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一章 鬼に繞乱(じょうらん)されしは
21・終
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都から東国へ向かう海に近い中路を、さて次はどちらへ進もうかと考える。海側もいいが師匠は山側のほうをよく歩くと言っていたから、そちらも捨てがたい。
「どちらにしてもほとんどは山道なのですから、好きなほうでよいのでは?」
「そうは言うが、日が暮れる前には寝床を決めておいたほうがいい。となると、やはり海側のほうが寺社も多いし見つけやすいか」
「本当にカラギは真面目ですねえ」
「うるさい。それに海を見たいと言ったのはおまえだろう」
「えぇ。生まれてこの方、海を見たことがなかったので、つい」
にこりと微笑みながらそう言われると、やっぱり海を見せてやりたいと思ってしまう。
俺はいま、金花と一緒に師匠がいる東国を目指して旅をしている。本当なら師匠と一緒に向かうはずだったのだが、金花のことをいろいろ誤魔化すのに予想以上に手間取ってしまい半月遅れての出立となってしまった。
「うまくすれば師匠と合流できるという話だったが、これでは追いつけそうもないな」
「二人きりの旅というのもよいじゃないですか」
「しかし、師匠は待ってくれていたのかもしれないのだぞ?」
「どうでしょうねぇ。お師匠のあの顔では、本当に待っていたかどうかわかりませんよ?」
「それは……そうかもしれないが」
別れ際に見た師匠の顔はやけににやけていた。何かよからぬことを考えているような雰囲気だった。あの顔を思い出すと、金花の言うとおり「のんびり行くから、どこかで合流できるといいなァ」という師匠の言葉は本音ではなかったのかもしれない。
「それに、お師匠が一緒では……こういうことができないじゃないですか」
「……ッ! お、まえ、何をする……!」
近づいてきた金花の手がするりと俺の股座を撫で上げた。さすがにそれだけで兆すことはなくなったが、それでも“金花に触れられた”というだけで体が熱を帯びてしまう。そうなったら後は金花の思うつぼだ。俺は慌てて手を掴みやめさせた。
「ふふっ。これくらいで顔を赤くするなんて、いつまでもかわいい方」
「金花!」
いくら周囲に人がいないとはいえ、こんな往来で何をするんだと睨む。しかし金花がそれで反省することは当然ない。
(たしかにこんな姿を師匠に見られるわけにはいかないから一緒でなくてよかったかもしれない)
蔽衣山から都へ戻る道中もだったが、金花は昼夜関係なく、また外であっても欲望の赴くままに行動する。今回もはじめこそおとなしかったものの、都が遠のくにつれていたずらに体に触れてくるようになった。そうしてついには昼日中であっても藪の中や荒れ寺で交わるようになってしまった。
(これでは以前と同じではないか)
こんなことでは駄目だとわかっているが、金花に迫られるとどうにも拒絶できない。それもこれも俺を惑わす金花のせいで、さらにいえば下袴を身につけていないことも問題だった。
俺の股座をいたずらに撫でたかと思えば、すぐさま自分の袴を脱ぎ捨てようとする。本来は下袴を穿くものだが、なぜか金花はそれを身に着けない。そのせいですぐにまろい尻が現れ、それを見てしまえばどうにも我慢できなくなる。
(こんな姿を師匠に知られるわけにはいかない)
師匠の最後の笑顔を思い出すと、こういうことを予見していたような気がして頭が痛くなった。なにより師匠は金花が鬼であることを知っている。知ったうえで俺と金花を東国に来ないかと誘ったのだ。
『東は都ほど鬼を気にしていない。武士の国だからだろうが、きっと二人には過ごしやすい土地だと思うぞ?』
師匠の言葉に感謝した。都では金花と落ち着いて過ごすことが難しくなりつつある。それなら東国にしばらく身を置くのがいい。それに武士たちの生活に興味もあった。そういうことで俺はすぐさま旅に出ることを決めた。当然母上には泣いて止められたが、ちょうど兄上の末の姫が親王に輿入れすることが決まり、母上がそちらの準備に気を取られている間に出立することにした。
(なに、ずっと東にいるわけでもない)
時折り東の珍しいものでも送れば母上も安心するだろう。その後は都よりさらに西へ下ることにしているが、途中で都に寄り顔を見せることもできる。
「都が心配ですか?」
わずかに身を屈めた金花が俺の顔をのぞき込みながらそう口にした。
「いや、短い間にいろいろあったなと思い出しただけだ」
「そうですね。春過ぎに出会いって一緒に都へ行き、わたしはあなたの奥方になりました。それから鬼と遭遇し、お師匠に出会い、御所へも行きました。あぁ、鬼王と再会したことには本当に驚きましたが」
「……鬼の王は、本当に都を襲わないのだろうな?」
御所での騒動のあと、金花は鬼の王が都を蹂躙することはないと断言した。金花を疑うわけではないが、これまでの鬼たちのことを思うとにわかには信じがたい。
