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一章 鬼に繞乱(じょうらん)されしは
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「そんなに見つめられては穴が空いてしまいそうですね」
生絹で仕立てられた帷子を着た金花は、少し気怠げに見えるものの口調は以前と変わらないくらいにまで回復している。それに安堵はしているが、やはり油断はできない。俺は様子を窺うように金花の顔をじっと見つめた。
本人は「もう大丈夫ですよ」と言っているが、俺には鬼の体調を見極めることができない。だから俺自身が大丈夫だと思えるまで起きるなと言い続けていたのだが、昨日から勝手に起き上がるようになってしまった。それなら本当に大丈夫か自分の目で見て確認するしかない。だから一日のほとんどを金花の看病に費やしているのだが、そんな俺に金花はふふっと笑ってばかりいる。
「わたしはもう大丈夫です。それより母上様に顔を見せなくてもよいのですか?」
「あちらも、もう起き上がれるようになったと聞いている」
「では、なおのことカラギの顔を見たがっているのでは?」
「昨日、菓子を持って見舞ってきた。毎日見舞わなくてもかまわないだろう」
「おやまぁ」
金花がおもしろいと言わんばかりにふふっと笑った。
御所に例の鬼が現れたと聞いた母上が倒れたという話は屋敷に戻ってから知った。おそらく鬼に襲われたときのことを思い出したのだろう。心配はしたものの、あのときの俺は金花のことで頭がいっぱいだった。すでに医者が診ていると聞き、それなら心配ないだろうと思った俺は「見舞いは遠慮する」とだけ女房に伝えて金花につきっきりの日々を送った。
静かに眠る美しい顔を見続けること三日、ようやく金花が目を覚ましたときには安堵のあまり少し涙を浮かべてしまった。それを見た金花は「やはりかわいい方ですね」と言って微笑んだ。それまで寝込んでいたことなど嘘のような美しい笑顔に、俺はこの顔を一生忘れないだろうと密かに思った。
金花が目を覚ましてから、廊下を歩く女房たちの足音が聞こえるようになった。そういえば勝手に屋敷を抜け出したのをどうやって誤魔化したのだろうか。半日ほどなら何とかなるかもしれないが、一晩二晩と姿が見えなければお付きの女房たちは怪しむはずだ。
そのことを金花に問うと、鬼が恐ろしいから部屋の奥に籠もると言って人払いをしていたと答えた。それでよく誰にも悟られなかったものだと思ったが、普段から女房たちに過剰なほど慕われている金花のことだ、うまく言い含めたのだろう。
「本当に体は大丈夫なのだな?」
「あなたに嘘は言いませんよ。もうすっかりよくなりました」
「…………鬼の王の血のおかげなのか?」
俺の問いかけに「そのようですね」と何事もないように金花が答える。
「おまえは鬼の王と兄弟だったのだな」
「たしかに鬼王と同じ鬼の血が半分流れていますが、わたしもあちらも兄弟だと思ったことはありません」
「兄弟なのにか?」
「以前も話したとおり、わたしは鬼たちにとって下賤で卑しいもの。それは鬼王にとっても同じ、あぁ、少し違いますか。鬼王にとって自分以外の鬼は、すべて気に留める存在ですらないのです」
「鬼の王だというのに己の民が気にならないのか?」
「人の世とは違います。鬼王と呼ばれてはいますが、それは鬼を統べる存在を指すものではありません。鬼王とは鬼の中でもっとも強いものの呼び名、少なくとも鬼王にとってはその程度でしょうね」
「そうなのか」
それにしては赤い目の鬼は媚びへつらっていたように見えた。おそらく圧倒的な気配の前ではどんな鬼もそうなってしまうのだろう。
「たしかに、そんな強い鬼の血であれば毒も傷も瞬く間に癒えそうだな」
「それについては少し不満もありますが、それで助かったとなれば感謝するしかありませんね」
「不満? 傷が癒えたのにか?」
「あまりに強い血は薬というより毒なのですよ」
「そういえば鬼の王もそんなことを言っていたな」
鬼の王の「これ以上の俺の血はかえって毒になる」という言葉を思い出す。
「しかしこうして回復したのであれば、毒にはならなかったということだろう?」
俺の言葉に金花が曖昧に笑った。その表情が気になり「何が不満なんだ」と重ねて問いかける。
これまで俺は金花の鬼の面を知ることを恐れてきた。しかし金花を失うかもしれないと思ったとき、何も知らないままではいられないと考え直した。鬼である金花のことを知らなければ、また失いかねない事態に陥ったときにどうすればよいのかわからない。知らないせいで対処できなくなるかもしれない。そんな状況は何がなんでも避けたかった。
「おまえのことをもっと知りたいと思っているんだ。そうでなければ、また今回のようなことが起きたとき対処のしようがない」
「あなたにそこまで言われてしまっては、答えざるを得ないですね」
困ったようにふぅと小さく息を吐いたが、俺を見る金花の目は穏やかなままだ。
「何を知りたいのですか?」
「鬼の王の血の何が不満だと言うのだ? それに、おまえは血を望んでいないとも言っていた。半分とはいえおまえも鬼だ。その、おまえも人を食らわねば生きていけないのではないのか?」
「どうやらわたしは余計なことを思い出させてしまったみたいですね」
認めはしなかったが、ふわりと微笑む金花の顔を見れば最後の問いへの答えは明白だ。
「俺が御所へ向かう日、かすかにだが違和感があった。そのあと鬼退治もあってすぐに忘れてしまったが、ようやく違和感の正体がわかった。……あのときおまえは鴉丸を素手で触ろうとしなかった。それまで平気で触っていたのにだ。鴉丸に触れなかったのは何か理由があったからじゃないのか?」
「カラギは武芸以外も優秀なんですね」
ふふっと笑った金花をぎろりと睨めば「ちゃんとお話ししますよ」と返される。
「わたしも半分とはいえ鬼、あまりに長く人を食らわなければ命に関わります。ですが、いつもなら精を頂戴するだけで大丈夫だったのは本当です。なによりあなたの精は強く濃く、妖魔の命も食欲も十分に満たしてくれます。……そう、まだ耐えられるはずだった」
そう言って金花がちらりと見たのは俺の傍らにある鴉丸だ。
「けれどあの日、お師匠が現れた日、強烈な退魔の気配に魂が揺さぶられてしまったのです。髭切という太刀は恐ろしい。鴉丸がよちよち歩きの幼な子だとすれば、髭切は胆力みなぎる青年のようなもの。髭切の気配に触れてしまったわたしは、鬼の本性が沸き上がりそうになることに怯え、恐れました」
「それで鴉丸に触れられなかったのか」
「触れてしまえば、ますます鬼の本性が抑えきれなくなると思ったのです。そんな状態のわたしが強い鬼の血を口にすればどうなると思いますか?」
問いかけにしばらく考えた。鬼が鬼を食らうと力が強くなると金花は話していたが、それは血だけであっても同じなのだろう。半分しか鬼でない金花でもこうして傷が癒え、力がみなぎるのであれば……。
(それはつまり、さらに鬼の部分が強くなるということではないのか?)
