文字の大きさ
大
中
小
183 / 189
182 邪神
ゴクリッ!
目の前の大きな両開きの扉を前に、誰かの息を呑む音が聞こえた。
このいかにもな扉の向こうには邪神が居る。つまり最終決戦だ。緊張するのもわかる。オレたちの双肩には、文字通り世界の命運がかかっている。緊張するのも当たり前だよな。オレだって緊張している。
もしかしたら、さっきの息を呑む音の発生源はオレだったのかもしれない。
それさえもハッキリ分からないくらいオレは緊張していた。
ゲームで何度も邪神を倒したオレでもそれだ。後ろのコルネリアたちの緊張はいかばかりだろう。
オレが振り返ると、こわばった顔をした『レギンレイヴ』のメンバーと目が合った。このままじゃマズいな。皆の緊張を解かないと。
「よし、円陣を組もう!」
「円、陣?」
「そうだよ、リア。さあ、皆丸くなって」
唐突にそんなことを言ったオレを皆が不思議そうな顔を見ていた。だが、ちゃんと丸を作ってくれるあたり皆の信頼を感じた。
そして、オレはコルネリアとエレオノーレと肩を組んで、円陣を形作る。
皆で顔を寄せ合って、まるで内緒話でもしているみたいだ。
「いいかい? 皆も察しているだろうけど、あの向こうに邪神が居る」
すぐ近くにある皆の顔がまたこわばったのを感じた。だが、適度な緊張ならいいが、余計な緊張はよろしくない。皆にはベストな状態で邪神を戦ってほしい。だから、オレは小細工をする。
「そんなに怖い顔をしないで。皆は笑っていた方がかわいいよ」
「ディー、今はそれどころでは……」
「いやエル、今だからこそ笑うんだ。それも大声でね。オレは皆のとびきりの笑顔が見たいな。さあ、笑ってくれ。いくよ? あっはっはっはっはっはっはっはっは!」
「ディ、ディー?」
「お兄さま?」
「お兄?」
「今笑えと言われても……」
皆が困惑しているのが分かる。だが、オレに退くつもりはない。
「皆、無理やりでもいい。笑うんだ! はっはっはっはっはっはっはっはっは!」
「あははは……」
「いいぞ、リア。もっと大きな声で思いっきり! あっはっはっはっはっは!」
「あははははは!」
「ん。わっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!」
コルネリアとリリーが乗ってきてくれた。オレはクラウディアとエレオノーレに視線を送る。
「もう。うふふふふふふふふふふふふふ」
「うふふ……」
「クラウ、エル、もっと思いっきり笑おう! ここには礼儀にうるさい奴らも居ないからね! 全力で、思いっきり笑っていこう!」
「あははははははははははははははは!」
「あははははははははははははははははははははは!」
「いいね! いい調子だ!」
邪神と戦う前の最後の時間だと言うのに、オレたちは笑い続けた。最初は無理やりだった笑いが、自然な笑いになるまでそう時間はかからなかった。
そうだね。これから死ぬか生きるかの戦いがあるというのに、なんで笑っているんだろうね。
冷静に考えれば考えるほどおかしな状況だ。
でも、緊張でガチガチになっているより、笑っていた方がいい。大きな声で笑うことによって緊張を解し、いつも以上の力が出せるようになる。
前世のテレビで見ただけのうろ覚えな情報だったが、やってみると意外と効果があるかもしれない。緊張で震えそうだった体は解れ、微かに温かくなっていた。
皆の顔を見れば、少し頬が赤くなっていた。
いいね。いい感じだ。
少なくとも、先ほどの真っ白の死にそうな顔よりもいいだろう。
「よし、笑ったし、行くか」
「お兄さま、どうして急に笑ったのですか?」
「それはね、リア。笑うと力が出るからだよ。ほら、皆いい顔してるだろ? 緊張でガチガチになるよりよっぽどマシさ」
「ん。でも、顎痛い……」
「リリーは普段しゃべらないからだよ」
「ふふ。たしかに緊張が解れた気がします」
「そうですね、お姉さま。体も少し温かくなりました」
「つまり、準備万全だね? じゃあ、行くよ。今度は邪神ごと笑い飛ばしてしまおう」
「「「「はい!」」」」
オレが扉を開けようと手を置くと、扉が勝手に開いていく。扉の向こうから、まるでドライアイスを焚いていたかのように白い煙が這い出て、冷たい空気が流れてきた。
オレは気にすることなく歩みを進める。
見えてきたのは、青い炎を付けた黒い蝋燭に照らされた大きな空間だ。奥には大きな黒い玉座に座る黒い全身甲冑があった。
デカい。座っている状態だというのに、四メートルは超えるだろう。
玉座に流れる光の柱は無い。つまり、邪神四天王はすべて討ち取り、邪神にはバフ効果が無いことが分かる。
