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二章 鬼の王に会いて
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湯殿で湯を被って部屋に戻ると、金花もさっぱりした様子でくつろいでいた。別邸の蒸し風呂を随分と気に入った様子で、もっと早くに知っていれば自分の屋敷にも作ったのにとまで言い始めている。
「そういえば蔽衣山の屋敷はどうしているんだ?」
「そのままですよ」
「そのまま? 放置しているということか?」
「たまに烏たちが使っているとは思いますが」
金花の様子から、あの屋敷に思い入れがないことはわかった。
(俺もそのうち屋敷や都のことを気にしなくなるのかもしれないな)
風呂のことや蔽衣山のことをポツポツと話しながら夕餉を食べる。それとは別にたっぷりの水や果物などを下男に用意させた。部屋の傍らにそれらを置き、中から酒を持ち出して月を眺めている金花の隣に座る。
そういえば鬼の王はずっと酒しか口にしていなかったなと、今朝方までいたあの屋敷でのことを思い出した。一方、金花は水か果物くらいしか口にしていない。別邸にいる間も果物しか食べていないが、酒は平気だろうかと盃を差し出す。すると「月見酒ですか」と言いながら受け取った。
「酒はいけるのか?」
「ほどほどですね」
「鬼の王はザルのように飲んでいたな」
「鬼王は酒も獣も口にしますよ。角がなければ人と変わらないくらいです」
「あんな大きな体ではすぐに鬼だと露呈しそうだが」
「あなたも人の中では大きいほうでしょう? 都の外から来たと言えば、きっと鬼だとはわかりませんよ」
たしかに東武士などは随分と体の大きな者もいた。体が大きいだけなら気づかれないのかもしれない。
「……もしや、都にはそうして潜り込んでいる鬼たちもいるということか?」
「さぁ、どうでしょう。小鬼らはいるかもしれませんが、少なくとも母上様の近くにはいませんでしたね」
金花の言葉に安堵しつつ、やはり鬼とは油断ならないものだと胸の内でため息をつく。おそらく俺が考えている以上に鬼は人に紛れ込んでいるのだろう。派手に姿を現して女を攫う鬼たちもいるが、人に紛れて密かに攫っている鬼もいるに違いない。
棘希のことは髭切の話とともに知られているが、鬼の王が都近くにいたことは知られていない。あれほどの大鬼の存在に気づけないのだから紛れ込んだ鬼たちに気づけるはずもなく、人が鬼に打ち勝つことなど永遠に無理なのではと思えた。
(そんな鬼を退治するのだと息巻いていたのが、なんだか馬鹿らしく思えてくるな)
思わず苦笑いを浮かべながら酒をくぃと飲み、細い月を見上げた。
「敦皇様は、本当に鬼の王の子を生むのだろうか」
帝の皇子であった敦皇親王は鬼の王に攫われ、鬼の王を慕うようになった。そばにいるために人であることを捨て大鬼を食らって鬼となった。いまでは鬼として人を食らい、男の身でありながらその腹には鬼の王の子を宿している。それはとても……そう、とても残酷なことのように思えた。
「生むでしょうね。そのために鬼王の血を食らい、子のために精をも食らっているようでしたから」
「子のために交わっているというのか?」
「鬼王の子ですからね、血だけでは追いつかないのでしょう。そもそも人をたくさん食らうよりも鬼王の血や精のほうが強力です。まぁそれも、親王様が棘希を食らったからこそ耐えられるのでしょうけれど」
「そういえば、鬼の王の血は毒にもなるとあのときも言っていたか」
御所で金花が重傷を負ったとき、そんなことを口にしていたのを思い出す。
「鬼王は別格の鬼なのです。わたしは半分とはいえ鬼王と同じ血を持っていますから、かろうじて薬となっただけ。普通の鬼ならば死んでいたでしょう」
「鬼の王とは、そんなにすごいのか」