自分の考えにハッとした。
「もしや、人を食らいたくなるのか?」
「そのとおりです」
肯定する言葉に頭がぐらりとした。これまでの金花は一見すると鬼らしいところなどなく屋敷にいても問題なく過ごしてきた。しかし人を食らいたくなっているとしたらこれまでのようにはいかなくなる。それに気になることもあった。
「鬼の王が血を望まないから傷が癒えないのだと言っていたが、それも本当なのか?」
「ただの切り傷や刺し傷程度なら妖魔の力で癒すこともできますが、鬼にやられた傷は難しいでしょうね」
またもや頭がぐらりと揺れた。都には数多の鬼がいる。赤い目の鬼の脅威が去ったとはいえ、次にいつまたあのような鬼が現れるかわからない。それに鬼の王までもが現れたとなれば、小鬼たちがますます騒ぎ出すだろう。
(それでは、またいつ鬼に傷を負わされるかわからないとうことじゃないか!)
もし今回のような毒まで負ってしまえば、今度こそ致命傷になりかねない。
「……人を食らえばどうにかなるのか?」
俺の低い声に何かを感じたのか、金花が「馬鹿なことを考えないでください」と口にした。
「俺にとっては大事なことだ。このままでは、おまえのそばにいられなくなるのかもしれないのだぞ? なによりおまえの命がなくなるのではないかと思うと、自分が死ぬよりも恐ろしいのだ」
俺の言葉に静かな眼差しを向けていた金花がふっと口元を緩める。
「ふふっ、本当にかわいい方」
「金花! 俺は真剣に……!」
「わたしも真剣に馬鹿なことはやめてほしいと思っています。それでもなお、わたしを心配してくださるというのなら……」
気怠げに座っていた金花が、すぃと身を寄せた。久しぶりに感じる金花の熱とほのかな伽羅の香りにぞくりと背筋が粟立つ。それは間違いなく情欲を感じているときの感覚で、こんなときにと舌打ちしたくなった。そんな俺に鼻先がつくほど身を寄せた金花が、囁くように「かわいい方」と笑い言葉を続けた。
「あなたの血をくださいませんか?」
本来なら恐ろしい言葉だというのに、俺は胸を高ぶらせ腰をぶるりと震わせた。
ぴちゃぴちゃと舐める音と股に顔を埋める金花の姿に、俺の逸物がますます猛々しくなった。俺が着ているものを奪い取った金花が逸物を擦り始めたのはつい先ほどだというのに、熱い口の中で子種を吐き出したいと言わんばかりに震えている。御帳の中は一気に淫らな空気が漂い、明るい昼日中には似つかわしくない雰囲気になっていた。それでも以前のように駄目だと言えないのは俺自身が金花を欲しているからだ。
「ふふっ、また逞しくなった」
半裸で俺の股座に食らいついていた頭を少し上げた金花が、上目遣いで俺を見ながらうれしそうに笑う。そのまま赤い舌を伸ばし、まるで見せつけるかのように逸物の先端をべろりと舐め上げた。
「く……っ」
「おや、少し漏れてしまいましたか?」
「……ッ、仕方がない、だろう……! 何日も、交わっていないのだからな……!」
「ふふ、うれしいことを」
「どういう、意味だ……ッ」
俺が交わっていないことは金花が一番よく知っているはずだ。金花は眠り続けていたわけで、その前から御所に詰めていたため八日以上誰とも行為に及んでいない。そんな状態で扱かれ、口に含まれ、淫らに舐める姿を見せられては我慢できなくなっても仕方がなかった。
そう思いぎろりと睨んだが、眼差しに力が入っていないのは自分でもわかっていた。当然、金花はいつもどおり笑みを浮かべるだけで気にする素振りも見せない。
「だって、わたしに操を立てて誰とも交わらなかったということでしょう? 屋敷には美しい女房たちがいるというのに、それでも手を出さなかっただなんてうれしいじゃないですか」
「あ……たりまえだろう! 俺の奥方はおまえなのだぞ!? 深手を負って目の前で寝ているというのに、ほかの女とそんなことなどできるものか!」
「うれしい」
上半身を起こした金花の頬はほんのりと赤くなっていた。いつもとは違い、はにかんでいるような表情は新鮮で腹の奥にぐぅっと熱がわき上がる。たまらず腕を引っ張り紅く濡れた唇を吸った。たったいま己の逸物を咥えていたことなどまったく気にならないほど、ただその唇を味わいたいと強烈に思った。
くちゅくちゅと舌を舐め合い唇を甘噛みする。互いの口の中を舌で舐りあっていると、どちらのものかわからない唾液がぽたぽたと顎を伝った。その感触でさえも体を昂ぶらせ、もっと触れ合いたいという欲に駆られる。皮膚一枚隔てた感覚すら厭わしい。もっと触れたい、もっと近づきたいと、ただひたすらに口を吸いながら体を寄せた。
気がつけば体をぴたりとつけて抱き合っていた。素肌になった金花が俺の膝に乗り上げ、同じように裸になった俺の肌に胸を触れ合わせる。口を吸い合いながらも時折り金花が胸を擦りつけるからか、乳首が擦れ合い、じくじくと甘い痺れが全身に広がった。
「……はぁ、気持ちが昂ぶりすぎて気が遠くなりそうです」
ほんのわずか唇を離した金花が、うっとりとそう囁いた。それには俺も同感で、金花の唾液と己の先走りで濡れそぼった逸物は子種を吐き出したいと震えっぱなしになっている。それでも吐き出すのは金花の中だと、下腹に力を込めてなんとかやり過ごした。そうして意識がはっきりしている間に言わねばならないと思っていたことを口にした。
「血肉はいらないのか?」
「……」
「遠慮はいらない」
「……あなたは鬼を嫌っていたのではないのですか?」