ありがたい。どうやらリーンハルトたちは約束を守ってくれたらしい。
甲冑の目の部分に開いたスリットから赤い二つの光が漏れる。邪神の目だ。
『来たか……。人の子の英雄よ……』
まるで風が洞窟に反響しているようなかすれて枯れた声だ。これが邪神の声か……。威厳よりも枯れ果てた老人を想起するような覇気のない声だ。しかし、深い深い憎しみを感じる声だ。
『貴様らに恨みはないが……。消えてもらおう。そして、我こそが神として君臨し、新たなる世界を――――』
「リリー、魔法だ」
「ん!」
目の前の大きな両開きの扉を前に、誰かの息を呑む音が聞こえた。
このいかにもな扉の向こうには邪神が居る。つまり最終決戦だ。緊張するのもわかる。オレたちの双肩には、文字通り世界の命運がかかっている。緊張するのも当たり前だよな。オレだって緊張している。
もしかしたら、さっきの息を呑む音の発生源はオレだったのかもしれない。
それさえもハッキリ分からないくらいオレは緊張していた。
ゲームで何度も邪神を倒したオレでもそれだ。後ろのコルネリアたちの緊張はいかばかりだろう。
オレが振り返ると、こわばった顔をした『レギンレイヴ』のメンバーと目が合った。このままじゃマズいな。皆の緊張を解かないと。
「よし、円陣を組もう!」
「円、陣?」
「そうだよ、リア。さあ、皆丸くなって」
唐突にそんなことを言ったオレを皆が不思議そうな顔を見ていた。だが、ちゃんと丸を作ってくれるあたり皆の信頼を感じた。
そして、オレはコルネリアとエレオノーレと肩を組んで、円陣を形作る。
皆で顔を寄せ合って、まるで内緒話でもしているみたいだ。
「いいかい? 皆も察しているだろうけど、あの向こうに邪神が居る」
すぐ近くにある皆の顔がまたこわばったのを感じた。だが、適度な緊張ならいいが、余計な緊張はよろしくない。皆にはベストな状態で邪神を戦ってほしい。だから、オレは小細工をする。
「そんなに怖い顔をしないで。皆は笑っていた方がかわいいよ」
「ディー、今はそれどころでは……」
「いやエル、今だからこそ笑うんだ。それも大声でね。オレは皆のとびきりの笑顔が見たいな。さあ、笑ってくれ。いくよ? あっはっはっはっはっはっはっはっは!」
「ディ、ディー?」
「お兄さま?」
「お兄?」
「今笑えと言われても……」
皆が困惑しているのが分かる。だが、オレに退くつもりはない。
「皆、無理やりでもいい。笑うんだ! はっはっはっはっはっはっはっはっは!」
「あははは……」
「いいぞ、リア。もっと大きな声で思いっきり! あっはっはっはっはっは!」
「あははははは!」
「ん。わっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!」
コルネリアとリリーが乗ってきてくれた。オレはクラウディアとエレオノーレに視線を送る。
「もう。うふふふふふふふふふふふふふ」
「うふふ……」
「クラウ、エル、もっと思いっきり笑おう! ここには礼儀にうるさい奴らも居ないからね! 全力で、思いっきり笑っていこう!」
「あははははははははははははははは!」
「あははははははははははははははははははははは!」
「いいね! いい調子だ!」
邪神と戦う前の最後の時間だと言うのに、オレたちは笑い続けた。最初は無理やりだった笑いが、自然な笑いになるまでそう時間はかからなかった。
そうだね。これから死ぬか生きるかの戦いがあるというのに、なんで笑っているんだろうね。
冷静に考えれば考えるほどおかしな状況だ。
でも、緊張でガチガチになっているより、笑っていた方がいい。大きな声で笑うことによって緊張を解し、いつも以上の力が出せるようになる。
前世のテレビで見ただけのうろ覚えな情報だったが、やってみると意外と効果があるかもしれない。緊張で震えそうだった体は解れ、微かに温かくなっていた。
皆の顔を見れば、少し頬が赤くなっていた。
いいね。いい感じだ。
少なくとも、先ほどの真っ白の死にそうな顔よりもいいだろう。
「よし、笑ったし、行くか」
「お兄さま、どうして急に笑ったのですか?」
「それはね、リア。笑うと力が出るからだよ。ほら、皆いい顔してるだろ? 緊張でガチガチになるよりよっぽどマシさ」
「ん。でも、顎痛い……」
「リリーは普段しゃべらないからだよ」
「ふふ。たしかに緊張が解れた気がします」
「そうですね、お姉さま。体も少し温かくなりました」
「つまり、準備万全だね? じゃあ、行くよ。今度は邪神ごと笑い飛ばしてしまおう」
「「「「はい!」」」」
オレが扉を開けようと手を置くと、扉が勝手に開いていく。扉の向こうから、まるでドライアイスを焚いていたかのように白い煙が這い出て、冷たい空気が流れてきた。
オレは気にすることなく歩みを進める。
見えてきたのは、青い炎を付けた黒い蝋燭に照らされた大きな空間だ。奥には大きな黒い玉座に座る黒い全身甲冑があった。
デカい。座っている状態だというのに、四メートルは超えるだろう。
玉座に流れる光の柱は無い。つまり、邪神四天王はすべて討ち取り、邪神にはバフ効果が無いことが分かる。
ありがたい。どうやらリーンハルトたちは約束を守ってくれたらしい。
甲冑の目の部分に開いたスリットから赤い二つの光が漏れる。邪神の目だ。
『来たか……。人の子の英雄よ……』
まるで風が洞窟に反響しているようなかすれて枯れた声だ。これが邪神の声か……。威厳よりも枯れ果てた老人を想起するような覇気のない声だ。しかし、深い深い憎しみを感じる声だ。
『貴様らに恨みはないが……。消えてもらおう。そして、我こそが神として君臨し、新たなる世界を――――』
「リリー、魔法だ」
「ん!」
感想 0
あなたにおすすめの小説
嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~
ちくでん「なぜあなたは、私のゲーム知識をことごとく上回ってしまうのですか!?」
魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。
本来のゲームでは外道の悪役貴族だったはずのギリアム。ミューゼアは外道貴族に蹂躙される破滅エンドだったはずなのに、なぜかこの世界線では彼ギリアムは想定外に頑張り屋の好青年。彼はミューゼアのゲーム知識をことごとく超えて彼女を仰天させるイレギュラー、『ゲーム世界のルールブレイカー』でした。
ギリアムとミューゼアは、破滅回避のために力を合わせて領地開拓をしていきます。
スローライフ+悪役転生+領地開拓。これは、ゆったりと生活しながらもだんだんと世の中に(意図せず)影響力を発揮していってしまう二人の物語です。
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
世界最強の七賢者がお世話係の俺にだけはデレデレすぎる件
九十九 避役国の頂点に君臨し、神にも等しい力を持つ『七賢者』。
火・水・風・土・光・闇・氷の属性を極めた彼女たちは、畏怖の対象として国民から崇められていた。
――だが、その「聖域」の扉を一枚隔てた先では、とんでもない光景が広がっていた。
「アルトぉ、この服脱がせてー。熱いから魔法で燃やしちゃった」
「……アルトが隣にいないと、私、一生布団から出ないから」
「いいじゃない、減るもんじゃないし。さあ、私と混ざり合いましょう?」
彼女たちの正体は、私生活が壊滅的にポンコツで、特定の一人に依存しきったデレデレな美少女たちだった!
魔法の才能ゼロの雑用係・アルトは、世界で唯一「彼女たちの暴走魔力に耐えられる」という理由で、24時間体制の身の回りのお世話をすることに。
着替え、食事の介助、添い寝(!?)まで……。
世界最強の7人に取り合われ、振り回され、いじり倒される。
胃袋と心根をガッチリ掴んだお世話係と、愛が重すぎる最強ヒロインたちによる、至福の異世界ハーレムラブコメ、開幕!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
乙女ゲームのヒロインに転生、科学を駆使して剣と魔法の世界を生きる
アミ100国立大学に通っていた理系大学生カナは、あることがきっかけで乙女ゲーム「Amour Tale(アムール テイル)」のヒロインとして転生する。
自由に生きようと決めたカナは、あえて本来のゲームのシナリオを無視し、実践的な魔法や剣が学べる魔術学院への入学を決意する。
魔術学院には、騎士団長の息子ジーク、王国の第2王子ラクア、クラスメイト唯一の女子マリー、剣術道場の息子アランなど、個性的な面々が在籍しており、楽しい日々を送っていた。
しかしそんな中、カナや友人たちの周りで不穏な事件が起こるようになる。
前世から持つ頭脳や科学の知識と、今世で手にした水属性・極闇傾向の魔法適性を駆使し、自身の過去と向き合うため、そして友人の未来を守るために奮闘する。
「今世では、自分の思うように生きよう。前世の二の舞にならないように。」
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。