「大丈夫ですよ。いまの鬼王にとって都は大事な場所でしょうから、鬼王自身が手を下すことはありません」
「それは……敦皇様と関係しているのだろうな」
「そうですねぇ。鬼を、しかも棘希食わせたと聞きましたから本気なのでしょうしね」
この話題が出るたびに俺は複雑な気持ちになった。鬼の王に大事な人がいると聞いたのは、金花が起き上がれるようになってしばらくしてからだった。しかも、その相手は俺が生まれる前に鬼に攫われた敦皇親王なのだという。金花は一度敦皇様に会ったことがあるらしく、間違いないと言い切った。
「鬼を食らえば確実に鬼になります。それも棘希のような強い鬼の血肉であれば、まず失敗することはありません。それに……、いえ、だからこそ鬼王が本気だということがわかります。それほど大事にしている方が否と言うことをしたりはしないでしょう」
「それはそれで複雑な気分だ」
親王が鬼の王の大事な人になったというだけでも複雑だが、なにより鬼を食らったという話にはいまでも目眩がする。聞けば、鬼を食らった人は確実に鬼に変化することができるらしい。
そうまでして手元に置きたいということは、鬼の王にとって親王が大事な人であることは間違いない。その大事な人――敦皇様が都が鬼に脅かされることを気にかけている限り、鬼の王が都を蹂躙することはないというのが金花の見解だ。
「小鬼たちは騒ぐでしょうが、いまの陰陽寮があれば大丈夫でしょう。あの鬼を相手に雷だの火柱だのを使ったのですから、あぁ、なんと言いましたか、あの陰陽師でも問題なく対処できると思いますよ」
「光榮殿か。そうだな、あの人なら何とかするだろうな」
鬼騒動のあと、光榮殿は御所の警備を強化し陰陽寮の面々へ指示を出したところで倒れた。その後、丸二日屋敷で寝込んだと聞いている。
そんな光榮殿が目を覚ますのを待ち構えていたのが師匠で、何やらいろいろ丸め込んでくれたらしい。おかげで陰陽寮にも朝廷にも金花が鬼だと知られることはなかった。俺が鬼の王に願いを乞うたことも報告されず、こうして連れ立って旅に出ることもできた。
「師匠は何を言ったのだろうな」
「あの陰陽師にですか? 大方、役立たずとでも言ったのではありませんか?」
「おまえは光榮殿に厳しいなぁ」
「当然です。わたしのかわいいカラギを、あのような危ないところへ呼びつけたのですからね。腕の一本や二本もいでやりたいと思ったくらいです」
「頼むから物騒なことはするなよ」
「わかっています、あなたが困ることはしません。代わりに、胸の内では散々呪ってやりましたけれど」
ニィと笑う金花に背筋がぶるりと震えた。それを誤魔化すように分かれ道に視線を向け、「よし」と口にする。
「道は決まった。寝床を頼むとすれば少し急いだほうがいい。ほら、行くぞ」
「おや、結局海側の道を行くのですか? やはり、わたしが海を見たいと言ったからですか?」
「そうだと言ったらどうする」
俺のぶっきらぼうな返事に、またもや金花がふふっと笑った。好いた者同士の会話に慣れていないせいか気恥ずかしくなり、ふぃと顔を背ける。
「照れたカラギもかわいいですよ?」
「うるさい」
「ふふっ、それだけわたしを好いてくれているということでしょう?」
ちろっと横目で確認した美しい顔はニィと人の悪い笑みに変わっていた。金花にそんな気持ちはないのかもしれないが、照れて仕方がない俺にはからかわれているように思えて仕方がない。
(くそっ、やられてばかりだと思うなよ)
まだニィと笑っている金花の細い肩を引き寄せ、思いついたことを実行しようとさらに体を寄せた。そのまま真っ白な耳に口を寄せ息を吹きかけるように囁く。
「今夜は覚えていろよ、キツラ」
ついでにと耳たぶを甘噛みしてやれば、掴んだままの肩がびくりと震えた。すぐそばにある黒目がほんのり潤んでいるのがわかり、してやったりとほくそ笑む。
「さぁ、行くぞ」
真っ白な頬を少しばかり桃色に染めた金花に満足した俺は、海に近い町を目指して歩き出した。
その日借りた寝床に高灯台はなく、夜空に浮かぶ月の光が簡素な部屋をわずかに照らしていた。ここは関白家が昔から世話をしている寺院に連なる小さな寺で、急な話ではあったものの一晩の寝床を借りることができた。「何もないところですが」という前置きどおり御帳どころか灯りもなかったが、武士のようにあちこちに行っていた俺には何も問題ない。
むしろ、この旅を始めたときに気がかりだったのは金花のほうだ。鬼とはいえ蔽衣山では立派な屋敷に住み、その後も内親王であった母上が住まう屋敷にいたのだから、旅先での粗末な寝床や食事に耐えられるか心配していた。ところが心配は杞憂に終わった。金花自身は野原でも岩の上でも眠れるらしく、食事に至っては必要ないという。
今夜も持ち込んだ雉の肉と前の寺で手に入れた乾飯、それにこの寺でもらった瓜で簡単な食事を済ませた。それに金花が苦情を言うことも眉をひそめることもない。
