公達は淫らな美鬼を腕に抱く

朏猫(ミカヅキネコ)

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一章 鬼に繞乱(じょうらん)されしは

幕間 旅の途中の話

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「海とはとてつもなく大きいのですねぇ」

 山道からも何度か目にしているはずなのに、初めて見たかのように感嘆の声を上げる姿は美しいというよりかわいい。女房装束ではなく同じ貴族風の格好をしているのに、やたら愛らしく見える。金花は俺によく「かわいい方」と言うが、いまの金花のほうこそ“かわいい方”そのものだ。そんなふうに見ている俺の視線に気づいたのか、砂をきしきしと踏みしめながら金花が近づいてきた。

「そんなに笑わなくてもよいではないですか」
「笑ってはないだろう?」
「いいえ、目が笑っています。それに口も」

 細い指がするりと俺の口を撫で、口の端を爪でかりと引っ掻いて離れた。

「カラギは海を見たことは?」
「以前、熊野へ行く際に淀川から渡辺津まで足を延ばしたことがある。そのときに見たことがあるが、これほど開けた海を見たのは初めてだ」
「では、二人そろって初めて見た海ということですね」
「そうだな」

 金花の言葉に胸が甘く疼いた。
 東国へ向かう旅に出てからというもの、金花は何度か同じようなことを口にしている。初めて二人で向かうあずま、初めて二人で口にした珍しい酒、二人で船に乗ったのも初めてで、あのときの川下りでは珍しく腰が引ける金花の姿を見ることができた。金花いわく「水の上を延々と行くなど、人はなんと恐ろしいことを考えるのか」とのことらしいが、何事にも怯えることがない金花の意外な一面を見ることができたのはうれしい。そして今度は二人で初めて見る海、初めて歩く大きな浜、といったところだろうか。

二人で・・・とわざわざ口にするところが気になるが)

 まるで二人での旅が最後のように聞こえてしまうのは気のせいだろうか。俺としては東国でしばらく過ごしたあと鬼の王のところへ案内してもらうつもりだった。しかしどういった反応をするか想像ができず、いまだに金花に話すことができないままでいる。

(鬼の王のところへ行きたいなどと言えば、その理由を聞かれるだろうしな)

 俺の考えていることに驚くか、それとも駄目だと止めるか。

 ぱしゃん!

 考え事をしていた俺の顔に冷たい水がかかった。ハッと見ればいつの間にか水際まで来ていたらしく、足元では波が来たり引いたりしている。俺の少し先にはかがんだ金花がいて、懲りずにまた手ですくった水を俺にかけようとしていた。

「金花!」
「ぼうっとしているからですよ。せっかくの海なのだから楽しまなければもったいないでしょう?」
「だからと言って、水をかけるというのはどういうことだ」
「ふふっ、濡れたあなたもかわいいですよ?」

 そう言って笑っている金花のほうこそ……と思いながら身をかがめる。やられたままでなるものかという気持ちと、せっかく金花と海へ来たのだから楽しむべきだという思いで久しぶりに童心に返るような気持ちがした。そんな俺の顔に再び水がぱしゃりとかかる。

「……ッ! 金花、またもや先にかけるとは卑怯な!」
「ふふっ、ぼうっとしているカラギが悪いのですよ」
「こらっ、かけ逃げとは卑怯だぞ!」
「カラギは何にでも真面目ですねぇ」

 二度も水をかけてきた金花は、ニィと笑みを浮かべたまま足音を立てずに岩場の方へと走って行く。逃してなるものかと追いかけた先は大小の岩がでこぼこと出ている場所で、大きな岩ともなれば俺の背丈を優に超えるほどだった。

「これはまた見事な岩だな」
「あちらは砂で、こちらは岩。海とはおもしろいものですねぇ」

 岩を撫でながら金花が感心したようにつぶやいている。童のように笑ったかと思えば学者のような顔をする金花に見惚れていると、額から汗がぽたりと落ちてきた。

「ふぅ、動いたからか暑いな。一番暑くなる前にと思って出立したが、そうでもなかったか」
「汗を拭きましょうか? あぁ、それよりいっそのこと水に浸かってしまえばよいのでは?」
「金花、海は塩からい水だぞ。乾いたら塩が残ってしまうだろう」
「なるほど、そうなのですね。せっかく冷たくて気持ちがよいのだから、全身浸かれば心地よいと思ったんですけれど」

 そういえば金花は屋敷にいる間もよく水を被っていた。しょっちゅう水を被っていた師匠を見慣れていた俺には珍しくもなかったが、女房たちに見られでもしたら大騒ぎになっていたことだろう。
 そのあたりはうまく見られないようにしていたようだが、ではどうして濡れたまま俺の前に現れるんだと何度顔をしかめたかわからない。着物が肌に張りついている様子は大層いやらしく、どうしてそんな格好をしているのかと腹が立つことも多かった。