「御所でも言ったが、それはおまえ以外の鬼のことだ。おまえのことは誰よりも好いている。この身を捧げてもよいと思うくらいにはな」
それは俺の本音だった。いまでも鬼は退治すべき存在だと思っているが、金花は別だ。半分鬼であっても鬼らしくなく、俺のそばにいるために必死で鬼の本性を抑えようとしていたのだ――そのせいで命を失うかもしれないというのに。
俺は、そんな金花の思いに応えたかった。いや、好いている金花のために何かしてやりたいと思った。そのためなら己の血肉を差し出すことくらいなんてことはない。
「本当にあなたという方は……」
「金花?」
ふふっと微笑んだ金花の顔が遠のいた。俺を見下ろす目は優しく、俺の太ももに座ったまま細い指で俺の頬をうれしそうに撫で始めた。
「身を捧げるなど大層なことを言わないでください」
「しかし、人を食らわねば生きていけないのだろう?」
「本来はそうでしょうが、わたしの鬼の部分は半分だけ。それに、あなたが相手であれば血だけで十分ですよ」
「そうなのか?」
「えぇ」
頬を撫でていた指が顎をくすぐり、そのまま首筋を意味ありげに撫でる。
「あなたの精はとても強い。ほかの精など必要ないほど強く、そして濃いのです。それは血も同じ。あなたの血の香りを嗅ぐだけで鬼の本性が出てしまうくらい魅力的なのですよ」
「そういえば前にもそんなことを言われたな」
「あのときはなんとか耐えられましたが、今度は耐えられないでしょう。おそらくわたしは鬼の姿を抑えられなくなってしまう。それでも……それでも血をくれると言うのですか?」
ゆらゆらと揺れる黒目がとても美しいと思った。美しく淫らで、鬼のくせに鬼らしくなく、人である俺を好いているという金花。鬼だとか人だとか関係なく俺を一途に思ってくれる存在がほかにいるだろうか。
(俺だって負けないくらい好いているのだ)
それを金花に伝えたくて仕方がなかった。
「たとえ鬼の姿になったとしても、おまえを好いている気持ちは変わらない。俺は金花だから好いているのだ」
「本当にあなたという方は……。ふふっ、わたしも心の底から好いていますよ。人かどうかなど関係ありません。カラギだから好いているのです」
「では、問題ないだろう」
「そうかもしれませんね」
ゆらりと瞳を揺らした金花が、つつつと爪の先で首筋を撫でた。たったそれだけなのに、どうしてか撫でられた部分がじくりと熱くなる。
「……いつか、ここを吸わせてくださいね」
「金花?」
「いえ、なんでもありません。カラギ、指を貸してください」
右手を持ち上げると人差し指を突き出すように言われる。何をするのだろうと思いながら人差し指を差し出せば、大事そうに両手で持ち上げた金花が自身の親指の爪をそっと突き立てた。直後、ちくりと小さな痛みが指先に走る。
「……あぁ、やはり芳しい香り……」
指先に金花の紅い唇と同じくらい赤い色をした血が滲み出した。つぷりつぷりと滲む様子から傷は深くないように見える。
「こんな小さな傷じゃあ、それほど血は出ないぞ?」
「これで十分です。言ったでしょう? あなたの血はそれほど濃いのだと。……ほら、もう耐えられなくなってきました」
とろりとした金花の顔に視線を向けると、唇の端からほんの少し尖った歯が見えている。つるりと白く形のよい額には赤い角が一本、にょきりと姿を現した。尻ほどまであった黒髪は、まるで真っ黒な蛇がうごめくようにするすると毛先を伸ばし始めている。変化する様子は恐ろしいもののはずなのに、俺はただ呆然と姿を変える金花を見つめ続けた。
小さい牙を持ち、額に角のある鬼の姿になった金花はなんと美しいのだろうか。目の前にいるのは間違いなく鬼だが、何者よりも美しく愛しい、俺だけの――。
「美しいな」
気がつけばそんな言葉が漏れていた。呆けたような俺の言葉に金花がふわりと笑う。
「鬼を美しいなどと言う人はカラギくらいでしょうね」
「本当にそう思ったのだ。金花は何よりも美しい」
腑抜けた声を出す俺に「本当にかわいい方」と笑った金花は、ふと真面目な顔をして俺の目を見た。
「どうした?」
「……わたしの名ですが、本当は金花ではないのです」
「なんだと?」
「妖魔は本当の名を知られるのを嫌がります。だから名乗らなかったのですが、兄上様に尋ねられたゆえ、あのときは仕方なく金花と」
「では、金花というのは何の名だ?」
「金花猫から取りました。人で言えば家名のような感じでしょうか?」
「藤原や源氏といったところか」
「まぁ、そんなところです」
なんと、俺は心底好いた者の本当の名を知らないままでいたとは。いや、それが“ようま”なのだとしたら金花を責めることはできない。
「わたしの名はキツラ」
「キツラ……」
「……っ、ふぅ、名を呼ばれるだけでこうとは……」
「どうした? まさか、まだ具合が、」
「いえ、そうではありません。真名を呼ばれると箍が外れてしまいそうになるのです」
「どういうことだ?」
俺の問いかけに、またもやとろりとした表情に変わった金花……いやキツラがすぃと顔を寄せてきた。
「ますますあなたの子種がほしくなると言っているのですよ」
「……ッ!」
「あぁ、香りが強くなって……。カラギ、わたしのかわいい方」
口に吸いついてきたキツラの唇はやけに熱く、それでいて情熱的だった。俺も負けじと吸いつきながらキツラの体を抱き寄せ、乳首を擦り合わせるように体を揺する。そうすると天を向いた逸物同士も擦れ合い、体中に痺れにも似た心地よさが広がった。