そもそも金花は人のような食事をほとんどしない。瓜を少し摘んだが、その際に「喉の渇きは癒えますが、ほとんど水のように感じますねぇ」と感想を述べていたのが印象的だった。
「何を笑っているのですか?」
「いや、瓜を水のようだと言っていただろう? おまえにしてみれば血以外のものは、すべて水なのだろうなと思ってな」
「ふふっ、そうかもしれませんね。こうしてあなたの血を知ってしまっては何もかもが水のようです」
右を下に寝そべったまま血のにじむ俺の左手を大事そうに持った金花が、ちろちろと舌で舐めくすぐっている。俺の胸に背を預けるように寝ている姿は暗闇の中でも十分に美しかった。
(まるで天女のようだな)
そう思ったからか、いたずらに尻に擦りつけていた股座にぐぐぅと血が集まる。それに「ふふっ」と笑ったのは金花で、すでに二度肌を重ねたのにとからかうように足首を爪先でつついた。
そんな些細な刺激さえ俺にはたまらなかった。どうにも収まりがつかず、つい目の前にある耳にかりっとかじりつく。
「んっ! もう、あちこちに噛みついて、カラギのほうこそ鬼のようですよ」
「それもよいかもしれないな」
俺の返事にしばらく間が空いた。
「無理はしなくてよいのです。あなたが鬼を嫌っていることは、よく知っていますから」
諭すような言葉に胸の奥がきゅうと切なくなる。
「俺はおまえを好いている、それは真実だ。こうして何度も交わるほど、いや、それでも足りぬほど好いているのだ……キツラ」
「……っ!」
耳元で名を囁くと、熱く火照った白い体がびくんと震えた。
俺は金花の本当の名を知ってからも普段は金花と呼ぶようにしている。それは金花の願いであり“ようま”として、そうしたいという話だった。もちろん俺に否はない。というよりも俺自身そうすべきだと思っていた。なぜなら本当の名を呼んでほかの鬼に居場所を知られでもしたら厄介だと思ったからだ。
金花は鬼とはいえ半分だけで、この前の赤い目の鬼のような強者が現れては鴉丸と俺の腕だけでは心許ない。金花を守り切れる自信がなければ、厄介ごとを引き寄せないようにするほうがよいに決まっている。
(東の地で、もっと鍛えることができれば)
師匠の誘いに乗ったのは腕を上げたい気持ちもあったからだ。金花を守れるほどの腕を身につけ、そしていずれは――。
「わたしは、あなたのそばにいられればそれでよいのです」
金花の、いやキツラの声がわずかに泣いているように聞こえたのは気のせいだろうか。俺の指を甘噛みしながら血を啜るキツラは鬼だ。額に角は見えないが、時折り指先をチクチク刺すのは小さな牙の仕業だろう。
角を持ち牙のあるキツラは鬼だ。しかし俺にとってはただただ愛しい存在というだけだった。その気持ちは鬼の姿を見てもまったく変わらず、鬼の姿で乱れるキツラに気持ちも体も滾る一方だ。
(俺はキツラが鬼だろうと気にならない)
俺はそういう男なのだ。そのことはこれまで何度もキツラに伝えている。それなのに、キツラはいまだに自分が鬼であることを気にしているような素振りを見せた。
(いい加減、俺を信じてほしいのだがな)
もしや半分しか鬼でないことが原因なのだろうか。赤い目の鬼は何度もキツラのことを下賤と呼び見下しているように見えた。鬼の王とは兄弟であるのに互いに兄弟だとは思ってもいないという。もしかして、そういったことで他人を信じることができなくなっているのかもしれない。
(もしくは誰かと一緒に過ごすことに慣れていないのか)
蔽衣山の屋敷は大きく立派だったが、キツラ以外は住んでいないようだった。そういえば長い間一人きりだったと言っていたような気がする。
(それなら俺で慣れればいい。俺のそばにいたいのだと、もっと強く思ってくれればいい)
胸の奥がチリチリと焼ける気がした。その痛みを感じながらキツラの背中をぎゅうと抱きしめた。
横向きに寝そべったまま貫いていた逸物をずるりと抜き、膝立ちになった。快感に震えるキツラを見れば、尻の間からとろとろと子種がこぼれ出している。床に小さな水溜りがいくつもあるのが月明かりの下でもよく見えた。それを見ただけで俺の逸物はさらに力を増してしまう。
「ふふっ、何度でも逞しくなるなんて、……あぁ、カラギの匂いがします……」
振り返ったキツラがは股座でそそり勃つ逸物を見てうっとりを笑んだ。そうして上半身を起こし、濡れたままの逸物に手を添える。
「んむ、ん……、ん、んちゅ、ん、んぅ」
「……ッ、キツラ、」
いままで己の中に入っていたことなど気にすることなくキツラが逸物をしゃぶり始めた。まずは先端を口に含み、次に舌を這わせて根本から舐め上げる。最後には喉の奥まで逸物を迎え入れてしゃぶり尽くした。時折り喉をすぼめて先端をきゅううと攻め立てる。
それだけで俺の逸物はすぐさま隆々とそそり勃った。あまりの逞しさに痛みさえ感じる。こうやって何度果ててもすぐに逞しくなる様子に自分でも笑いたくなった。
「キツラ、もういい。ほら、仰向けになって……そう、自分で足を持ち上げるんだ」