それでは、人はこの先も永遠に鬼の王を退治することはできないに違いない。それをどこか他人事のように感じてしまうのは、自分がその鬼の側になるのだと決意したからだろうか。
「鬼が鬼を食らうと言ったことを覚えていますか?」
「ん? あぁ。たしか強い鬼を食らえば食らった鬼が強くなる、だったか?」
「はい。鬼王は、最強と謳われた己の父を食らった鬼なのです」
「……自分の父親を?」
思わず金花を凝視した俺に美しい横顔がこくりと頷いた。
「己が父を食らい、父を同じくする兄弟鬼たちをも食らった。おかげで鬼王を超える鬼はこれからも生まれないでしょう。鬼王の寿命がどれほど長いのか誰にもわからないのですから、この先も鬼王が鬼の頂点であり続けるのは間違いありません」
「な……んというか、凄まじいのだな。兄弟鬼までとは……。しかしおまえは……」
「わたしは下賤の妖魔の血を引いているので見逃されたのでしょう。そもそも小鬼であっても食らいたがるような存在ではないのですよ、わたしは」
「おまえは下賤なんかじゃない。それに誰よりも何よりも美しいじゃないか」
たとえ金花自身であっても己を貶めるようなことは言ってほしくない。そう願いながら力強く言えば、黒い目がぱちくりとした。いつもは美しく整っている顔だが、そういう仕草を目にするとどうにもかわいく見える。見慣れない表情を見せるようになった金花に胸がくすぐったくなる。
「ありがとうございます。あなたくらいですよ、わたしをそういうふうに見るのは」
「おまえをそういう目で見るのは俺だけで十分だろう」
「ふふっ、嬉しいこと」
笑んでいる金花が酌をしてくれるが、気恥ずかしくて視線を細い月に向けてしまった。
「しかし、そんな鬼の王の子を敦皇様が……。その、男の身であっても、そういうことが起きるのは相手が鬼の王だからなのか? それとも食らったのが大鬼だったからか?」
「鬼王の影響を受けていた棘希の血肉を食らったから、かもしれませんね」
「どういうことだ?」
よくわからない言い回しに、盃をくぃと飲み干し改めて金花を見た。
「棘希という鬼は、王となる前の鬼王、朱天と同等の力を持つ大鬼と言われていました。だから鬼王となってからもそばに置いていたのでしょう。同時に随分と精を食わせていたようですから、それなりに影響は受けていたと思いますよ」
「……ということは……」
「鬼王は精が強すぎて人の女ではほとんど耐えられないのです。だから女は食らうだけ、精は棘希に食わせていた。鬼王に子がいないのは子を生める存在がいなかったからです」
それはつまり、棘希という大鬼は鬼の王と交わっていたということだ。そうなると、その棘希を食らった敦皇様は大鬼と一緒に鬼の王の何かしらを一度に食らい、そして鬼に転じたということになる。
「鬼の血肉は本来、人にとっては猛毒。それに耐え鬼に転じた親王様はよほど強い胆力を持っていたのでしょう。それが猛毒を別の何かに変え、さらに体を変化させ、子を孕めるようにしたのだと思います。もしくは親王様自身が強くそう願ったのか」
「敦皇様は、そうまでして鬼の王のそばにいたいと願われた、ということか。……なんというか、凄まじいまでの思いを感じるな」
思ったことを口にしただけだが、なぜか金花がくすりと笑った。
「なぜ笑う」
「なぜって、あなたも同じでしょう?」
「俺が?」
「鬼を憎み、鬼退治を一生のものと考えていたはずなのに、わたしと共にありたいからという理由で鬼になることを決めたじゃないですか。さらには鬼王にまで会いました。鬼に転ずるには鬼を食わなければいけない。鬼になってしまえば、今度は生きるために人を食わなければいけない。それを知ってもなお、鬼になると決意したあなたの思いも相当だと思いますよ」
金花の言葉にハッとした。そうだ、俺も敦皇様と変わらないのかもしれない。いや、好いた相手を思う気持ちなら敦皇様にも負けない自信がある。
