【異世界恋愛短編集】冷遇された身代わり花嫁は、継子の不幸を許さない。

石河 翠

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6.後生ですから、どうぞ最後に別れの言葉を。

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九鬼くき家当主の妻として嫁ぐことが決まった。明日、迎えが来るからそのつもりでいるように」

 私を視界に入れないまま、吐き捨てるように父が言った。父が持ってきた突然の結婚話には、裏があるとしか思えない。何せ生まれてからずっといない者として扱われてきていたのだ。これからどうなるのか考えながら、私は静かにうなずいた。

「まったく返事もろくにできんのか。この出来損ないめ!」

 父は私を突き飛ばして怒鳴りつけてきたが、声に出して返事をしたところで耳障りだと殴られることはわかりきっている。何をしてもあら探しをされるのだから、目立たないようにしておいたほうがいい。今日の明日で嫁ぐのだ、嫁入り道具などありはしない。婚家が嫁を迎え入れる準備をしているかどうかも怪しいものだ。嫁いだそばから出戻りにならなければ良いのだけれど。

 その日の夜、異母妹の駄々をこねる声が聞こえてきた。離れにはお風呂がないから、母屋で残り湯をもらうしかない。聞きたくなくても、彼らの声は響いてくる。

 異母妹は、政略結婚とはいえ私が由緒ある名家の当主の妻に望まれたことが気に食わないらしい。所詮は金で買われた結婚だというのに何を言っているのやら。せめて結婚相手がヒキガエルのような醜い成金男なら、異母妹も溜飲が下がったのだろうか。

「どうしてあのひとが、わたしより先に嫁ぐの? しかも九鬼家当主の妻だなんて。そんなのおかしいじゃない。あの方は、どんな女にも目をくれないと評判の美男子なのよ。それがどうして、あんなしみったれた女に!」
「お前の気持ちはもっともだとも。だが、心配する必要はない。あれは、生贄として嫁ぐのだ。九鬼家が裏山の大池に鬼を封じていることはお前も知っておろう? 大池には定期的に九鬼家の女子を捧げることになっているが、今は九鬼家に年頃の女子がひとりだけしかおらぬ。その娘を九鬼家当主は大層可愛がっているらしい。それにもかかわらず、普段よりも早く贄を求めるお告げがあったそうでな」

 必死に異母妹をなだめる声に、思わず笑いが込み上げてきた。せめてもう少しばかり、隠しておけばよいだろうに。私はどこにも行くつもりはないけれど、気の弱い娘ならば逃げ出してしまうかもしれない。この村からどこか遠くの町へという意味ではない。この世に別れを告げてしまえば少なくとも先の見えない苦痛からは逃れられるのだ。彼らにはどうしてそんな簡単なことが理解できないのだろう。

「つまりお姉さまは、嫁いだことで九鬼家の女と認められたならそのまま鬼に捧げられるというのね! まあ、なんてこと! 本当にお姉さまったら、お可哀想だわ」
「なんてあなたは優しい子なのかしら。そんなあなたには、ちゃんと幸せになるための縁談を用意しているの。今回のことでまとまった支度金も手に入ったのだから、もう少しだけ我慢してちょうだいね」
「お前を悲しませる者など、儂の娘ではない。期待に胸を膨らませて嫁いで、歓迎されずに枕を濡らせばよいのだ」

 楽しそうに笑う声が恐ろしい。彼らが笑えば笑うほど心が寒くなる気がして、目の前がぼやけていく。私はすっかり冷めてしまったお湯の中に頭から潜り込んだ。
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