「……ッ、はぁ、はぁ」
「カラギ、もう、耐えられません。早く、早く逞しいものをわたしの中に」
口を離したキツラにとんと押された俺は、どさりと背中から横たわった。腰を持ち上げたキツラが左手を俺の腹につき、後ろに回した右手で俺の逸物を掴む。その感触にさえ腰をぶるりと振るわせた瞬間、俺の逸物はぶちゅりと音を立て温かな中に入り込んでいた。
「ぅ、あ……!」
「あぁ! く……ぅっ、なんて、逞しい……。ふ、すぐにいいところに当たって、あっ、悦い、悦ぃ……」
「ぐぅ……!」
「すごく、悦くて、あぁ、たまらない、あぁ、あぁ」
感に入ったような声を聞かされ、細い腰をぬぷぬぷと小刻みに動かされてはひとたまりもなかった。腰を大きく震わせた俺は、まだ逸物の半分ほどしか中に入っていないというのに盛大に子種をぶちまけてしまった。あまりの量からか、それとも半分ほどしか中に入っていなかったからか、ぶちゅぶちゅと音を立ててあふれ出した子種が俺の下腹を濡らしていく。
「あぁ……。なんて濃いのでしょう……。それに、まだこんなに逞しい……」
「おいっ、く……ッ!」
「ふふ、ほら、子種のおかげで、わたしの中もこんなに濡れてしまいました。そのぶん、ぁん、滑らかになって、……ふふ、カラギも悦いでしょう?」
「まだ、出ている、のだ……ッ、動く、な……ッ」
「はぁ、ぁあん……、するりと、奥まで入って、……あぁ、すごい、奥まで、気持ちいい……」
子種が出ている最中だというのに、キツラは腰をぐいぐいと動かし続けた。そのせいで半分ほど外に出ていた逸物がぬぷんと勢いよく中に潜り込む。その衝撃で、終わりに近づいていた子種が最後のひと吐きだと言わんばかりにびゅうと噴き出した。
「なんて、すごいのでしょう……。ねぇカラギ、血を、血をください」
夢うつつのようなキツラの声に右手を伸ばすとぎゅうと握られた。まだつぷつぷと滲んでいた人差し指の血をぺろりと舐めたキツラは、たまらないといった表情で指ごと口に含む。
ぴちゃ、ぴちゃり、ちゅ、ちゅく。
まるで逸物を舐めしゃぶるように俺の指を舐る姿に、子種を吐き出したばかりの俺の逸物はすぐさま力を取り戻した。そんな俺に目だけでニィと笑んだキツラがくいくいと腰を動かし、続けてぐりぐりと回し始める。それだけで子種がせり上がり、慌ててぐぅっと下腹に力を入れた。
「ふふ、堪えずともよいのに……。カラギなら、あと数度は、濃いものを飲ませてくれるでしょう? ぁん、ほら、こうして、すぐに応えてくれる……。あぁ、本当に、なんと逞しいのでしょう。それに熱くて、まるであなたの胸の音のように、どくどくとして……」
俺の指を舐めながらうっとり微笑むキツラは背筋を震わせるほど美しかった。それに小さな尖った歯が指に触れるたびに、どうしてか腰がずくずくと疼くように熱くなる。額の赤い角が目に映るたびに鬼と交わっている背徳と、それをも凌駕する悦楽に目眩がした。
「ああ……、奥深くが、また……、開いて、……逞しい切っ先が、……あぁ、そこは……、悦すぎて、おかしくなって、しまう……!」
俺を見下ろす美しくも淫らなキツラにカッと熱が上がり、下から思い切り腰を突き上げた。すると、ずるりと狭いところを突き抜けた先端がきゅうぅと熱い肉に包まれる。その瞬間、堪えようとする間もなく再び子種を噴き出していた。びゅうびゅうと音がしそうなほどの勢いに思わず笑ってしまう。
「ぁん……っ」
小さく笑っただけだったが、腹が動いたせいで腰に深く乗ったキツラにも響いたのだろう。身悶えるように少し背をかがめ、汗に湿った黒髪がするりと肩を滑り落ちるのが妙に艶めかしく見える。
「次は、俺の番だな」
俺の言葉にキツラがニィと艶やかに笑った。
「カラギの、逞しいものを、もっとください」
負けじと笑い返した俺はキツラを腹に乗せたまま上半身を起こした。今度は上下逆だと肩を押し、ふるりと震えた白い太ももをがしりと持ち上げる。そうして昂ぶる気持ちのまま、再び滾った逸物でさらに奥を貫かんと腰を打ちつけた。
生絹で仕立てられた帷子を着た金花は、少し気怠げに見えるものの口調は以前と変わらないくらいにまで回復している。それに安堵はしているが、やはり油断はできない。俺は様子を窺うように金花の顔をじっと見つめた。
本人は「もう大丈夫ですよ」と言っているが、俺には鬼の体調を見極めることができない。だから俺自身が大丈夫だと思えるまで起きるなと言い続けていたのだが、昨日から勝手に起き上がるようになってしまった。それなら本当に大丈夫か自分の目で見て確認するしかない。だから一日のほとんどを金花の看病に費やしているのだが、そんな俺に金花はふふっと笑ってばかりいる。
「わたしはもう大丈夫です。それより母上様に顔を見せなくてもよいのですか?」
「あちらも、もう起き上がれるようになったと聞いている」
「では、なおのことカラギの顔を見たがっているのでは?」
「昨日、菓子を持って見舞ってきた。毎日見舞わなくてもかまわないだろう」
「おやまぁ」
金花がおもしろいと言わんばかりにふふっと笑った。
御所に例の鬼が現れたと聞いた母上が倒れたという話は屋敷に戻ってから知った。おそらく鬼に襲われたときのことを思い出したのだろう。心配はしたものの、あのときの俺は金花のことで頭がいっぱいだった。すでに医者が診ていると聞き、それなら心配ないだろうと思った俺は「見舞いは遠慮する」とだけ女房に伝えて金花につきっきりの日々を送った。