(いまならわかる。あれはわざとだったのだろうな)

 俺が慌てふためくのを楽しんでいたに違いない。もしくは、俺をその気にさせたかったのか。

(後者が狙いのような気もするが)

 それにしてもと考える。あれだけ水を被っていたということは、鬼は水を好むのだろうか。いや、それにしては船には抵抗があったようだし、単に金花が水を被るのが好きなだけかもしれない。そんなことをつらつら考えていると金花がひょいと覗き込んできた。見ればニィィと笑みを深くしている。

「せっかくの海なのですから、やはり被ってみたいと思いますよねぇ?」
「金花、おまえ……!」

 目の前でパパッと着物を脱いだかと思えば、薄い単一枚で海の中へと入ってしまった。しかも足元まで裸足になっている。前々から思っていたのだが、金花はなぜこれほど早く着物を脱ぐことができるのだろうか。それに俺が着ているものを脱がせるのも異様に早い。いや、いまはそんなことなどどうでもいい。

「金花、あまり遠くへ行くなよ! 奥は意外と深いかもしれないのだぞ!」
「ふふっ、カラギも入ってみてください。ほどよく冷たくて心地よいですよ」
「わかったから、ほら、その岩のところで待っていろ!」

 慌てて着物を脱ぎ捨て、単一枚で金花のあとを追った。

(……! たしかにこれはなかなか……)

 踏み入れた足に触れる水は思いのほか心地よく、なるほど金花の言うとおりだと感心した。川で泳いだことはあったものの海に浸かったのは初めてで、想像していたよりずっと心地いいことに驚く。
 こういうことも旅の思い出によいのかもしれないなと思いながら、岩場でおとなしく待っている金花の元へと近づいた。この辺りはちょうど足の付け根まで浸かるかどうかの深さで、これなら溺れる心配はないだろうと安堵する。

「ね、心地よいでしょう?」
「それは結果だろう。もし底が深ければ溺れてしまうかもしれないのだぞ?」
「おぉ、それは怖いこと。では、わたしはカラギに掴まっておくことにします」

 そう言って金花が両手を伸ばした。胸元まで濡れた着物は細い腕に袖がまとわりつき、細くしなやかな様子を強調しているように見える。それにうっすらと透けている肌がなんともいやらしく、思わず目を逸らしてしまった。
 そんな俺にふふっと笑った金花は、濡れたままの腕を俺の首にくるりと回し抱きつくように身を寄せてきた。おかげで互いの胸がぴたりとくっつき、体の熱とふわりと漂う伽羅の香りを否が応でも感じてしまう。

「ふふっ、相変わらず体は素直だこと」
「う、うるさい!」

 着物が張りつく様子を目にしてしまったせいで、うっかり兆し始めた股座を金花の太ももがぐいと押し上げた。そんなことをされれば……。

「あっという間にこんなになって、本当にかわいい方」

 そう言って小さく笑うと、今度は胸を擦り合わせるように上半身を揺らし始めた。濡れた着物が肌を擦る感触に首筋がぞわりと総毛立つ。

「金花っ」

 やめろという言葉を遮るように金花が頬を寄せてきた。そうしてぎゅうと抱きつきながら指先で襟足をくすぐるように撫でる。途端に伽羅香がぐんと香りを強くした。ここが海の中だと忘れてしまうかのように頭がぼうっとし始める。

(段々とこうした行為が増えてきた)

 都にいたときから淫らに迫ることはあったものの、旅に出てからのほうが格段に回数が増えた気がする。それだけ俺を好いてくれているのだと思えばうれしい限りだが、どうもそれだけではないような気がしてならない。「二人で」と何度も口にすることと言い、焦っているように思えて仕方がなかった。

(……いや、まるで別れを惜しんでいるかのような……)

 そう思った途端に頭がカッとなった。もしや金花は旅が終わるのと同時にどこかへ行くうつもりではないのだろうか。そう考え、「いや、そんなことはない」と目を閉じる。
 金花はいつまでもそばにいたいと言った。俺もそうしたいと答えた。それなのに今さらいなくなるとは思えない。そう考えているのに俺の中に焦燥感にも似たものがわき上がった。早く、早くと急かされるような感覚に金花の背中を掻き抱く。

「キツラ」

 耳元で名を呼ぶと、金花――キツラの体がひくんと震えた。そうした些細な反応すら愛しくて泣きたくなった。離してなるものか、死ぬまでそばにいろ、そう願いながら白く形のいい耳に舌を這わせる。耳穴を舐め回すように舌を動かすと首筋がぞわぞわするのだと言ったのはキツラだ。それを思い出し、舌先を耳の中へと差し込んだ。

