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015 極致の魔剣

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「ワシは最初から反対だった。大したギフトも能力も無い奴をパーティに入れても害しかない」
「オレもだ。むしろ今まで2年間もよく我慢したものだと自分を褒めてやりてぇくらいだ」

 ルドルフ、フィリップの言葉を受けて、一人前に傷付いたように顔を伏せるクルト。しかし、次の瞬間には顔を上げ、残されたアンナに縋るような目を向ける。卑しい目だ。あさましい奴め。こんな奴がパーティメンバーに居るのかと思うと、反吐が出る。

「そんな目で見ないでよ。ウザったいわね」
「アンナ…?」
「気安く名前を呼ばないで。キュルツィンガー卿と呼びなさいって何度言えば分かるのよ」

 アンナの顔には、本気の嫌悪が浮かんでいた。ほんの1年前まで好きだった男に向ける目ではないな。今のアンナにとって、クルトごときを好きだった過去など葬り去りたいに違いない。私はその様子を見て、独りほくそ笑む。

 元々、アンナはクルトを好きだったし、クルトはアンナを好きだった。2人は両想いだったのだ。そこに割り込んだのがこの私、アレクサンダー・フォン・ヴァイマルだ。

 伝説のギフト【勇者】の持ち主が、自分よりも年下の小娘というのにも驚いたが、その恋人が【勇者】のオマケのような雑魚ギフトしか持たない冴えない小僧だというのにも驚いた。と同時にチャンスだと思った。小僧を出し抜き、【勇者】の小娘を寝取る。

 伝説のギフト【勇者】の恋人。その地位は、この私にこそ相応しい。

 最初はアンナも頑なにクルトを想っていたが、一度少し強引に抱いてからは、徐々に態度を軟化させ、今ではすっかり私の虜だ。

 笑えることに、アンナは生娘だった。クルトとはそこまで進んでいなかったらしい。まだまだ甘酸っぱい青い恋をしていたようだ。

 私は、アンナに大人の悦びを教えてやった。最初こそ嫌がっていたアンナだったが、今では自分から積極的に求めるほどだ。

 アンナが、自ら快楽を求め始める頃には、私はクルトを出し抜き、アンナの恋人としての地位を確固たるものにしていた。

 私が次に実行したのは、クルトの排除だ。クルトはアンナの元好きな人だ。何かの拍子に、アンナの心がクルトに向かないとも限らない。そんな危険因子は排除するべきだ。

 私は、アンナを唆してクルトを嫌うように誘導した。原因不明の【勇者】の力の増減でストレスを抱えていたアンナは、私の誘導に飛び付くようにクルトを責めだした。

「私もアレクに賛成よ。私たちには、もっと優秀なポーターが必要だわ。コイツは邪魔だし、鬱陶しいだけだもの」
「そんな!? アンナは僕に野垂れ死ねって言うの!?」

 元々クルトは、勇者パーティには不釣り合いなほど弱く、ポーターとしての実力も低い。責めるべき点などいくらでもあった。そんなクルトがなぜ勇者パーティに居るのか。それは、パーティの中心である【勇者】のアンナが望んでいたから。ただそれだけ。それが唯一の理由だ。私もルドルフもフィリップも、アンナが望むから仕方なくクルトをパーティメンバーとして認めていたにすぎない。

「そうね。勝手に死ねばいいわ。もういいでしょう?」

 そのアンナがクルトを必要としなくなれば、クルトなどただのお荷物でしかない。クルトは速やかにパーティから排除されるのが道理だ。

「大したギフトを持っていないあなたが、私たちみたいな英雄と一緒に冒険できて、もう一生分の夢を見たでしょう? もう十分なんじゃない?」
「……え…?」

 私は、その光景を愉悦を持って眺める。ようやくここまできた。クルトの排除をもって、私のパーティは、また1つ完璧に近づく。私の夢にもまた1つ近づく。騎士リッターなんて名誉準貴族ではない本物の貴族になるという夢に。アンナの、【勇者】の力があれば、私はどこまでもいける。

「これで分かっただろう? これが現実だクルト。誰も君なんて必要としていない。理解したなら、さっさと消えてくれ」

 私は、青ざめた顔を晒すクルトを追い払うように手を振る。もうコイツに対して興味は失せていた。

「ま……」
「待て」

 意外にもルドルフが制止の声を上げる。どうしたんだ? 今更コイツに情でも湧いたか?

