【勇者の友人】~【勇者】のギフトの本体が、僕だった件について~戻って来いって言われたって、今更君たちを“友人”だとは思えないよ。

くーねるでぶる(戒め)

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024 生きてるって素晴らしい

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 ルドルフの大柄な体が、まるで何かの冗談のように宙を舞う。

 ルドルフの体は、テーブルを飛び越え、執務机も飛び越え、アレクサンダーのすぐ横を通り過ぎ、壁と激突する。

 ズシンッと、もしくはベシャリと大きな重い苦しい音を響かせて壁と激突するルドルフの体。壁をずるずると落ちるルドルフの顔は、下半分が失われていた。なにかの悪い冗談みたいな酷い絵面だ。心臓の鼓動に合わせてか、ドクンッドクンッと失った顎から血を流すルドルフ。気を失っているのか、それとも死んでいるのか、ルドルフの開かれたままの目には既に光が無かった。

「な!? なにが…!?」
「……え? 嘘…!?」

 あっという間に巻き起こった仲間の惨状に、アレクサンダーとアンナが悲鳴を上げる。2人は呆然と、僕を驚愕、そして恐怖の眼差しで見ていた。僕が言えた話じゃないけど、2人は荒事には向いていないと思う。よく冒険者をやってこられたね。

 アンナが立ち上がって、ルドルフに向けて手を伸ばす。その顔には諦めと絶望、苦しい表情の中に、ほんの少しの期待もあった。

「ヒール!」

 アンナが口走ったのは【勇者】の力、回復の奇跡である。当然、もう既に【勇者】ではないアンナには使えない力だ。

「ヒール! ヒール! ヒール!」

 どんなに願っても、アンナには【勇者】の力は使えない。アンナには、もう【勇者】ではないと懇切丁寧に説明してあげたつもりなんだけど……まだ実感が無いのかな?

「どうして、どうしてよ。今使えないとルドルフが、フィリップが…! お願い、お願いよ。ヒール…! なんでよ!?」

 なんでって、もう【勇者】じゃないからだよ。でも、アンナの言う通り、ルドルフとフィリップの容態はかなり悪い。このままだと間違いなく死んでしまうだろう。僕はしゃがんでフィリップの容態を確かめる。

「ひゅー、ひゅー、ひゅー」

 フィリップは虚ろな顔と目で、苦しそうに呼吸を繰り返すだけだった。もう目が見えていないのか、特に反応は無かった。マズイな。僕はフィリップの胸に刺さったナイフを抜く。

「ゴバッ…!」

 フィリップが口から大量の血を吐き出し、胸に開いた穴からも血がどんどんと溢れてくる。

「ヒール」

 僕は呟くと同時に立ち上がって、今度はルドルフに手を伸ばす。

「ヒール」

 僕の呟きと同時に、ルドルフの体が淡い緑の光に包まれた。ルドルフの失われた顎が、生えるように再生されていく。きっと僕の背後でもフィリップが同じように傷が癒えているだろう。

「ッ!?」
「なんで、なんであんたが!?」

 驚くアレクサンダーとアンナ。その顔は、ルドルフとフィリップが助かった安堵よりも、驚きの方が強く顔色に出ていた。

「なんでって言われても、もう説明したじゃないか。僕のギフトは【勇者】を選べるんだよ」
「まさか…ッ!?」

 アレクサンダーは理解が及んだようだ。その顔には、驚愕が浮かんでいる。

「まさか自分も選べるというのか!?」
「そうだよ」

 そう。【勇者の友人】で選べる対象には、なぜか自分まで含まれていた。

「まぁ、自分は一番身近な友人って言葉もあるしね」
「そんなバカなことが!?」

 アレクサンダーが酷く動揺した様子を見せる。そうだね。ただの弱いままのクルトならば、いくらでも言うことを聞かせることができるだろうけど、僕が【勇者】の力を使えるとなると話が違ってくる。アレクサンダーたちと僕の力関係は、完全に逆転したのだ。

「くそっ! なにか、なにか……ぐぅッ!」

 アレクサンダーの顔にはもう余裕なんて無い。それはそうだろうね。いざとなれば、暴力で従わせようとしていた相手が、自分たち以上の暴力を持っていたのだから。

 今までアレクサンダーに余裕があったのは、自分たちの方が強者だという自信があったからだ。だから僕が法外な額の大金を要求しても、僕から情報を引き出した後で強引に回収すればいいと余裕を持って構えていたし、僕が【勇者】を選べると知った後も、暴力によって僕を従わせようとした。

 その前提が、自分たちの方が強者であるというアレクサンダーの中での絶対の前提が覆された。

「ぬぅうううう!」

 これまで散々アンナで【勇者】のギフトの力を見てきただけに、アレクサンダーの取り乱し様は酷かった。目をカッと見開き、口も歯茎が見えるほど開かれ、歯を力いっぱい食いしばった、まるで悪魔に憑りつかれたかのような醜い表情。髪を振り乱し、両手で頭を抱え、まるで雷に撃たれたかのようにビクリと仰け反る様は、いつも余裕の笑みを浮かべていたアレクサンダーとは思えない醜態だ。

「あはははははは!」

 僕は、そんなアレクサンダーの姿に手を叩いて大はしゃぎだ。やっと、やっとだ。やっとアレクサンダーが絶望してくれた。

「うぅううぅううう!」
「あはははははははは!」

 アレクサンダーの上げる苦悶の声は、とてもとても、とっても心地が良かった! ずっと曇っていた心が、すっと晴れやかになっていく心地がした。

 あぁ! 生きていて良かった!
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