない。
しかし準備に早いも遅いもないのである。
なんだって戦いだ。
これから我が子との戦いの日々が、幸せな日々が始まるのだ。
戦いに勝つためには、敵を知り己を知り入念に準備しておくに限る。
「お前の相手なんか、これで十分だよ」
「……それで何ができるというんですか?」
「ほれ」
カラカラカラカラカラカラ。
カラカラカラカラカラカラ。
「——ッ!?」
ゴクソツに耳を塞いでもらい無造作にガラガラを鳴らした瞬間だった。
ローブの男が頭を抑えて崩れ落ちた。
体をプルプルと震えさせて、何かに耐えるように蹲っている。
「効いてるっぽいな」
「……ゴァ」
「あとは耳栓するから我慢しなくて良いぞ」
至近距離でガラガラ攻撃を受けたゴクソツも堪えきれなくなったようで、俺の耳から手を離して崩れ落ちた。
なんとも恍惚とした表情で腹を抱えて笑いながら……寝た。
全ての30%がヒットしいてしまったようで、なんともとんでもない寝様だ。
ゴクソツから視線をローブの男に移して言う。
「無様だな」
「……うっ、くっ、な、何を……何をしたんですか!!」
「さて、何したでしょう?」
俺は性格が悪いからな?
勝ち確だからって自分の手札についてベラベラと喋るつもりはない。
幸福の爆笑睡眠してしまうまで、ガラガラを止めるつもりはないぞ。
「ほれほれ」
カラカラカラカラ。
「ふぐっ、くひっ、うくくく、くひひひっ」
カラカラカラカラ。
「ぶはははははははははははははははっっっ!!!!!!」
カラカラカラカラ。
「く、くそっ、くひひっ、うひひひひひっ、や、やめ、やめろ!」
カラカラカラカラ。
「とめろ! それ! ひーーーーっ! ひひっ! ひゃーっ!!」
カラカラカラカラ。
「ぐふっ」
黙っていればそこそこダンディなローブの男の顔を赤らめてのたうち回る姿。
じっと見据えてカラカラし続けていると、そのまま白目を剥いて動かなくなってしまった。
「……思ったよりも強力だな、これ」
そのまま寝てしまうかと思ったが、まさか気絶してしまうとは……。
多分いろんな感情が心の中で爆発して、耐えきれなくなったんだろう。
これは、わりかし危険な武器なのかもしれない。
「さて、とりあえず無力化できたけど……まだ子供のままだな……」
言われていた通り、こいつ自身がダンジョンコアではなく。
あくまでこの領域を発生させているのは簡易式エンチャント・ダンジョンコアのようだった。
これを破壊すれば、俺たちにかかっている退化のデバフは消えると思うのだが……。
迂闊に破壊しても良いのだろうか?
下手なことをして、存在が消えてしまうほどに暴走してしまっては一巻の終わりである。
「あ、そうだ」
試作していた赤ちゃん用のとある装備が、あと一つだけ残っていた。
これである。
【ベビースカイウォーカー試作機】
必要レベル:1
攻撃力:1
VIT:1(+100)
UG回数:0
特殊強化:◇◇◇◇◇
限界の槌:0
装備効果:浮遊
浮遊結晶を仕込んだ防具に、ベビーウォーカーの見た目を写した品。
装備効果の浮遊は、自身また外部からの魔力供給によって浮かぶことができる。
普通のベビーウォーカーもいいけど。
どうせなら空中をふわふわと歩けたら最高じゃないかと思って作ってみた。
リビングをふわふわ漂う赤ちゃんって可愛いと思う。
浮遊結晶は魔力供給によってとんでもない高さにまで浮かぶことができる。
つまり、今からこいつを空高く飛ばすのだ。
エンチャント・ダンジョンコアの範囲は、どのくらいなのか定かではない。
でも多分大気圏外すれすれまで飛ばせば流石に大丈夫だろう。
きっとしばらく落ちてこないだろうし、落ちてきたとしても魔力すっからかんで落下死しかない。
完璧だ。
「よいしょ、っと」
気絶したローブの男をなんとかベビーウォーカーに乗せる。
俺の作った装備はぴったりフィットするのでサイズ感は問題なし。
一つ苦言を呈すなら、いい歳こいたおっさんのベビーウォーカー姿。
これはとんでもない破壊力を秘めているという点のみである。
「それじゃ、さよなら!」
インベントリ内にあったそこそこの容量を持つバッテリーをベビーウォーカーに装着した。
ドヒュンと空を切るような音がして、ベビーウォーカーに乗ったフードの男が消える。
この速さだったら、ほとんど空気がないところまで飛んでそうだ。
超上空で目が覚めて必死に情報を探ったとしても、目の前にある選択肢は窒息死か落下死のみ。
「はは、見てるかビシャス?」
弱体化したとしても、今まで培ってきた技術でこんな芸当だってできるぞ。
俺に関する情報をどれだけ探ろうとも、内通者をどれだけ仕込んでいようとも。
その情報を上回るスピードで俺がアップグレードしていけばいい話だ。
アプデって知ってるか?
強さのメタなんてな、時代が進むに連れて変わり続けるもんなんだよ。
「対策してみろよ! ……って、おっ、戻った」
エンチャント・ダンジョンコアの効果範囲から出たのか、いつの間にか姿が元に戻っていた。
キングさんもロイ様も、ゴクトツもみんな元に戻っている。
俺の弱点をついた攻撃には色々と翻弄されてしまったが、逆に俺が翻弄仕返した。
馬鹿し合いで俺に勝てると思ったら大間違いである。
「さて、残るは百足衆のすだれ男だな……って、終わってる」
一瞬だけ目を逸らしていたのだが、その間にキングさんが全てを終わらせていた。
バキバキのボコボコにのされたすだれ男の上に、王冠をつけたキングさんがのしかかっている。
あとは井守衆の手甲を手に入れれば、一件落着かな?
なら早いところ金を納めよう。
ちなみにだが、今回使った赤ちゃんのおもちゃ装備シリーズはイグニールに使用禁止を言い渡されている。
それもそのはず、大人でも気が狂ってしまうガラガラ。
赤ちゃんに使ったらどうなるかわかったもんじゃない。
そもそも見た目を写していても、武器には変わらないからそんなものを持たせるなとめちゃくちゃ怒られた。
そこまで言うかってくらいの勢いで怒られて土下座する羽目になった。
ベビースカイウォーカーも、イグニールの子だ。
100%の確率でとんでもない魔力を秘めている子供が生まれるだろう。
そんな子供を乗せてしまったら最後。
リビングでふわふわ浮かんでいるような絵面は存在しない。
天井に激突。
もしくは突き破ってはるか空高くに飛んでいってしまう可能性がある。
これについてもえらい剣幕で怒られて、俺は子供のおもちゃ選びに関わらせてもらえないことになっている。
ちゃんと身を守る強化品ならば良いが、変な効果を製作したら口を聞いてもらえなくなるんだとさ。
……パパは辛いよ。
まあ、戦いで使えてしまうレベルなんだから、さもありなん。
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1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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