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087 マジックバッグ
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あれからシャルリーヌとバルバラはおしゃべりに夢中だった。
淑女教育の成果なのか、シャルリーヌには何度か男性の意見を求める形で話を振られた。そして、やっぱりバルバラも凄腕の商人なのか、オレを話に置いてけぼりにしたり、飽きさせるようなことはしなかった。
オレとシャルリーヌがまだ子どもというのがあるだろうが、専門用語を極力排したしゃべり方をしていたし、知識がないオレにもわかりやすいように実物を見せてくれたり、バルバラがさまざまな工夫しているのがわかった。
ブラシェール伯爵家で出会ったおじ様が紳士なら、バルバルは淑女なのだろう。紳士を目指そうと決めたオレからすると、大変参考になる。
「シャルリーヌお嬢様、こちらをどうぞ。前回注文いただいた物です」
そんな楽しいバルバラとの楽しい語らいも終わり、フェアリーダンスから出ようとしたら、バルバラがシャルリーヌにビロードの宝石箱のような物を渡していた。
あの箱の中にシャルリーヌが注文したドレスが入っているのだろうか?
箱の大きさは縦横二十センチメートルほど、厚さは三センチメートルほどしかない。
こんな小さな箱にドレスって入るの?
そんな疑問を感じながら、オレはバルバラから箱を受け取ろうとした。
なんでわざわざそんなことをするのかって?
その方が紳士っぽいだろ!
「荷物なら持つよ」
「だ、大丈夫!」
しかし、シャルリーヌはバルバラからひったくるように箱を受け取ってしまった。
なんで?
「でも、邪魔になるだろ?」
「大丈夫よ。ちゃんとこれに入れるから」
そう言ってシャルリーヌが指差したのは、腰に着けていた小さなかわいらしいポシェットだった。
ポシェットの口の大きさは、どう見ても十センチメートルほどしかない。とても箱が入るように見えないんだけど?
「入らないんじゃない?」
「大丈夫だったら」
そう言って、シャルリーヌが箱をポシェットの口に突っ込む。どう見ても入りそうになかったのに、まるで空間が歪んでしまったかのようにポシェットは箱を飲み込んだ。
「え……?」
思わず間抜けな声が出てしまった。
だって、どう見てもポシェットよりビロードの箱の方が大きかった。箱を潰して無理やり詰め込んだようには見えなかったし、シャルリーヌがそんなことをするとも思えない。
「どうなってんの……?」
「え? 普通のマジックバッグよ。ちょっと容量は少ないけど、かわいいからお気に入りなの。……まさか、知らないの?」
え? 普通に知らないけど? 何なの、マジックバッグって? そんなアイテム、『ヒーローズ・ジャーニー』には登場しなかったぞ?
「知らない。マジックバッグって何なの?」
「そうなの? お父様は辺境の特産品だっておっしゃっていたけど、違ったのかしら? えっとね、マジックバッグっていうのは、いっぱい物が入る鞄のことなの」
「鞄……」
いっぱい物が入るって言われてもな。たしかにポシェットより大きな箱を入れたのは一見マジックのようにも見えたけど、いったいどれくらい物が入るのだろう?
「えーっと……」
オレがまだ不思議そうな顔をしていたからだろう。シャルリーヌが口を開くが、これ以上マジックバッグの説明ができないのか、口を開いたり閉じたりしていた。かわいいね?
「シャルリーヌお嬢様、私にお任せください」
シャルリーヌが困っている雰囲気を感じ取ったのか、バルバラが口を開く。
「アベル様、マジックバッグとは、その見た目以上に物が入る魔法の鞄のことでございます。主に辺境のダンジョンから見つかり、その形はさまざまです。シャルリーヌお嬢様がお持ちのようなポシェットのような形もございますし、大きなバックパックのような形もございます。変わったものでは、指輪型のマジックバッグを存在するとか」
ダンジョンで見つかる……。前世で何度も『ヒーローズ・ジャーニー』をプレイしたオレだが、マジックバッグの存在は知らない。
たしかに、この世界はゲームのようでゲームではない。現実だ。オレの知らないことなど今までたくさん発見してきた。
だが、こんなに有用で影響力のありそうなアイテムがゲームに登場しないなんてありえるのか?
「肝心のマジックバッグに物がどれだけ入るかについてですが、これもマジックバッグごとにさまざまです。ほんの少しだけ鞄の容量が増える物もあれば、中には大きな屋敷が丸ごと入るようなマジックバッグもあるとか……」
「屋敷が丸ごと!?」
それ、もうヤバいじゃん。影響力がどうとかの次元じゃない。もう常識を破壊する革命レベルだ。
欲しい……。
そんなに大量の荷物を運ぶことができるアイテムがあるなら、今まで無意識に諦めていたことすら可能になる。
例えば、ダンジョンの攻略。
今まで、持てる水や食料などの物資の量で攻略できる階層が決まってくると思っていた。だから、飲食の必要がなく、物資を無限に持てるゲームならまだしも、この世界ではダンジョンの攻略にも制限がかかると思っていたのだ。
それが今、撤回された!
