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(12)寝かしつけ係は案内をする1

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 夏至祭当日、私たちは予定通り祭りの会場を訪れていた。

「随分と賑やかな祭りになったものだな」
「また年寄りくさい発言をして」
「こんな広い場所なのに、せせこましく集まらなくてもいいだろうに」
「もともと向こう側は、湖だったらしいですからね。今でもあの辺りで遊ぶな、家を建てるなどもってのほかだと言われています。ときどき言うことを聞かないひとも出てくるんですけれど、まあ何かあった場合でも自業自得ですから」

 私たちの村からは海など見えない。だから代わりにずっとここを「火龍さまの海」と呼んできた。湖が影も形もなくなってからもずっと。

 ここは硝子作りで使う石を集める場所でもある。感謝の祈りを捧げていると時折、翡翠色の欠片がまぶたの裏を通りすぎていく。どこまでも透き通った翡翠色は、火龍さまの故郷の海の色なのかもしれない。

「このままでも別に問題はないんですけれど、もしもここが湖に戻ったら魚釣りをやってみたいなあと思っています」
「その時は、舟から落ちないように注意しろよ」

 呆れたような顔をする神子さまは本当に可愛らしい。ここへお連れすることができて本当によかった。けれど、神子さまはどうにも言いたいことがあるみたい。

「お前の能天気さがうらやましいよ。未婚の男女が連れ立って祭りに参加する意味を知らないのか」
「まったく、神子さまったらおませさんなんですから」

 夏至祭は、若い男女の出会いの場だ。祭りに誘うということは相手への好意を示しているし、その誘いに乗るということは告白を受け入れたと解釈してもいい。

 ――アンバー、僕と一緒に祭りに行ってくれないかい――

 兄弟子もそう言って、私を夏至祭に誘ったんだっけ。ここしばらく夏至祭から足が遠退いていたのも、兄弟子のことを思い出したくなかったからだった。

 そんなことも忘れて、自分から神子さまを夏至祭に引っ張り出したくなるくらい私の人生は充実しているらしい。

「私、お勤めに出て本当に良かったです」
「どうした、藪から棒に」

 なんだか兄弟子のことで悩んでいたのがすっかりどうでもよくなって、思わず神子さまの小さな手を握りしめた。

「神子さま、かき氷を食べましょうよ!」
「だから、いきなりなんなんだ」
「天然氷を削り出したかき氷ですよ。甘い蜜がかけられていて、とっても美味しそうです」
「そんな甘いもの、俺はいらん!」
「じゃあ、ひと口ならどうですか。あーん」
「誰が食べるか!」
「もしかして、神子さま気にされてます?」
「お、俺は別に間……」
「同じ食べ物に口をつけたりすると、虫歯が心配ですよね。大丈夫ですよ。最初に神子さまに差し上げますので。あ、そうすると今度は毒味の問題があるのかしら?」
「……俺に毒は効かん」

 なんで神子さまががっくりされているのかしら。それともやっぱり蜜の味は、黒蜜がよかったのかな。男の子が甘いものが好きでも馬鹿になんてしないのに。もっと希望を聞いてあげたらよかった。
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