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097 戦闘訓練の授業②
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マルゲリットからお褒めの言葉を貰ったオレは、有頂天な気分でその日を過ごした。
そして、来る戦闘訓練の授業。
オレはおじいちゃん先生であるアンセルムと向かい合っていた。
このおじいちゃん、今にも折れてしまいそうな枯れ木のような見た目なのだが、まったく隙がない。その手に持つ双剣は、まるでピタリと空間に縫い付けたように静止し、まったくブレない。それだけで、この老人がかなりの強者であることが伝わってくる。
実際強いんだよなぁ。噂では父上の恩師でもあるらしい。そんな人に稽古をつけてもらえるなんて、オレは運がいいね。
「アベル、お主、『嘆きの地下墳墓』をソロで踏破したようだな? さすがはガストンの息子と感心したぞ。その力、見定めさせてもらおう……ファイアバレットッ!」
「ッ!?」
このおじいちゃん魔法使いやがった!?
剣士としての腕も一流、そこにプラスで魔法まで使えるのかよ!?
だが、発動した魔法はファイアバレット。ファイアボールの次に覚える火属性の魔法だ。ゲームでの特徴は、威力は低いが多段攻撃にあった。一発一発の威力は低いが、合計ダメージでファイアボールを超える感じだ。
この世界でファイアバレットを見るのは初めてだ。いったいどんな魔法なんだ?
一瞬の緊張感の後、ついにアンセルムのファイアバレットが発動する。それは握り拳よりも小さい火の玉の嵐だった。
「くっ!?」
一つに絞れば、最初のファイアバレットの魔法を斬ることができただろう。しかし、その場合次から次へと襲いかかってくる後弾のファイアバレットをモロに喰らうことになる。
盾で受けるしかない。
オレは魔法を斬ることができる。
それは大きなアドバンテージを引き出すことができると考えていた。
正直に言えば、オレはこのまま鍛え続ければ魔法使いに負けなしになるのではと考えていたほどだ。
しかし、まさかこんなことで魔法を斬ることを封じられるとは!
「くそっ!」
盾で火の玉の嵐を受け止めながら、オレは斜め右後ろにサイドステップを踏む。
しかし、ファイアバレットはまるでオレにロックオンされているように追いかけきた。これじゃロクに前も見れない。
だが、オレは慌てずに盾の下、地面を見る。
そこには、ゆっくりと左へと動いている人影があった。
さすがのアンセルムも影を消すことはできまい。
あとは、いつアンセルムが斬りかかってくるかだが……。
その時、不意に盾に感じていた圧力が消えた。ファイアバレットが撃ち尽くされたのだ。
それと同時に地面に映った人影が右へと動く。
オレはすぐに盾を下げてアンセルムの姿を確認するが、その時はすでにアンセルムに懐に入られていた。
「くっ!?」
速い。本当におじいちゃんなのか疑いたくなるほどの身のこなしだ。
「爪牙!」
アンセルムの双剣が迫る。
オレは敢えて一歩前に踏み出す。
ガギィッと盾を持つ左腕に衝撃が走った。アンセルムの双剣を受け止めたのだ。
アンセルムの双剣が速度を持たないうちに受け止める。それがオレの出した最適解だった。一歩間違えば自分から斬られに行く間抜けだが、上手くいけばアンセルムの双剣を一気に無力化できる。
「ほう?」
双剣を一度に無力化され、アンセルムが感心したような声を出した。
ちくしょう。余裕があるな。
この瞬間、オレは片手でアンセルムの両手を封じていることになる。腕力の差で少ししか保てないが、この瞬間だけはオレの右手が自由になるのだ。
当然、アンセルムもオレの右手を警戒しているだろう。
「はあッ!」
オレは、敢えて千載一遇の攻撃のチャンスを棒に振り、右手を盾に添えてアンセルムの双剣を押し返していく。
「おお!?」
きっとオレの右手を警戒し、一度仕切り直すためにバックステップで逃げようとしていたのだろう。アンセルムの双剣からふっと力が抜けたので、オレは一歩、さらに一歩とアンセルムの双剣を押し出していく。
前方へのダッシュとバックステップのどちらがより速いかなんてわかり切っている。オレがアンセルムのバックステップの速度を上回る前方へのダッシュをしたせいで、アンセルムは体は空中でバランスを崩した。
ここだ!
「せあ!」
オレは盾を地面に叩きつけるように全力で振り切る。
「カヒュッ!?」
その結果、アンセルムの体は地面に叩きつけられ、アンセルムの口からは空気が一気に漏れ出すような音が聞こえた。
オレは体を回すようにして、すぐに右手の片手剣の先をアンセルムの喉に突き付ける。
訪れた一瞬の硬直時間。
「はぁー……」
野太い溜息を吐いたのはアンセルムの方だった。
「まさか、入学早々儂から一本取る奴が現れるとはな……。お前はこのアンセルム・メシャンから見事に一本取ったのだ。誇るがいい」
「ありがとうございます!」
オレは剣を鞘に仕舞うと、倒れたままのアンセルムに手を差し伸ばす。
「どうぞ」
「うむ。やれやれ、歳は取りたくないものだな……」
そう言って、年齢不詳のおじいちゃん双剣士はオレの手を固く握ったのだった。
そして、来る戦闘訓練の授業。
オレはおじいちゃん先生であるアンセルムと向かい合っていた。
このおじいちゃん、今にも折れてしまいそうな枯れ木のような見た目なのだが、まったく隙がない。その手に持つ双剣は、まるでピタリと空間に縫い付けたように静止し、まったくブレない。それだけで、この老人がかなりの強者であることが伝わってくる。
実際強いんだよなぁ。噂では父上の恩師でもあるらしい。そんな人に稽古をつけてもらえるなんて、オレは運がいいね。
「アベル、お主、『嘆きの地下墳墓』をソロで踏破したようだな? さすがはガストンの息子と感心したぞ。その力、見定めさせてもらおう……ファイアバレットッ!」
「ッ!?」
このおじいちゃん魔法使いやがった!?
剣士としての腕も一流、そこにプラスで魔法まで使えるのかよ!?
だが、発動した魔法はファイアバレット。ファイアボールの次に覚える火属性の魔法だ。ゲームでの特徴は、威力は低いが多段攻撃にあった。一発一発の威力は低いが、合計ダメージでファイアボールを超える感じだ。
この世界でファイアバレットを見るのは初めてだ。いったいどんな魔法なんだ?
一瞬の緊張感の後、ついにアンセルムのファイアバレットが発動する。それは握り拳よりも小さい火の玉の嵐だった。
「くっ!?」
一つに絞れば、最初のファイアバレットの魔法を斬ることができただろう。しかし、その場合次から次へと襲いかかってくる後弾のファイアバレットをモロに喰らうことになる。
盾で受けるしかない。
オレは魔法を斬ることができる。
それは大きなアドバンテージを引き出すことができると考えていた。
正直に言えば、オレはこのまま鍛え続ければ魔法使いに負けなしになるのではと考えていたほどだ。
しかし、まさかこんなことで魔法を斬ることを封じられるとは!
「くそっ!」
盾で火の玉の嵐を受け止めながら、オレは斜め右後ろにサイドステップを踏む。
しかし、ファイアバレットはまるでオレにロックオンされているように追いかけきた。これじゃロクに前も見れない。
だが、オレは慌てずに盾の下、地面を見る。
そこには、ゆっくりと左へと動いている人影があった。
さすがのアンセルムも影を消すことはできまい。
あとは、いつアンセルムが斬りかかってくるかだが……。
その時、不意に盾に感じていた圧力が消えた。ファイアバレットが撃ち尽くされたのだ。
それと同時に地面に映った人影が右へと動く。
オレはすぐに盾を下げてアンセルムの姿を確認するが、その時はすでにアンセルムに懐に入られていた。
「くっ!?」
速い。本当におじいちゃんなのか疑いたくなるほどの身のこなしだ。
「爪牙!」
アンセルムの双剣が迫る。
オレは敢えて一歩前に踏み出す。
ガギィッと盾を持つ左腕に衝撃が走った。アンセルムの双剣を受け止めたのだ。
アンセルムの双剣が速度を持たないうちに受け止める。それがオレの出した最適解だった。一歩間違えば自分から斬られに行く間抜けだが、上手くいけばアンセルムの双剣を一気に無力化できる。
「ほう?」
双剣を一度に無力化され、アンセルムが感心したような声を出した。
ちくしょう。余裕があるな。
この瞬間、オレは片手でアンセルムの両手を封じていることになる。腕力の差で少ししか保てないが、この瞬間だけはオレの右手が自由になるのだ。
当然、アンセルムもオレの右手を警戒しているだろう。
「はあッ!」
オレは、敢えて千載一遇の攻撃のチャンスを棒に振り、右手を盾に添えてアンセルムの双剣を押し返していく。
「おお!?」
きっとオレの右手を警戒し、一度仕切り直すためにバックステップで逃げようとしていたのだろう。アンセルムの双剣からふっと力が抜けたので、オレは一歩、さらに一歩とアンセルムの双剣を押し出していく。
前方へのダッシュとバックステップのどちらがより速いかなんてわかり切っている。オレがアンセルムのバックステップの速度を上回る前方へのダッシュをしたせいで、アンセルムは体は空中でバランスを崩した。
ここだ!
「せあ!」
オレは盾を地面に叩きつけるように全力で振り切る。
「カヒュッ!?」
その結果、アンセルムの体は地面に叩きつけられ、アンセルムの口からは空気が一気に漏れ出すような音が聞こえた。
オレは体を回すようにして、すぐに右手の片手剣の先をアンセルムの喉に突き付ける。
訪れた一瞬の硬直時間。
「はぁー……」
野太い溜息を吐いたのはアンセルムの方だった。
「まさか、入学早々儂から一本取る奴が現れるとはな……。お前はこのアンセルム・メシャンから見事に一本取ったのだ。誇るがいい」
「ありがとうございます!」
オレは剣を鞘に仕舞うと、倒れたままのアンセルムに手を差し伸ばす。
「どうぞ」
「うむ。やれやれ、歳は取りたくないものだな……」
そう言って、年齢不詳のおじいちゃん双剣士はオレの手を固く握ったのだった。
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