22 / 77
022 ちょっと気持ち良い
しおりを挟む
「それじゃあ、僕はこのへんでお暇しようかな」
アレクサンダーたちの深く沈んだ雰囲気に満足感を覚えて、僕はもう帰ることにした。お金も巻き上げたし、アレクサンダーたちも多くのものを失って後悔するだろう。この先、アレクサンダーたちの行く未来が暗澹としていることを確信して、僕は愉悦を覚えていた。
「待て! クルト、君の言ってることが真実である証拠はあるのか?」
「証拠? 無いよ。信じるも信じないも君次第さ」
それだけ言って踵を返すと、ガタッと物音を立てて立ち上がるアレクサンダーの姿が目の端に映った。
「待て! いや、待ってください!」
あのアレクサンダーが、まるで縋るような声を上げる。アレクサンダーが、貴族相手以外に敬語を使ったのは初めてかもしれない。アレクサンダーがどんな顔をしているのか気になって振り返ると、皆が驚いた顔でアレクサンダーを見ていた。アレクサンダーは、苦い、とても苦い顔をしていた。なんだか嬉しくなるね。今どんな気持ちなんだろう?
「頼む、待ってくれ。我々には君の力が必要不可欠だ、クルト。アンナが勇者になれないことは……分かった。だが、【勇者】を失うなど到底許容できない」
「アレク!?」
アンナが悲鳴のような声を上げるのも構わず、アレクサンダーは話を続ける。
「アンナがダメなら、私はどうだ? 私じゃなくてもルドルフやフィリップでもいい。とにかく、我々には勇者が必要なのだ。これまでの態度なら真摯に謝ろう。君が望むなら、君を上位者として接することも厭わない。だからどうか、我々に力を貸してくれないか?」
そう言ってアレクサンダーがルドルフとフィリップに目配せをする。
「ワシも反省している。クルトのことを何もできない小僧と侮って悪かった。この通りだ」
「オレもその、いろいろ悪かったな。これで勘弁してくれ」
ルドルフとフィリップが僕に深く頭を下げる。
「クルト、今まで本当にごめんなさい。反省してるの、なんでもするわ。だから、もう一度だけ私にチャンスをください」
アンナも僕に向かって深く頭を下げる。
「あのさ、僕の話聞いてた? 君たちのことは、もう友人リストから外したんだ。【勇者】どころか友人ですらないよ」
「だったらまた友人になればいい。1から、いや、0から関係をやり直そう」
アレクサンダーが、なおもしつこく僕に言い寄る。
「無理だね。僕はもう君たちのことを友人だとは思えないよ」
「無理を言っているのは重々承知している。それでも、それでもなんとか頼めないか?」
アレクサンダーが、あのアレクサンダーが僕に縋るような目を向けている。
「もう少し、あと少しなんだ。あと少しで我々は貴族になれるんだ。ただの平民が、準貴族や名誉貴族なんかじゃない、本物の貴族になれるのだ。こんなチャンスは滅多にないことだ。既にリュトヴィッツ伯爵から内示も頂いてる。我々は本当に本物の貴族になれるんだ。そこにクルト、君の名も加えよう。だから、我々に力を貸してほしい」
アレクサンダーが贈り物をしたり、やたらと貴族に近づくなと思っていたら、アレクサンダーは貴族になりたいらしい。そして、今サラッと言われたけど、僕の名前はそこには無かったようだ。アレクサンダーも言ったように、ただの平民が貴族になるんだ。相当前から時間をかけて準備してきたはずだ。つまり、それほど前からアレクサンダーの中では僕を切り捨てる判断をしていたということだろう。
アレクサンダーたちが、騎士の称号と家名を許されたのは、その地ならしといったところかな?
あの時は、役立たずなのだから仕方ないと思っていたけど、考えてみれば、僕だけ騎士の称号もフォンの称号も家名すら貰えなかったのは、つまりそういうことなのだろう。僕は気が付かなかったけど、僕はアレクサンダーに相当前から嫌われていたようだ。
「だから私の手を取れ、クルト」
アレクサンダーが、なぜか自信満々に僕に手を伸ばす。まるで、僕が手を取ることを疑っていないようだ。
「お断りだよ」
「なっ!?」
僕は、そんなアレクサンダーにNOを叩きつける。アレクサンダーの目が見開かれ、まるで信じられないものを見るような目で僕を見る。ちょっと気持ちが良い視線だ。
「なぜだっ!? 私の手取れば、お前も貴族になれるんだぞ!?」
アレクサンダーは貴族になりたいようだけど、僕はべつに貴族になりたいわけじゃない。2年前まで読み書き計算もできなかった奴が、いきなり貴族になったって上手くいくはずがない。僕は頭が良い方じゃないけど、それぐらいのことは分かる。自分の願望に人を巻き込むのは止めてほしい。貴族になりたいのなら自分の力でなるといい。なれるものならね。
「いじめられたことをまだ気にしているのか? 大人になれよ、クルト。利害がかみ合えば、嫌いな相手だろうと笑顔で握手する。それが大人だ」
アレクサンダーが言葉を重ねれば重ねるほど、僕とアレクサンダーの溝は深まるばかりだ。たぶん、僕とアレクサンダーが分かり合えることはないのだろう。
アレクサンダーたちの深く沈んだ雰囲気に満足感を覚えて、僕はもう帰ることにした。お金も巻き上げたし、アレクサンダーたちも多くのものを失って後悔するだろう。この先、アレクサンダーたちの行く未来が暗澹としていることを確信して、僕は愉悦を覚えていた。
「待て! クルト、君の言ってることが真実である証拠はあるのか?」
「証拠? 無いよ。信じるも信じないも君次第さ」
それだけ言って踵を返すと、ガタッと物音を立てて立ち上がるアレクサンダーの姿が目の端に映った。
「待て! いや、待ってください!」
あのアレクサンダーが、まるで縋るような声を上げる。アレクサンダーが、貴族相手以外に敬語を使ったのは初めてかもしれない。アレクサンダーがどんな顔をしているのか気になって振り返ると、皆が驚いた顔でアレクサンダーを見ていた。アレクサンダーは、苦い、とても苦い顔をしていた。なんだか嬉しくなるね。今どんな気持ちなんだろう?
「頼む、待ってくれ。我々には君の力が必要不可欠だ、クルト。アンナが勇者になれないことは……分かった。だが、【勇者】を失うなど到底許容できない」
「アレク!?」
アンナが悲鳴のような声を上げるのも構わず、アレクサンダーは話を続ける。
「アンナがダメなら、私はどうだ? 私じゃなくてもルドルフやフィリップでもいい。とにかく、我々には勇者が必要なのだ。これまでの態度なら真摯に謝ろう。君が望むなら、君を上位者として接することも厭わない。だからどうか、我々に力を貸してくれないか?」
そう言ってアレクサンダーがルドルフとフィリップに目配せをする。
「ワシも反省している。クルトのことを何もできない小僧と侮って悪かった。この通りだ」
「オレもその、いろいろ悪かったな。これで勘弁してくれ」
ルドルフとフィリップが僕に深く頭を下げる。
「クルト、今まで本当にごめんなさい。反省してるの、なんでもするわ。だから、もう一度だけ私にチャンスをください」
アンナも僕に向かって深く頭を下げる。
「あのさ、僕の話聞いてた? 君たちのことは、もう友人リストから外したんだ。【勇者】どころか友人ですらないよ」
「だったらまた友人になればいい。1から、いや、0から関係をやり直そう」
アレクサンダーが、なおもしつこく僕に言い寄る。
「無理だね。僕はもう君たちのことを友人だとは思えないよ」
「無理を言っているのは重々承知している。それでも、それでもなんとか頼めないか?」
アレクサンダーが、あのアレクサンダーが僕に縋るような目を向けている。
「もう少し、あと少しなんだ。あと少しで我々は貴族になれるんだ。ただの平民が、準貴族や名誉貴族なんかじゃない、本物の貴族になれるのだ。こんなチャンスは滅多にないことだ。既にリュトヴィッツ伯爵から内示も頂いてる。我々は本当に本物の貴族になれるんだ。そこにクルト、君の名も加えよう。だから、我々に力を貸してほしい」
アレクサンダーが贈り物をしたり、やたらと貴族に近づくなと思っていたら、アレクサンダーは貴族になりたいらしい。そして、今サラッと言われたけど、僕の名前はそこには無かったようだ。アレクサンダーも言ったように、ただの平民が貴族になるんだ。相当前から時間をかけて準備してきたはずだ。つまり、それほど前からアレクサンダーの中では僕を切り捨てる判断をしていたということだろう。
アレクサンダーたちが、騎士の称号と家名を許されたのは、その地ならしといったところかな?
あの時は、役立たずなのだから仕方ないと思っていたけど、考えてみれば、僕だけ騎士の称号もフォンの称号も家名すら貰えなかったのは、つまりそういうことなのだろう。僕は気が付かなかったけど、僕はアレクサンダーに相当前から嫌われていたようだ。
「だから私の手を取れ、クルト」
アレクサンダーが、なぜか自信満々に僕に手を伸ばす。まるで、僕が手を取ることを疑っていないようだ。
「お断りだよ」
「なっ!?」
僕は、そんなアレクサンダーにNOを叩きつける。アレクサンダーの目が見開かれ、まるで信じられないものを見るような目で僕を見る。ちょっと気持ちが良い視線だ。
「なぜだっ!? 私の手取れば、お前も貴族になれるんだぞ!?」
アレクサンダーは貴族になりたいようだけど、僕はべつに貴族になりたいわけじゃない。2年前まで読み書き計算もできなかった奴が、いきなり貴族になったって上手くいくはずがない。僕は頭が良い方じゃないけど、それぐらいのことは分かる。自分の願望に人を巻き込むのは止めてほしい。貴族になりたいのなら自分の力でなるといい。なれるものならね。
「いじめられたことをまだ気にしているのか? 大人になれよ、クルト。利害がかみ合えば、嫌いな相手だろうと笑顔で握手する。それが大人だ」
アレクサンダーが言葉を重ねれば重ねるほど、僕とアレクサンダーの溝は深まるばかりだ。たぶん、僕とアレクサンダーが分かり合えることはないのだろう。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
義妹がピンク色の髪をしています
ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる