172 / 179
木漏れ日の願い
木漏れ日の願い・・・その12
しおりを挟む
それは、あの男のため、そして、あの男の家族のため・・・それって、いったい・・・。
「あの・・・それっていうのは?」
「あえて残さなかった証拠・・・」
「えっ?」
「もし、事件のあった部屋の中にあの男の指紋のひとつも残しておけば・・・ふふっ、そよ風のひとり言とでも思って下さいね」
紗耶香の最後の一言に倉根は言葉を返せなかった。
いや、言葉を返してはいけないのだと紗耶香の言葉が倉根に伝えていたのかもしれない。
それと同時に、あやねのあの言葉と同じ言葉を言った紗耶香の言葉に倉根は驚いてしまった。
ただ、二人の言葉に違いがあるとすれば証拠を残し損ねたのか?
それとも、故意に証拠を残さなかったのか?という考え方の違いという事になるのだが、
倉根が驚いたのは、事件があった部屋には無かった男の指紋という共通点にである。
ちょっと言葉尻で聞けば同じ指紋の件でも二人の言葉は正反対の言葉になる。
あやねは、被害者の女性の唯一のミスという言い方で事件の核心に近づいて行く。
そして、紗耶香の言葉では、あえて残さなかった証拠、という言い方でそれを表現しているが
これは、見る角度を変えて違う視点から視察してみると不思議と同じ意味になるのではないだろうか?
ようは、あやねは指紋を残せばよかったのに、どうして指紋を残さなかったのだろう?になる。
それと、紗耶香と話をしている事で倉根の頭の中の何かが覚醒したのかどうかは分からないが、
あやねは、初めから容疑者が殺人犯として起訴されないと分かっていたのではないだろうか?
だから、わざと犯人確定などとおどけてみたり、黙っていれば冤罪にはならないからなどど言葉遊びをしていたのではないだろうか?
倉根は思いもかけない思考回路の再稼働がフル稼働へと加速していくのを感じながら
指紋という2文字の言葉をめぐるあやねと紗耶香の深層を探っていた。
あれ?もし、男の指紋という言葉に対してのあやねさんと紗耶香さんの真意が同じだとしたなら、
あやねさんは、被害者の女性が男の指紋を残し損ねたのではなく、故意に指紋を残さなかったという事を知っていたんじゃないのだろうか?
「刑事さん?何か心配事でも?」
「えっ?」
「いえ、急に考え込んでしまっているようでしたから・・・」
「あっ、いえ、そういうわけではないんですけど。ただ、ちょっと驚いたと言いますか」
「と、言いますのは?」
「指紋です」
「指紋?」
「ええ、その誰かさんと同じ事を紗耶香さんも言ったものですから」
「その誰かさんも?」
「ええ、とは言っても言葉は正反対と言いますか、もしかしたら微妙と言いますか」
「もしかしたら、唯一のミス・・・とでも?」
「ええ、そうなんです。と言いますか、どうして分かったんですか?」
「ふふっ。言葉とその意味の表現は違っていても目隠しされた真意は同じ。その、誰かさん、不思議な人みたいですね」
「不思議も不思議、大不思議な人です。なにせ、幽霊と普通に会話が出来てしまうみたいですから」
「幽霊と?」
「ええ、そうみたいなんですよ」
倉根の、幽霊と会話が出来るという言葉に少し怪訝そうな表情を見せる紗耶香が言葉を返す。
「あの、それじゃ、もしかして、亡くなった奥様とも?」
「どうなのかな?被害者の女性と話が出来たのかは分かりませんが、その誰かさんはこう言っていました。守りたい人が不利になるようなことは言わないはずよ!って」
そうですか・・・倉根の言葉に呟くように言葉を声に乗せる紗耶香は視線を虚ろに泳がせてしまう。
「あの・・・それっていうのは?」
「あえて残さなかった証拠・・・」
「えっ?」
「もし、事件のあった部屋の中にあの男の指紋のひとつも残しておけば・・・ふふっ、そよ風のひとり言とでも思って下さいね」
紗耶香の最後の一言に倉根は言葉を返せなかった。
いや、言葉を返してはいけないのだと紗耶香の言葉が倉根に伝えていたのかもしれない。
それと同時に、あやねのあの言葉と同じ言葉を言った紗耶香の言葉に倉根は驚いてしまった。
ただ、二人の言葉に違いがあるとすれば証拠を残し損ねたのか?
それとも、故意に証拠を残さなかったのか?という考え方の違いという事になるのだが、
倉根が驚いたのは、事件があった部屋には無かった男の指紋という共通点にである。
ちょっと言葉尻で聞けば同じ指紋の件でも二人の言葉は正反対の言葉になる。
あやねは、被害者の女性の唯一のミスという言い方で事件の核心に近づいて行く。
そして、紗耶香の言葉では、あえて残さなかった証拠、という言い方でそれを表現しているが
これは、見る角度を変えて違う視点から視察してみると不思議と同じ意味になるのではないだろうか?
ようは、あやねは指紋を残せばよかったのに、どうして指紋を残さなかったのだろう?になる。
それと、紗耶香と話をしている事で倉根の頭の中の何かが覚醒したのかどうかは分からないが、
あやねは、初めから容疑者が殺人犯として起訴されないと分かっていたのではないだろうか?
だから、わざと犯人確定などとおどけてみたり、黙っていれば冤罪にはならないからなどど言葉遊びをしていたのではないだろうか?
倉根は思いもかけない思考回路の再稼働がフル稼働へと加速していくのを感じながら
指紋という2文字の言葉をめぐるあやねと紗耶香の深層を探っていた。
あれ?もし、男の指紋という言葉に対してのあやねさんと紗耶香さんの真意が同じだとしたなら、
あやねさんは、被害者の女性が男の指紋を残し損ねたのではなく、故意に指紋を残さなかったという事を知っていたんじゃないのだろうか?
「刑事さん?何か心配事でも?」
「えっ?」
「いえ、急に考え込んでしまっているようでしたから・・・」
「あっ、いえ、そういうわけではないんですけど。ただ、ちょっと驚いたと言いますか」
「と、言いますのは?」
「指紋です」
「指紋?」
「ええ、その誰かさんと同じ事を紗耶香さんも言ったものですから」
「その誰かさんも?」
「ええ、とは言っても言葉は正反対と言いますか、もしかしたら微妙と言いますか」
「もしかしたら、唯一のミス・・・とでも?」
「ええ、そうなんです。と言いますか、どうして分かったんですか?」
「ふふっ。言葉とその意味の表現は違っていても目隠しされた真意は同じ。その、誰かさん、不思議な人みたいですね」
「不思議も不思議、大不思議な人です。なにせ、幽霊と普通に会話が出来てしまうみたいですから」
「幽霊と?」
「ええ、そうみたいなんですよ」
倉根の、幽霊と会話が出来るという言葉に少し怪訝そうな表情を見せる紗耶香が言葉を返す。
「あの、それじゃ、もしかして、亡くなった奥様とも?」
「どうなのかな?被害者の女性と話が出来たのかは分かりませんが、その誰かさんはこう言っていました。守りたい人が不利になるようなことは言わないはずよ!って」
そうですか・・・倉根の言葉に呟くように言葉を声に乗せる紗耶香は視線を虚ろに泳がせてしまう。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる