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木漏れ日の願い
木漏れ日の願い・・・その14
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紗耶香は言葉を選んでいるわけでもなく、かといって、ためらうような仕草をするわけでもなく
ちょっとだけ視線を斜め上に逸らしながら見つけた記憶のように言葉を返す。
「これは私ではく、奥様のお言葉なんですけどね」
「奥様というのは亡くなった被害者の女性ですね?」
「はい。奥様は、あの男は奥さんと離婚する理由を探しているの。本人は気がついていないでしょうけどね。そう言っておられました」
「離婚する理由を?」
「ええ、刑事さんの事ですから、もうすでに調べていると思いますけど、あの男の勤めていた会社が倒産したのはご存じですよね?」
「あっ、はい。全国に支店や工場も持っていた大きな会社だったので倒産のニュースには驚きましたけど」
「となれば、お給料の方も地方の小さな会社とは違ってそれなりだったでしょうし」
「でしょうね」
「大きな会社って、知識や技術が優秀な人って中央の方に集中しているから地方で働いている人っていうのは、こう言ってはなんですけど、運よくそういう高月給の会社に入れたって感じの人が多いんです。なので、その会社が倒産したりリストラされちゃったりして会社を辞めてしまうと次の仕事を見つけるのって大変みたいなんですよね」
「それって、やっぱり収入の面とかなんですかね?」
「まあ、それもありますけど、それとは別に何かに特化している知識とか技術とかっていうのも大半の人は持っていないんです。ただ会社に指示された仕事をこなしているだけという環境での仕事なので、別にどこか別の会社に努めようと思ってもなかなか再就職が見つからないのが現実なんですね。とはいっても、何か特別な技術や知識があれば少しは違うのかもしれまんせんが、それと同時にお給料にしてもかなり下がってしまうでしょ?」
「ええ、それはよく聞きますね」
「まあ、それでも仕事を選ばなければ見つかるかもしれませんし、そうじゃなくても派遣という選択肢もありますしね」
「確かに。でも、それと先程の男の方が離婚をしたがっていたというのは?」
「その男の家族、特に奥さんの方なんですけど」
「と、言いますのは?」
「簡単に言いますとね、それにスライドさせて生活水準を下げれないという事なんです」
「それは、あの男の方ではなくて・・・ですか?」
「みたいでしたよ。まあ、それでも男の方はそれなりに次の就職先を探していたみたいですが、大きな会社に勤めていたとはいっても仕事自体は流れ作業みたいなものだったらしいですので、これといって特別な知識や技術などはあるわけもなく、なのでけっこうご苦労はなさっていたようですけどね」
「それで人材派遣の方に・・・」
「なので、自分を向かい入れてくれるはずの家族との距離もだんだんと遠くなってしまったみたいなんです」
「そんな時に亡くなった奥様と知り合ったんですね?」
「ええ、奥様としても、その男の境遇がどこかご自身と重なって見えたのかもしれません」
「そうだったんですか・・・」
「あっ、そうそう、ちなみにその男と奥様は男女関係にはなっていなかったんですよ」
「えっ?違うんですか?」
「ええ。まあ、男の方はその気があったみたいでしたけど、奥様の方はまったくその気がなかったみたいで。どちらかというと、ただの退屈しのぎみたいな感じだったんです」
「そうだったんですか?僕はてっきり不倫の関係かと思っていました」
「まあ、普通なら誰でもそう思ってしまいますよね?でも、実際は違ったんですよ」
「でも、それじゃお金を渡していた事や大麻の事というのは?」
「半分は甘ったれてるその男を貶めるため。もう半分はその男が奥さんと別れるためのきっかけを作ってあげたかったってとこかしら?」
「貶めるため?あっ、でも、別れるためなのなら、そんな回りくどいような事をしなくても直接言ったらよかったんじゃないかな?」
「何度となく言ったみたいですよ。でも、刑事さんもご存じのようにあの通りの男でしょ?どこか煮え切らないし、自分と家族のこれからの問題なのになんか他人事みたいに思ってるっていうかウジウジしてるっていうか、そんな状態ではこの先、誰も幸せになんかなれないのにって奥様は言っておられました」
「でも、お金の方はまずとしても、それで大麻っていうのは・・・」
「かえって良いんじゃないかしら?奥さんからしたら三下り半を突き付けるのには最高の材料になるでしょ?」
「しかし・・・」
「生活水準を下げれない家族は稼ぎの無くなった旦那さんをどんな目で見るのかしら?ああいう男ってね、追い詰められると何をするか分からないもんなんですよ。たとへ奥さんやお子さんたちにその気がなかったとしても、稼ぎが少なくなってしまった当の本人である男の方は、奥さんやお子さんたちの自分を見る視線や、日常交わす会話をどんな風に受け止めていくのかしら?」
「何となく分かるような・・・」
「先程、言ったと思いますけど奥様はご自身とあの男をどこか重なって見えたって?」
「ええ・・・」
「だからなのかもしれません。あの男とその家族に、悲劇が待つ未来よりも不幸が待つ未来を選んであげたのは。奥様はとてもお優しい人でしたから」
