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一章 鬼に繞乱(じょうらん)されしは
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御所での処理が終わり門の外に出た俺は目を見開いた。
「金、……っ!」
思わず出かかった声に慌てて口をつぐんだ。足早に向かった先にいたのは一人の公達で、しかしその顔は紛れもない金花だ。傍らに牛車があるということは俺を迎えに来たのだろう。
「どうして、いや、それよりその格好は、」
戸惑う俺に金花が「さぁ、乗ってください」と牛車へ促す。
「早く着替えないと風邪を引いてしまいます」
問い質したいことはいろいろあったが、ぐいぐいと腕を引かれ牛車の中へと押し込まれてしまった。俺の後から金花も押し入り、車副たちに向かって進むように告げる。一体どういうことだと金花を見れば「上着を脱いでください」と言われギョッとした。
「おまえはまた性懲りも無く……!」
「違いますよ。いえ、あなたがしたいのならかまいませんが、その前に体を拭いてください。本当に風邪を引いてしまいます」
己の勘違いに頬が熱くなった。いや、いまのは金花が悪い。いつも淫らなことを仕掛てくるせいで俺まで言葉を素直に聞けなくなってしまっているのだ。胸の内でそんな言い訳をしながら上着をはだける。それを待っていたかのように金花が背中を拭いだした。いつもと違い無言で拭う仕草は本当に心配しているようで、照れくさく思いながらうれしさに体がじわりと熱くなる。
「……もうほとんど乾いているはずだ。そんなに丁寧にしなくても問題ない」
「拭っているだけではありません。どこかに傷を負っていないか見ているのです」
金花の言葉に、もしやあの鬼と対峙したことを知っているのではないかと思った。
(いや、そんなはずはないか)
御所に鬼が出たという声は金花も聞いただろうが、鬼の正体までは知らないはずだ。そもそも俺自身ここに来るまであの鬼だとは知らなかった。
「さぁ、前も拭いますよ。……これは蹴られでもしましたか」
「……つッ、力を入れないでくれ。まだ少し痛む」
「すみません。痛み以外に異常はありませんか?」
「大丈夫だ」
腹のあたりを拭っていた手がそっと離れた。見ればあの鬼に一蹴りを食らったあたりの肌の色が変わっている。じくじく痛むということは明日には大アザになっていることだろう。幸い痛むだけで骨が折れたということはなさそうだが、二、三日は鍛錬を休まなくてはならなくなりそうだ。
「……あの鬼の仕業ですね」
「ん? 何だ?」
何かをつぶやいた金花に問い返すと「あの鬼がいたんですね」と言いながら俺の腹をじっと見ている。
「母上様を攫おうとした、あの鬼がいたのでしょう?」
「あ、ぁ……、油断したんだ」
やはり知っていた。鬼同士、姿を見ていなくても感じあえるのかもしれない。俺の腹に視線を落としている金花の表情をはっきり見ることはできないが、声色は不機嫌そうだ。いや、不機嫌というよりも怒っているように聞こえる。
「こんな傷を負わせ、さらに興味まで持たれた」
「金花?」
「御所の女たちと同様に興味を持ったと、あの鬼は口にしていましたね」
「そう、だったか?」
そういえばそんなことを言われた気もする。また会おうという言葉に背筋が震えたせいか、前後に言われたことなどすっかり忘れていた。ぼんやりと鬼とのやり取りを思い返していると、腹をぐっと押され情けなくも「い……ッ」と小さな悲鳴を漏らしてしまった。「おい、やめろ」と金花の腕を掴み「痛いと言ってるだろうッ」と小声で文句を言う。
「そもそも、なぜおまえがあの鬼の言ったことを知っているんだ?」
俺の問いに金花は何も答えない。それどころか「こんな傷を」と言いながら再び腹を押し始めた。まるで怒っているかのような態度に首を傾げつつも段々腹が立ってきた。あの鬼と対峙している間も金花を心配していたというのに、金花はこうして痛む腹をわざと押す。それにあの鬼のことばかり口にするのも腹が立った。
「そもそも、その格好はなんだ。なぜ御所まで来た!」
腹立ち紛れにそう言うと、今度は金花が苛立ったような声を上げる。
「あなたが心配だったのです。都でいま御所に現れそうな鬼と言えば、あの鬼くらいしかいません。だから慌てて来てみれば案の定あの鬼だった。そして事もあろうにあの鬼はあなたに興味を持った」
「だからどうだと言うのだ。鬼などに興味を持たれようが俺には関係ない」
「関係なくはないでしょう!」
小声ながらも声を荒げる金花に驚いた。これまでどんなことがあっても飄々としていた金花とは明らかに違う。どうしたのかと、まだ俺の腹のあたりを見ている金花の頭をじっと見た。
