人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠

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 同じ学年の女子からは、『地味なほうのサイトウくん』なんて言われているけれど、斎藤くんは結構整った顔をしている。分厚い眼鏡をかけているから、廊下ですれ違ったくらいでは気がつかないのかもしれない。斎藤くんがいるのは、男子ばかりの理系クラスだし。

 目立つタイプではないけれど、がりがりに痩せていたり、ぶよぶよに太っていたりもしない。姿勢も良くて、清潔感もある。それに近くにいると、柑橘系のいい香りだってしている。

 まあぶっちゃけてしまえば、いまどき不潔にしている男の子ってなかなかいないと思う。みんな毎日お風呂に入って、髪も洗っているだろうし。でも、実際に清潔にしていることと、見た目に清潔感があることってイコールじゃないんだよね。そこをクリアしている斎藤くんってすごいんじゃないかな。

 それに、わたしは斎藤くんの手が好きだ。クラス対抗の合唱コンクールではピアノ演奏をしていて、正直前のめりで見てしまった。すらりと長くて綺麗な指は爪の形まで整っていて、手タレにだってなれそうなくらい。とはいえ全国模試の結果を見るに斎藤くんは抜群に頭が良いし、将来はお医者さんや薬剤師などのお堅い職業につくのだろう。だから、テレビや雑誌のお仕事なんてするはずもなかった。

 それにしても斎藤くんが比べられているモデルさんって、どんなひとなんだろう。スマホを取り出して、検索してみる。え、すごい。Wikipediaにページが作られているんだ。じゃあ、本当に知名度があるんだね。本業はモデルで、コマーシャルにも結構出ているのか。俳優デビューもしちゃってたり……あった、ショートムービーに出演している。

 へえ、同い年なんだ。高校名は非公表になっているけれど、こういうひとが通っている学校って、きっと華やかな私立なんだろうなあ。やだやだ、なんだかお金ばっかりかかりそう。だいたい有名人が同じ教室にいて、みんな静かに授業を受けることができるのかなあ。むしろ私立のお金持ち学校は、そういうひとしかいないのかしら。

 そのまま公式ホームページにも移動してみた。さらさらの髪に大人びた眼差しにどきりとする。でも、すごく遠い。わたしとは違う。本当に同じ人間なのかな。どこを見ているのかわからなくて、不安になる。

 画面の向こうにしかいないイケメンモデルよりも、近くにいてくれる優しい斎藤くんのほうがやっぱり素敵。わたしはひとり納得した。まあ斎藤くんだって、わたしにそんなことを言われて慰められても困ってしまうのだろうな。

 斎藤くん、早く戻ってこないかな。図書館や本屋さんに住んでしまいたいくらい本は好きだけれど、斎藤くんがいない図書室はなんだかとても寂しい。

 暇をもてあまして、万年筆についても調べてみた。種類も豊富……と言えば聞こえはいいけれど、万年筆もインクもたくさんありすぎて、選ぶこと自体が難しそうだ。お値段もピンキリで頭がくらくらする。おこづかいは必要最低限、文房具は現物支給のわたしからは、イケメンモデルと同様に別世界のもの。それでも、これが斎藤くんが大事にしている世界なのだと思えば、きらきらと輝いてみえた。

「ただいま」
「おかえりなさい」

 いろいろ妄想していたら、軽やかに斎藤くんが戻ってきていた。わたしだったら息切れしているような距離なのに、汗ひとつかいていない。やっぱり斎藤くんは、すごい。でも、どうして手ぶらなんだろう?
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