静かに眠る美しい顔を見続けること三日、ようやく金花が目を覚ましたときには安堵のあまり少し涙を浮かべてしまった。それを見た金花は「やはりかわいい方ですね」と言って微笑んだ。それまで寝込んでいたことなど嘘のような美しい笑顔に、俺はこの顔を一生忘れないだろうと密かに思った。
金花が目を覚ましてから、廊下を歩く女房たちの足音が聞こえるようになった。そういえば勝手に屋敷を抜け出したのをどうやって誤魔化したのだろうか。半日ほどなら何とかなるかもしれないが、一晩二晩と姿が見えなければお付きの女房たちは怪しむはずだ。
そのことを金花に問うと、鬼が恐ろしいから部屋の奥に籠もると言って人払いをしていたと答えた。それでよく誰にも悟られなかったものだと思ったが、普段から女房たちに過剰なほど慕われている金花のことだ、うまく言い含めたのだろう。
「本当に体は大丈夫なのだな?」
「あなたに嘘は言いませんよ。もうすっかりよくなりました」
「…………鬼の王の血のおかげなのか?」
俺の問いかけに「そのようですね」と何事もないように金花が答える。
「おまえは鬼の王と兄弟だったのだな」
「たしかに鬼王と同じ鬼の血が半分流れていますが、わたしもあちらも兄弟だと思ったことはありません」
「兄弟なのにか?」
「以前も話したとおり、わたしは鬼たちにとって下賤で卑しいもの。それは鬼王にとっても同じ、あぁ、少し違いますか。鬼王にとって自分以外の鬼は、すべて気に留める存在ですらないのです」
「鬼の王だというのに己の民が気にならないのか?」
「人の世とは違います。鬼王と呼ばれてはいますが、それは鬼を統べる存在を指すものではありません。鬼王とは鬼の中でもっとも強いものの呼び名、少なくとも鬼王にとってはその程度でしょうね」
「そうなのか」
それにしては赤い目の鬼は媚びへつらっていたように見えた。おそらく圧倒的な気配の前ではどんな鬼もそうなってしまうのだろう。
「たしかに、そんな強い鬼の血であれば毒も傷も瞬く間に癒えそうだな」
「それについては少し不満もありますが、それで助かったとなれば感謝するしかありませんね」
「不満? 傷が癒えたのにか?」
「あまりに強い血は薬というより毒なのですよ」
「そういえば鬼の王もそんなことを言っていたな」
鬼の王の「これ以上の俺の血はかえって毒になる」という言葉を思い出す。
「しかしこうして回復したのであれば、毒にはならなかったということだろう?」
俺の言葉に金花が曖昧に笑った。その表情が気になり「何が不満なんだ」と重ねて問いかける。
これまで俺は金花の鬼の面を知ることを恐れてきた。しかし金花を失うかもしれないと思ったとき、何も知らないままではいられないと考え直した。鬼である金花のことを知らなければ、また失いかねない事態に陥ったときにどうすればよいのかわからない。知らないせいで対処できなくなるかもしれない。そんな状況は何がなんでも避けたかった。
「おまえのことをもっと知りたいと思っているんだ。そうでなければ、また今回のようなことが起きたとき対処のしようがない」
「あなたにそこまで言われてしまっては、答えざるを得ないですね」
困ったようにふぅと小さく息を吐いたが、俺を見る金花の目は穏やかなままだ。
「何を知りたいのですか?」
「鬼の王の血の何が不満だと言うのだ? それに、おまえは血を望んでいないとも言っていた。半分とはいえおまえも鬼だ。その、おまえも人を食らわねば生きていけないのではないのか?」
「どうやらわたしは余計なことを思い出させてしまったみたいですね」
認めはしなかったが、ふわりと微笑む金花の顔を見れば最後の問いへの答えは明白だ。
「俺が御所へ向かう日、かすかにだが違和感があった。そのあと鬼退治もあってすぐに忘れてしまったが、ようやく違和感の正体がわかった。……あのときおまえは鴉丸を素手で触ろうとしなかった。それまで平気で触っていたのにだ。鴉丸に触れなかったのは何か理由があったからじゃないのか?」
「カラギは武芸以外も優秀なんですね」
ふふっと笑った金花をぎろりと睨めば「ちゃんとお話ししますよ」と返される。
「わたしも半分とはいえ鬼、あまりに長く人を食らわなければ命に関わります。ですが、いつもなら精を頂戴するだけで大丈夫だったのは本当です。なによりあなたの精は強く濃く、妖魔の命も食欲も十分に満たしてくれます。……そう、まだ耐えられるはずだった」
そう言って金花がちらりと見たのは俺の傍らにある鴉丸だ。
「けれどあの日、お師匠が現れた日、強烈な退魔の気配に魂が揺さぶられてしまったのです。髭切という太刀は恐ろしい。鴉丸がよちよち歩きの幼な子だとすれば、髭切は胆力みなぎる青年のようなもの。髭切の気配に触れてしまったわたしは、鬼の本性が沸き上がりそうになることに怯え、恐れました」
「それで鴉丸に触れられなかったのか」
「触れてしまえば、ますます鬼の本性が抑えきれなくなると思ったのです。そんな状態のわたしが強い鬼の血を口にすればどうなると思いますか?」
問いかけにしばらく考えた。鬼が鬼を食らうと力が強くなると金花は話していたが、それは血だけであっても同じなのだろう。半分しか鬼でない金花でもこうして傷が癒え、力がみなぎるのであれば……。
(それはつまり、さらに鬼の部分が強くなるということではないのか?)
自分の考えにハッとした。
「もしや、人を食らいたくなるのか?」
「そのとおりです」
肯定する言葉に頭がぐらりとした。これまでの金花は一見すると鬼らしいところなどなく屋敷にいても問題なく過ごしてきた。しかし人を食らいたくなっているとしたらこれまでのようにはいかなくなる。それに気になることもあった。
「鬼の王が血を望まないから傷が癒えないのだと言っていたが、それも本当なのか?」
「ただの切り傷や刺し傷程度なら妖魔の力で癒すこともできますが、鬼にやられた傷は難しいでしょうね」
またもや頭がぐらりと揺れた。都には数多の鬼がいる。赤い目の鬼の脅威が去ったとはいえ、次にいつまたあのような鬼が現れるかわからない。それに鬼の王までもが現れたとなれば、小鬼たちがますます騒ぎ出すだろう。
(それでは、またいつ鬼に傷を負わされるかわからないとうことじゃないか!)
もし今回のような毒まで負ってしまえば、今度こそ致命傷になりかねない。
「……人を食らえばどうにかなるのか?」
俺の低い声に何かを感じたのか、金花が「馬鹿なことを考えないでください」と口にした。
「俺にとっては大事なことだ。このままでは、おまえのそばにいられなくなるのかもしれないのだぞ? なによりおまえの命がなくなるのではないかと思うと、自分が死ぬよりも恐ろしいのだ」
俺の言葉に静かな眼差しを向けていた金花がふっと口元を緩める。
「ふふっ、本当にかわいい方」
「金花! 俺は真剣に……!」
「わたしも真剣に馬鹿なことはやめてほしいと思っています。それでもなお、わたしを心配してくださるというのなら……」
気怠げに座っていた金花が、すぃと身を寄せた。久しぶりに感じる金花の熱とほのかな伽羅の香りにぞくりと背筋が粟立つ。それは間違いなく情欲を感じているときの感覚で、こんなときにと舌打ちしたくなった。そんな俺に鼻先がつくほど身を寄せた金花が、囁くように「かわいい方」と笑い言葉を続けた。
「あなたの血をくださいませんか?」
本来なら恐ろしい言葉だというのに、俺は胸を高ぶらせ腰をぶるりと震わせた。
ぴちゃぴちゃと舐める音と股に顔を埋める金花の姿に、俺の逸物がますます猛々しくなった。俺が着ているものを奪い取った金花が逸物を擦り始めたのはつい先ほどだというのに、熱い口の中で子種を吐き出したいと言わんばかりに震えている。御帳の中は一気に淫らな空気が漂い、明るい昼日中には似つかわしくない雰囲気になっていた。それでも以前のように駄目だと言えないのは俺自身が金花を欲しているからだ。
「ふふっ、また逞しくなった」
半裸で俺の股座に食らいついていた頭を少し上げた金花が、上目遣いで俺を見ながらうれしそうに笑う。そのまま赤い舌を伸ばし、まるで見せつけるかのように逸物の先端をべろりと舐め上げた。
「く……っ」
「おや、少し漏れてしまいましたか?」
「……ッ、仕方がない、だろう……! 何日も、交わっていないのだからな……!」
「ふふ、うれしいことを」
「どういう、意味だ……ッ」
俺が交わっていないことは金花が一番よく知っているはずだ。金花は眠り続けていたわけで、その前から御所に詰めていたため八日以上誰とも行為に及んでいない。そんな状態で扱かれ、口に含まれ、淫らに舐める姿を見せられては我慢できなくなっても仕方がなかった。
そう思いぎろりと睨んだが、眼差しに力が入っていないのは自分でもわかっていた。当然、金花はいつもどおり笑みを浮かべるだけで気にする素振りも見せない。
「だって、わたしに操を立てて誰とも交わらなかったということでしょう? 屋敷には美しい女房たちがいるというのに、それでも手を出さなかっただなんてうれしいじゃないですか」
「あ……たりまえだろう! 俺の奥方はおまえなのだぞ!? 深手を負って目の前で寝ているというのに、ほかの女とそんなことなどできるものか!」
「うれしい」
上半身を起こした金花の頬はほんのりと赤くなっていた。いつもとは違い、はにかんでいるような表情は新鮮で腹の奥にぐぅっと熱がわき上がる。たまらず腕を引っ張り紅く濡れた唇を吸った。たったいま己の逸物を咥えていたことなどまったく気にならないほど、ただその唇を味わいたいと強烈に思った。
くちゅくちゅと舌を舐め合い唇を甘噛みする。互いの口の中を舌で舐りあっていると、どちらのものかわからない唾液がぽたぽたと顎を伝った。その感触でさえも体を昂ぶらせ、もっと触れ合いたいという欲に駆られる。皮膚一枚隔てた感覚すら厭わしい。もっと触れたい、もっと近づきたいと、ただひたすらに口を吸いながら体を寄せた。
気がつけば体をぴたりとつけて抱き合っていた。素肌になった金花が俺の膝に乗り上げ、同じように裸になった俺の肌に胸を触れ合わせる。口を吸い合いながらも時折り金花が胸を擦りつけるからか、乳首が擦れ合い、じくじくと甘い痺れが全身に広がった。
「……はぁ、気持ちが昂ぶりすぎて気が遠くなりそうです」
ほんのわずか唇を離した金花が、うっとりとそう囁いた。それには俺も同感で、金花の唾液と己の先走りで濡れそぼった逸物は子種を吐き出したいと震えっぱなしになっている。それでも吐き出すのは金花の中だと、下腹に力を込めてなんとかやり過ごした。そうして意識がはっきりしている間に言わねばならないと思っていたことを口にした。
「血肉はいらないのか?」
「……」
「遠慮はいらない」
「……あなたは鬼を嫌っていたのではないのですか?」
「御所でも言ったが、それはおまえ以外の鬼のことだ。おまえのことは誰よりも好いている。この身を捧げてもよいと思うくらいにはな」
それは俺の本音だった。いまでも鬼は退治すべき存在だと思っているが、金花は別だ。半分鬼であっても鬼らしくなく、俺のそばにいるために必死で鬼の本性を抑えようとしていたのだ――そのせいで命を失うかもしれないというのに。
俺は、そんな金花の思いに応えたかった。いや、好いている金花のために何かしてやりたいと思った。そのためなら己の血肉を差し出すことくらいなんてことはない。
「本当にあなたという方は……」
「金花?」
ふふっと微笑んだ金花の顔が遠のいた。俺を見下ろす目は優しく、俺の太ももに座ったまま細い指で俺の頬をうれしそうに撫で始めた。
「身を捧げるなど大層なことを言わないでください」
「しかし、人を食らわねば生きていけないのだろう?」
「本来はそうでしょうが、わたしの鬼の部分は半分だけ。それに、あなたが相手であれば血だけで十分ですよ」
「そうなのか?」
「えぇ」
頬を撫でていた指が顎をくすぐり、そのまま首筋を意味ありげに撫でる。
「あなたの精はとても強い。ほかの精など必要ないほど強く、そして濃いのです。それは血も同じ。あなたの血の香りを嗅ぐだけで鬼の本性が出てしまうくらい魅力的なのですよ」
「そういえば前にもそんなことを言われたな」
「あのときはなんとか耐えられましたが、今度は耐えられないでしょう。おそらくわたしは鬼の姿を抑えられなくなってしまう。それでも……それでも血をくれると言うのですか?」
ゆらゆらと揺れる黒目がとても美しいと思った。美しく淫らで、鬼のくせに鬼らしくなく、人である俺を好いているという金花。鬼だとか人だとか関係なく俺を一途に思ってくれる存在がほかにいるだろうか。
(俺だって負けないくらい好いているのだ)
それを金花に伝えたくて仕方がなかった。
「たとえ鬼の姿になったとしても、おまえを好いている気持ちは変わらない。俺は金花だから好いているのだ」
「本当にあなたという方は……。ふふっ、わたしも心の底から好いていますよ。人かどうかなど関係ありません。カラギだから好いているのです」
「では、問題ないだろう」
「そうかもしれませんね」
ゆらりと瞳を揺らした金花が、つつつと爪の先で首筋を撫でた。たったそれだけなのに、どうしてか撫でられた部分がじくりと熱くなる。
「……いつか、ここを吸わせてくださいね」
「金花?」
「いえ、なんでもありません。カラギ、指を貸してください」
右手を持ち上げると人差し指を突き出すように言われる。何をするのだろうと思いながら人差し指を差し出せば、大事そうに両手で持ち上げた金花が自身の親指の爪をそっと突き立てた。直後、ちくりと小さな痛みが指先に走る。
「……あぁ、やはり芳しい香り……」
指先に金花の紅い唇と同じくらい赤い色をした血が滲み出した。つぷりつぷりと滲む様子から傷は深くないように見える。
「こんな小さな傷じゃあ、それほど血は出ないぞ?」
「これで十分です。言ったでしょう? あなたの血はそれほど濃いのだと。……ほら、もう耐えられなくなってきました」
とろりとした金花の顔に視線を向けると、唇の端からほんの少し尖った歯が見えている。つるりと白く形のよい額には赤い角が一本、にょきりと姿を現した。尻ほどまであった黒髪は、まるで真っ黒な蛇がうごめくようにするすると毛先を伸ばし始めている。変化する様子は恐ろしいもののはずなのに、俺はただ呆然と姿を変える金花を見つめ続けた。
小さい牙を持ち、額に角のある鬼の姿になった金花はなんと美しいのだろうか。目の前にいるのは間違いなく鬼だが、何者よりも美しく愛しい、俺だけの――。
「美しいな」
気がつけばそんな言葉が漏れていた。呆けたような俺の言葉に金花がふわりと笑う。
「鬼を美しいなどと言う人はカラギくらいでしょうね」
「本当にそう思ったのだ。金花は何よりも美しい」
腑抜けた声を出す俺に「本当にかわいい方」と笑った金花は、ふと真面目な顔をして俺の目を見た。
「どうした?」
「……わたしの名ですが、本当は金花ではないのです」
「なんだと?」
「妖魔は本当の名を知られるのを嫌がります。だから名乗らなかったのですが、兄上様に尋ねられたゆえ、あのときは仕方なく金花と」
「では、金花というのは何の名だ?」
「金花猫から取りました。人で言えば家名のような感じでしょうか?」
「藤原や源氏といったところか」
「まぁ、そんなところです」
なんと、俺は心底好いた者の本当の名を知らないままでいたとは。いや、それが“ようま”なのだとしたら金花を責めることはできない。
