【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)

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083 王都デートへ

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 ブラシェール伯爵邸の玄関をくぐると、オレは豪華な応接間に通された。すぐにお茶やお菓子が出てくるのはさすがだね。

 お菓子は食べたい。しかし、オレはこれからデートだ。あまりかっこ悪い姿は見せられないよな。

 オレは断腸の思いでケーキを一つだけ取ると、ちょっとずつ味わって食べた。

「うまい……」

 やっぱ、さすがのブラシェール伯爵家だね。いい職人を雇っている。めちゃくちゃうまい。

 学園の寮ではお菓子なんて出ないから、めちゃくちゃうれしいよ。

 そんな感じで感動しながらケーキを食べていたら、ノックの音が飛び込んできた。

「どうぞ」

 ドア付近に待機していた男性使用人に頷くと、ドアが開く。

「お待たせ、アベル」

 濃い紫色のドレスに身を包んだシャルリーヌだ。綺麗に髪もセットして、装飾品も身に付けている姿はなんだか背伸びしていてかわいらしい。

 オレは立ち上がると、シャルリーヌの元まで歩いていく。

「シャルリーヌはいつもかわいいけど、今日は一段と綺麗だね。ビックリしたよ」
「ふふん。そうでしょ?」

 得意げな顔をしているシャルリーヌにオレは背中に隠していた花束を差し出した。

「可憐なお嬢さん、どうか受け取ってくれませんか?」
「まあ! リンリの花ね。ありがとう、アベル」

 シャルリーヌは予想以上に感激してくれた。

 ふとシャルリーヌの後ろにいたおじ様を見ると、おじ様はオレを見てパチリとウインクをしてくれた。

 かっけー!

 おじ様のおかげでシャルリーヌがこんなに喜んでくれたし、オレも恥をかかずに済んだ。やっぱりブラシェール伯爵家はすげーよ。おじ様のようなこんなにも気が利く使用人を雇えてるんだから。

「ねえ、アベル。今日はどこに連れて行ってくれるのかしら?」

 え?

 オレがシャルリーヌを案内する感じ?

 辺境出身で、王都で遊んだこともないオレが?

 王都育ちのシャルリーヌを?

 んな無茶な。

「オレはまだ王都に何があるのかもわからないからさ。今日はシャルリーヌの好きな所を教えてもらおうと思って。シャルリーヌは王都が大好きだって言っていただろ? オレにもシャルリーヌの大好きな王都を教えてくれないか? シャルリーヌの好きなものをオレも好きになりたいんだ」
「まあ! そういうことなのね。任せておいて」

 シャルリーヌは嬉しそう目を輝かせてうんうんと頷いていた。

 なんとか誤魔化せたか?

 そうだった。この国でのデートってだいたい男性がエスコートするんだった。忘れていたよ。危うくシャルリーヌに無策だと覚られるところだった。

 その時、おじ様がこっそり右手の親指を立てていた。

 おじ様から見ても、オレの言い訳はいいできだったらしい。助かった。

「でしたら、今からどこに行くかお話しましょう? 王都はいろんなものがあるから、きっとアベルも気に入ってくれると思うわ」
「ああ」

 オレとシャルリーヌは、ソファーに座ってお菓子を突きながら、今日の予定を決め始めるのだった。


 ◇


「出発されましたね」

 窓の向こう、見事に整えられたブラシェール伯爵家のお庭の中を一台の馬車が進んでいく。

 あの中に、シャルリーヌ様とアベル様が乗っていらっしゃるはずだ。予定からは大幅に遅れていたけれど、これからお二人でデートなのでしょう。

「アリソン」

 後ろから名前を呼ばれて振り返ると、まるで町娘のような恰好をしたブリジットがソファーに座ってケーキを食べていました。


「行ったの?」
「ええ。出発されたようですわ」
「じゃあ?」
「そろそろわたくしたちも出発いたしましょう」

 わたくしが言うと、ブリジットがお口の中にケーキを詰め込んで立ち上がりました。その唇の横には、ケーキのクリームが付いていました。

 ブリジットは気が付いていないようです。

「ブリジット」
「なに?」
「動かないでね」

 わたくしは右手の人差し指でブリジットの頬に付いていたクリームを取ると、その指を口に含みました。

 甘いです。

「ちょ、ちょっと!?」

 なぜか、ブリジットが慌てたような声をあげます。

「どうしたの?」
「なにも舐めなくてもいいじゃない!」
「? 何がいけないのかしら?」
「布巾で拭けばいいじゃない!」
「もったいないのでは?」
「あーもう、アリソンってしっかりしているようで意外に天然よね」
「そうでしょうか?」
「そうよ。なんだか心配になるわ」

 ブリジットに心配されるのは、なんだか心外ですね。いつもブリジットのことを心配しているのはわたくしなのに。

「それよりも行きましょう。あまりのんびりしていると、見失ってしまいますわ」
「そうね。でも、本当に馬車を使わないの? こんな格好までして」

 ブリジットが胸の前で結ばれたリボンを弾きます。その姿は、まるでちょっと裕福な平民の娘のようです。

 下を見下ろすと、わたくしもブリジットと同じくまるで商人の娘のような恰好が目に入ります。

「馬車を使うと勘付かれてしまいますもの。わたくしたちはシャルリーヌ様をお守りしたいだけで、逢瀬の邪魔をしたいわけではないのですもの」

 そう。わたくしたちはシャルリーヌ様をお守りするためにお二人の逢瀬をこっそりと監視するだけです。

 殿方はオオカミなんて言葉もあります。わたくしたちがシャルリーヌ様の貞操をお守りしなくては!
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