「クルト、お前の装備を置いていけ」
「……え?」
「その装備は我々が集めた宝具だ。お前のじゃない。置いていけ」

 私はその言葉に吹き出さないようにするのが大変だった。ルドルフも酷い奴だな。アンナを奪われ、パーティからも追い出されるクルトから更に奪おうとは。私が仕向けたこととはいえ、クルトは相当嫌われているな。

 クルト、君は1つの事柄に対してだけは非常に優秀だったらしい。その無能さから、その非力さから、君はストレスをぶつけるには丁度良いサンドバッグだったようだ。パーティメンバーのストレス解消になっていた点だけは褒めてやろう。

「だな。お前には過ぎた装備だ」
「ふむ。次のポーターに使わせるか。クルト、装備を置いていけ」
「そうしましょう。その方が効率的だわ」

 感情が振り切れたのか、クルトの顔から表情が抜け落ちる。

「……よく、分かったよ」

 クルトが1つ1つ宝具を外していく。クルトが宝具を外す度に、ほんの少し身体が重くなったような気がした。私は今更罪悪感でも覚えているのだろうか?

 クルトから最愛の人を奪い、その立場を奪い、居場所を奪い、尊厳もなにもかも踏み潰し、いらなくなったら捨てる。我ながら酷いことをしたものだ。だが、まったく心が痛まない。全てはクルト、無能な君が悪いのだよ?

「これでいいだろ?」

 目に光の無い無表情のクルトが無味な声を上げる。感情でも死んだのかな? 可哀想に。

「ああ。では、今日中にここを出ていくように。以上だ。消えろ」

 私の声に、クルトは背を向けて素直に部屋を出ていった。泣き喚いてくれてもショーとして楽しめたのだがね。少しイジメ過ぎたかな。

 クルトが居なくなった室内に弛緩した空気が流れる。

「見た? アイツの顔!」
「見たぜ!まるで世界で一番不幸なのは自分だって信じきってる顔だったな、ありゃ」

 早速、口を開いたのはアンナとフィリップだ。2人にとって、クルトの嘆きなど愉快なショーなのだろう。

「自殺などしないといいが……」

 ルドルフが腕を組んで考える素振りを見せるが……。

「そんな度胸無いわよ」
「たしかに、あ奴に度胸など無いか。自殺でもされたら面倒だと思ったが、心配せずとも良さそうだ」

 アンナの一言に顔を綻ばせる。

 やれやれ。クルトの奴は随分と嫌われていたらしい。しかし、いつまでもクルトのことで時間を使うのは勿体無い。せっかく朝早くに集まったのだから、これからダンジョンに行ってもいいが……。

「アンナ、今日の調子はどうだい?」

 先程まで笑みを浮かべていたアンナの顔が曇る。

「ごめんなさい。今日は良くないみたい……」
「そうか……」

 この頃アンナの調子が悪い日が続くな。こればかりが気がかりだ。アンナは調子が悪いと言っても十分過ぎるほどに強い。しかし、パーティのメイン盾であり、最大火力であり、ヒーラーである彼女は、間違いなくパーティの中心だ。調子が悪いなのならば無理をしない方が良いだろう。

「ごめんなさい……」
「気にしないでくれ。今日は休みにしよう」

 謝るアンナを抱き寄せ、キスをする。アンナは驚いたように目を見開くが、その目がうっとりと閉じられた。そのことに私は満足感を覚える。アンナは間違いなく私に惚れている。クルトも排除できたし、計画は順調そのものだ。私の道を阻むものは、なにも無い。仮に私を阻むものがあろうとも……。

「あんっ」

 突然、胸の先を摘ままれたアンナが嬌声を上げる。

「んんっ」

 そのまま摘まんで捻り上げると、アンナは目に涙を浮かべながらも健気に私にキスされるがままだ。だいぶ調教できてきたな。これならば、私の掛け声1つで、どんな邪魔ものだろうと排除するだろう。私に敵などいない。
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