「俺は金花を好いている。ただ金花と共にありたいと思ったのだ。……俺が死んだのち、誰彼がおまえに触れ、おまえと交わるのだと考えるだけで腸が煮えくり返りそうになった。願わくばおまえが死ぬのを見届け、すぐさま後を追いたいとも思っている。そのためには鬼になるしかないだろう」
手酌で二杯、くぃくぃと酒を飲み干した。いまのは本心だが、やはり面と向かって本人に言うのは照れくさい。
さらに盃に三杯目を注いだとき、ふふっという笑い声が聞こえてきた。ちらりと隣を見ると、俺をじっと見つめる金花が嬉しそうに口元を綻ばせている。その顔があまりにも美しく、そんな顔で見られているのがなんとも気恥ずかしくなりふぃと顔を逸らした。
「ふふっ、本当にいつまでもかわいい方。そんなに思ってくださるなんて、もしや酒の上での言葉ではないでしょうね?」
「これくらいで酔うものか」
ぶっきらぼうな声になってしまうのは、どうにも気恥ずかしいからだ。金花を好いていることも心の底から大事に思っていることも恥ずかしいと思ったことはない。しかしそれを口に出すのはどうにも慣れなかった。これまでそういったことを誰かに言ったこともなければ、そういうことは武士には必要ないと思い込んでいたからだろうか。
「ふふっ。では、わたしのほうが酔ったのかもしれません」
「おまえ、酒はほどほどだと言って、」
逸らしたままの顔をぐぃと引かれ、何事かと言葉をつぐんだ俺の口に熱いものがぶつかった。驚く俺にかまわず、熱いそれはなおもぐいぐいと吸いついてくる。
(あぁ、金花の唇はいつも柔らかいな)
熱心に俺に吸いつく様子に、ぼんやりとそんなことを思った。すると俺の反応が薄いことに焦れたのか熱い舌がぐぃと口の中に割り込む。そのままぬるぬると歯や顎の裏を舐めまわした。
されてばかりでは情けないと、入り込んできた舌を絡め取った。深く吸いついて舌の根あたりに柔らかく噛みつけば、金花が「んぅ」と小さな声を上げる。
「前にも言ったが、もうやられてばかりの俺ではないぞ?」
「ふふっ、知っていますとも。いつの間にかわたしを悦ばせる術を身につけ、駄目だというのに体の奥深くまで暴いてくださる。何度も意識を失ってしまうほど気をやるなど初めてのことです」
「あたりまえだ。これからもそんなことをする相手は俺だけだからな」
「もちろんです。わたしはずっとあなただけのもの。……ふふっ、もうこんなに逞しくして、嬉しい」
ぴたりと身を寄せる金花の手が、胡座をかいた俺の股の間にするりと撫でた。わずかに兆していたそこは金花にひと撫でされただけでぐぅんと首をもたげ、早く愛しい人と一つになりたいのだと訴えた。
酒に酔ったという言葉を信じてはいなかった。しかしいつもより熱い感触に本当に酔っているのではと思いながら奥歯を噛み締める。そうして気持ちよさそうに鳴く金花を見下ろした。
黒い目はいつもより潤み、頬は少し濃い薄紅色に変わっている。とろりとした顔は酔っているようにも見えるが、行為に感じ入っているようにも見えた。どちらにしても恐ろしく美しいことには違いない。
「あぁ、カラギ……」
「……っ!」
濡れた甘い声で名を呼ばれ、うっかり子種を出してしまうところだった。いつもならすでに二度は出ているところを、まだ一度も吐き出すことなく金花の、いやキツラの中を蹂躙し続けている。
先ほどまでは股を大きく開かせ、体を押し潰すように奥を穿っていた。一際強く深いところを突き上げた瞬間ブルブルと体を震わせ仰け反ったところをみると、そこでキツラは一度逐情したに違いない。俺の腹に濡れた感触はないから、また子種を出さずに気を飛ばしたのだろう。最初はそのことに驚いたものだが、「中が悦すぎて」と目元を染めながら言われてからは、むしろ子種が出ないほど気持ちよくしてやろうと思うようになった。
(いっそ俺が相手でなければ感じられない体になればいい)
