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005 また訓練
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「いいですねぇ! 大漁だ!」
「坊ちゃん、やりましたね!」
狩人の男たちが、ホーンラビットのぶら下がった棒を担いでニコニコの笑顔を浮かべていた。
あの後、さらに二体のホーンラビットを仕留め、昼に村に帰る頃には、オレは合計五体のホーンラビットを仕留められた。普通はこんなに出会わないらしい。幸運だね。
それ以外にも、狩人たちが弓で野鳥を二羽仕留めていた。
「よし! では、今日はこれで解散だ」
父上の解散の宣言で、狩人たちが頭を下げて村の外れにある小屋へと向かった。あそこでホーンラビットを解体するらしい。ホーンラビットを解体して得た肉は、村人たちに配られるようだ。
「アベル、初めての実戦はどうだった?」
家への帰り道、父上が尋ねてくる。
「疲れました……」
「はっはっはっはっはっはっはっ!」
正直な感想を言うと、父上が笑ってオレの背中をバシバシ叩く。痛い……。
「その気持ちを忘れんことだ。虚勢は身を亡ぼすからな。常に誠実であれ。仲間を信じ、仲間を助けよ。それができれば、お前も立派な辺境の男になれる。強くなれよ」
「はいっ!」
「はっはっはっはっはっはっはっはっ!」
必ず強くなる。そう意志を籠めて頷くと、父上が豪快に笑った。
父上もオレが強くなることを望んでいる。オレもがんばらないとな!
「帰ったぞー!」
父上が豪快に家のドアを開けると、すぐにパタパタと母上が駆けてきた。
「おかえりなさい、あなた、アベル。無事ですか? 怪我はありませんでしたか?」
「アポリーヌが心配しているぞ。アベル、元気な姿を見せてやれ」
「はい。ただいま帰りました、母上。怪我はしてません」
「それならよかったです……。お腹が空いたでしょう? 昼食を準備をしています」
母上はホッと安心したように一息つくと、食堂へと案内してくれた。
母上に心配かけちゃったな。これもオレがまだ弱いからだろう。もっと強くなりたいな。
「アベルがモンスターを五体も倒したぞ。我がヴィアラット男爵家も安泰だな。はっはっは」
「まあ! アベルが一人でですか!?」
食堂の席に着いた父上を責めるように目を細める母上の姿がそこにはあった。父上は慌てたように手を振って答える。
「モンスターと言ってもホーンラビットだ。怪我することはあっても死ぬことはないぞ? それに、アベルも立派にホーンラビットを倒していた。アベルの実力が信じられないのか?」
「そういうわけではないですけど……。わたくしはてっきりあなたが弱らせたモンスターをアベルに止めを刺させたのだとばかり……」
父上が不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「そういう方法もあるがな。中央の貴族家ではそれが普通らしいが、それでは真に強くなることはできん。わしは反対だ。アベルも強くなりたいだろ?」
「はいっ!」
母上が仕方がないとばかりに溜息を吐いた。
「……もぅ。十分に気を付けるのですよ?」
「わかりました、母上」
「心配するな。アベルはわしと毎日訓練しているのだぞ? そこいらのモンスターなんぞに後れは取らん。それより飯にしよう。腹が減った」
「はぁ……」
母上は溜息を吐くと、テーブルに置かれた小さなベルをチリンチリンと鳴らす。すると、メイドのデボラが料理を次々と運んできた。相変わらず貴族の食事と思えないくらい質素だが、我が家ではこれで通常運転だ。
早く強くなって、父上や母上においしいもの食べてほしいなぁ。
◇
「来い! アベル!」
「やああああああ!」
オレは盾を構えながら父上へと駆けていく。盾の裏に片手剣を隠して、どこを狙っているのか隠す小細工も忘れない。もう散々試して父上には通用しないとわかっているけど、少しでもプレッシャーをかけたかった。
「? せやあ!」
いつもなら大剣が一閃する父上の間合いを何事もなく駆け抜け、自分の間合いへと入る。そして、裂帛の気合いを籠めて父上の右膝に向けて剣を横に振るう。
オレと父上では身長差がある。上半身を狙うよりも、下半身を狙った方が嫌がるだろうと思ったのだ。
たぶん父上にはバックステップで避けられる。返しの一撃には気を付けないと。
しかし、オレの予想は外れることになった。父上はオレの剣を避けるどころか、前に踏み込んできたのだ。
「ッ!?」
オレの振るった片手剣が父上の右脚を捉える。
だが、オレはその瞬間に己の敗北がわかった。
たしかにオレの剣は父上の右脚を捉えた。だが、浅すぎる。父上が前に踏み出したことによって、速度の乗ってない剣の根元近くでヒットし、剣本来の攻撃力が発揮されていない。
こんな防御の仕方があるのか!?