「カラギも、すっかりいやらしくなって」
「おまえの夫だからな。それに、奥方を喜ばせるのも俺の喜びの一つだ」
仰向けになり、膝裏に手を差し入れて自ら大きく足を開いたキツラは股の間でニィと笑みを浮かべた。
俺の血を舐めたキツラは鬼本来の姿に戻っている。額には小さな角が生え、ニィと微笑む口の端からは小さな牙が見え隠れした。その姿はまさしく鬼そのものだというのに俺には美しいものにしか見えない。
(美しく、そして淫らだ)
淫らに微笑む顔から視線を下ろせば、尖った乳首や俺の噛み跡が月明かりにうっすらと浮かんでいる。さらに視線を動かせば濡れた薄い腹が見え、俺のものよりずっと綺麗な色合いの逸物がふるりと震えていた。さらに視線を下げると俺を咥え込むところはぽってりと赤く腫れ、ぱくぱくと呼吸をするように動いている。
「あ……ん、せっかくの子種が、漏れてしまいます」
腹の中がうねっているのか、赤く膨らんだ肉輪をとろりとろりと子種が滴り落ちた。それが尻からしたたり落ち床に新たな水溜りを作り出す。その様子を目にしただけで頭がカッとなり体の熱がぶわりと上がった。気がつけばキツラの体を折り曲げるようにのしかかり、隆々とした逸物を突き入れていた。
「あ……! ぁは、一気に奥、まで、……あぁ、すごい、奥までみっしりと、カラギを、感じる……」
「う……ッ、く!」
「あ……ぁ、悦い……。奥に、もっと奥に、子種を……。ぁあ! そこ、そこに、もっと奥に……っ。あぁ、悦ぃ、悦すぎて、おかしく、なる……!」
「キツラ、もっと奥に、俺を奥に、ぐ……ぅッ!」
ぬるぬると、しかしきゅぅと絡みつくキツラの中を何度も擦り上げた。悦がり狂う美しいキツラをさらに追い込み、最後は狭くきつい隘路を思い切り貫く。奥は極楽かというほどの心地よさで、先端をきゅうぅと絞る肉壁はキツラの喉の奥よりも凄まじかった。そこを何度か突き上げるとキツラは潤んだ黒目を細め、目尻から涙をこぼしながら「悦い、悦い」と狂い泣く。
その様子をしばらく堪能し、そうしてぐぅと限界まで腰を押しつけた。それ以上は入らないという最奥で思う存分子種を吐き出す。びゅくびゅくと噴き出す子種を感じながら、俺の体はさらに奥に注ぎ込まんと腰を穿ち続けた。
ここが寺社だということも忘れ、俺とキツラは散々交わった。何度も肌を重ね欲をぶつけ合い、ようやく衝動とも呼べる熱情が収まる。
「あぁ……これでは、本当に孕んでしまいそう、ですね」
寝言のようにキツラがつぶやいた言葉にどきりとした。キツラを都に連れ帰るきっかけになったのが孕んだかもしれないという言葉だったことを思い出す。都に帰ってからは鬼の一件もあり慌ただしかったせいですっかり忘れていた。
本当に寝言だったのか、キツラを見ると目元を真っ赤にしたまますやすやと眠っていた。さすがの鬼も精根尽きてしまったのだろう。そのくらい求め合った自覚はある。美しい寝顔を見ながら、ふと「あれは戯言だったのかもしれないな」と思った。
いくら鬼でも男が孕むなどありえない。それに鬼には男しかなく、子をなすには人の女を攫うしかないとキツラ自身も話していた。であれば、あれは戯事、もしくは睦言の類だったのだろう。そう考えると俺はキツラにからかわれたということになる。それなのに真に受けるとは……苦笑が漏れたものの後悔はしていない。
(たとえ偽りだったとしても、あの言葉がきっかけでそばにいられるのだ。俺にとってはいい言葉だった)
寝乱れている黒髪を優しく指で梳く。絹糸のような手触りに感心しながら、再び体の芯がじわりと熱を帯びるのを感じた。
(いや、今夜はここまでだ)
さすがに意識のない相手に無体はできない。わかっているのに肌がざわつき股座に血が集まり始めた。あまりの精の強さに我ながらあきれ果ててしまう。
(本当に俺は鬼に近づいているのかもしれないな)
鬼の精を受ければ稀に鬼に転ずることがあると聞いたときは、なんと恐ろしいことだと震えた。しかしいまは少し違う。もし鬼に精を注ぎ続けても鬼に転ずることができるのなら……。
(東へ行ったのちは西へ行き、鬼の王に会おう)
すぅすぅと寝息をたてるキツラの頬を手の甲で撫で、起こさぬように静かに隣に寝転がった。そうして着物を引き寄せ体にかけようとし、キツラの肌に指先が触れただけで腹の奥がぐぅと熱くなる。
(キツラに注ぎ込んだものが実を結ぶのであればな……)
そうならないことが残念でならなかった。「何を愚かなことを」と呆れながら、子ができれば何かが変わったのではないかと考えてしまう。
(……いや、キツラのそばにいるために必要なのは子ではない)
そのために鬼の王に会い、話を聞かなくてはならない。
「叶うことなら俺は鬼となり、ずっとおまえのそばにありたいと思っているのだ」
叶うことなら――いや、なんとしても叶えてみせる。それがこの旅の目的でもあり俺の願いだ。
「おまえがこのことを知ったら……どうするだろうな」
困惑するか、喜ぶか。もしかすると止められるかもしれない。それでも俺はキツラのそばにいることを選ぶだろう。そのためなら鬼になることも厭わない。