そんなことを考えながら浅いところから深いところまでをゆっくりと擦る。気を飛ばした直後は「動かないで」と鳴くが、そのまま動き続けると全身をわななかせるように悦がる。そのことを知っている俺は、そんなキツラを見たくて苛めるように中を穿ち続けた。
逸物をぬぅぅと引けば、熱い肉が縋りつくようにまとわりついてくる。逆にずぅぅんと突き入れると、今度は嬉しいと言わんばかりにきゅうぅと縋りつかれた。くり返しそんな感触に包まれれば俺もそう長くは堪えられない。
「キツラの中は、本当に、く……っ、心地よすぎて、ふっ、止まらなく、なる……っ」
「うれし、ぃ……あぁ、んっ! ね、子種を、ぁっ、はやく、子種を、ぁあっ、は、ぁっ、カラギ、悦ぃ……!」
ゆっくりと、しかし確実に深くを貫く逸物にキツラの中がビクビクと震え出した。顔を見れば嫌々というように頭を振っている。そのせいで濡れて束になっている黒髪がうねるように動いていた。
鳴きながら身悶えるキツラの頬を両手で包み、薄く開いている唇に強く吸いついた。同時にゆっくりと先端が抜けるほど引いた腰を、またゆっくりと奥へと入れていく。それがたまらないのか、押し開いていたキツラの細い足がぐぐぅと俺の腰に絡みついた。そのままぎゅうぅと締めつけてくる。両腕はしっかりと背中に回り、これでもかと胸を重ねた。互いの胸の音まで感じ取れるほどの状態にぐわっと全身が燃えるように熱くなる。
(これは、おれだけの鬼だ)
思いの丈を込めながら腰をぐぅぅと押しつけ、どぷり、どぷりと子種を吐き出した。キツラの体は子種に合わせるようにひくり、ひくりと震え、吸いついたままの唇にもぐぅと力が入る。
ちくり。
小さく尖ったキツラの牙が突き刺さったのか、下唇に小さくも鋭い痛みが走った。一瞬唇を離しかけたが、痛みを振り払うように柔い唇を吸い続ければ鉄臭い味がふわりと広がる。
ふと、キツラの血はどんな味だろうかと思った。そんなことを思ったのは初めてだった。いずれは血を食らうことになるのだろうが、それはもう少し先のことだと考えていた。それなのに一度思ってしまうとどうにも気になってしまう。気がつけば吸いついたキツラの下唇にガリッと噛みついた。
それに驚いたのはキツラだった。唇を吸われたままの頭を必死に振り、俺の口から離れようとする。それを許さないとばかりに両手で押さえつけ、さらにはまだ子種を吐き出している逸物をぐぅぅとねじ込むことでキツラの動きを封じた。
「……っ、……、……!」
声にならないキツラの訴えを無視し、ちゅうと下唇に吸いついた。ふわりと甘い香りがするキツラの血は、俺の血とはまったく違うもののように感じる。
(……そうだ。これはキツラの子種と同じだ)
交わるときに強く感じる伽羅香か、それとも梔子の花の香りか、甘い香りがすぅと鼻孔に入ってくる。それはキツラの精からも香るもので、鬼とは匂いまで違うのだなと妙に感心したりもした。
(これなら血を食らうことも問題なくできそうだ)
下唇を吸いながらキツラの口の中を舐め回すと、自分の鉄臭い匂いと甘い香りが混じり合っていく。互いの血を口内で啜り合うなど恐ろしい行為のはずなのに得も言われぬ心地よさを俺に与えてくれた。
(……覚悟をせねばならないか)
別邸を出たあとのことを考えながら唇と甘い香りを味わっていた俺は、段々と熱が体の中心に集まるのを感じていた。子種もすべて吐き出し少しは落ち着くかと思ったが、腰が疼き背筋をぞくぞくとした寒気に似たものが駆け上がる。
「カ、ラギ……っ」
俺の唇から逃れたキツラが悲鳴のような声を上げた。ひくりと跳ねた細い腰の動きに、中を穿ったままの逸物が一気に力を取り戻す。そのまま俺は一度も動くことなく、再び子種を吐き出していた。
キツラは俺の腕の中で背を反らし、白い首を晒しながらただ震えた。そんなキツラの細足はますます力強く俺の腰に絡み、キツラも怖いほど感じ入っているのだと訴えているように見えた。
「俺だけのキツラ」
