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086 フェアリーダンス
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「ここがルシャワン通りか!」
目の前に広がるのは、四車線の大通りとたくさんの馬車の群れ、そして、見渡す限りの人、人、人。すごい賑わいだね。
だが、不思議とやかましい喧騒の類は聞こえない。ここが高級店ひしめく場所だというのも関係しているのかもしれない。
王都の南に広がる巨大な商業区。その一番の大通りがルシャワン通りだ。ここには一流のものしか存在しないとまで言われている王国屈指の大商店街である。
ちなみに、一流のものしか存在しないというのは、扱う商品だけではなく、商品を扱う商人も一流しかいないという意味らしい。
一流の商人か。なんだか怖いね。軽快な話に丸め込まれて、いろんなものを買ってしまいそうだ。気を付けないと。
「さあ、行きましょ」
しかし、そんなオレの胸中など知らないとばかりにシャルリーヌがにこりと笑う。
オレはすぐに馬車を降りて、シャルリーヌに手を伸ばした。
「お手をどうぞ、お嬢様」
「まあ、ありがとう」
二人でくすくす笑って、オレたちは目の前の服飾店へと入っていく。すごい高級な雰囲気で気圧されるけど、ここがシャルリーヌのいつも使っているお店らしい。さすが、ブラシェール伯爵家のお嬢様だよ。
「いらっしゃいませ」
ドアマンらしき屈強な男がドアを開けると、意外とスッキリした感じの店内が見えた。店内には、いくつかのドレスを着たマネキンが置いてあるだけで、商品らしき物が置いていない。
売り切れだろうか?
そんなことを考えていると、店の奥からマダムという感じの太ったおば様が足早にこちらに向かってきた。
「あら、あら、あら! シャルリーヌお嬢様ではありませんか! まさかお店にいらしていただけるなんて! 感激でございます!」
「ごぶさたしてるわね。今日はデートなの」
そう言ってシャルリーヌがオレの左腕に抱き付いてくる。軽い衝撃と共に、ふわりとシャルリーヌの付けている甘い香水の匂いがした。
「あら、あら、あら! 素敵なボーイフレンドでございますね!」
「シャルリーヌの婚約者のアベルだ」
「アベル様、ようこそ、私のお店へ。あらいけない、私ったらつい立ち話を。どうぞ、こちらにいらしてくだい」
マダムに案内されて、オレたちは店の奥に用意された部屋に入る。ここにもドレスを着たマネキンや、かわいらしいぬいぐるみが置かれ、壁にはいくつもパッチワークされた布が垂れ下がった部屋だった。
たぶんここが客をもてなすための部屋なのだろう。ソファーに座ると、すぐにお茶とお菓子も出てきた。
「申し遅れました。私はこのお店、フェアリーダンスのオーナーのバルバラと申します。アベル様、ぜひお見知りおきください。それとシャルリーヌお嬢様、実はまだ前回ご注文いただいたドレスですが、昨夜完成いたしました」
「まあ! 楽しみだわ!」
ドレスが完成したと聞いて、シャルリーヌはニコニコだ。
「昨夜遅くでしたので、連絡は控えさせていただいたのです。それで、今日はどうされたのでしょう?」
「今日はアベルにわたくしの好きな場所を紹介するデートなの」
「あら、あら、あら! そうでございましたか!」
シャルリーヌに好きな場所と言ってもらえたからか、バルバラは優しく目を細めて嬉しそうに笑っていた。
それにしても、服屋さんが好きな場所って、シャルリーヌは本当にお洒落さんだね。
これは、オレもシャルリーヌになにか買ってあげた方がいいのだろうか?
一応、オレにはとりあえずテオドールから巻き上げた金がある。だが、ここフェアリーダンスは高級店みたいだし、お金が足りるかどうかが心配だ。
「そうでした。シャルリーヌお嬢様にぜひご覧いただきたいものがあるのです」
「まあ、何かしら?」
「実は先日、渡来品の希少な布が手に入りまして……。十三番を持ってきてちょうだい」
バルバラがメイド服のような服を着た従業員に指示を出し、壁にかかっていたパッチワークを持ってこさせる。持って来られたパッチワークには、金ぴかな布や騎馬民族のような見事な刺繍が為された布、日本の友禅染のような布など、さまざまな布が使われているようだ。
「こちらが新しく入荷した布でございます」
「まあ! どれも美しいわね!」
二人してパッチワークを覗き込むシャルリーヌとバルバラ。どうやらこのパッチワークは単なる壁飾りではなく、商品をお披露目する役目も兼ねているらしい。
「こっちのは赤い魚かしら? 魚の模様って珍しいわね」
「そうでございますね。こちらはこの国では見られない植物の柄でございますね」
「これも素敵ね!」
「こちらの布でドレスを飾るリボンを作ってみるのはいかがでしょうか?」
「それ、とってもいいわ!」
「さっそく試作品を作ってみます」
「お願いね!」
二人で楽しそうに布を見て意見交換をするシャルリーヌとバルバラ。歳が離れているけど、その姿は友だち同士のように仲が良かった。
なるほど。シャルリーヌがこの店をオレに紹介するわけだ。
「そのリボンの代金はオレが持つよ。今日のデートの記念だ」
「まあ! ありがとう、アベル」
これで少しはオレも紳士に近づけたかな?