倉根は紗耶香から聞かされた大麻やお金を渡していた理由に少なからず驚いてしまっていた。
ちょっとだけ視線を斜め上に逸らしながら見つけた記憶のように言葉を返す。
「これは私ではく、奥様のお言葉なんですけどね」
「奥様というのは亡くなった被害者の女性ですね?」
「はい。奥様は、あの男は奥さんと離婚する理由を探しているの。本人は気がついていないでしょうけどね。そう言っておられました」
「離婚する理由を?」
「ええ、刑事さんの事ですから、もうすでに調べていると思いますけど、あの男の勤めていた会社が倒産したのはご存じですよね?」
「あっ、はい。全国に支店や工場も持っていた大きな会社だったので倒産のニュースには驚きましたけど」
「となれば、お給料の方も地方の小さな会社とは違ってそれなりだったでしょうし」
「でしょうね」
「大きな会社って、知識や技術が優秀な人って中央の方に集中しているから地方で働いている人っていうのは、こう言ってはなんですけど、運よくそういう高月給の会社に入れたって感じの人が多いんです。なので、その会社が倒産したりリストラされちゃったりして会社を辞めてしまうと次の仕事を見つけるのって大変みたいなんですよね」
「それって、やっぱり収入の面とかなんですかね?」
「まあ、それもありますけど、それとは別に何かに特化している知識とか技術とかっていうのも大半の人は持っていないんです。ただ会社に指示された仕事をこなしているだけという環境での仕事なので、別にどこか別の会社に努めようと思ってもなかなか再就職が見つからないのが現実なんですね。とはいっても、何か特別な技術や知識があれば少しは違うのかもしれまんせんが、それと同時にお給料にしてもかなり下がってしまうでしょ?」
「ええ、それはよく聞きますね」
「まあ、それでも仕事を選ばなければ見つかるかもしれませんし、そうじゃなくても派遣という選択肢もありますしね」
「確かに。でも、それと先程の男の方が離婚をしたがっていたというのは?」
「その男の家族、特に奥さんの方なんですけど」
「と、言いますのは?」
「簡単に言いますとね、それにスライドさせて生活水準を下げれないという事なんです」
「それは、あの男の方ではなくて・・・ですか?」
「みたいでしたよ。まあ、それでも男の方はそれなりに次の就職先を探していたみたいですが、大きな会社に勤めていたとはいっても仕事自体は流れ作業みたいなものだったらしいですので、これといって特別な知識や技術などはあるわけもなく、なのでけっこうご苦労はなさっていたようですけどね」
「それで人材派遣の方に・・・」
「なので、自分を向かい入れてくれるはずの家族との距離もだんだんと遠くなってしまったみたいなんです」
「そんな時に亡くなった奥様と知り合ったんですね?」
「ええ、奥様としても、その男の境遇がどこかご自身と重なって見えたのかもしれません」
「そうだったんですか・・・」
「あっ、そうそう、ちなみにその男と奥様は男女関係にはなっていなかったんですよ」
「えっ?違うんですか?」
「ええ。まあ、男の方はその気があったみたいでしたけど、奥様の方はまったくその気がなかったみたいで。どちらかというと、ただの退屈しのぎみたいな感じだったんです」
「そうだったんですか?僕はてっきり不倫の関係かと思っていました」
「まあ、普通なら誰でもそう思ってしまいますよね?でも、実際は違ったんですよ」
「でも、それじゃお金を渡していた事や大麻の事というのは?」
「半分は甘ったれてるその男を貶めるため。もう半分はその男が奥さんと別れるためのきっかけを作ってあげたかったってとこかしら?」
「貶めるため?あっ、でも、別れるためなのなら、そんな回りくどいような事をしなくても直接言ったらよかったんじゃないかな?」
「何度となく言ったみたいですよ。でも、刑事さんもご存じのようにあの通りの男でしょ?どこか煮え切らないし、自分と家族のこれからの問題なのになんか他人事みたいに思ってるっていうかウジウジしてるっていうか、そんな状態ではこの先、誰も幸せになんかなれないのにって奥様は言っておられました」
「でも、お金の方はまずとしても、それで大麻っていうのは・・・」
「かえって良いんじゃないかしら?奥さんからしたら三下り半を突き付けるのには最高の材料になるでしょ?」
「しかし・・・」
「生活水準を下げれない家族は稼ぎの無くなった旦那さんをどんな目で見るのかしら?ああいう男ってね、追い詰められると何をするか分からないもんなんですよ。たとへ奥さんやお子さんたちにその気がなかったとしても、稼ぎが少なくなってしまった当の本人である男の方は、奥さんやお子さんたちの自分を見る視線や、日常交わす会話をどんな風に受け止めていくのかしら?」
「何となく分かるような・・・」
「先程、言ったと思いますけど奥様はご自身とあの男をどこか重なって見えたって?」
「ええ・・・」
「だからなのかもしれません。あの男とその家族に、悲劇が待つ未来よりも不幸が待つ未来を選んであげたのは。奥様はとてもお優しい人でしたから」
倉根は紗耶香から聞かされた大麻やお金を渡していた理由に少なからず驚いてしまっていた。
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