思わず口に出たつぶやきに、キツラが「あぁ!」と声を上げて逸物を締め上げた。俺たちは互いをしっかりと抱きしめ合いながら、途切れることのない逐情と法悦をくり返した。
「そういえば蔽衣山の屋敷はどうしているんだ?」
「そのままですよ」
「そのまま? 放置しているということか?」
「たまに烏たちが使っているとは思いますが」
金花の様子から、あの屋敷に思い入れがないことはわかった。
(俺もそのうち屋敷や都のことを気にしなくなるのかもしれないな)
風呂のことや蔽衣山のことをポツポツと話しながら夕餉を食べる。それとは別にたっぷりの水や果物などを下男に用意させた。部屋の傍らにそれらを置き、中から酒を持ち出して月を眺めている金花の隣に座る。
そういえば鬼の王はずっと酒しか口にしていなかったなと、今朝方までいたあの屋敷でのことを思い出した。一方、金花は水か果物くらいしか口にしていない。別邸にいる間も果物しか食べていないが、酒は平気だろうかと盃を差し出す。すると「月見酒ですか」と言いながら受け取った。
「酒はいけるのか?」
「ほどほどですね」
「鬼の王はザルのように飲んでいたな」
「鬼王は酒も獣も口にしますよ。角がなければ人と変わらないくらいです」
「あんな大きな体ではすぐに鬼だと露呈しそうだが」
「あなたも人の中では大きいほうでしょう? 都の外から来たと言えば、きっと鬼だとはわかりませんよ」
たしかに東武士などは随分と体の大きな者もいた。体が大きいだけなら気づかれないのかもしれない。
「……もしや、都にはそうして潜り込んでいる鬼たちもいるということか?」
「さぁ、どうでしょう。小鬼らはいるかもしれませんが、少なくとも母上様の近くにはいませんでしたね」
金花の言葉に安堵しつつ、やはり鬼とは油断ならないものだと胸の内でため息をつく。おそらく俺が考えている以上に鬼は人に紛れ込んでいるのだろう。派手に姿を現して女を攫う鬼たちもいるが、人に紛れて密かに攫っている鬼もいるに違いない。
棘希のことは髭切の話とともに知られているが、鬼の王が都近くにいたことは知られていない。あれほどの大鬼の存在に気づけないのだから紛れ込んだ鬼たちに気づけるはずもなく、人が鬼に打ち勝つことなど永遠に無理なのではと思えた。
(そんな鬼を退治するのだと息巻いていたのが、なんだか馬鹿らしく思えてくるな)
思わず苦笑いを浮かべながら酒をくぃと飲み、細い月を見上げた。
「敦皇様は、本当に鬼の王の子を生むのだろうか」
帝の皇子であった敦皇親王は鬼の王に攫われ、鬼の王を慕うようになった。そばにいるために人であることを捨て大鬼を食らって鬼となった。いまでは鬼として人を食らい、男の身でありながらその腹には鬼の王の子を宿している。それはとても……そう、とても残酷なことのように思えた。
「生むでしょうね。そのために鬼王の血を食らい、子のために精をも食らっているようでしたから」
「子のために交わっているというのか?」
「鬼王の子ですからね、血だけでは追いつかないのでしょう。そもそも人をたくさん食らうよりも鬼王の血や精のほうが強力です。まぁそれも、親王様が棘希を食らったからこそ耐えられるのでしょうけれど」
「そういえば、鬼の王の血は毒にもなるとあのときも言っていたか」
御所で金花が重傷を負ったとき、そんなことを口にしていたのを思い出す。
「鬼王は別格の鬼なのです。わたしは半分とはいえ鬼王と同じ血を持っていますから、かろうじて薬となっただけ。普通の鬼ならば死んでいたでしょう」
「鬼の王とは、そんなにすごいのか」
それでは、人はこの先も永遠に鬼の王を退治することはできないに違いない。それをどこか他人事のように感じてしまうのは、自分がその鬼の側になるのだと決意したからだろうか。
「鬼が鬼を食らうと言ったことを覚えていますか?」
「ん? あぁ。たしか強い鬼を食らえば食らった鬼が強くなる、だったか?」