「カラギ、あなたはわたしの旦那様なのです。わたしだけのかわいい方、決して誰にも譲ったりはできない。たとえ相手が帝の姫君だったとしても、力ある鬼だったとしても、絶対に渡したりはしない」
「金花……」
俺をスッと見上げる黒い目は力強く、それでいて濡れているように揺らめいていた。
「たとえあの鬼が相手でも絶対に渡しません」
「金花……」
まさかここまで深く思われているとは想像もしていなかった。たしかにそばにいたいと、好いていると何度も言われたが金花は鬼だ。人である俺とは思いの種類が違うかもしれないと思った。それに半分しか鬼でなくても人を食らう金花にとって俺は食事のようなもののはずだ。
(……いや、そう思い込もうとしていたのかもしれない)
だが、いまは違う。あの鬼と対峙したことで金花への思いをようやく認めることができた。強い思いを宿す金花の思いに負けない気持ちを俺も持っている。不意に太ももにあった金花の手が濡れた袴をぎゅうと握り締めた。まるで縋るようなその姿にどくりと胸が鳴る。
「あなたはわたしがずっと求めてきた方。誰にも、たとえあの鬼であっても絶対に渡したりはしません。そのためならどんなことでもしましょう」
「……まさか、あの烏の羽根はおまえの仕業なのか?」
「半鬼であるわたしにはそのくらいしかできませんから」
どういう仕掛けかはわからないが、烏の羽根は金花がやったことらしい。なぜあの鬼が烏の羽根を見て態度を変えたかわからないが、羽根のおかげで助かったのは間違いない。そしてその羽根は俺の身を案じた金花が用意してくれたのだ。
「金花のおかげで助かった。感謝する」
「改めて感謝されると、……なんだかくすぐったいですね」
いつもとは違い、はにかむような笑みにまたもや胸がどきりとした。見慣れたはずの金花の顔がやけに美しく見える。
(姫君の格好をしているわけでもないのに……)
見た目はどこからどう見ても貴族の男だ。それなのに屋敷での姿よりも美しく、いや、かわいく思えて仕方がない。自分と同じような格好をした男だというのに愛おしくて仕方がなかった。
(男相手に何を……いや、金花は鬼なのだから男以前の話だが)
今さらながらのことを考えていると、すっかり嗅ぎ慣れた伽羅の香りが漂っていることに気がついた。涼やかながら甘くもある伽羅香は、まさにいまの金花にふさわしい香りだと実感する。
ゆっくりと香りを嗅ぐと体全体がじんわりと熱くなり頭がぼんやりとしてきた。それが酒精による酩酊とは違う心地よさを生み、同時に股座に血がぐぐっと集まるのを感じる。
(こんなところで俺は何を……これでは金花のことは言えないじゃないか)
そう思いながらも俺の手は金花の肩をぎゅうと抱き寄せていた。
(……あぁ、間違いなく金花だ)
腕に感じる熱に泣きたくなるほど安堵し、がむしゃらに抱きしめたくなった。俺は気持ちの赴くまま金花の紅い唇を吸った。
牛車の動く音とは別にギシギシと軋む音がする。それもそのはずで、牛車の壁に背中を預けた俺の体が小刻みに動いて壁を押しているからだ。そんな俺の上には単までも脱ぎ捨て裸になった金花が跨がり淫らに腰を動かしていた。いつもと違い大胆に動けないことに焦れているのか、時折り指を噛む仕草が余計に俺を煽りますます逸物が滾ってしまう。
「は、ぁ……、すごい、いつもより、とても逞しい……」
「あまり声を、出すな……、気づかれて、しまうだろう……ッ」
「ふふっ、それもまたよいでしょう……? ぁん、奥まで、みっちり入って……ん、悦い……」
うっとりした声を漏らしながら腰をゆっくりと回すように動かしている。こうして逸物を根本まで入れて腰を回すのが気持ちがいいようで、上に乗ったときに金花がよくする仕草の一つだ。
もちろん俺もすこぶる気持ちがよかった。根元はきゅうっと絞られながらも、先端は舐め回されているような感触がたまらない。そんな名器に我慢できるはずもなく、すでに一度子種を吐き出してしまっている。それでもなお俺の逸物は衰えることなく、いまも金花の中で脈打ち奥深くを穿っていた。
「どんなことがあっても、誰が相手でも、絶対に手放したりは、しません、から……。んっ、ふふ、また逞しくなった……」
「うる、さい……っ」
「顔を赤くして、照れるなんて、ふふ、本当に、かわいい方……、ぁん! 急に突き上げて、あぁ、奥に、そこは、あぁっ」
「……ッ!」
急に金花の中がうごめくようにうねり、あっという間に子種を吸い取られてしまった。二度目だというのに勢いよく噴き出すのを感じながら、腰に跨がる金花に目を向ける。
(子種が、出ていない……?)
体を小刻みに震わせながら、後ろに倒れるのではないかと心配になるほど仰け反るのはいつものことだ。だが、いつもならばトロトロと子種を吐き出している金花の逸物はただ震えるばかりで、子種とは違う色のない液体が滴り落ちている。
俺の腹を押し返すようにピンと伸ばされた腕も震え、ぱかりと開いた太ももは見てわかるほどガクガクと揺れていた。そんな状態では声が出ないのか、金花は掠れた息ばかりを吐き出している。見たことがない姿に心配になり、身を起こそうとわずかに腰を動かしたときだった。
「~~……っ! ひぅ……っ、動か、な……で」
「金花……?」
「だ、め……、動いて、は……ぁ、あぁ、また、いってしま、う……っ」
金花のつぶやきとともに真っ白な腰がガクガクと震え出した。同時に金花の中が俺の逸物を舐るようにしゃぶり、根本から先端まで満遍なく擦り上げ始める。ほとんど腰は動いていないのに中が激しく波打っているからか、吐き出した子種がじゅぶじゅぶと大きな音を立て縁から漏れ出るのがわかった。
あまりにも淫らな様子に、果てたばかりの逸物がまた子種を噴き出した。短い時間での逐情に少し痛みを感じながらも、金花が後ろに倒れてしまわないようにと腰を掴む。
「カラギ、どうか、離さないで……」
そうつぶやいた金花は、ぷつりと意識を失うように俺の胸に倒れてきた。大丈夫かと慌てて顔を覗き込んだが、そこに苦しそうな表情はなく火照った顔で目を閉じている。
「……気を失うなど、初めてだな」
どんなに激しく交わっても、これまで金花が気を失うことは一度もなかった。むしろ子種を吸い尽くされる俺のほうが先に寝入ってしまうほどだ。
(先ほどの様子もいつもと違っていた)
あそこまで感じ入っている姿も初めて目にした。それだけ悦かったというなら男として誇らしく思うが、体は大丈夫なのかと心配になる。
(とにかく屋敷に着く前に身を整えなければ)
胸に金花を抱いたまま、ゆっくりと逸物を引き抜いた。じゅぼっと音を立てて抜けた逸物にタラリタラリとこぼれ落ちる子種には我ながら苦笑するしかない。尻からこぼれ落ちるほど俺は金花の中に注いだのだ、そう思うと誇らしいとさえ感じる俺はおかしいのだろうか。
(とりあえず俺は金花が着てきたものを着るか)
背丈はほぼ同じだから問題ないだろう。汚れは俺の濡れた着物でざっと拭い、さて金花に着せるものはどうしようかと狭い牛車の中を見渡す。
「……これはまた、準備がいいことだな」
片隅に単と小袿が押し込められているのを見つけた。金花が牛車の中で着替えたからかもしれないが、こうなることを予想して用意したような気がしてならない。これまでなら「なんと淫らな」と怒るところだが怒りはわかなかった。
(いなくなってしまうかもしれないと思えば、すぐにでも触れたくなる気持ちはわかる)
赤い目のあの鬼と対峙したとき、このままでは金花の元に戻れないのではと思った。同時に何がなんでも金花の元へ戻りたい、いや戻るのだと気力を奮い立たせる力にもなった。金花の元へ戻る。そうして美しい顔に触れ、紅い唇を吸い、淫らな体を掻き抱きたい。俺はあのとき、たしかにそう思っていた。
「俺も同じくらいおまえを好いている、そういうことだな」
改めてつぶやいた言葉に胸がふわりと熱くなった。
「金、……っ!」
思わず出かかった声に慌てて口をつぐんだ。足早に向かった先にいたのは一人の公達で、しかしその顔は紛れもない金花だ。傍らに牛車があるということは俺を迎えに来たのだろう。
「どうして、いや、それよりその格好は、」
戸惑う俺に金花が「さぁ、乗ってください」と牛車へ促す。
「早く着替えないと風邪を引いてしまいます」
問い質したいことはいろいろあったが、ぐいぐいと腕を引かれ牛車の中へと押し込まれてしまった。俺の後から金花も押し入り、車副たちに向かって進むように告げる。一体どういうことだと金花を見れば「上着を脱いでください」と言われギョッとした。
「おまえはまた性懲りも無く……!」
「違いますよ。いえ、あなたがしたいのならかまいませんが、その前に体を拭いてください。本当に風邪を引いてしまいます」