鬼になったあかつきにもこうできることを願いながら、キツラの紅い唇を優しく吸った。
「どちらにしてもほとんどは山道なのですから、好きなほうでよいのでは?」
「そうは言うが、日が暮れる前には寝床を決めておいたほうがいい。となると、やはり海側のほうが寺社も多いし見つけやすいか」
「本当にカラギは真面目ですねえ」
「うるさい。それに海を見たいと言ったのはおまえだろう」
「えぇ。生まれてこの方、海を見たことがなかったので、つい」
にこりと微笑みながらそう言われると、やっぱり海を見せてやりたいと思ってしまう。
俺はいま、金花と一緒に師匠がいる東国を目指して旅をしている。本当なら師匠と一緒に向かうはずだったのだが、金花のことをいろいろ誤魔化すのに予想以上に手間取ってしまい半月遅れての出立となってしまった。
「うまくすれば師匠と合流できるという話だったが、これでは追いつけそうもないな」
「二人きりの旅というのもよいじゃないですか」
「しかし、師匠は待ってくれていたのかもしれないのだぞ?」
「どうでしょうねぇ。お師匠のあの顔では、本当に待っていたかどうかわかりませんよ?」
「それは……そうかもしれないが」
別れ際に見た師匠の顔はやけににやけていた。何かよからぬことを考えているような雰囲気だった。あの顔を思い出すと、金花の言うとおり「のんびり行くから、どこかで合流できるといいなァ」という師匠の言葉は本音ではなかったのかもしれない。
「それに、お師匠が一緒では……こういうことができないじゃないですか」
「……ッ! お、まえ、何をする……!」
近づいてきた金花の手がするりと俺の股座を撫で上げた。さすがにそれだけで兆すことはなくなったが、それでも“金花に触れられた”というだけで体が熱を帯びてしまう。そうなったら後は金花の思うつぼだ。俺は慌てて手を掴みやめさせた。
「ふふっ。これくらいで顔を赤くするなんて、いつまでもかわいい方」
「金花!」
いくら周囲に人がいないとはいえ、こんな往来で何をするんだと睨む。しかし金花がそれで反省することは当然ない。
(たしかにこんな姿を師匠に見られるわけにはいかないから一緒でなくてよかったかもしれない)
蔽衣山から都へ戻る道中もだったが、金花は昼夜関係なく、また外であっても欲望の赴くままに行動する。今回もはじめこそおとなしかったものの、都が遠のくにつれていたずらに体に触れてくるようになった。そうしてついには昼日中であっても藪の中や荒れ寺で交わるようになってしまった。
(これでは以前と同じではないか)
こんなことでは駄目だとわかっているが、金花に迫られるとどうにも拒絶できない。それもこれも俺を惑わす金花のせいで、さらにいえば下袴を身につけていないことも問題だった。
俺の股座をいたずらに撫でたかと思えば、すぐさま自分の袴を脱ぎ捨てようとする。本来は下袴を穿くものだが、なぜか金花はそれを身に着けない。そのせいですぐにまろい尻が現れ、それを見てしまえばどうにも我慢できなくなる。
(こんな姿を師匠に知られるわけにはいかない)
師匠の最後の笑顔を思い出すと、こういうことを予見していたような気がして頭が痛くなった。なにより師匠は金花が鬼であることを知っている。知ったうえで俺と金花を東国に来ないかと誘ったのだ。
『東は都ほど鬼を気にしていない。武士の国だからだろうが、きっと二人には過ごしやすい土地だと思うぞ?』
師匠の言葉に感謝した。都では金花と落ち着いて過ごすことが難しくなりつつある。それなら東国にしばらく身を置くのがいい。それに武士たちの生活に興味もあった。そういうことで俺はすぐさま旅に出ることを決めた。当然母上には泣いて止められたが、ちょうど兄上の末の姫が親王に輿入れすることが決まり、母上がそちらの準備に気を取られている間に出立することにした。
(なに、ずっと東にいるわけでもない)
時折り東の珍しいものでも送れば母上も安心するだろう。その後は都よりさらに西へ下ることにしているが、途中で都に寄り顔を見せることもできる。
「都が心配ですか?」
わずかに身を屈めた金花が俺の顔をのぞき込みながらそう口にした。
「いや、短い間にいろいろあったなと思い出しただけだ」
「そうですね。春過ぎに出会いって一緒に都へ行き、わたしはあなたの奥方になりました。それから鬼と遭遇し、お師匠に出会い、御所へも行きました。あぁ、鬼王と再会したことには本当に驚きましたが」
「……鬼の王は、本当に都を襲わないのだろうな?」
御所での騒動のあと、金花は鬼の王が都を蹂躙することはないと断言した。金花を疑うわけではないが、これまでの鬼たちのことを思うとにわかには信じがたい。
「大丈夫ですよ。いまの鬼王にとって都は大事な場所でしょうから、鬼王自身が手を下すことはありません」
「それは……敦皇様と関係しているのだろうな」
「そうですねぇ。鬼を、しかも棘希食わせたと聞きましたから本気なのでしょうしね」