「んっ」

 漏れた声は甘くとろけていた。その声に気分をよくした俺はぐちぐちと音を立てるように耳の中を舐め回した。そうして耳たぶを噛み、赤くなった耳の縁を舐め、もう一度耳穴を擦るように舐め回す。

「ん、カラギ、」

 悩ましい声に頭も体もぐんと熱を上げる。

(キツラを手放したりは絶対にしない)

 逃してなるものかと固く誓いながら愛しい体を抱きしめた。


 しつこいほど耳を舌でねぶっていると、キツラの口からハァハァと甘い吐息が漏れ始めた。

(俺がどれほどおまえを欲しているか、おまえはわかっていない)

 もはやここが海だろうがどこだろうが関係ない。俺の思いをわからせたい気持ちが一気に膨らみ理性を焼き切った。
 耳を舐め回しながら、腰を支えていた両手でするりと尻を撫でた。「ふぁ」と喘ぐ声に貼りついた着物をたくし上げ、素肌の尻を何度も撫で回す。さらに揉みしだくように指に力を込めた。ぐっぐっと尻たぶに指を食い込ませながら揉みしだき、少しずつ割れ目へと指を這わせる。
 俺にもたれかかっていたキツラは「ぁ」と小さく声を上げたが、それを気にすることなく両手の指で尻たぶをがしりと掴み割れ目を思い切り拡げた。

「あぁ」
「ちょうど海の水がかかるか、いや水際といった感じか」
「駄目、拡げては、水が、入って、しまう」
「さすがに入りはしないだろう? それとも、俺がほしくてもう開いてしまったのか?」
「ぁ……ん!」

 両手の指でやや膨らんでいる縁をぐいっと押し開くと、キツラの体がびくりと大袈裟なほど震えた。冷たい水に触れたせいで驚いたのだろう。逸物に触れているキツラのものがビクビクと震えていることに気がつく。

「……まさか、逐情したのか?」
「あなたは、少し意地悪になったのでは、ないですか……?」

 はぁと色気のある息を吐いたキツラが恨めしそうに俺を見た。目元は赤みを帯び、黒目がたまらないというように潤んでいるということは嫌がってはいないのだろう。

「おまえにやられてばかりではいられないからな」
「そうして強がるカラギもかわいいですよ」
「その言葉そっくり返してやろうか、キツラ?」

 まだ尻を押し拡げたままだった指先で縁をクリクリといじれば「あぁ!」と言って、またキツラが美しく鳴いた。
 そのまま岩に押しつけた俺は、ハッとし岩肌を手で擦った。そこは思ったよりもつるりとした状態で、薄手の単だけでも背中を傷つけることはないだろう。「これならば」と岩にもたれかかると両足で踏ん張りながら腰を突き出す。天に向かうようにそそり勃った俺の逸物の上にはキツラが乗り、いやらしい鳴き声を上げ始めた。
 左足を脇にあった小さな岩に乗せ、片方だけ大きく股を開いたキツラが腰をねじるように動かす。こんな交わり方は初めだが明るい陽の元だからか異様に興奮した。そもそも海での行為は初めてで、波の音とキツラの甘い声に頭がくらりと揺れる。これもキツラの言う“二人で初めて行うこと”に含まれるのかと考えると苦笑いが漏れそうになった。

(すっかり外での行為に慣れてしまったな)

 あれだけ駄目だと怒っていた自分はどこへいってしまったのかと思わなくもないが、美しいキツラを目の前にして我慢できるほど俺は枯れていない。なにより俺の気持ちをキツラに伝えるのはこれが一番だと思っていた。

(それに交われば交わるほど鬼に近づいている気になれる)

 そんなおかしなことを考えながら逸物でぐぃっと奥を穿った。それだけでもキツラは鳴いてがるが、さらにはだけた着物の合わせに口を寄せて乳首を噛むようにすれば「ひぃ」と細く甘い声を出すのだから堪らない。

「あぁ、もぅだめ……。おかしく、なりそぅ……」
「なればいい。それだけ気持ちがよいと、言ってくれるなら、くッ、本望だ」
「ぁあ! だめ、すぎて、とけて、しまう」
「キツラの中は、もうとけてぐちょぐちょだぞ? く……っ、俺のを、食いちぎる、つもりか……ッ」
「あ、あぁ、い、たまらなくくて、体が、勝手に……。ぁあっ! お、くに……! すごぃ、奥が、勝手に締まって、あぁ、カラギのが、あぁ、あぁ!」

 外だということを忘れたかのようにキツラが甘い叫び声を上げた。それがますます俺を昂ぶらせ、一度吐き出したはずの逸物がぐぅんと膨らむ。

「ぁ、あ……!」
「ぐ……ぅッ!」

 急に膨らんだ逸物に驚いたのか、キツラの右足がずるりと滑り、つられるように小さな岩を踏んでいた左足まで落ちそうになった。慌てて左足の太ももを掴んだものの俺も中途半端な体勢だったため、キツラの体がどしんと俺の腰にのし掛かる。すると逸物がより深く入り込んでしまい、その衝撃に中がきゅうきゅうと締まって一気に搾り取られてしまった。
 先端をきゅぅと掴んでいる肉壁を押しのけるように、びゅうぅと子種が激しく噴き出す。キツラは体をぶるぶると小刻みに震わせながら「ぁ、ぁ」と小さくも甘い声で鳴いた。

「やり過ぎた……、のだろうなぁ」

 気がつけばキツラの意識はなく、それでも止まらない子種をすべて中に吐き出した。そうしてようやく落ち着いた逸物をゆっくり引き抜けば、ぼたぼたと後を追うように子種がこぼれ海の水を汚す。

(さて、どうしたものか)

 俺よりも熱くなったキツラを抱きしめながら、どこか休めるところはないかと浜のほうを見た。すると浜の少し奥に小屋があることに気がついた。

(あそこで休むか。あとはどこかに井戸か川でもあればよいのだが……)

 海の水を被ったままはよくないが、ひとまず腰から下を丁寧に海の水で洗い、脱ぎ散らかした着物や荷物を掴んで小屋へと移動した。中はこざっぱりとしたもので、おそらく魚を獲るのに使うのだろう道具が並べられている。人気はないものの火を焚く場所もあり、体を休めるにはちょうどいい。

(手拭いを拝借しよう)

 干してあった手拭いでキツラの体を拭い、自分はさっと拭っただけで下袴を穿き小屋の外に出た。少し歩いた先に清水の流れている場所をを見つけ、そこで汲んだ水で二人の体を清める。それを何度かくり返した頃には陽が傾き始めていた。
 さすがにここで寝るわけにはいかない。そう思いキツラに替えの単を着せようと上半身を動かしたとき、少し開いた金花の股の間に小さな水溜まりができているのが目に入った。白濁したそれは俺がキツラの中に二度吐き出したもので、体を動かしたときにこぼれ出てしまったのだろう。そういう様子は見慣れているはずなのに、どうしてか腹の奥が熱くなった。おとなしくしていたはずの逸物が首をもたげ始める。

(キツラは意識がないのだぞ?)

 駄目だ、そんなことをしてはいけない、そう己を叱咤しながらも俺の手は白い足を掴み、ゆるゆると押し拡げ始めていた。そうして股を開かせると腫れぼったくなった縁がくぷくぷと動き、隙間から白濁がごぽりとこぼれ尻の間を流れていく。

「……っ、キツラ!」

 まだ意識が戻っていないキツラの名を呼びながら、気がつけば逸物を尻に突き入れていた。ぐっぽぐっぽと音を立てるほど抜き差し、蹂躙するように中を擦り続ける。
 意識がないはずのキツラのそこは、まるで起きているときのように俺の逸物に吸いついた。絞るように絡みつき、きゅうきゅうと食らいつきもする。わずかに開いた紅い唇から甘い息を吐き出していることに気づいた俺は、無我夢中で吸いつきながら腰を振っていた。

「キツラ、キツラ……!」

 白い首に噛みつき、肩を噛み、それでも昂ぶった気持ちが抑えきれず、ぐぽぐぽと逸物を叩きつけるように押し込む。こんなひどい交わりは初めてだった。体に噛みつきながらなど、まるで鬼か獣のようではないか。いけない、やめなければと思っているのに体は止まろうとしない。それどころか気持ちも体もますます昂ぶっていく。

「キツラ、俺はこれほどまでにおまえを好いているのだ」

 泣くように思いの丈をキツラに告げた。すると、それを待っていたかのように白い瞼が開き黒く濡れた目が俺を見る。

「あぁ、カラギ、わたしも、好いて、……思うままに、犯して……」
「……ッ!」

 わけのわからない熱がぶわりと広がり体を巡った。尻たぶを押し潰す勢いのまま腰を打ちつけ、腹の奥へと子種をぶちまける。あまりの快感に俺の腰はブルブルと震え、そのまま倒れ込むようにキツラに抱きついた。そんな俺を愛しんでくれるかのようにキツラの手が頭を、肩を、背中を撫でる。

「…………ていますよ」
「!」

 いま、キツラは何と……? 聞こえた言葉に鼓動がどくりと跳ね胸が騒いだ。

 ――鬼のようなあなたも、好いていますよ――
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