己の勘違いに頬が熱くなった。いや、いまのは金花が悪い。いつも淫らなことを仕掛てくるせいで俺まで言葉を素直に聞けなくなってしまっているのだ。胸の内でそんな言い訳をしながら上着をはだける。それを待っていたかのように金花が背中を拭いだした。いつもと違い無言で拭う仕草は本当に心配しているようで、照れくさく思いながらうれしさに体がじわりと熱くなる。
「……もうほとんど乾いているはずだ。そんなに丁寧にしなくても問題ない」
「拭っているだけではありません。どこかに傷を負っていないか見ているのです」
金花の言葉に、もしやあの鬼と対峙したことを知っているのではないかと思った。
(いや、そんなはずはないか)
御所に鬼が出たという声は金花も聞いただろうが、鬼の正体までは知らないはずだ。そもそも俺自身ここに来るまであの鬼だとは知らなかった。
「さぁ、前も拭いますよ。……これは蹴られでもしましたか」
「……つッ、力を入れないでくれ。まだ少し痛む」
「すみません。痛み以外に異常はありませんか?」
「大丈夫だ」
腹のあたりを拭っていた手がそっと離れた。見ればあの鬼に一蹴りを食らったあたりの肌の色が変わっている。じくじく痛むということは明日には大アザになっていることだろう。幸い痛むだけで骨が折れたということはなさそうだが、二、三日は鍛錬を休まなくてはならなくなりそうだ。
「……あの鬼の仕業ですね」
「ん? 何だ?」
何かをつぶやいた金花に問い返すと「あの鬼がいたんですね」と言いながら俺の腹をじっと見ている。
「母上様を攫おうとした、あの鬼がいたのでしょう?」
「あ、ぁ……、油断したんだ」
やはり知っていた。鬼同士、姿を見ていなくても感じあえるのかもしれない。俺の腹に視線を落としている金花の表情をはっきり見ることはできないが、声色は不機嫌そうだ。いや、不機嫌というよりも怒っているように聞こえる。
「こんな傷を負わせ、さらに興味まで持たれた」
「金花?」
「御所の女たちと同様に興味を持ったと、あの鬼は口にしていましたね」
「そう、だったか?」
そういえばそんなことを言われた気もする。また会おうという言葉に背筋が震えたせいか、前後に言われたことなどすっかり忘れていた。ぼんやりと鬼とのやり取りを思い返していると、腹をぐっと押され情けなくも「い……ッ」と小さな悲鳴を漏らしてしまった。「おい、やめろ」と金花の腕を掴み「痛いと言ってるだろうッ」と小声で文句を言う。
「そもそも、なぜおまえがあの鬼の言ったことを知っているんだ?」
俺の問いに金花は何も答えない。それどころか「こんな傷を」と言いながら再び腹を押し始めた。まるで怒っているかのような態度に首を傾げつつも段々腹が立ってきた。あの鬼と対峙している間も金花を心配していたというのに、金花はこうして痛む腹をわざと押す。それにあの鬼のことばかり口にするのも腹が立った。
「そもそも、その格好はなんだ。なぜ御所まで来た!」
腹立ち紛れにそう言うと、今度は金花が苛立ったような声を上げる。
「あなたが心配だったのです。都でいま御所に現れそうな鬼と言えば、あの鬼くらいしかいません。だから慌てて来てみれば案の定あの鬼だった。そして事もあろうにあの鬼はあなたに興味を持った」
「だからどうだと言うのだ。鬼などに興味を持たれようが俺には関係ない」
「関係なくはないでしょう!」
小声ながらも声を荒げる金花に驚いた。これまでどんなことがあっても飄々としていた金花とは明らかに違う。どうしたのかと、まだ俺の腹のあたりを見ている金花の頭をじっと見た。
「カラギ、あなたはわたしの旦那様なのです。わたしだけのかわいい方、決して誰にも譲ったりはできない。たとえ相手が帝の姫君だったとしても、力ある鬼だったとしても、絶対に渡したりはしない」
「金花……」
俺をスッと見上げる黒い目は力強く、それでいて濡れているように揺らめいていた。
「たとえあの鬼が相手でも絶対に渡しません」
「金花……」
