【勇者の友人】~【勇者】のギフトの本体が、僕だった件について~戻って来いって言われたって、今更君たちを“友人”だとは思えないよ。

くーねるでぶる(戒め)

文字の大きさ
41 / 77

041 海の向こうの

しおりを挟む
 白目を剥いたおじさんの体がグラリと傾いてドサリと倒れる。これで4人全員ね。ラインハルトに言われた通り、剣の横で優しく平打ちして、うっかり殺さないように気を付けたし、たぶん殺していないと思う。さすがのあたしも人を殺すのはまだちょっと怖い。たとえ、それが悪人でもね。

 でも、クルトの言う通りだったわね……まさかこんなことをする冒険者がほんとに居るなんて……。事前に注意されていなければ、勇者になってるあたしでも危なかったかもしれない。特に飛んできた矢を弾くのなんてギリギリだった。ほんとに危なかった。でもやり遂げた! 賊を討伐なんて、勇者アンナにもできなかったことをあたしはやり遂げた!

「ほぅ……」

 あたしは達成感と共にヤケドしそうなほど熱い息を吐き出した。この熱は勇者になった証だ。勇者になると、お腹の奥がポッと熱くなって、その熱が全身を駆け巡るように熱くなる。まるで熱に浮かされているみたい。でも、意識はぼんやりとするどころか、どこまでも冴え渡っている。今ならば、なんでもできてしまえそう。そのぐらい調子がいい。絶好調!

 あたしは、意味も無く叫び出して走り回りたいのを堪えて、仲間の方を振り向く。

 やったよ! あたし、やりきったよ!

「イヤァアアアアアアアアア!?」

 褒めてほしいと振り向くあたしの期待を切り裂くように悲鳴が木霊する。たぶん、リリーの声。普段大人しくか細い声で喋るリリーがこんな大きな悲鳴を……。なにか、とても良くないことが起こったのだと瞬時に分かった。あたしは急いで仲間の居る場所へと戻る。

 松明のオレンジ色に照らされた中、あたしの目に飛び込んできたのは、倒れたイザベルとクルト。そして、ヌラリとした濃い赤だった。錆びた鉄のような臭いを強く感じた。

「ゴバッ…!」

 仰向けに倒れたクルトが真っ黒な血の塊を吐き出す。血に汚れたクルトの顔は蝋のように真っ白だった。小さくピクピクと痙攣するクルトの胸からもトプトプと血が湧き出るように溢れ、地面に広がっていく。まるでクルトの命が次々と零れているように感じた。イヤだ。クルトが死んじゃう…!

 クルトの奥には、倒れているイザベルも見える。イザベルは気を失っているのか、ぐったりと倒れたまま動きが無い。あたしはとても嫌な予感を覚えた。

「まずはクルトさんを!」
「ヒール…!」

 ハルトの指示が飛び、あたしと同じで勇者になっていたリリーが、クルトにヒールを唱える。勇者の回復魔法はすごい強力だ。これでクルトは大丈夫なはず。

「ゲハッ…!」

 大丈夫だと思ったのに、クルトがまた血の塊を吐き出す。なんで!?

「これは…!?」
「なん、で…!?」

 ハルトもリリーも悲痛な声を上げる。どうして!? 勇者の回復魔法は、手足を失っても生えてくるほどとても強力だってクルトが言っていたのに! 生きてさえいれば、治せない怪我なんて無いってクルトが言っていたのに! なんで治らないのよ!? なにか間違ってるの!? いったい何を間違えてるって言うの!? なんでこんなことになってるの……ッ!?

「あっ…!」

 その時、あたしの頭の中で、なにかが繋がった感覚がした。そうよ! そもそもクルトが倒れている理由。クルトを傷付けた凶器。あの短い矢ってどこにいったの? もしかして、まだクルトの中にあるんじゃ……。

「どいて!」
「きゃっ!?」

 あたしはリリーを強引に押し退けると、クルトの胸へと手を伸ばす。血で汚れた服を掻き分けて、服に空いた穴から撃たれた場所に見当をつけて手で触って確認する。

「やっぱり…!」

 あたしの手には硬く冷たい感触が返ってくる。クルトの胸からほんの少しだけ太い金属の丸い棒が顔を出していた。

「矢が刺さったままなの!」
「ッ!?」
「あッ!?」

 クルトを治すためにはまずは矢を抜かないと。あたしは金属の矢を指で摘まんで引き抜こうとする。でも……。

「抜けない…!」

 指が血で滑って全然抜けない。違うわね。たぶん、勇者の力で全力でやれば抜くことができると思う。でも、そんな力で抜いたりしたら……怖い……クルトの命ごと引き抜いてしまいそうで怖い。

 クルトの顔はもう血の気というものが失せてしまっている。目の下や唇が蒼黒く染まっていた。もう一刻の猶予もない。このままじゃクルトが助からない。あたしがやるしかない。

 そう自分に言い聞かせて、両手で金属の矢を握る。

「あたしが抜くから」
「分かっています。すぐにヒールを唱えます」
「私、も…!」

 あたしたちはお互いの役割を確認し合って、真剣な表情で頷き合う。

「いくわよ。3、2、1、0ッ!」
「グフッ!」

 あたしが矢を引っこ抜くと同時にクルトが口から血を零す。矢には返しが付いていた。矢は、クルトの肉を引き千切りながらもなんとか抜ける。

「ヒール!」
「ヒール…!」

 クルトの体が淡く緑の光に包まれて、無残に引き千切られた穴が盛り上がり、すぼまるように埋まっていく。同時に、小刻みに震え乱れていたクルトの呼吸が、深くゆったりとしたものに変わった。もう大丈夫かしら? なんとかなったっぽい?

 あたしは一度安堵すると同時に焦燥感に駆られる。

「イザベル!」

 そうだ。怪我人はクルトだけじゃない。イザベルも己の血の海に沈むほど重傷だったはず。早く治療しないと! 気絶しているのか動きが無かったけど、もしかしたら、クルトよりも酷い状態かもしれない。

 立ち上がるあたしをハルトとリリーは悲しげに見上げていた。

「ルイーゼ……」
「早くイザベルも治さないと!」

 ハルトの言葉を遮ってイザベルの血の海を渡り、イザベルの下に辿り着くと同時に絶望する。イザベルの胸はもう動いてはいなかった。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

なんか修羅場が始まってるんだけどwww

一樹
ファンタジー
とある学校の卒業パーティでの1幕。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

義妹がピンク色の髪をしています

ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

処理中です...