淑女教育の成果なのか、シャルリーヌには何度か男性の意見を求める形で話を振られた。そして、やっぱりバルバラも凄腕の商人なのか、オレを話に置いてけぼりにしたり、飽きさせるようなことはしなかった。
オレとシャルリーヌがまだ子どもというのがあるだろうが、専門用語を極力排したしゃべり方をしていたし、知識がないオレにもわかりやすいように実物を見せてくれたり、バルバラがさまざまな工夫しているのがわかった。
ブラシェール伯爵家で出会ったおじ様が紳士なら、バルバルは淑女なのだろう。紳士を目指そうと決めたオレからすると、大変参考になる。
「シャルリーヌお嬢様、こちらをどうぞ。前回注文いただいた物です」
そんな楽しいバルバラとの楽しい語らいも終わり、フェアリーダンスから出ようとしたら、バルバラがシャルリーヌにビロードの宝石箱のような物を渡していた。
あの箱の中にシャルリーヌが注文したドレスが入っているのだろうか?
箱の大きさは縦横二十センチメートルほど、厚さは三センチメートルほどしかない。
こんな小さな箱にドレスって入るの?
そんな疑問を感じながら、オレはバルバラから箱を受け取ろうとした。
なんでわざわざそんなことをするのかって?
その方が紳士っぽいだろ!
「荷物なら持つよ」
「だ、大丈夫!」
しかし、シャルリーヌはバルバラからひったくるように箱を受け取ってしまった。
なんで?
「でも、邪魔になるだろ?」
「大丈夫よ。ちゃんとこれに入れるから」
そう言ってシャルリーヌが指差したのは、腰に着けていた小さなかわいらしいポシェットだった。
ポシェットの口の大きさは、どう見ても十センチメートルほどしかない。とても箱が入るように見えないんだけど?
「入らないんじゃない?」
「大丈夫だったら」
そう言って、シャルリーヌが箱をポシェットの口に突っ込む。どう見ても入りそうになかったのに、まるで空間が歪んでしまったかのようにポシェットは箱を飲み込んだ。
「え……?」
思わず間抜けな声が出てしまった。
だって、どう見てもポシェットよりビロードの箱の方が大きかった。箱を潰して無理やり詰め込んだようには見えなかったし、シャルリーヌがそんなことをするとも思えない。
「どうなってんの……?」
「え? 普通のマジックバッグよ。ちょっと容量は少ないけど、かわいいからお気に入りなの。……まさか、知らないの?」
え? 普通に知らないけど? 何なの、マジックバッグって? そんなアイテム、『ヒーローズ・ジャーニー』には登場しなかったぞ?
「知らない。マジックバッグって何なの?」
「そうなの? お父様は辺境の特産品だっておっしゃっていたけど、違ったのかしら? えっとね、マジックバッグっていうのは、いっぱい物が入る鞄のことなの」
「鞄……」
いっぱい物が入るって言われてもな。たしかにポシェットより大きな箱を入れたのは一見マジックのようにも見えたけど、いったいどれくらい物が入るのだろう?
「えーっと……」
オレがまだ不思議そうな顔をしていたからだろう。シャルリーヌが口を開くが、これ以上マジックバッグの説明ができないのか、口を開いたり閉じたりしていた。かわいいね?
「シャルリーヌお嬢様、私にお任せください」
シャルリーヌが困っている雰囲気を感じ取ったのか、バルバラが口を開く。
「アベル様、マジックバッグとは、その見た目以上に物が入る魔法の鞄のことでございます。主に辺境のダンジョンから見つかり、その形はさまざまです。シャルリーヌお嬢様がお持ちのようなポシェットのような形もございますし、大きなバックパックのような形もございます。変わったものでは、指輪型のマジックバッグを存在するとか」
ダンジョンで見つかる……。前世で何度も『ヒーローズ・ジャーニー』をプレイしたオレだが、マジックバッグの存在は知らない。
たしかに、この世界はゲームのようでゲームではない。現実だ。オレの知らないことなど今までたくさん発見してきた。
だが、こんなに有用で影響力のありそうなアイテムがゲームに登場しないなんてありえるのか?
「肝心のマジックバッグに物がどれだけ入るかについてですが、これもマジックバッグごとにさまざまです。ほんの少しだけ鞄の容量が増える物もあれば、中には大きな屋敷が丸ごと入るようなマジックバッグもあるとか……」
「屋敷が丸ごと!?」
それ、もうヤバいじゃん。影響力がどうとかの次元じゃない。もう常識を破壊する革命レベルだ。
欲しい……。
そんなに大量の荷物を運ぶことができるアイテムがあるなら、今まで無意識に諦めていたことすら可能になる。
例えば、ダンジョンの攻略。
今まで、持てる水や食料などの物資の量で攻略できる階層が決まってくると思っていた。だから、飲食の必要がなく、物資を無限に持てるゲームならまだしも、この世界ではダンジョンの攻略にも制限がかかると思っていたのだ。
それが今、撤回された!
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