まさかここまで深く思われているとは想像もしていなかった。たしかにそばにいたいと、好いていると何度も言われたが金花は鬼だ。人である俺とは思いの種類が違うかもしれないと思った。それに半分しか鬼でなくても人を食らう金花にとって俺は食事のようなもののはずだ。
(……いや、そう思い込もうとしていたのかもしれない)
だが、いまは違う。あの鬼と対峙したことで金花への思いをようやく認めることができた。強い思いを宿す金花の思いに負けない気持ちを俺も持っている。不意に太ももにあった金花の手が濡れた袴をぎゅうと握り締めた。まるで縋るようなその姿にどくりと胸が鳴る。
「あなたはわたしがずっと求めてきた方。誰にも、たとえあの鬼であっても絶対に渡したりはしません。そのためならどんなことでもしましょう」
「……まさか、あの烏の羽根はおまえの仕業なのか?」
「半鬼であるわたしにはそのくらいしかできませんから」
どういう仕掛けかはわからないが、烏の羽根は金花がやったことらしい。なぜあの鬼が烏の羽根を見て態度を変えたかわからないが、羽根のおかげで助かったのは間違いない。そしてその羽根は俺の身を案じた金花が用意してくれたのだ。
「金花のおかげで助かった。感謝する」
「改めて感謝されると、……なんだかくすぐったいですね」
いつもとは違い、はにかむような笑みにまたもや胸がどきりとした。見慣れたはずの金花の顔がやけに美しく見える。
(姫君の格好をしているわけでもないのに……)
見た目はどこからどう見ても貴族の男だ。それなのに屋敷での姿よりも美しく、いや、かわいく思えて仕方がない。自分と同じような格好をした男だというのに愛おしくて仕方がなかった。
(男相手に何を……いや、金花は鬼なのだから男以前の話だが)
今さらながらのことを考えていると、すっかり嗅ぎ慣れた伽羅の香りが漂っていることに気がついた。涼やかながら甘くもある伽羅香は、まさにいまの金花にふさわしい香りだと実感する。
ゆっくりと香りを嗅ぐと体全体がじんわりと熱くなり頭がぼんやりとしてきた。それが酒精による酩酊とは違う心地よさを生み、同時に股座に血がぐぐっと集まるのを感じる。
(こんなところで俺は何を……これでは金花のことは言えないじゃないか)
そう思いながらも俺の手は金花の肩をぎゅうと抱き寄せていた。
(……あぁ、間違いなく金花だ)
腕に感じる熱に泣きたくなるほど安堵し、がむしゃらに抱きしめたくなった。俺は気持ちの赴くまま金花の紅い唇を吸った。
牛車の動く音とは別にギシギシと軋む音がする。それもそのはずで、牛車の壁に背中を預けた俺の体が小刻みに動いて壁を押しているからだ。そんな俺の上には単までも脱ぎ捨て裸になった金花が跨がり淫らに腰を動かしていた。いつもと違い大胆に動けないことに焦れているのか、時折り指を噛む仕草が余計に俺を煽りますます逸物が滾ってしまう。
「は、ぁ……、すごい、いつもより、とても逞しい……」
「あまり声を、出すな……、気づかれて、しまうだろう……ッ」
「ふふっ、それもまたよいでしょう……? ぁん、奥まで、みっちり入って……ん、悦い……」
うっとりした声を漏らしながら腰をゆっくりと回すように動かしている。こうして逸物を根本まで入れて腰を回すのが気持ちがいいようで、上に乗ったときに金花がよくする仕草の一つだ。
もちろん俺もすこぶる気持ちがよかった。根元はきゅうっと絞られながらも、先端は舐め回されているような感触がたまらない。そんな名器に我慢できるはずもなく、すでに一度子種を吐き出してしまっている。それでもなお俺の逸物は衰えることなく、いまも金花の中で脈打ち奥深くを穿っていた。
「どんなことがあっても、誰が相手でも、絶対に手放したりは、しません、から……。んっ、ふふ、また逞しくなった……」
「うる、さい……っ」
「顔を赤くして、照れるなんて、ふふ、本当に、かわいい方……、ぁん! 急に突き上げて、あぁ、奥に、そこは、あぁっ」
「……ッ!」
急に金花の中がうごめくようにうねり、あっという間に子種を吸い取られてしまった。二度目だというのに勢いよく噴き出すのを感じながら、腰に跨がる金花に目を向ける。
(子種が、出ていない……?)