「はい。鬼王は、最強と謳われた己の父を食らった鬼なのです」
「……自分の父親を?」
思わず金花を凝視した俺に美しい横顔がこくりと頷いた。
「己が父を食らい、父を同じくする兄弟鬼たちをも食らった。おかげで鬼王を超える鬼はこれからも生まれないでしょう。鬼王の寿命がどれほど長いのか誰にもわからないのですから、この先も鬼王が鬼の頂点であり続けるのは間違いありません」
「な……んというか、凄まじいのだな。兄弟鬼までとは……。しかしおまえは……」
「わたしは下賤の妖魔の血を引いているので見逃されたのでしょう。そもそも小鬼であっても食らいたがるような存在ではないのですよ、わたしは」
「おまえは下賤なんかじゃない。それに誰よりも何よりも美しいじゃないか」
たとえ金花自身であっても己を貶めるようなことは言ってほしくない。そう願いながら力強く言えば、黒い目がぱちくりとした。いつもは美しく整っている顔だが、そういう仕草を目にするとどうにもかわいく見える。見慣れない表情を見せるようになった金花に胸がくすぐったくなる。
「ありがとうございます。あなたくらいですよ、わたしをそういうふうに見るのは」
「おまえをそういう目で見るのは俺だけで十分だろう」
「ふふっ、嬉しいこと」
笑んでいる金花が酌をしてくれるが、気恥ずかしくて視線を細い月に向けてしまった。
「しかし、そんな鬼の王の子を敦皇様が……。その、男の身であっても、そういうことが起きるのは相手が鬼の王だからなのか? それとも食らったのが大鬼だったからか?」
「鬼王の影響を受けていた棘希の血肉を食らったから、かもしれませんね」
「どういうことだ?」
よくわからない言い回しに、盃をくぃと飲み干し改めて金花を見た。
「棘希という鬼は、王となる前の鬼王、朱天と同等の力を持つ大鬼と言われていました。だから鬼王となってからもそばに置いていたのでしょう。同時に随分と精を食わせていたようですから、それなりに影響は受けていたと思いますよ」
「……ということは……」
「鬼王は精が強すぎて人の女ではほとんど耐えられないのです。だから女は食らうだけ、精は棘希に食わせていた。鬼王に子がいないのは子を生める存在がいなかったからです」
それはつまり、棘希という大鬼は鬼の王と交わっていたということだ。そうなると、その棘希を食らった敦皇様は大鬼と一緒に鬼の王の何かしらを一度に食らい、そして鬼に転じたということになる。
「鬼の血肉は本来、人にとっては猛毒。それに耐え鬼に転じた親王様はよほど強い胆力を持っていたのでしょう。それが猛毒を別の何かに変え、さらに体を変化させ、子を孕めるようにしたのだと思います。もしくは親王様自身が強くそう願ったのか」
「敦皇様は、そうまでして鬼の王のそばにいたいと願われた、ということか。……なんというか、凄まじいまでの思いを感じるな」
思ったことを口にしただけだが、なぜか金花がくすりと笑った。
「なぜ笑う」
「なぜって、あなたも同じでしょう?」
「俺が?」
「鬼を憎み、鬼退治を一生のものと考えていたはずなのに、わたしと共にありたいからという理由で鬼になることを決めたじゃないですか。さらには鬼王にまで会いました。鬼に転ずるには鬼を食わなければいけない。鬼になってしまえば、今度は生きるために人を食わなければいけない。それを知ってもなお、鬼になると決意したあなたの思いも相当だと思いますよ」
金花の言葉にハッとした。そうだ、俺も敦皇様と変わらないのかもしれない。いや、好いた相手を思う気持ちなら敦皇様にも負けない自信がある。
「俺は金花を好いている。ただ金花と共にありたいと思ったのだ。……俺が死んだのち、誰彼がおまえに触れ、おまえと交わるのだと考えるだけで腸が煮えくり返りそうになった。願わくばおまえが死ぬのを見届け、すぐさま後を追いたいとも思っている。そのためには鬼になるしかないだろう」
手酌で二杯、くぃくぃと酒を飲み干した。いまのは本心だが、やはり面と向かって本人に言うのは照れくさい。
さらに盃に三杯目を注いだとき、ふふっという笑い声が聞こえてきた。ちらりと隣を見ると、俺をじっと見つめる金花が嬉しそうに口元を綻ばせている。その顔があまりにも美しく、そんな顔で見られているのがなんとも気恥ずかしくなりふぃと顔を逸らした。
「ふふっ、本当にいつまでもかわいい方。そんなに思ってくださるなんて、もしや酒の上での言葉ではないでしょうね?」
「これくらいで酔うものか」
ぶっきらぼうな声になってしまうのは、どうにも気恥ずかしいからだ。金花を好いていることも心の底から大事に思っていることも恥ずかしいと思ったことはない。しかしそれを口に出すのはどうにも慣れなかった。これまでそういったことを誰かに言ったこともなければ、そういうことは武士には必要ないと思い込んでいたからだろうか。
「ふふっ。では、わたしのほうが酔ったのかもしれません」
「おまえ、酒はほどほどだと言って、」
逸らしたままの顔をぐぃと引かれ、何事かと言葉をつぐんだ俺の口に熱いものがぶつかった。驚く俺にかまわず、熱いそれはなおもぐいぐいと吸いついてくる。
(あぁ、金花の唇はいつも柔らかいな)
熱心に俺に吸いつく様子に、ぼんやりとそんなことを思った。すると俺の反応が薄いことに焦れたのか熱い舌がぐぃと口の中に割り込む。そのままぬるぬると歯や顎の裏を舐めまわした。
されてばかりでは情けないと、入り込んできた舌を絡め取った。深く吸いついて舌の根あたりに柔らかく噛みつけば、金花が「んぅ」と小さな声を上げる。
「前にも言ったが、もうやられてばかりの俺ではないぞ?」
「ふふっ、知っていますとも。いつの間にかわたしを悦ばせる術を身につけ、駄目だというのに体の奥深くまで暴いてくださる。何度も意識を失ってしまうほど気をやるなど初めてのことです」
「あたりまえだ。これからもそんなことをする相手は俺だけだからな」
「もちろんです。わたしはずっとあなただけのもの。……ふふっ、もうこんなに逞しくして、嬉しい」
ぴたりと身を寄せる金花の手が、胡座をかいた俺の股の間にするりと撫でた。わずかに兆していたそこは金花にひと撫でされただけでぐぅんと首をもたげ、早く愛しい人と一つになりたいのだと訴えた。
酒に酔ったという言葉を信じてはいなかった。しかしいつもより熱い感触に本当に酔っているのではと思いながら奥歯を噛み締める。そうして気持ちよさそうに鳴く金花を見下ろした。
黒い目はいつもより潤み、頬は少し濃い薄紅色に変わっている。とろりとした顔は酔っているようにも見えるが、行為に感じ入っているようにも見えた。どちらにしても恐ろしく美しいことには違いない。
「あぁ、カラギ……」
「……っ!」
濡れた甘い声で名を呼ばれ、うっかり子種を出してしまうところだった。いつもならすでに二度は出ているところを、まだ一度も吐き出すことなく金花の、いやキツラの中を蹂躙し続けている。
先ほどまでは股を大きく開かせ、体を押し潰すように奥を穿っていた。一際強く深いところを突き上げた瞬間ブルブルと体を震わせ仰け反ったところをみると、そこでキツラは一度逐情したに違いない。俺の腹に濡れた感触はないから、また子種を出さずに気を飛ばしたのだろう。最初はそのことに驚いたものだが、「中が悦すぎて」と目元を染めながら言われてからは、むしろ子種が出ないほど気持ちよくしてやろうと思うようになった。
(いっそ俺が相手でなければ感じられない体になればいい)
そんなことを考えながら浅いところから深いところまでをゆっくりと擦る。気を飛ばした直後は「動かないで」と鳴くが、そのまま動き続けると全身をわななかせるように悦がる。そのことを知っている俺は、そんなキツラを見たくて苛めるように中を穿ち続けた。
逸物をぬぅぅと引けば、熱い肉が縋りつくようにまとわりついてくる。逆にずぅぅんと突き入れると、今度は嬉しいと言わんばかりにきゅうぅと縋りつかれた。くり返しそんな感触に包まれれば俺もそう長くは堪えられない。
「キツラの中は、本当に、く……っ、心地よすぎて、ふっ、止まらなく、なる……っ」
「うれし、ぃ……あぁ、んっ! ね、子種を、ぁっ、はやく、子種を、ぁあっ、は、ぁっ、カラギ、悦ぃ……!」
ゆっくりと、しかし確実に深くを貫く逸物にキツラの中がビクビクと震え出した。顔を見れば嫌々というように頭を振っている。そのせいで濡れて束になっている黒髪がうねるように動いていた。
鳴きながら身悶えるキツラの頬を両手で包み、薄く開いている唇に強く吸いついた。同時にゆっくりと先端が抜けるほど引いた腰を、またゆっくりと奥へと入れていく。それがたまらないのか、押し開いていたキツラの細い足がぐぐぅと俺の腰に絡みついた。そのままぎゅうぅと締めつけてくる。両腕はしっかりと背中に回り、これでもかと胸を重ねた。互いの胸の音まで感じ取れるほどの状態にぐわっと全身が燃えるように熱くなる。
(これは、おれだけの鬼だ)
思いの丈を込めながら腰をぐぅぅと押しつけ、どぷり、どぷりと子種を吐き出した。キツラの体は子種に合わせるようにひくり、ひくりと震え、吸いついたままの唇にもぐぅと力が入る。
ちくり。
小さく尖ったキツラの牙が突き刺さったのか、下唇に小さくも鋭い痛みが走った。一瞬唇を離しかけたが、痛みを振り払うように柔い唇を吸い続ければ鉄臭い味がふわりと広がる。
ふと、キツラの血はどんな味だろうかと思った。そんなことを思ったのは初めてだった。いずれは血を食らうことになるのだろうが、それはもう少し先のことだと考えていた。それなのに一度思ってしまうとどうにも気になってしまう。気がつけば吸いついたキツラの下唇にガリッと噛みついた。
それに驚いたのはキツラだった。唇を吸われたままの頭を必死に振り、俺の口から離れようとする。それを許さないとばかりに両手で押さえつけ、さらにはまだ子種を吐き出している逸物をぐぅぅとねじ込むことでキツラの動きを封じた。
「……っ、……、……!」
声にならないキツラの訴えを無視し、ちゅうと下唇に吸いついた。ふわりと甘い香りがするキツラの血は、俺の血とはまったく違うもののように感じる。
(……そうだ。これはキツラの子種と同じだ)
交わるときに強く感じる伽羅香か、それとも梔子の花の香りか、甘い香りがすぅと鼻孔に入ってくる。それはキツラの精からも香るもので、鬼とは匂いまで違うのだなと妙に感心したりもした。
(これなら血を食らうことも問題なくできそうだ)
下唇を吸いながらキツラの口の中を舐め回すと、自分の鉄臭い匂いと甘い香りが混じり合っていく。互いの血を口内で啜り合うなど恐ろしい行為のはずなのに得も言われぬ心地よさを俺に与えてくれた。
(……覚悟をせねばならないか)
別邸を出たあとのことを考えながら唇と甘い香りを味わっていた俺は、段々と熱が体の中心に集まるのを感じていた。子種もすべて吐き出し少しは落ち着くかと思ったが、腰が疼き背筋をぞくぞくとした寒気に似たものが駆け上がる。
「カ、ラギ……っ」
俺の唇から逃れたキツラが悲鳴のような声を上げた。ひくりと跳ねた細い腰の動きに、中を穿ったままの逸物が一気に力を取り戻す。そのまま俺は一度も動くことなく、再び子種を吐き出していた。
キツラは俺の腕の中で背を反らし、白い首を晒しながらただ震えた。そんなキツラの細足はますます力強く俺の腰に絡み、キツラも怖いほど感じ入っているのだと訴えているように見えた。
「俺だけのキツラ」
思わず口に出たつぶやきに、キツラが「あぁ!」と声を上げて逸物を締め上げた。俺たちは互いをしっかりと抱きしめ合いながら、途切れることのない逐情と法悦をくり返した。
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