83 / 117
083 王都デートへ
しおりを挟む
ブラシェール伯爵邸の玄関をくぐると、オレは豪華な応接間に通された。すぐにお茶やお菓子が出てくるのはさすがだね。
お菓子は食べたい。しかし、オレはこれからデートだ。あまりかっこ悪い姿は見せられないよな。
オレは断腸の思いでケーキを一つだけ取ると、ちょっとずつ味わって食べた。
「うまい……」
やっぱ、さすがのブラシェール伯爵家だね。いい職人を雇っている。めちゃくちゃうまい。
学園の寮ではお菓子なんて出ないから、めちゃくちゃうれしいよ。
そんな感じで感動しながらケーキを食べていたら、ノックの音が飛び込んできた。
「どうぞ」
ドア付近に待機していた男性使用人に頷くと、ドアが開く。
「お待たせ、アベル」
濃い紫色のドレスに身を包んだシャルリーヌだ。綺麗に髪もセットして、装飾品も身に付けている姿はなんだか背伸びしていてかわいらしい。
オレは立ち上がると、シャルリーヌの元まで歩いていく。
「シャルリーヌはいつもかわいいけど、今日は一段と綺麗だね。ビックリしたよ」
「ふふん。そうでしょ?」
得意げな顔をしているシャルリーヌにオレは背中に隠していた花束を差し出した。
「可憐なお嬢さん、どうか受け取ってくれませんか?」
「まあ! リンリの花ね。ありがとう、アベル」
シャルリーヌは予想以上に感激してくれた。
ふとシャルリーヌの後ろにいたおじ様を見ると、おじ様はオレを見てパチリとウインクをしてくれた。
かっけー!
おじ様のおかげでシャルリーヌがこんなに喜んでくれたし、オレも恥をかかずに済んだ。やっぱりブラシェール伯爵家はすげーよ。おじ様のようなこんなにも気が利く使用人を雇えてるんだから。
「ねえ、アベル。今日はどこに連れて行ってくれるのかしら?」
え?
オレがシャルリーヌを案内する感じ?
辺境出身で、王都で遊んだこともないオレが?
王都育ちのシャルリーヌを?
んな無茶な。
「オレはまだ王都に何があるのかもわからないからさ。今日はシャルリーヌの好きな所を教えてもらおうと思って。シャルリーヌは王都が大好きだって言っていただろ? オレにもシャルリーヌの大好きな王都を教えてくれないか? シャルリーヌの好きなものをオレも好きになりたいんだ」
「まあ! そういうことなのね。任せておいて」
シャルリーヌは嬉しそう目を輝かせてうんうんと頷いていた。
なんとか誤魔化せたか?
そうだった。この国でのデートってだいたい男性がエスコートするんだった。忘れていたよ。危うくシャルリーヌに無策だと覚られるところだった。
その時、おじ様がこっそり右手の親指を立てていた。
おじ様から見ても、オレの言い訳はいいできだったらしい。助かった。
「でしたら、今からどこに行くかお話しましょう? 王都はいろんなものがあるから、きっとアベルも気に入ってくれると思うわ」
「ああ」
オレとシャルリーヌは、ソファーに座ってお菓子を突きながら、今日の予定を決め始めるのだった。
◇
「出発されましたね」
窓の向こう、見事に整えられたブラシェール伯爵家のお庭の中を一台の馬車が進んでいく。
あの中に、シャルリーヌ様とアベル様が乗っていらっしゃるはずだ。予定からは大幅に遅れていたけれど、これからお二人でデートなのでしょう。
「アリソン」
後ろから名前を呼ばれて振り返ると、まるで町娘のような恰好をしたブリジットがソファーに座ってケーキを食べていました。
「行ったの?」
「ええ。出発されたようですわ」
「じゃあ?」
「そろそろわたくしたちも出発いたしましょう」
わたくしが言うと、ブリジットがお口の中にケーキを詰め込んで立ち上がりました。その唇の横には、ケーキのクリームが付いていました。
ブリジットは気が付いていないようです。
「ブリジット」
「なに?」
「動かないでね」
わたくしは右手の人差し指でブリジットの頬に付いていたクリームを取ると、その指を口に含みました。
甘いです。
「ちょ、ちょっと!?」
なぜか、ブリジットが慌てたような声をあげます。
「どうしたの?」
「なにも舐めなくてもいいじゃない!」
「? 何がいけないのかしら?」
「布巾で拭けばいいじゃない!」
「もったいないのでは?」
「あーもう、アリソンってしっかりしているようで意外に天然よね」
「そうでしょうか?」
「そうよ。なんだか心配になるわ」
ブリジットに心配されるのは、なんだか心外ですね。いつもブリジットのことを心配しているのはわたくしなのに。
「それよりも行きましょう。あまりのんびりしていると、見失ってしまいますわ」
「そうね。でも、本当に馬車を使わないの? こんな格好までして」
ブリジットが胸の前で結ばれたリボンを弾きます。その姿は、まるでちょっと裕福な平民の娘のようです。
下を見下ろすと、わたくしもブリジットと同じくまるで商人の娘のような恰好が目に入ります。
「馬車を使うと勘付かれてしまいますもの。わたくしたちはシャルリーヌ様をお守りしたいだけで、逢瀬の邪魔をしたいわけではないのですもの」
そう。わたくしたちはシャルリーヌ様をお守りするためにお二人の逢瀬をこっそりと監視するだけです。
殿方はオオカミなんて言葉もあります。わたくしたちがシャルリーヌ様の貞操をお守りしなくては!
