拳で解決する田舎育ちの平民聖女は、呪いなんて信じない。害虫駆除はともかく、呪われた王太子さまをなんとかしてくれと言われても困るのですが。

石河 翠

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 ごしごしと窓を磨きます。最近は下ばかり向いていたので、今日は上を向いてみることにしたのです。
 この時期は壁などにハチが巣を作ってしまうので気をつけなければなりません。小さいうちであれば簡単に処理ができますが、時間が経つごとに駆除が大変になっていきますので、早期発見が大切なのです。

「ふふふ、私の目は誤魔化せません! 見つけましたよ!」

 怪しげなものは容赦なくガリガリとこそぎ落としていきます。頑張って作ったものを壊すのは胸が痛みますが、刺されると危ないだけではなくて、建物自体を脆くすることもありますので仕方がない作業なのです。

 ハチさんごめんなさい。どうか次はもっとひとが来ない、静かな場所で巣作りをしてくださいね。心の中で謝りながら作業を続けていると、外から甲高い悲鳴が聞こえてきました。

 覗き込んでみれば、可愛らしいお嬢さんが逃げ惑っているのが見えます。もしかしたら甘い香水の匂いに誘われて、ハチに追いかけられているのかもしれません。

 慌てて中庭へ飛び出しました。ご令嬢を追いかけているのは毒を持つ危険なタイプではなく、もこもことしたぬいぐるみのようなハチです。相手を刺激しなければ、刺されることもないでしょう。

「落ち着いてください」
「た、助けて」
「そのハチは刺しません。いったんしゃがんで、それからゆっくりとこちらに来てください」

 導かれるように私のところへ逃げてきたお嬢さんは、涙目でお礼を言いながらぽつりと呟きました。

「ありがとう、助かったわ。……ひとりだけ幸せになろうとしたから、罰が当たったのかもしれないわね」

 ばち……ハチだけにってことですか。え、これ、突っ込まないといけない流れだったりします?
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