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085 サカナ、クウ
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楽しいデートはまだまだ続く。
オレはシャルリーヌといろんな場所を巡っていた。シャルリーヌが気を使ってくれたのか、あまり男性が入りにくい所もなかったし、楽しく王都観光してるよ。
オレも『ヒーローズ・ジャーニー』の舞台となった王都を見ることができてとても満足だ。中には、ゲームの背景で見た景色もあってテンション上がっちゃったよね。
特にわくわくしたのは、この王都のどこからでも見ることができる天空まで続く塔の存在だ。ゲームでも登場した王都にあるダンジョン『女神の試練』。まるで神話のバベルの塔のような威容を誇っているが、ダンジョンの中はその見た目からは想像もできないくらい広いらしい。
オレとしてはすぐにでも潜りたいところだが、今はシャルリーヌとのデート中だ。我慢しなくては。
「アベルって本当にダンジョンが好きなのね」
王都の大通り沿いのレストラン。そのテラス席のテーブルの向かいに座るシャルリーヌがくすくすと笑っていた。気が付けば、オレはまたダンジョンを見上げていたらしい。
「あんなに高い建物は初めて見るからね。やっぱり気になるよ」
少し恥ずかしいものを感じながらそう返すと、シャルリーヌはにこにこと笑いながら「本当に、どこまで続いているのかしらね?」と言った。
まぁ、本当に天界まで続いているのだが、もちろんシャルリーヌには内緒だ。
「それより、午後はどこに行くの?」
シャルリーヌに問いかけると、彼女は待っていましたとばかりに口を開く。
「午後は買い物をしようと思うの。いつもは商人をお屋敷や学園に呼ぶのだけど、こちらからお店に行くのも楽しいわよ?」
「いいね!」
小市民魂を持つオレとしては、そっちの方が馴染みがあって気楽だ。
商人を呼びつけるっていうのは、なんかオレには合わないんだよなぁ。
そんなことを思いながら、オレは白身魚のムニエルを食べる。味付けはシンプルに塩とハーブとレモンだけだが、これがうまい。さすが、王都の大通りに店を構えるだけはある。シャルリーヌがお勧めしてくれるわけだ。
オレは肉と魚のどちらが好きかと言われれば肉派だが、最近は魚を選ぶことが多い。ヴィアラット領には海がなかったから、海産物を食べる機会は貴重なのだ。王都にいる間は、魚や貝を目いっぱい楽しもうと思う。
オレの向かいの席では、シャルリーヌが優雅にカルパッチョのような料理を食べていた。やっぱり厳しく躾けられたのかな。シャルリーヌの動作は、目を引くような美しさがある気がする。
ジッと見ていたら、シャルリーヌと目が合った。
「どうしたの?」
「いや、綺麗だなと思って」
「ッ!?」
それまで美しかったシャルリーヌの所作が乱れる。よく見れば、少し顔が赤くなっているようだった。体が火照っているのかな? テラス席だし、太陽を浴びているからね。オレには過ごしやすい気候だけど、深窓の令嬢であるシャルリーヌには体が火照るのに十分な日光なのかもしれない。
「大丈夫? 店の中に入る?」
「だ、大丈夫よ」
「無理はよくないよ?」
「大丈夫だったら」
頑なだなぁ。なら、あれを使うか。
オレは立ち上がると、パラソルの使用許可を求めて店員に話してみる。許可を貰えたら自分で設置しようと思ったんだけど、店員さんがオレたちの席が日陰になるように大きなパラソルを設置してくれた。
これで少しは涼しくなるだろう。
満足感と共に席に戻ると、シャルリーヌが不思議そうな顔でオレを見ていた。
「暑かったの?」
「いや……」
そこでオレは閃いた。そうだな。シャルリーヌのためだったのだが、オレが暑かったからパラソルを設置したことにすれば、シャルリーヌはオレに気を使わなくても済むだろう。
オレの心の師匠であるあのおじ様もグッと親指を立ててくれたような気がした。
「ちょっと日差しが眩しくてね」
「そうなの?」
シャルリーヌがコテンと首をかしげてから、また食事を再開した。
