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聖女が美男子を警戒する理由(1)

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「ダニエルと申します。どうぞお見知りおきを」

 キャシーが次の国に到着するなり引き合わされたのは、流れるような銀髪が美しい男だった。どういう仕組みかは未だにわからないが、聖女の入国を各国のトップは事前に知ることができるらしい。明らかに高位貴族だとわかる身なりと身のこなしのイケメンに歓迎されて、彼女は頬をひきつらせる。

(はい、今回もハニートラップありがとうございます。今さら顔がいいだけの男に誰がひっかかるっていうの。だてに長年、嫁き遅れやってるわけじゃないんだから)

 笑顔で微笑みながら、キャシーは腹の中で中指を立てた。とてもお上品とは言えない態度だが、こんな風にやさぐれてしまったのも聖女を取り巻く環境ゆえのことなので一概に彼女を責められない。

 聖女となってからのキャシーは、様々なハニトラに直面してきた。どこの国の王族も、聖女を自国に取り込みたかったらしい。その貪欲さは、いっそ感心するくらいである。まったく褒められたものではないのだが。

 キャシーがうら若き乙女の頃にも、やはり年頃の王子が用意されていた。たださっぱり見向きもしない聖女に対して、彼らも思うところがあったらしい。年齢が上がってからは、王太子、臣籍降下して若くして宰相になった元王子、騎士団長を兼任した王子、魔術師団長を兼任した王子などが出てくる始末。完全に属性過多である。若干胸焼けもする。

 さすがに国王が出てくることがないのは、他の職業に比べて在位期間が長く、聖女との年齢差が大きいからなのだろう。

 いずれも将来有望で、見目麗しい男性陣ばかり。とはいえ、それを手放しで喜ぶほどキャシーも愚かではない。

 こういった高貴で才能溢れる男たちには、本来幼い頃からの婚約者がいる。下手をすれば、結婚だってしていたはずだ。女の恨みは深く、強く、恐ろしい。同じ女だからこそ、キャシーはそれをよく理解していた。

 望まぬ逆ハーレムを作られたあげく恨みを買うなんて、割に合わなすぎる。相手は国益のために動いているだけで、自分を愛しているわけではないのだから。お飾りの妻なんてごめんなのである。

 キャシーが望むのは、何よりも自分を愛し、大切にしてくれる相手だけ。国のために動く彼らなどお呼びではない。

(今回は、このダニエルという男だけ。家名は名乗られなかったけれど、彼がこの国における一番身分の高い人間である可能性が高い。……王太子か。王太子さまが来ちゃったか。ああ、どうしよう。ただでさえ王子さまっていう生き物は、怒らせずにお引き取り願うのがめちゃくちゃ面倒くさいのに……)

 しかもこういう時に限って、自身の相棒でもある白い竜はいないのである。つるつるすべすべの鱗を輝かせながら、綺麗な空か湖をすいすいと泳いでいるのだろう。まったくのんきなものだ。

(うわーん、今日は夜通し愚痴に付き合ってもらうんだから!)

 密かに絶叫しながら、キャシーはダニエルとのお茶会に臨むことになった。
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