20 / 44
閑話休題
雨沢夏理くんの一日
しおりを挟む
Sクラスのことをみんなはどう思っているが知らないが、結局はSクラスの中でも王子を中心としたカースト社会である。
大事なのはどれだけ自分の家が血縁的に、経済的に王子が近いかである。
王子はとにかく国民…いや臣民に対して等しく平等だった。いついかなる時も人に囲まれて優しく会話をしてあげる。
まるで白雪姫とそれに集う小人や森の動物たちのようだった。
そして彼はそれを苦には思ってないようだった。少なくともそれを欠片も表には出さなかった。
将来の王として育てられると、こういう仕上がりになるんだなと純粋に思う。それがいいかどうかは別にして。
感覚としては動物園のライオンを見ている感覚に近いかもしれない。勝手に可哀想だと同情しているが、社会的地位はどう考えても夏理の方が低い。
つまり、余計なお世話であるが、精神や身体に自由がないのをどうしてもつらいだろうと感じてしまうのだった。
そしてあの一件以降。
白雪姫は運命の人に出会ってしまったらしく、誰にでも優しい博愛の人がなんだか変わってしまった。
王子に裏と表など無かった。ただただ表のみを見せていたのに、普通の人間のような仕草を見せるようになってしまったのだ!
具体的に言うと、休み時間にどれだけ小人に話しかけられても相手をしていたのに、「ごめんね、ちょっと考え事したいんだ」とか言って小人を蹴散らし、話しかけられてもただただ無視して外を眺めたりしている。
これはSクラスの中でだけだったが、大革命を起こした。
みんなの王子様(本当は僕の王子様・私の王子様になって欲しい)と思っていた小人たちは恐れ慄いたに違いない。
王子にいい人がいるかもしれない…その疑惑は心に一抹の不安をもたらし、やがて大きな渦となってSクラスを巻き込んだのだった。
ただでさえ、先日の納涼会での一幕は皆に鮮烈な記憶を残した。
王子がDクラスの、しかもオメガの男を助けたからである。
犯人たちは、月曜日にはもはや机もなく、存在したという痕跡すら残っていなかった。
主犯の男などは王族と違ってただの人とは言え、深い繋がりのあった一族の次男坊である。王子も無闇矢鱈にはこういうことはしないだろうが、本当に王子を怒らせると、どれだけ社会的地位があろうが、Sクラスで優雅に過ごしていようが、こんな恐ろしい結末になってしまうのだ。
今、Sクラスでは誰もそのことに言及しない。恐怖と疑惑のためである。
下手に薮を突いて蛇を出し王子に消される恐怖と、もしかすると王子はあのDのオメガに懸想しているかもしれないという疑惑。
王子の手の甲に包帯が巻かれていようが、誰も心配の声をかけない。
今のSクラスは、少し異様な空気であった。
「雨沢くん、ちょっといいかな?」
休み時間、本を読んでいた夏理に王子が話しかけてきた。
ちなみに、王子はいつも誰かしらに絡まれており、能動的に誰かに話しかけるという姿はかなりレアと考えていい。(棗を除く)
「何ですか?」
「少しね」
そういうと王子は夏理を教室の外へ連れ出した。そのまま階段脇の小休憩スペースへ行く。
簡単なテーブルセットのところの椅子に腰掛けた。もちろん棗も一緒である。
「雨沢くん、教えて欲しいことがあるんだが」
「何でしょう?」
だからなんだとさっきから言ってる。
「真加の好きな色ってなにかな?」
王子は恋する乙女のような春の麗らかさを見にまとい、少し恥じらいながら聞いてきた。
夏理は驚きのあまり空いた口が塞がらない。
えっこの人何考えてんの?小学生みたいなこと聞いてきてるんだけど。
高校生が好きな色の話なんかするか?真加の好きな色とか知らねえ。
「うーん、えっと…文房具とか身の回りのものは青が多いかなって思いますよ」
「そうか。私も見ているとそうかなと思っていたんだ。ありがとう」
答え合わせに僕を使うな。
どうやら、納涼会の夜に真加から聞いたことは本当のようで、王子が真加に本気なのは確実だ。
「ど、どうして好きな色を…?」
「プレゼントするときに参考になるだろう?」
「そ、そうですか…」
もはや引き攣った笑いしか出てこない。
後ろに控える棗はもう最近はこんなことばかりなのか、神妙な面持ちでただ突っ立ってるだけだった。
真加も難儀なことになったなと思う。未来の王の相手なんて煩わしいことの方が多いはずだ。
しかし、夏理が茶茶を入れることでもない。かといって王子の応援をするのは癪だし、真加にその気がないなら後押しなんかしてやるつもりはない。
その後も色々と趣味だの休みの日の過ごし方聞いてきて鬱陶しいことこの上なかった。
最後は「本人に聞いてください」とその場を立ち去ったが、あの調子だとしばらくはこういうことが続くかもしれない。
王子が恋愛にかまけている隙に学年一位を今度こそ取るつもりでいたが、夏理にも影響が出るのは非常に困る。
夏理は廊下をガシガシと力強く歩きながら苛立ちを募らせる。
結局彼もSクラスの大革命に巻き込まれはじめていた。
大事なのはどれだけ自分の家が血縁的に、経済的に王子が近いかである。
王子はとにかく国民…いや臣民に対して等しく平等だった。いついかなる時も人に囲まれて優しく会話をしてあげる。
まるで白雪姫とそれに集う小人や森の動物たちのようだった。
そして彼はそれを苦には思ってないようだった。少なくともそれを欠片も表には出さなかった。
将来の王として育てられると、こういう仕上がりになるんだなと純粋に思う。それがいいかどうかは別にして。
感覚としては動物園のライオンを見ている感覚に近いかもしれない。勝手に可哀想だと同情しているが、社会的地位はどう考えても夏理の方が低い。
つまり、余計なお世話であるが、精神や身体に自由がないのをどうしてもつらいだろうと感じてしまうのだった。
そしてあの一件以降。
白雪姫は運命の人に出会ってしまったらしく、誰にでも優しい博愛の人がなんだか変わってしまった。
王子に裏と表など無かった。ただただ表のみを見せていたのに、普通の人間のような仕草を見せるようになってしまったのだ!
