【異世界恋愛短編集】冷遇された身代わり花嫁は、継子の不幸を許さない。

石河 翠

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2.最後を決めるのは、あなたではなくて私なのだけれど?

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「おやめください」
「君はなぜ止める?」
「だって、これはあなたの役割ではありませんから。そうでしょう?」
「僕の役割ではない? そんなことが許されるなど」
「この手は、みんなを喜ばせる美味しいお料理を作るためにあるはずです。あんなひとたちを、斬るためではなく」

 見覚えのある大きな剣は、恐ろしいほど刀身を光らせている。死神の大鎌を想起させる凄味があった。大剣を強く握り過ぎて白くなってしまった男の手を撫でた。彼の手の握ったまま、わめきたてる宰相と侯爵令嬢の後ろを指さす。

「あれは、一体」
「扉が、開いている……」

 ヘスターの指さした先にあったのは、日頃彼女が近寄ることを許されていない物置小屋だった。この扉を開く鍵は屋敷には存在しないと仮面の男から聞いていたはずなのに、固く閉ざされているはずの物置小屋の扉には隙間ができている。なぜだろう、普段は気にもならないこぢんまりとした物置小屋が、不思議なほど重々しく見えた。やがて音もなく開いた扉の向こうには、一面の業火。離れていても顔が歪むほどの熱風が押し寄せてくる。

「ヘスター、こちらへ」
「あっ」

 名前を呼ばれたかと思ったら、そのまま背に庇われた。熱風と一緒に火の粉が飛んできたのだろう、鮮やかな色が夜を切り裂いていく。

「お前たち、儂らを助けんか!」
「いやあ、離してえっ!」

 避難したヘスターたちを見て慌てて扉から離れようとする宰相と侯爵令嬢だったが、彼らが逃げ出すことは叶わなかった。熱風と炎に交じって中から伸びてきたのは、無数のひとの手。闇夜を溶かして創り出したかのような奇妙な手によって、あっさりと彼らは捕まえられ、扉の中に引きずり込まれる。やがて囚われの彼らを業火が呑み込んだ瞬間、扉は勢いよく閉まり、再び内側から鍵のかかる音がした。

「どういうことか、説明してもらえますよね?」
「……いや、君が知る必要のないことだ」

 静かに見上げてくるヘスターに、屋敷の主人は口ごもる。彼は自身の仮面を手でおさえつけると俯いてしまった。ヘスターは腰を両手に当て、やれやれと肩をすくめてみせる。

「いい加減にしなさいな、スチュアート。あなたが話したくないようだったから黙って待っていたけれど、これ以上詳しい話を拒むようなら、押し倒してでも詳細を確認するわよ。これ以上、あなたに背負い込ませるなんてまっぴらごめんだわ」

 その言葉を待っていたかのように、真っ二つに割れた男の仮面が地面に転がった。
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