体を小刻みに震わせながら、後ろに倒れるのではないかと心配になるほど仰け反るのはいつものことだ。だが、いつもならばトロトロと子種を吐き出している金花の逸物はただ震えるばかりで、子種とは違う色のない液体が滴り落ちている。
俺の腹を押し返すようにピンと伸ばされた腕も震え、ぱかりと開いた太ももは見てわかるほどガクガクと揺れていた。そんな状態では声が出ないのか、金花は掠れた息ばかりを吐き出している。見たことがない姿に心配になり、身を起こそうとわずかに腰を動かしたときだった。
「~~……っ! ひぅ……っ、動か、な……で」
「金花……?」
「だ、め……、動いて、は……ぁ、あぁ、また、いってしま、う……っ」
金花のつぶやきとともに真っ白な腰がガクガクと震え出した。同時に金花の中が俺の逸物を舐るようにしゃぶり、根本から先端まで満遍なく擦り上げ始める。ほとんど腰は動いていないのに中が激しく波打っているからか、吐き出した子種がじゅぶじゅぶと大きな音を立て縁から漏れ出るのがわかった。
あまりにも淫らな様子に、果てたばかりの逸物がまた子種を噴き出した。短い時間での逐情に少し痛みを感じながらも、金花が後ろに倒れてしまわないようにと腰を掴む。
「カラギ、どうか、離さないで……」
そうつぶやいた金花は、ぷつりと意識を失うように俺の胸に倒れてきた。大丈夫かと慌てて顔を覗き込んだが、そこに苦しそうな表情はなく火照った顔で目を閉じている。
「……気を失うなど、初めてだな」
どんなに激しく交わっても、これまで金花が気を失うことは一度もなかった。むしろ子種を吸い尽くされる俺のほうが先に寝入ってしまうほどだ。
(先ほどの様子もいつもと違っていた)
あそこまで感じ入っている姿も初めて目にした。それだけ悦かったというなら男として誇らしく思うが、体は大丈夫なのかと心配になる。
(とにかく屋敷に着く前に身を整えなければ)
胸に金花を抱いたまま、ゆっくりと逸物を引き抜いた。じゅぼっと音を立てて抜けた逸物にタラリタラリとこぼれ落ちる子種には我ながら苦笑するしかない。尻からこぼれ落ちるほど俺は金花の中に注いだのだ、そう思うと誇らしいとさえ感じる俺はおかしいのだろうか。
(とりあえず俺は金花が着てきたものを着るか)
背丈はほぼ同じだから問題ないだろう。汚れは俺の濡れた着物でざっと拭い、さて金花に着せるものはどうしようかと狭い牛車の中を見渡す。
「……これはまた、準備がいいことだな」
片隅に単と小袿が押し込められているのを見つけた。金花が牛車の中で着替えたからかもしれないが、こうなることを予想して用意したような気がしてならない。これまでなら「なんと淫らな」と怒るところだが怒りはわかなかった。
(いなくなってしまうかもしれないと思えば、すぐにでも触れたくなる気持ちはわかる)
赤い目のあの鬼と対峙したとき、このままでは金花の元に戻れないのではと思った。同時に何がなんでも金花の元へ戻りたい、いや戻るのだと気力を奮い立たせる力にもなった。金花の元へ戻る。そうして美しい顔に触れ、紅い唇を吸い、淫らな体を掻き抱きたい。俺はあのとき、たしかにそう思っていた。
「俺も同じくらいおまえを好いている、そういうことだな」
改めてつぶやいた言葉に胸がふわりと熱くなった。
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