具体的に言うと、休み時間にどれだけ小人に話しかけられても相手をしていたのに、「ごめんね、ちょっと考え事したいんだ」とか言って小人を蹴散らし、話しかけられてもただただ無視して外を眺めたりしている。
これはSクラスの中でだけだったが、大革命を起こした。
みんなの王子様(本当は僕の王子様・私の王子様になって欲しい)と思っていた小人たちは恐れ慄いたに違いない。
王子にいい人がいるかもしれない…その疑惑は心に一抹の不安をもたらし、やがて大きな渦となってSクラスを巻き込んだのだった。
ただでさえ、先日の納涼会での一幕は皆に鮮烈な記憶を残した。
王子がDクラスの、しかもオメガの男を助けたからである。
犯人たちは、月曜日にはもはや机もなく、存在したという痕跡すら残っていなかった。
主犯の男などは王族と違ってただの人とは言え、深い繋がりのあった一族の次男坊である。王子も無闇矢鱈にはこういうことはしないだろうが、本当に王子を怒らせると、どれだけ社会的地位があろうが、Sクラスで優雅に過ごしていようが、こんな恐ろしい結末になってしまうのだ。
今、Sクラスでは誰もそのことに言及しない。恐怖と疑惑のためである。
下手に薮を突いて蛇を出し王子に消される恐怖と、もしかすると王子はあのDのオメガに懸想しているかもしれないという疑惑。
王子の手の甲に包帯が巻かれていようが、誰も心配の声をかけない。
今のSクラスは、少し異様な空気であった。
「雨沢くん、ちょっといいかな?」
休み時間、本を読んでいた夏理に王子が話しかけてきた。
ちなみに、王子はいつも誰かしらに絡まれており、能動的に誰かに話しかけるという姿はかなりレアと考えていい。(棗を除く)
「何ですか?」
「少しね」
そういうと王子は夏理を教室の外へ連れ出した。そのまま階段脇の小休憩スペースへ行く。
簡単なテーブルセットのところの椅子に腰掛けた。もちろん棗も一緒である。
「雨沢くん、教えて欲しいことがあるんだが」
「何でしょう?」
だからなんだとさっきから言ってる。
「真加の好きな色ってなにかな?」
王子は恋する乙女のような春の麗らかさを見にまとい、少し恥じらいながら聞いてきた。
夏理は驚きのあまり空いた口が塞がらない。
えっこの人何考えてんの?小学生みたいなこと聞いてきてるんだけど。
高校生が好きな色の話なんかするか?真加の好きな色とか知らねえ。
「うーん、えっと…文房具とか身の回りのものは青が多いかなって思いますよ」
「そうか。私も見ているとそうかなと思っていたんだ。ありがとう」
答え合わせに僕を使うな。
どうやら、納涼会の夜に真加から聞いたことは本当のようで、王子が真加に本気なのは確実だ。
「ど、どうして好きな色を…?」
「プレゼントするときに参考になるだろう?」
「そ、そうですか…」
もはや引き攣った笑いしか出てこない。
後ろに控える棗はもう最近はこんなことばかりなのか、神妙な面持ちでただ突っ立ってるだけだった。
真加も難儀なことになったなと思う。未来の王の相手なんて煩わしいことの方が多いはずだ。
しかし、夏理が茶茶を入れることでもない。かといって王子の応援をするのは癪だし、真加にその気がないなら後押しなんかしてやるつもりはない。
その後も色々と趣味だの休みの日の過ごし方聞いてきて鬱陶しいことこの上なかった。
最後は「本人に聞いてください」とその場を立ち去ったが、あの調子だとしばらくはこういうことが続くかもしれない。
王子が恋愛にかまけている隙に学年一位を今度こそ取るつもりでいたが、夏理にも影響が出るのは非常に困る。
夏理は廊下をガシガシと力強く歩きながら苛立ちを募らせる。
結局彼もSクラスの大革命に巻き込まれはじめていた。
100
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【運命】に捨てられ捨てたΩ
あまやどり
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。
夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。
伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。
子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。
ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。
――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか?
失望と涙の中で、千尋は気づく。
「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」
針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。
やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。
そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。
涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。
※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。
※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる