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050 極致の魔剣②
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「あのクソガキがぁあああ! なにが“回すといいんだっけ?”だ、ふざけやがって! 今度はオレが回してやるよ! あのクソ生意気な顔をグチャグチャにしてやるぞコラ! 絶対だ! 絶対オレに逆らったことを後悔させて殺してやるよ!」
吠えるように叫ぶフィリップの目には、憎悪と呼ぶのも生ぬるい激情が見えた。きっと私も同じ目をしているに違いない。我々は飼い犬以下の扱いをしていたゴミに歯向かわれたのだから当然の感情だろう。あのボケッとしたなにも考えてなさそうな間抜け面を思い出すと、腸が煮えくり返る思いだ。しかも、そのゴミに情けをかけられたと知った時は、怒りでどうにかなってしまいそうだった。
「ふーっ……」
私は息を深く吐き出すと共に自身の激情も吐き出す。たしかに、このままフィリップに同心し、あのゴミを始末すれば、気持ちは晴れるだろうが、それでは今までの苦労が水の泡となる。ここはクールに理知的にいくべきだ。私は、自らの感情に任せて我々の誘いを断ったあの愚かなゴミとは違う。冷静に考える頭を持った人間だ。ここは復讐などという愚かな行為など捨て、自らの利益の最大化を目指すべき。
「落ち着け、フィリップ」
「あ? 落ち着けだ? あんなふざけた態度を取られて、てめぇーはなにも感じないのかよ!?」
なにも感じないかだと? 無論、憤怒を屈辱を感じている。あのゴミのくだらない策に踊らされてミスリル貨を失ったなど怒りに我を忘れそうなほどだし、資金難で身動きが取れないなど、屈辱以外のなにものでもない。ただ冷静であれと己に言い聞かせているだけだ。怒りは容易に目を曇らせる。それではあのゴミと同じになってしまう。それだけは我慢ならない!
私はフィリップの目を見据えてゆっくりと言い聞かせるように言う。
「もう一度だけ言おう。落ち着け、フィリップ」
「あぁああ! クソッ!」
フィリップが髪を掻き回して、乱暴にソファーに座り、ようやく話し合いが再開できる。議題はもちろん、あのゴミに関してだ。
「フィリップの考えも分かるが、あのゴミ、クルトを殺すことは反対だ。あれは生かして使う。我々に必要なのはゴミの命などではなく、あくまでも勇者の力であることを忘れるな」
「その通りだな。大事の前の小事にいつまでも拘る必要は無い」
年の功か、ルドルフは大局を分かっているようだな。心強い。
「フィリップ、ゴミの始末などいつでもできる」
いつでもできる……か。我ながら大見得を切ったものだ。自分で呆れてしまう。相手はあの間抜けのクルトだが、勇者なのだ。正面から我々を圧倒する武力、生半可な致命傷など一瞬でなかったことにする回復力。味方なら頼もしいが、敵に回るとこれほど厄介だとは……。
勇者を殺すとすれば、不意打ちしかない。不意打ちで知覚することすら許さず、一撃の下に屠るしかないが……勇者の身体能力を相手に不意打ちは難しいだろう。その上で勇者の防御力を貫いて一撃で殺すなど不可能に近い。
「チッ。わぁーったよ……」
フィリップの言葉に力が無い。勇者を殺すのが不可能に近いことくらい、不意打ちが得意なフィリップこそが誰よりも分かっているからだろう。そう、所詮は見栄でしかない。あのゴミに我々が劣るなど信じたくないが故の見栄。なんとも滑稽なことだな。自分のことではなかったら、きっと嗤っていた。
「今は勇者の力を手に入れる術を見つけることだ」
「「「………」」」
沈黙が作戦室を包む。皆、難しいことは分かっているのだ。相手が勇者の力さえ持っていなかったら、それこそ無数の策が浮かぶ。嫌がる相手を支配する術などいくらでもある。それこそ、レベル3ダンジョン『コボルト洞窟』制覇と、そこに巣食っていたレッドパーティを捕縛して話題になったクルトを拾った冒険者チーム『百華繚乱』のメンバーでも誘拐すればいい。だが、誘拐したところでどうなる。相手は死者の蘇生までできる勇者だぞ。殺すぞと脅したところで脅しにならない。これほど厄介な相手もいないだろう。
それに、今は時期が悪い。我々はもうすぐ貴族になる身だ。既に内示を受けている。このまま何事もなければ、我々は本物の貴族になれるのだ。今、騒ぎを起こすのはマズイ。もし勇者の力を失ったことがバレてしまえば、内示自体吹き飛びかねない。貴族たちは、王は、勇者の力が目当てなのだ。勇者の力を失った我らを貴族に迎え入れる道理が無い。
だが、いずれ勇者の力を必要とされる時が必ず来る。それをどう乗り越える?