お菓子は食べたい。しかし、オレはこれからデートだ。あまりかっこ悪い姿は見せられないよな。
オレは断腸の思いでケーキを一つだけ取ると、ちょっとずつ味わって食べた。
「うまい……」
やっぱ、さすがのブラシェール伯爵家だね。いい職人を雇っている。めちゃくちゃうまい。
学園の寮ではお菓子なんて出ないから、めちゃくちゃうれしいよ。
そんな感じで感動しながらケーキを食べていたら、ノックの音が飛び込んできた。
「どうぞ」
ドア付近に待機していた男性使用人に頷くと、ドアが開く。
「お待たせ、アベル」
濃い紫色のドレスに身を包んだシャルリーヌだ。綺麗に髪もセットして、装飾品も身に付けている姿はなんだか背伸びしていてかわいらしい。
オレは立ち上がると、シャルリーヌの元まで歩いていく。
「シャルリーヌはいつもかわいいけど、今日は一段と綺麗だね。ビックリしたよ」
「ふふん。そうでしょ?」
得意げな顔をしているシャルリーヌにオレは背中に隠していた花束を差し出した。
「可憐なお嬢さん、どうか受け取ってくれませんか?」
「まあ! リンリの花ね。ありがとう、アベル」
シャルリーヌは予想以上に感激してくれた。
ふとシャルリーヌの後ろにいたおじ様を見ると、おじ様はオレを見てパチリとウインクをしてくれた。
かっけー!
おじ様のおかげでシャルリーヌがこんなに喜んでくれたし、オレも恥をかかずに済んだ。やっぱりブラシェール伯爵家はすげーよ。おじ様のようなこんなにも気が利く使用人を雇えてるんだから。
「ねえ、アベル。今日はどこに連れて行ってくれるのかしら?」
え?
オレがシャルリーヌを案内する感じ?
辺境出身で、王都で遊んだこともないオレが?
王都育ちのシャルリーヌを?
んな無茶な。
「オレはまだ王都に何があるのかもわからないからさ。今日はシャルリーヌの好きな所を教えてもらおうと思って。シャルリーヌは王都が大好きだって言っていただろ? オレにもシャルリーヌの大好きな王都を教えてくれないか? シャルリーヌの好きなものをオレも好きになりたいんだ」
「まあ! そういうことなのね。任せておいて」
シャルリーヌは嬉しそう目を輝かせてうんうんと頷いていた。
なんとか誤魔化せたか?
そうだった。この国でのデートってだいたい男性がエスコートするんだった。忘れていたよ。危うくシャルリーヌに無策だと覚られるところだった。
その時、おじ様がこっそり右手の親指を立てていた。
おじ様から見ても、オレの言い訳はいいできだったらしい。助かった。
「でしたら、今からどこに行くかお話しましょう? 王都はいろんなものがあるから、きっとアベルも気に入ってくれると思うわ」
「ああ」
オレとシャルリーヌは、ソファーに座ってお菓子を突きながら、今日の予定を決め始めるのだった。
◇
「出発されましたね」
窓の向こう、見事に整えられたブラシェール伯爵家のお庭の中を一台の馬車が進んでいく。
あの中に、シャルリーヌ様とアベル様が乗っていらっしゃるはずだ。予定からは大幅に遅れていたけれど、これからお二人でデートなのでしょう。
「アリソン」
後ろから名前を呼ばれて振り返ると、まるで町娘のような恰好をしたブリジットがソファーに座ってケーキを食べていました。
「行ったの?」
「ええ。出発されたようですわ」
「じゃあ?」
「そろそろわたくしたちも出発いたしましょう」
わたくしが言うと、ブリジットがお口の中にケーキを詰め込んで立ち上がりました。その唇の横には、ケーキのクリームが付いていました。
ブリジットは気が付いていないようです。
「ブリジット」
「なに?」
「動かないでね」
わたくしは右手の人差し指でブリジットの頬に付いていたクリームを取ると、その指を口に含みました。
甘いです。
「ちょ、ちょっと!?」
なぜか、ブリジットが慌てたような声をあげます。
「どうしたの?」
「なにも舐めなくてもいいじゃない!」
「? 何がいけないのかしら?」
「布巾で拭けばいいじゃない!」
「もったいないのでは?」
「あーもう、アリソンってしっかりしているようで意外に天然よね」
「そうでしょうか?」
「そうよ。なんだか心配になるわ」
ブリジットに心配されるのは、なんだか心外ですね。いつもブリジットのことを心配しているのはわたくしなのに。
「それよりも行きましょう。あまりのんびりしていると、見失ってしまいますわ」
「そうね。でも、本当に馬車を使わないの? こんな格好までして」
ブリジットが胸の前で結ばれたリボンを弾きます。その姿は、まるでちょっと裕福な平民の娘のようです。
下を見下ろすと、わたくしもブリジットと同じくまるで商人の娘のような恰好が目に入ります。
「馬車を使うと勘付かれてしまいますもの。わたくしたちはシャルリーヌ様をお守りしたいだけで、逢瀬の邪魔をしたいわけではないのですもの」
そう。わたくしたちはシャルリーヌ様をお守りするためにお二人の逢瀬をこっそりと監視するだけです。
殿方はオオカミなんて言葉もあります。わたくしたちがシャルリーヌ様の貞操をお守りしなくては!
120
あなたにおすすめの小説
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~
テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。
しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。
ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。
「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」
彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ――
目が覚めると未知の洞窟にいた。
貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。
その中から現れたモノは……
「えっ? 女の子???」
これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。
ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム
前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した
記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた
村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く
ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた
そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた
私は捨てられたので村をすてる
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。
無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。
一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。
甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。
しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--
これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話
複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。
シトラス=ライス
ファンタジー
万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。
十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。
そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。
おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。
夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。
彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、
「獲物、来ましたね……?」
下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】
アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。
*前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。
また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる