【勇者の友人】~【勇者】のギフトの本体が、僕だった件について~戻って来いって言われたって、今更君たちを“友人”だとは思えないよ。

くーねるでぶる(戒め)

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022 ちょっと気持ち良い

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「それじゃあ、僕はこのへんでお暇しようかな」

 アレクサンダーたちの深く沈んだ雰囲気に満足感を覚えて、僕はもう帰ることにした。お金も巻き上げたし、アレクサンダーたちも多くのものを失って後悔するだろう。この先、アレクサンダーたちの行く未来が暗澹としていることを確信して、僕は愉悦を覚えていた。

「待て! クルト、君の言ってることが真実である証拠はあるのか?」
「証拠? 無いよ。信じるも信じないも君次第さ」

 それだけ言って踵を返すと、ガタッと物音を立てて立ち上がるアレクサンダーの姿が目の端に映った。

「待て! いや、待ってください!」

 あのアレクサンダーが、まるで縋るような声を上げる。アレクサンダーが、貴族相手以外に敬語を使ったのは初めてかもしれない。アレクサンダーがどんな顔をしているのか気になって振り返ると、皆が驚いた顔でアレクサンダーを見ていた。アレクサンダーは、苦い、とても苦い顔をしていた。なんだか嬉しくなるね。今どんな気持ちなんだろう?

「頼む、待ってくれ。我々には君の力が必要不可欠だ、クルト。アンナが勇者になれないことは……分かった。だが、【勇者】を失うなど到底許容できない」
「アレク!?」

 アンナが悲鳴のような声を上げるのも構わず、アレクサンダーは話を続ける。

「アンナがダメなら、私はどうだ? 私じゃなくてもルドルフやフィリップでもいい。とにかく、我々には勇者が必要なのだ。これまでの態度なら真摯に謝ろう。君が望むなら、君を上位者として接することも厭わない。だからどうか、我々に力を貸してくれないか?」

 そう言ってアレクサンダーがルドルフとフィリップに目配せをする。

「ワシも反省している。クルトのことを何もできない小僧と侮って悪かった。この通りだ」
「オレもその、いろいろ悪かったな。これで勘弁してくれ」

 ルドルフとフィリップが僕に深く頭を下げる。

「クルト、今まで本当にごめんなさい。反省してるの、なんでもするわ。だから、もう一度だけ私にチャンスをください」

 アンナも僕に向かって深く頭を下げる。

「あのさ、僕の話聞いてた? 君たちのことは、もう友人リストから外したんだ。【勇者】どころか友人ですらないよ」
「だったらまた友人になればいい。1から、いや、0から関係をやり直そう」

 アレクサンダーが、なおもしつこく僕に言い寄る。

「無理だね。僕はもう君たちのことを友人だとは思えないよ」
「無理を言っているのは重々承知している。それでも、それでもなんとか頼めないか?」

 アレクサンダーが、あのアレクサンダーが僕に縋るような目を向けている。

「もう少し、あと少しなんだ。あと少しで我々は貴族になれるんだ。ただの平民が、準貴族や名誉貴族なんかじゃない、本物の貴族になれるのだ。こんなチャンスは滅多にないことだ。既にリュトヴィッツ伯爵から内示も頂いてる。我々は本当に本物の貴族になれるんだ。そこにクルト、君の名も加えよう。だから、我々に力を貸してほしい」

 アレクサンダーが贈り物をしたり、やたらと貴族に近づくなと思っていたら、アレクサンダーは貴族になりたいらしい。そして、今サラッと言われたけど、僕の名前はそこには無かったようだ。アレクサンダーも言ったように、ただの平民が貴族になるんだ。相当前から時間をかけて準備してきたはずだ。つまり、それほど前からアレクサンダーの中では僕を切り捨てる判断をしていたということだろう。

 アレクサンダーたちが、騎士リッターの称号と家名を許されたのは、その地ならしといったところかな?

 あの時は、役立たずなのだから仕方ないと思っていたけど、考えてみれば、僕だけ騎士リッターの称号もフォンの称号も家名すら貰えなかったのは、つまりそういうことなのだろう。僕は気が付かなかったけど、僕はアレクサンダーに相当前から嫌われていたようだ。

「だから私の手を取れ、クルト」

 アレクサンダーが、なぜか自信満々に僕に手を伸ばす。まるで、僕が手を取ることを疑っていないようだ。

「お断りだよ」
「なっ!?」

 僕は、そんなアレクサンダーにNOを叩きつける。アレクサンダーの目が見開かれ、まるで信じられないものを見るような目で僕を見る。ちょっと気持ちが良い視線だ。

「なぜだっ!? 私の手取れば、お前も貴族になれるんだぞ!?」

 アレクサンダーは貴族になりたいようだけど、僕はべつに貴族になりたいわけじゃない。2年前まで読み書き計算もできなかった奴が、いきなり貴族になったって上手くいくはずがない。僕は頭が良い方じゃないけど、それぐらいのことは分かる。自分の願望に人を巻き込むのは止めてほしい。貴族になりたいのなら自分の力でなるといい。なれるものならね。

「いじめられたことをまだ気にしているのか? 大人になれよ、クルト。利害がかみ合えば、嫌いな相手だろうと笑顔で握手する。それが大人だ」

 アレクサンダーが言葉を重ねれば重ねるほど、僕とアレクサンダーの溝は深まるばかりだ。たぶん、僕とアレクサンダーが分かり合えることはないのだろう。
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