やりきったよ、師匠。
オレの脳裏では、ダンディーなおじ様がウインクしていた。
オレはシャルリーヌといろんな場所を巡っていた。シャルリーヌが気を使ってくれたのか、あまり男性が入りにくい所もなかったし、楽しく王都観光してるよ。
オレも『ヒーローズ・ジャーニー』の舞台となった王都を見ることができてとても満足だ。中には、ゲームの背景で見た景色もあってテンション上がっちゃったよね。
特にわくわくしたのは、この王都のどこからでも見ることができる天空まで続く塔の存在だ。ゲームでも登場した王都にあるダンジョン『女神の試練』。まるで神話のバベルの塔のような威容を誇っているが、ダンジョンの中はその見た目からは想像もできないくらい広いらしい。
オレとしてはすぐにでも潜りたいところだが、今はシャルリーヌとのデート中だ。我慢しなくては。
「アベルって本当にダンジョンが好きなのね」
王都の大通り沿いのレストラン。そのテラス席のテーブルの向かいに座るシャルリーヌがくすくすと笑っていた。気が付けば、オレはまたダンジョンを見上げていたらしい。
「あんなに高い建物は初めて見るからね。やっぱり気になるよ」
少し恥ずかしいものを感じながらそう返すと、シャルリーヌはにこにこと笑いながら「本当に、どこまで続いているのかしらね?」と言った。
まぁ、本当に天界まで続いているのだが、もちろんシャルリーヌには内緒だ。
「それより、午後はどこに行くの?」
シャルリーヌに問いかけると、彼女は待っていましたとばかりに口を開く。
「午後は買い物をしようと思うの。いつもは商人をお屋敷や学園に呼ぶのだけど、こちらからお店に行くのも楽しいわよ?」
「いいね!」
小市民魂を持つオレとしては、そっちの方が馴染みがあって気楽だ。
商人を呼びつけるっていうのは、なんかオレには合わないんだよなぁ。
そんなことを思いながら、オレは白身魚のムニエルを食べる。味付けはシンプルに塩とハーブとレモンだけだが、これがうまい。さすが、王都の大通りに店を構えるだけはある。シャルリーヌがお勧めしてくれるわけだ。
オレは肉と魚のどちらが好きかと言われれば肉派だが、最近は魚を選ぶことが多い。ヴィアラット領には海がなかったから、海産物を食べる機会は貴重なのだ。王都にいる間は、魚や貝を目いっぱい楽しもうと思う。
オレの向かいの席では、シャルリーヌが優雅にカルパッチョのような料理を食べていた。やっぱり厳しく躾けられたのかな。シャルリーヌの動作は、目を引くような美しさがある気がする。
ジッと見ていたら、シャルリーヌと目が合った。
「どうしたの?」
「いや、綺麗だなと思って」
「ッ!?」
それまで美しかったシャルリーヌの所作が乱れる。よく見れば、少し顔が赤くなっているようだった。体が火照っているのかな? テラス席だし、太陽を浴びているからね。オレには過ごしやすい気候だけど、深窓の令嬢であるシャルリーヌには体が火照るのに十分な日光なのかもしれない。
「大丈夫? 店の中に入る?」
「だ、大丈夫よ」
「無理はよくないよ?」
「大丈夫だったら」
頑なだなぁ。なら、あれを使うか。
オレは立ち上がると、パラソルの使用許可を求めて店員に話してみる。許可を貰えたら自分で設置しようと思ったんだけど、店員さんがオレたちの席が日陰になるように大きなパラソルを設置してくれた。
これで少しは涼しくなるだろう。
満足感と共に席に戻ると、シャルリーヌが不思議そうな顔でオレを見ていた。
「暑かったの?」
「いや……」
そこでオレは閃いた。そうだな。シャルリーヌのためだったのだが、オレが暑かったからパラソルを設置したことにすれば、シャルリーヌはオレに気を使わなくても済むだろう。
オレの心の師匠であるあのおじ様もグッと親指を立ててくれたような気がした。
「ちょっと日差しが眩しくてね」
「そうなの?」
シャルリーヌがコテンと首をかしげてから、また食事を再開した。
やりきったよ、師匠。
オレの脳裏では、ダンディーなおじ様がウインクしていた。
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