この話題が出るたびに俺は複雑な気持ちになった。鬼の王に大事な人がいると聞いたのは、金花が起き上がれるようになってしばらくしてからだった。しかも、その相手は俺が生まれる前に鬼に攫われた敦皇親王なのだという。金花は一度敦皇様に会ったことがあるらしく、間違いないと言い切った。
「鬼を食らえば確実に鬼になります。それも棘希のような強い鬼の血肉であれば、まず失敗することはありません。それに……、いえ、だからこそ鬼王が本気だということがわかります。それほど大事にしている方が否と言うことをしたりはしないでしょう」
「それはそれで複雑な気分だ」
親王が鬼の王の大事な人になったというだけでも複雑だが、なにより鬼を食らったという話にはいまでも目眩がする。聞けば、鬼を食らった人は確実に鬼に変化することができるらしい。
そうまでして手元に置きたいということは、鬼の王にとって親王が大事な人であることは間違いない。その大事な人――敦皇様が都が鬼に脅かされることを気にかけている限り、鬼の王が都を蹂躙することはないというのが金花の見解だ。
「小鬼たちは騒ぐでしょうが、いまの陰陽寮があれば大丈夫でしょう。あの鬼を相手に雷だの火柱だのを使ったのですから、あぁ、なんと言いましたか、あの陰陽師でも問題なく対処できると思いますよ」
「光榮殿か。そうだな、あの人なら何とかするだろうな」
鬼騒動のあと、光榮殿は御所の警備を強化し陰陽寮の面々へ指示を出したところで倒れた。その後、丸二日屋敷で寝込んだと聞いている。
そんな光榮殿が目を覚ますのを待ち構えていたのが師匠で、何やらいろいろ丸め込んでくれたらしい。おかげで陰陽寮にも朝廷にも金花が鬼だと知られることはなかった。俺が鬼の王に願いを乞うたことも報告されず、こうして連れ立って旅に出ることもできた。
「師匠は何を言ったのだろうな」
「あの陰陽師にですか? 大方、役立たずとでも言ったのではありませんか?」
「おまえは光榮殿に厳しいなぁ」
「当然です。わたしのかわいいカラギを、あのような危ないところへ呼びつけたのですからね。腕の一本や二本もいでやりたいと思ったくらいです」
「頼むから物騒なことはするなよ」
「わかっています、あなたが困ることはしません。代わりに、胸の内では散々呪ってやりましたけれど」
ニィと笑う金花に背筋がぶるりと震えた。それを誤魔化すように分かれ道に視線を向け、「よし」と口にする。
「道は決まった。寝床を頼むとすれば少し急いだほうがいい。ほら、行くぞ」
「おや、結局海側の道を行くのですか? やはり、わたしが海を見たいと言ったからですか?」
「そうだと言ったらどうする」
俺のぶっきらぼうな返事に、またもや金花がふふっと笑った。好いた者同士の会話に慣れていないせいか気恥ずかしくなり、ふぃと顔を背ける。
「照れたカラギもかわいいですよ?」
「うるさい」
「ふふっ、それだけわたしを好いてくれているということでしょう?」
ちろっと横目で確認した美しい顔はニィと人の悪い笑みに変わっていた。金花にそんな気持ちはないのかもしれないが、照れて仕方がない俺にはからかわれているように思えて仕方がない。
(くそっ、やられてばかりだと思うなよ)
まだニィと笑っている金花の細い肩を引き寄せ、思いついたことを実行しようとさらに体を寄せた。そのまま真っ白な耳に口を寄せ息を吹きかけるように囁く。
「今夜は覚えていろよ、キツラ」
ついでにと耳たぶを甘噛みしてやれば、掴んだままの肩がびくりと震えた。すぐそばにある黒目がほんのり潤んでいるのがわかり、してやったりとほくそ笑む。
「さぁ、行くぞ」
真っ白な頬を少しばかり桃色に染めた金花に満足した俺は、海に近い町を目指して歩き出した。
その日借りた寝床に高灯台はなく、夜空に浮かぶ月の光が簡素な部屋をわずかに照らしていた。ここは関白家が昔から世話をしている寺院に連なる小さな寺で、急な話ではあったものの一晩の寝床を借りることができた。「何もないところですが」という前置きどおり御帳どころか灯りもなかったが、武士のようにあちこちに行っていた俺には何も問題ない。
むしろ、この旅を始めたときに気がかりだったのは金花のほうだ。鬼とはいえ蔽衣山では立派な屋敷に住み、その後も内親王であった母上が住まう屋敷にいたのだから、旅先での粗末な寝床や食事に耐えられるか心配していた。ところが心配は杞憂に終わった。金花自身は野原でも岩の上でも眠れるらしく、食事に至っては必要ないという。
今夜も持ち込んだ雉の肉と前の寺で手に入れた乾飯、それにこの寺でもらった瓜で簡単な食事を済ませた。それに金花が苦情を言うことも眉をひそめることもない。
そもそも金花は人のような食事をほとんどしない。瓜を少し摘んだが、その際に「喉の渇きは癒えますが、ほとんど水のように感じますねぇ」と感想を述べていたのが印象的だった。
「何を笑っているのですか?」
「いや、瓜を水のようだと言っていただろう? おまえにしてみれば血以外のものは、すべて水なのだろうなと思ってな」