驚くオレの顔の横に父上の大剣がピタリと止まっていた。オレの負けだ。
「攻撃が当たったからと言って油断してはいけないぞ? 相手がどのような行動してきても、常に冷静であれ。相手の息の根を止めるまで、決して油断するなよ」
「はい……」
この世界はゲームのような世界だが、現実だ。コマンド選んでいればよかったゲームとはまったく違う。ゲームには無かった相手の思考の裏をかくというのがとても有効だ。勉強になるなぁ。
「坊ちゃん、やりましたね!」
狩人の男たちが、ホーンラビットのぶら下がった棒を担いでニコニコの笑顔を浮かべていた。
あの後、さらに二体のホーンラビットを仕留め、昼に村に帰る頃には、オレは合計五体のホーンラビットを仕留められた。普通はこんなに出会わないらしい。幸運だね。
それ以外にも、狩人たちが弓で野鳥を二羽仕留めていた。
「よし! では、今日はこれで解散だ」
父上の解散の宣言で、狩人たちが頭を下げて村の外れにある小屋へと向かった。あそこでホーンラビットを解体するらしい。ホーンラビットを解体して得た肉は、村人たちに配られるようだ。
「アベル、初めての実戦はどうだった?」
家への帰り道、父上が尋ねてくる。
「疲れました……」
「はっはっはっはっはっはっはっ!」
正直な感想を言うと、父上が笑ってオレの背中をバシバシ叩く。痛い……。
「その気持ちを忘れんことだ。虚勢は身を亡ぼすからな。常に誠実であれ。仲間を信じ、仲間を助けよ。それができれば、お前も立派な辺境の男になれる。強くなれよ」
「はいっ!」
「はっはっはっはっはっはっはっはっ!」
必ず強くなる。そう意志を籠めて頷くと、父上が豪快に笑った。
父上もオレが強くなることを望んでいる。オレもがんばらないとな!
「帰ったぞー!」
父上が豪快に家のドアを開けると、すぐにパタパタと母上が駆けてきた。
「おかえりなさい、あなた、アベル。無事ですか? 怪我はありませんでしたか?」
「アポリーヌが心配しているぞ。アベル、元気な姿を見せてやれ」
「はい。ただいま帰りました、母上。怪我はしてません」
「それならよかったです……。お腹が空いたでしょう? 昼食を準備をしています」
母上はホッと安心したように一息つくと、食堂へと案内してくれた。
母上に心配かけちゃったな。これもオレがまだ弱いからだろう。もっと強くなりたいな。
「アベルがモンスターを五体も倒したぞ。我がヴィアラット男爵家も安泰だな。はっはっは」
「まあ! アベルが一人でですか!?」
食堂の席に着いた父上を責めるように目を細める母上の姿がそこにはあった。父上は慌てたように手を振って答える。
「モンスターと言ってもホーンラビットだ。怪我することはあっても死ぬことはないぞ? それに、アベルも立派にホーンラビットを倒していた。アベルの実力が信じられないのか?」
「そういうわけではないですけど……。わたくしはてっきりあなたが弱らせたモンスターをアベルに止めを刺させたのだとばかり……」
父上が不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「そういう方法もあるがな。中央の貴族家ではそれが普通らしいが、それでは真に強くなることはできん。わしは反対だ。アベルも強くなりたいだろ?」
「はいっ!」
母上が仕方がないとばかりに溜息を吐いた。
「……もぅ。十分に気を付けるのですよ?」
「わかりました、母上」
「心配するな。アベルはわしと毎日訓練しているのだぞ? そこいらのモンスターなんぞに後れは取らん。それより飯にしよう。腹が減った」
「はぁ……」
母上は溜息を吐くと、テーブルに置かれた小さなベルをチリンチリンと鳴らす。すると、メイドのデボラが料理を次々と運んできた。相変わらず貴族の食事と思えないくらい質素だが、我が家ではこれで通常運転だ。
早く強くなって、父上や母上においしいもの食べてほしいなぁ。
◇
「来い! アベル!」
「やああああああ!」
オレは盾を構えながら父上へと駆けていく。盾の裏に片手剣を隠して、どこを狙っているのか隠す小細工も忘れない。もう散々試して父上には通用しないとわかっているけど、少しでもプレッシャーをかけたかった。
「? せやあ!」
いつもなら大剣が一閃する父上の間合いを何事もなく駆け抜け、自分の間合いへと入る。そして、裂帛の気合いを籠めて父上の右膝に向けて剣を横に振るう。
オレと父上では身長差がある。上半身を狙うよりも、下半身を狙った方が嫌がるだろうと思ったのだ。
たぶん父上にはバックステップで避けられる。返しの一撃には気を付けないと。
しかし、オレの予想は外れることになった。父上はオレの剣を避けるどころか、前に踏み込んできたのだ。
「ッ!?」
オレの振るった片手剣が父上の右脚を捉える。
だが、オレはその瞬間に己の敗北がわかった。
たしかにオレの剣は父上の右脚を捉えた。だが、浅すぎる。父上が前に踏み出したことによって、速度の乗ってない剣の根元近くでヒットし、剣本来の攻撃力が発揮されていない。
こんな防御の仕方があるのか!?
驚くオレの顔の横に父上の大剣がピタリと止まっていた。オレの負けだ。
「攻撃が当たったからと言って油断してはいけないぞ? 相手がどのような行動してきても、常に冷静であれ。相手の息の根を止めるまで、決して油断するなよ」
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