美獣と眠る

光月海愛(こうつきみあ)

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記憶

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  ――――

    「ヨシノリ!  学校から帰って来たら手洗いをして、すぐに婆ちゃんの家の仕事を手伝わないかっ!」

 小さい頃のことは、一緒に住んでいた祖父の怒鳴り声から思い出すことが多い。

 楽しかった思い出なんて、ほぼ皆無。
 記憶から消せるなら何でもしたい。


 美容師として働いてた母さんは、いつも帰りが遅くて、あまり一緒に食事をした記憶もなかったし、


「また約束破って外で遊び呆けてたなっ! 来いっ!ヨシノリ!」

 自営業でいつも家に居る祖父に、″セッカン″と呼ぶに相応しい躾を受けていたからだ。
 
 厳しい躾を受けながら、いつも浴びせられる言葉は決まっていた。

「あのろくでなしにそっくりになってきたな」

  まるで呪文のように言う祖父。

「おじいちゃん、ごめんなさいっ」

 何でこんなに叱られなきゃいけないのか分からなかったけれど、とりあえず暗闇から逃れたくて、声が枯れるまで謝り続けた。


「……ごめんなさい……」

 閉じ込められた倉庫の中で、まだ見ぬ父親の顔を想像していた。

 自分にそっくりで、そして、お母さんと俺を捨てた人……。

 当然、お母さんもそんな ″ろくでなし ″ のことを恨んでると思っていた。
 
 

  母さんが休みの日や車の中で、良く聴いていた曲があった。

 無名のバンドのアルバムらしかったが、インディーズで一度だけCDを発売したことがあるらしい。

 子供ながらに、その勢いのあるボーカルの声に、何となく惹かれていた。

「ヨシノリのお父さんが歌ってるのよ」

  衝撃的な母さんの言葉。

 ″ろくでなし″と植え付けられていた父親の別の顔。

「……聴いてて平気なの?」

 小学生の俺は混乱する。
 母さんは、俺達を捨てた男の歌を聴いていられるものなのか、と。


「平気よ、とても大切な想い出だから」

 母さんは、恨んでなんかないんだ。

 おまけに、″ろくでなし″の父親が母さんに送ったと思われる手紙を、祖母が片付けている時に見つけた俺は、ぶつけ先のない、複雑な感情を持ち始めてしまう。


  

 ―――Dear  のりこ

めっきり寒くなってきけど、風邪ひいてませんか?
元気にしてますか?

美容師の見習いはキツくて体調壊しやすいと聞いてるから少し心配です。


俺は都内の広告代理店に就職が決まり、社会人として気持ちを切り替えていかなきゃいけない時がやってきました。

バンドの活動も、完全に休止します。

いや、もう解散という話も出てます。

のりが好きだった曲も、世に出ることなく埋もれてしまいそうです。



それでも、
のりの生活を応援できるためなら、と
難しい営業の仕事も乗りきれるような気がします。

また返されてしまうかもしれないけれど、

のりが元気でいられるように、それだけのために頑張って稼ぎます。

だから、返さないでください。

いつか、
また一緒にクリスマスを過ごせますように。

















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