クルトを、あのゴミを力で抑えることは難しい。和解か? 和解しかないのか? 私はソファーに座るアンナを見る。アンナは私と目が合うと、謝るように面を下げた。それはそうだろう。目の前で私を裏切り、クルトに縋るも拒絶された憐れな道化。お前がここに居ることを許しているのは、偏に私の寛大さ故だということを忘れるなよ。
クルトが許すとすれば、おそらくこの女だ。アンナにクルトへの働きかけをさせる。そのためにまだ傍に居ることを許してやっている。そうでなければ、勇者の力を失ったこの女に価値など無い。私を裏切った阿婆擦れめ。せめて私の役に立て!
願わくは、このまま何事も無く貴族になれれば良いが……。しかし、問題は貴族になった後だ。必ず勇者の力を求められる……。その時は必ずやってくる。どう凌げばいい?
クソッ! どうすればいい? いったいどうすればいいんだ!?
◇
凍えるように冷たいアレクの視線から逃れるために、私は慌てて下を向く。ゾッとするほど冷たい視線だった。もう欠片も私に興味が無いのだとはっきりと理解させられた。
こうなってしまったのも私のせい。私がアレクと別れると言ってクルトに言い寄ったから。それは分かってる。でも、あの時はそうするしかないと思ったの。それが結果的にもアレクのためにもなるって。そう思ったのに……。
アレクは無駄を嫌う人。私がここに居られるのも、私にはまだ役割があるからだと思う。世間的にはまだ私は勇者だから捨てられないのかも。でも、それはいつか捨てられるということ。悔しい。私に力があれば、勇者なんかに負けない力さえあれば…!
吠えるように叫ぶフィリップの目には、憎悪と呼ぶのも生ぬるい激情が見えた。きっと私も同じ目をしているに違いない。我々は飼い犬以下の扱いをしていたゴミに歯向かわれたのだから当然の感情だろう。あのボケッとしたなにも考えてなさそうな間抜け面を思い出すと、腸が煮えくり返る思いだ。しかも、そのゴミに情けをかけられたと知った時は、怒りでどうにかなってしまいそうだった。
「ふーっ……」
私は息を深く吐き出すと共に自身の激情も吐き出す。たしかに、このままフィリップに同心し、あのゴミを始末すれば、気持ちは晴れるだろうが、それでは今までの苦労が水の泡となる。ここはクールに理知的にいくべきだ。私は、自らの感情に任せて我々の誘いを断ったあの愚かなゴミとは違う。冷静に考える頭を持った人間だ。ここは復讐などという愚かな行為など捨て、自らの利益の最大化を目指すべき。
「落ち着け、フィリップ」
「あ? 落ち着けだ? あんなふざけた態度を取られて、てめぇーはなにも感じないのかよ!?」
なにも感じないかだと? 無論、憤怒を屈辱を感じている。あのゴミのくだらない策に踊らされてミスリル貨を失ったなど怒りに我を忘れそうなほどだし、資金難で身動きが取れないなど、屈辱以外のなにものでもない。ただ冷静であれと己に言い聞かせているだけだ。怒りは容易に目を曇らせる。それではあのゴミと同じになってしまう。それだけは我慢ならない!