「わたしの名はキツラ」
「キツラ……」
「……っ、ふぅ、名を呼ばれるだけでこうとは……」
「どうした? まさか、まだ具合が、」
「いえ、そうではありません。真名を呼ばれると箍が外れてしまいそうになるのです」
「どういうことだ?」
俺の問いかけに、またもやとろりとした表情に変わった金花……いやキツラがすぃと顔を寄せてきた。
「ますますあなたの子種がほしくなると言っているのですよ」
「……ッ!」
「あぁ、香りが強くなって……。カラギ、わたしのかわいい方」
口に吸いついてきたキツラの唇はやけに熱く、それでいて情熱的だった。俺も負けじと吸いつきながらキツラの体を抱き寄せ、乳首を擦り合わせるように体を揺する。そうすると天を向いた逸物同士も擦れ合い、体中に痺れにも似た心地よさが広がった。
「……ッ、はぁ、はぁ」
「カラギ、もう、耐えられません。早く、早く逞しいものをわたしの中に」
口を離したキツラにとんと押された俺は、どさりと背中から横たわった。腰を持ち上げたキツラが左手を俺の腹につき、後ろに回した右手で俺の逸物を掴む。その感触にさえ腰をぶるりと振るわせた瞬間、俺の逸物はぶちゅりと音を立て温かな中に入り込んでいた。
「ぅ、あ……!」
「あぁ! く……ぅっ、なんて、逞しい……。ふ、すぐにいいところに当たって、あっ、悦い、悦ぃ……」
「ぐぅ……!」
「すごく、悦くて、あぁ、たまらない、あぁ、あぁ」
感に入ったような声を聞かされ、細い腰をぬぷぬぷと小刻みに動かされてはひとたまりもなかった。腰を大きく震わせた俺は、まだ逸物の半分ほどしか中に入っていないというのに盛大に子種をぶちまけてしまった。あまりの量からか、それとも半分ほどしか中に入っていなかったからか、ぶちゅぶちゅと音を立ててあふれ出した子種が俺の下腹を濡らしていく。
「あぁ……。なんて濃いのでしょう……。それに、まだこんなに逞しい……」
「おいっ、く……ッ!」
「ふふ、ほら、子種のおかげで、わたしの中もこんなに濡れてしまいました。そのぶん、ぁん、滑らかになって、……ふふ、カラギも悦いでしょう?」
「まだ、出ている、のだ……ッ、動く、な……ッ」
「はぁ、ぁあん……、するりと、奥まで入って、……あぁ、すごい、奥まで、気持ちいい……」
子種が出ている最中だというのに、キツラは腰をぐいぐいと動かし続けた。そのせいで半分ほど外に出ていた逸物がぬぷんと勢いよく中に潜り込む。その衝撃で、終わりに近づいていた子種が最後のひと吐きだと言わんばかりにびゅうと噴き出した。
「なんて、すごいのでしょう……。ねぇカラギ、血を、血をください」
夢うつつのようなキツラの声に右手を伸ばすとぎゅうと握られた。まだつぷつぷと滲んでいた人差し指の血をぺろりと舐めたキツラは、たまらないといった表情で指ごと口に含む。
ぴちゃ、ぴちゃり、ちゅ、ちゅく。
まるで逸物を舐めしゃぶるように俺の指を舐る姿に、子種を吐き出したばかりの俺の逸物はすぐさま力を取り戻した。そんな俺に目だけでニィと笑んだキツラがくいくいと腰を動かし、続けてぐりぐりと回し始める。それだけで子種がせり上がり、慌ててぐぅっと下腹に力を入れた。
「ふふ、堪えずともよいのに……。カラギなら、あと数度は、濃いものを飲ませてくれるでしょう? ぁん、ほら、こうして、すぐに応えてくれる……。あぁ、本当に、なんと逞しいのでしょう。それに熱くて、まるであなたの胸の音のように、どくどくとして……」
俺の指を舐めながらうっとり微笑むキツラは背筋を震わせるほど美しかった。それに小さな尖った歯が指に触れるたびに、どうしてか腰がずくずくと疼くように熱くなる。額の赤い角が目に映るたびに鬼と交わっている背徳と、それをも凌駕する悦楽に目眩がした。
「ああ……、奥深くが、また……、開いて、……逞しい切っ先が、……あぁ、そこは……、悦すぎて、おかしくなって、しまう……!」
俺を見下ろす美しくも淫らなキツラにカッと熱が上がり、下から思い切り腰を突き上げた。すると、ずるりと狭いところを突き抜けた先端がきゅうぅと熱い肉に包まれる。その瞬間、堪えようとする間もなく再び子種を噴き出していた。びゅうびゅうと音がしそうなほどの勢いに思わず笑ってしまう。
「ぁん……っ」
小さく笑っただけだったが、腹が動いたせいで腰に深く乗ったキツラにも響いたのだろう。身悶えるように少し背をかがめ、汗に湿った黒髪がするりと肩を滑り落ちるのが妙に艶めかしく見える。
「次は、俺の番だな」
俺の言葉にキツラがニィと艶やかに笑った。
「カラギの、逞しいものを、もっとください」
負けじと笑い返した俺はキツラを腹に乗せたまま上半身を起こした。今度は上下逆だと肩を押し、ふるりと震えた白い太ももをがしりと持ち上げる。そうして昂ぶる気持ちのまま、再び滾った逸物でさらに奥を貫かんと腰を打ちつけた。
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