目の前に広がるのは、四車線の大通りとたくさんの馬車の群れ、そして、見渡す限りの人、人、人。すごい賑わいだね。
だが、不思議とやかましい喧騒の類は聞こえない。ここが高級店ひしめく場所だというのも関係しているのかもしれない。
王都の南に広がる巨大な商業区。その一番の大通りがルシャワン通りだ。ここには一流のものしか存在しないとまで言われている王国屈指の大商店街である。
ちなみに、一流のものしか存在しないというのは、扱う商品だけではなく、商品を扱う商人も一流しかいないという意味らしい。
一流の商人か。なんだか怖いね。軽快な話に丸め込まれて、いろんなものを買ってしまいそうだ。気を付けないと。
「さあ、行きましょ」
しかし、そんなオレの胸中など知らないとばかりにシャルリーヌがにこりと笑う。
オレはすぐに馬車を降りて、シャルリーヌに手を伸ばした。
「お手をどうぞ、お嬢様」
「まあ、ありがとう」
二人でくすくす笑って、オレたちは目の前の服飾店へと入っていく。すごい高級な雰囲気で気圧されるけど、ここがシャルリーヌのいつも使っているお店らしい。さすが、ブラシェール伯爵家のお嬢様だよ。
「いらっしゃいませ」
ドアマンらしき屈強な男がドアを開けると、意外とスッキリした感じの店内が見えた。店内には、いくつかのドレスを着たマネキンが置いてあるだけで、商品らしき物が置いていない。
売り切れだろうか?
そんなことを考えていると、店の奥からマダムという感じの太ったおば様が足早にこちらに向かってきた。
「あら、あら、あら! シャルリーヌお嬢様ではありませんか! まさかお店にいらしていただけるなんて! 感激でございます!」
「ごぶさたしてるわね。今日はデートなの」
そう言ってシャルリーヌがオレの左腕に抱き付いてくる。軽い衝撃と共に、ふわりとシャルリーヌの付けている甘い香水の匂いがした。
「あら、あら、あら! 素敵なボーイフレンドでございますね!」
「シャルリーヌの婚約者のアベルだ」
「アベル様、ようこそ、私のお店へ。あらいけない、私ったらつい立ち話を。どうぞ、こちらにいらしてくだい」
マダムに案内されて、オレたちは店の奥に用意された部屋に入る。ここにもドレスを着たマネキンや、かわいらしいぬいぐるみが置かれ、壁にはいくつもパッチワークされた布が垂れ下がった部屋だった。
たぶんここが客をもてなすための部屋なのだろう。ソファーに座ると、すぐにお茶とお菓子も出てきた。
「申し遅れました。私はこのお店、フェアリーダンスのオーナーのバルバラと申します。アベル様、ぜひお見知りおきください。それとシャルリーヌお嬢様、実はまだ前回ご注文いただいたドレスですが、昨夜完成いたしました」
「まあ! 楽しみだわ!」
ドレスが完成したと聞いて、シャルリーヌはニコニコだ。
「昨夜遅くでしたので、連絡は控えさせていただいたのです。それで、今日はどうされたのでしょう?」
「今日はアベルにわたくしの好きな場所を紹介するデートなの」
「あら、あら、あら! そうでございましたか!」
シャルリーヌに好きな場所と言ってもらえたからか、バルバラは優しく目を細めて嬉しそうに笑っていた。
それにしても、服屋さんが好きな場所って、シャルリーヌは本当にお洒落さんだね。
これは、オレもシャルリーヌになにか買ってあげた方がいいのだろうか?
一応、オレにはとりあえずテオドールから巻き上げた金がある。だが、ここフェアリーダンスは高級店みたいだし、お金が足りるかどうかが心配だ。
「そうでした。シャルリーヌお嬢様にぜひご覧いただきたいものがあるのです」
「まあ、何かしら?」
「実は先日、渡来品の希少な布が手に入りまして……。十三番を持ってきてちょうだい」
バルバラがメイド服のような服を着た従業員に指示を出し、壁にかかっていたパッチワークを持ってこさせる。持って来られたパッチワークには、金ぴかな布や騎馬民族のような見事な刺繍が為された布、日本の友禅染のような布など、さまざまな布が使われているようだ。
「こちらが新しく入荷した布でございます」
「まあ! どれも美しいわね!」
二人してパッチワークを覗き込むシャルリーヌとバルバラ。どうやらこのパッチワークは単なる壁飾りではなく、商品をお披露目する役目も兼ねているらしい。
「こっちのは赤い魚かしら? 魚の模様って珍しいわね」
「そうでございますね。こちらはこの国では見られない植物の柄でございますね」
「これも素敵ね!」
「こちらの布でドレスを飾るリボンを作ってみるのはいかがでしょうか?」
「それ、とってもいいわ!」
「さっそく試作品を作ってみます」
「お願いね!」
二人で楽しそうに布を見て意見交換をするシャルリーヌとバルバラ。歳が離れているけど、その姿は友だち同士のように仲が良かった。
なるほど。シャルリーヌがこの店をオレに紹介するわけだ。
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