「ふふっ、そうかもしれませんね。こうしてあなたの血を知ってしまっては何もかもが水のようです」
右を下に寝そべったまま血のにじむ俺の左手を大事そうに持った金花が、ちろちろと舌で舐めくすぐっている。俺の胸に背を預けるように寝ている姿は暗闇の中でも十分に美しかった。
(まるで天女のようだな)
そう思ったからか、いたずらに尻に擦りつけていた股座にぐぐぅと血が集まる。それに「ふふっ」と笑ったのは金花で、すでに二度肌を重ねたのにとからかうように足首を爪先でつついた。
そんな些細な刺激さえ俺にはたまらなかった。どうにも収まりがつかず、つい目の前にある耳にかりっとかじりつく。
「んっ! もう、あちこちに噛みついて、カラギのほうこそ鬼のようですよ」
「それもよいかもしれないな」
俺の返事にしばらく間が空いた。
「無理はしなくてよいのです。あなたが鬼を嫌っていることは、よく知っていますから」
諭すような言葉に胸の奥がきゅうと切なくなる。
「俺はおまえを好いている、それは真実だ。こうして何度も交わるほど、いや、それでも足りぬほど好いているのだ……キツラ」
「……っ!」
耳元で名を囁くと、熱く火照った白い体がびくんと震えた。
俺は金花の本当の名を知ってからも普段は金花と呼ぶようにしている。それは金花の願いであり“ようま”として、そうしたいという話だった。もちろん俺に否はない。というよりも俺自身そうすべきだと思っていた。なぜなら本当の名を呼んでほかの鬼に居場所を知られでもしたら厄介だと思ったからだ。
金花は鬼とはいえ半分だけで、この前の赤い目の鬼のような強者が現れては鴉丸と俺の腕だけでは心許ない。金花を守り切れる自信がなければ、厄介ごとを引き寄せないようにするほうがよいに決まっている。
(東の地で、もっと鍛えることができれば)
師匠の誘いに乗ったのは腕を上げたい気持ちもあったからだ。金花を守れるほどの腕を身につけ、そしていずれは――。
「わたしは、あなたのそばにいられればそれでよいのです」
金花の、いやキツラの声がわずかに泣いているように聞こえたのは気のせいだろうか。俺の指を甘噛みしながら血を啜るキツラは鬼だ。額に角は見えないが、時折り指先をチクチク刺すのは小さな牙の仕業だろう。
角を持ち牙のあるキツラは鬼だ。しかし俺にとってはただただ愛しい存在というだけだった。その気持ちは鬼の姿を見てもまったく変わらず、鬼の姿で乱れるキツラに気持ちも体も滾る一方だ。
(俺はキツラが鬼だろうと気にならない)
俺はそういう男なのだ。そのことはこれまで何度もキツラに伝えている。それなのに、キツラはいまだに自分が鬼であることを気にしているような素振りを見せた。
(いい加減、俺を信じてほしいのだがな)
もしや半分しか鬼でないことが原因なのだろうか。赤い目の鬼は何度もキツラのことを下賤と呼び見下しているように見えた。鬼の王とは兄弟であるのに互いに兄弟だとは思ってもいないという。もしかして、そういったことで他人を信じることができなくなっているのかもしれない。
(もしくは誰かと一緒に過ごすことに慣れていないのか)
蔽衣山の屋敷は大きく立派だったが、キツラ以外は住んでいないようだった。そういえば長い間一人きりだったと言っていたような気がする。
(それなら俺で慣れればいい。俺のそばにいたいのだと、もっと強く思ってくれればいい)
胸の奥がチリチリと焼ける気がした。その痛みを感じながらキツラの背中をぎゅうと抱きしめた。
横向きに寝そべったまま貫いていた逸物をずるりと抜き、膝立ちになった。快感に震えるキツラを見れば、尻の間からとろとろと子種がこぼれ出している。床に小さな水溜りがいくつもあるのが月明かりの下でもよく見えた。それを見ただけで俺の逸物はさらに力を増してしまう。
「ふふっ、何度でも逞しくなるなんて、……あぁ、カラギの匂いがします……」
振り返ったキツラがは股座でそそり勃つ逸物を見てうっとりを笑んだ。そうして上半身を起こし、濡れたままの逸物に手を添える。
「んむ、ん……、ん、んちゅ、ん、んぅ」
「……ッ、キツラ、」
いままで己の中に入っていたことなど気にすることなくキツラが逸物をしゃぶり始めた。まずは先端を口に含み、次に舌を這わせて根本から舐め上げる。最後には喉の奥まで逸物を迎え入れてしゃぶり尽くした。時折り喉をすぼめて先端をきゅううと攻め立てる。
それだけで俺の逸物はすぐさま隆々とそそり勃った。あまりの逞しさに痛みさえ感じる。こうやって何度果ててもすぐに逞しくなる様子に自分でも笑いたくなった。
「キツラ、もういい。ほら、仰向けになって……そう、自分で足を持ち上げるんだ」
「カラギも、すっかりいやらしくなって」
「おまえの夫だからな。それに、奥方を喜ばせるのも俺の喜びの一つだ」
仰向けになり、膝裏に手を差し入れて自ら大きく足を開いたキツラは股の間でニィと笑みを浮かべた。
