愛して欲しいと言えたなら

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声が聞こえない

声が聞こえない・・・その11

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でも、どうして、愛奈ちゃんが自分の名前の事を?

「愛奈ちゃん?どうして自分の名前・・・あっ、ちょっと待ってて・・・」

そう言って、またスマホを両手で塞いで雪子の方に視線を移してみると、
相変わらず面白そうな瞳のまま、愛奈との会話で慌てている裕子を見つめている。

「ちょっと、雪子?今、愛奈ちゃんが自分の名前の事で・・・」

「裕子、愛奈さんを甘く見てはダメよ!言ったでしょ?ふーちゃんの遺伝子がって!ふふっ」

ふふって・・・あのね・・・。ん?
あっ、もしかして、愛奈ちゃん、私にカマかけてるって事?

突然、とんでもない方向から話題を浮かび上がらせて、
思わずのひと言を引き出すその話術って。
確か、夏樹さんがよく使う手法だったわ。
という事は、まさか、本当に夏樹さんの遺伝子が愛奈ちゃんの中に・・・?

「ちょっと、雪子?」

「考え過ぎよ。裕子」

「えっ・・・?」

「そんなわけないでしょ?」

「あ~も~、びっくりさせないでよ」

ふふっ・・・面白そうに笑みを浮かべながら、
雪子は、裕子が両手で塞いでいるスマホを取り上げる。

「愛奈さん、あんまり変な事を訊いちゃだめですよ。裕子が、困ってますよ」

「へへっ・・・。でも、お母さん、ホントにどこも何ともないの?」

「ええ・・・。心配してくれてありがとうね。愛奈さん」

まったく、もう~。
だから、今、スマホで会話している雪子さんは、いったい、どちらの雪子さん?

「それから、あまり、お父さんの事を悪く思わないでね」

「そんな事をいったって、今日は、翔太ね、会社を休んでるのよ」

「知ってるわよ・・・」

「知ってるって?やっぱり、お父さんが翔太に頼んだのね?」

「そうみたい。きっと、お父さんは、私の事が心配で翔太さんに頼んだのかもしれないわね」

「そうみたいって、お母さんは、何とも思わないの?」

「どうして?」

「だって、お母さんのメールの相手の事にしたって、勝手に翔太に確かめさせるなんて少しひどくない?」

「ふふっ・・・。別に、気にしていないわよ」

「お母さんはそうでも、私は、なんか、見張られているみたいで気持ち悪いわ!」

「そうね・・・。お父さんも、ちょっと、やり過ぎかもしれないわね」

「まったく、お母さんっていつものんきなんだから。それで、翔太は?」

「それが、いつの間にか見えなくなったみたいだったから、途中で帰ったんじゃないかしら?」

「途中でって?翔太は、お母さんと会ったの?」

「ううん。何となく見張ってるみたいな仕草だったから、私からは声をかけなかったの」

「まったくも~。翔太ったら・・・」

「ふふっ・・・それじゃ、そろそろ切るわね」

「あっはい。それじゃ、お母さん、裕子おばさんと温泉でゆっくりしてきてね!」

雪子は、愛奈との会話を終えると、スマホを手提げバッグの中にしまいながら、
「裕子と温泉でゆっくりしてきてねって、愛奈さんが」と、
笑みを浮かべながら、裕子に愛奈の言葉を伝えると・・・

「愛奈ちゃん、おばさんって、語尾をつけてたんでしょ?」

「ふふっ・・・。どうして、分かったの?」

「あ~もう。やっぱり・・・でも、さっき、翔太君が何とかって言ってなかった?」

「うん。なんかね、また、翔太さんが旦那さんに頼まれたみたいで」

「頼まれたって・・・。もしかして、雪子の事を監視してたの?」

「そうみたい・・・。それより、そろそろ旅館に入らない?」

そう言って席を立つ雪子に、まだ何か訊きたそうな顔の裕子であったが、
いつまでも表のベンチでというわけにもいかないので、とりあえず旅館の中へと向かった。

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