私はフィリップの目を見据えてゆっくりと言い聞かせるように言う。
「もう一度だけ言おう。落ち着け、フィリップ」
「あぁああ! クソッ!」
フィリップが髪を掻き回して、乱暴にソファーに座り、ようやく話し合いが再開できる。議題はもちろん、あのゴミに関してだ。
「フィリップの考えも分かるが、あのゴミ、クルトを殺すことは反対だ。あれは生かして使う。我々に必要なのはゴミの命などではなく、あくまでも勇者の力であることを忘れるな」
「その通りだな。大事の前の小事にいつまでも拘る必要は無い」
年の功か、ルドルフは大局を分かっているようだな。心強い。
「フィリップ、ゴミの始末などいつでもできる」
いつでもできる……か。我ながら大見得を切ったものだ。自分で呆れてしまう。相手はあの間抜けのクルトだが、勇者なのだ。正面から我々を圧倒する武力、生半可な致命傷など一瞬でなかったことにする回復力。味方なら頼もしいが、敵に回るとこれほど厄介だとは……。
勇者を殺すとすれば、不意打ちしかない。不意打ちで知覚することすら許さず、一撃の下に屠るしかないが……勇者の身体能力を相手に不意打ちは難しいだろう。その上で勇者の防御力を貫いて一撃で殺すなど不可能に近い。
「チッ。わぁーったよ……」
フィリップの言葉に力が無い。勇者を殺すのが不可能に近いことくらい、不意打ちが得意なフィリップこそが誰よりも分かっているからだろう。そう、所詮は見栄でしかない。あのゴミに我々が劣るなど信じたくないが故の見栄。なんとも滑稽なことだな。自分のことではなかったら、きっと嗤っていた。
「今は勇者の力を手に入れる術を見つけることだ」
「「「………」」」
沈黙が作戦室を包む。皆、難しいことは分かっているのだ。相手が勇者の力さえ持っていなかったら、それこそ無数の策が浮かぶ。嫌がる相手を支配する術などいくらでもある。それこそ、レベル3ダンジョン『コボルト洞窟』制覇と、そこに巣食っていたレッドパーティを捕縛して話題になったクルトを拾った冒険者チーム『百華繚乱』のメンバーでも誘拐すればいい。だが、誘拐したところでどうなる。相手は死者の蘇生までできる勇者だぞ。殺すぞと脅したところで脅しにならない。これほど厄介な相手もいないだろう。
それに、今は時期が悪い。我々はもうすぐ貴族になる身だ。既に内示を受けている。このまま何事もなければ、我々は本物の貴族になれるのだ。今、騒ぎを起こすのはマズイ。もし勇者の力を失ったことがバレてしまえば、内示自体吹き飛びかねない。貴族たちは、王は、勇者の力が目当てなのだ。勇者の力を失った我らを貴族に迎え入れる道理が無い。
だが、いずれ勇者の力を必要とされる時が必ず来る。それをどう乗り越える?
クルトを、あのゴミを力で抑えることは難しい。和解か? 和解しかないのか? 私はソファーに座るアンナを見る。アンナは私と目が合うと、謝るように面を下げた。それはそうだろう。目の前で私を裏切り、クルトに縋るも拒絶された憐れな道化。お前がここに居ることを許しているのは、偏に私の寛大さ故だということを忘れるなよ。
クルトが許すとすれば、おそらくこの女だ。アンナにクルトへの働きかけをさせる。そのためにまだ傍に居ることを許してやっている。そうでなければ、勇者の力を失ったこの女に価値など無い。私を裏切った阿婆擦れめ。せめて私の役に立て!
願わくは、このまま何事も無く貴族になれれば良いが……。しかし、問題は貴族になった後だ。必ず勇者の力を求められる……。その時は必ずやってくる。どう凌げばいい?
クソッ! どうすればいい? いったいどうすればいいんだ!?
◇
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