俺の血を舐めたキツラは鬼本来の姿に戻っている。額には小さな角が生え、ニィと微笑む口の端からは小さな牙が見え隠れした。その姿はまさしく鬼そのものだというのに俺には美しいものにしか見えない。
(美しく、そして淫らだ)
淫らに微笑む顔から視線を下ろせば、尖った乳首や俺の噛み跡が月明かりにうっすらと浮かんでいる。さらに視線を動かせば濡れた薄い腹が見え、俺のものよりずっと綺麗な色合いの逸物がふるりと震えていた。さらに視線を下げると俺を咥え込むところはぽってりと赤く腫れ、ぱくぱくと呼吸をするように動いている。
「あ……ん、せっかくの子種が、漏れてしまいます」
腹の中がうねっているのか、赤く膨らんだ肉輪をとろりとろりと子種が滴り落ちた。それが尻からしたたり落ち床に新たな水溜りを作り出す。その様子を目にしただけで頭がカッとなり体の熱がぶわりと上がった。気がつけばキツラの体を折り曲げるようにのしかかり、隆々とした逸物を突き入れていた。
「あ……! ぁは、一気に奥、まで、……あぁ、すごい、奥までみっしりと、カラギを、感じる……」
「う……ッ、く!」
「あ……ぁ、悦い……。奥に、もっと奥に、子種を……。ぁあ! そこ、そこに、もっと奥に……っ。あぁ、悦ぃ、悦すぎて、おかしく、なる……!」
「キツラ、もっと奥に、俺を奥に、ぐ……ぅッ!」
ぬるぬると、しかしきゅぅと絡みつくキツラの中を何度も擦り上げた。悦がり狂う美しいキツラをさらに追い込み、最後は狭くきつい隘路を思い切り貫く。奥は極楽かというほどの心地よさで、先端をきゅうぅと絞る肉壁はキツラの喉の奥よりも凄まじかった。そこを何度か突き上げるとキツラは潤んだ黒目を細め、目尻から涙をこぼしながら「悦い、悦い」と狂い泣く。
その様子をしばらく堪能し、そうしてぐぅと限界まで腰を押しつけた。それ以上は入らないという最奥で思う存分子種を吐き出す。びゅくびゅくと噴き出す子種を感じながら、俺の体はさらに奥に注ぎ込まんと腰を穿ち続けた。
ここが寺社だということも忘れ、俺とキツラは散々交わった。何度も肌を重ね欲をぶつけ合い、ようやく衝動とも呼べる熱情が収まる。
「あぁ……これでは、本当に孕んでしまいそう、ですね」
寝言のようにキツラがつぶやいた言葉にどきりとした。キツラを都に連れ帰るきっかけになったのが孕んだかもしれないという言葉だったことを思い出す。都に帰ってからは鬼の一件もあり慌ただしかったせいですっかり忘れていた。
本当に寝言だったのか、キツラを見ると目元を真っ赤にしたまますやすやと眠っていた。さすがの鬼も精根尽きてしまったのだろう。そのくらい求め合った自覚はある。美しい寝顔を見ながら、ふと「あれは戯言だったのかもしれないな」と思った。
いくら鬼でも男が孕むなどありえない。それに鬼には男しかなく、子をなすには人の女を攫うしかないとキツラ自身も話していた。であれば、あれは戯事、もしくは睦言の類だったのだろう。そう考えると俺はキツラにからかわれたということになる。それなのに真に受けるとは……苦笑が漏れたものの後悔はしていない。
(たとえ偽りだったとしても、あの言葉がきっかけでそばにいられるのだ。俺にとってはいい言葉だった)
寝乱れている黒髪を優しく指で梳く。絹糸のような手触りに感心しながら、再び体の芯がじわりと熱を帯びるのを感じた。
(いや、今夜はここまでだ)
さすがに意識のない相手に無体はできない。わかっているのに肌がざわつき股座に血が集まり始めた。あまりの精の強さに我ながらあきれ果ててしまう。
(本当に俺は鬼に近づいているのかもしれないな)
鬼の精を受ければ稀に鬼に転ずることがあると聞いたときは、なんと恐ろしいことだと震えた。しかしいまは少し違う。もし鬼に精を注ぎ続けても鬼に転ずることができるのなら……。
(東へ行ったのちは西へ行き、鬼の王に会おう)
すぅすぅと寝息をたてるキツラの頬を手の甲で撫で、起こさぬように静かに隣に寝転がった。そうして着物を引き寄せ体にかけようとし、キツラの肌に指先が触れただけで腹の奥がぐぅと熱くなる。
(キツラに注ぎ込んだものが実を結ぶのであればな……)
そうならないことが残念でならなかった。「何を愚かなことを」と呆れながら、子ができれば何かが変わったのではないかと考えてしまう。
(……いや、キツラのそばにいるために必要なのは子ではない)
そのために鬼の王に会い、話を聞かなくてはならない。
「叶うことなら俺は鬼となり、ずっとおまえのそばにありたいと思っているのだ」
叶うことなら――いや、なんとしても叶えてみせる。それがこの旅の目的でもあり俺の願いだ。
「おまえがこのことを知ったら……どうするだろうな」
困惑するか、喜ぶか。もしかすると止められるかもしれない。それでも俺はキツラのそばにいることを選ぶだろう。そのためなら鬼になることも厭わない。
鬼になったあかつきにもこうできることを願いながら、キツラの紅い唇を優しく吸った。
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