美獣と眠る

光月海愛(こうつきみあ)

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 「後藤、お前、下痢でクライアントのトイレに籠ってたんだってな。大丈夫か?  腹は全部下ったのか?」

 PM 8:20。
 事務所に戻ると、月山さんが早速デリカシーのない言葉で声をかけてきた。

「は、はぁ…」

 隣の飯田を睨み付ける。まんま言うなって。


「Kanedo組が帰ってきたから、俺もそろそろ帰るかな」

 私とヨシのことを勘ぐる風でもなく、月山さんは先にタイムカードを押していた。

  「報告書は、明日でいいぞ」

 きっと、ヨシのお母さんの病院に行くんだと思った。

  ……やっぱり、私は、敵わない――




――――

  Kanedo化粧品は、売れ筋コスメティックの新キャラクター起用に、初の男性のアーティストを決めた。

【Virtue】の新曲をイメージソングに使う事は勿論、その話題性を利用して、全面協賛の上でヨシのソロプロジェクトを敢行すると発表。

 ヨシの周辺がとても慌ただしくなったおかげで、あれから命令口調の電話がかかってきたりすることは無くなった。

 ホッとしたようで、何となく物足りない毎日が続いていた頃ーー


「某ゲームメーカーから転職してきた加納です」

「某広告制作会社より移って参りました戸崎です」

 男女二人の有能なクリエイターが入社してきた。


「俺が誘ったんだ」

 どうやら、月山さんがヘッドハンティングをしてきた人材らしい。

  ゲームメーカーから来た加納さんは、29歳の独身男。
 インテリな眼鏡に、ふわふわの茶髪。
 皆が普通のスーツを着ているのに対して、カジュアルなティシャツにジャケットを着用して、印象はかなりチャラい。

「年収1000万円でハンティングされてきたんだって!」

 本山さんを始め、女子社員の目がまた好奇一色になる。

 もう一方の有能な女子社員は、美人ではないけれど、一瞬で女子に煙たがれるほどのお色気たっぷり。
 脂ののったアラサーらしい。
 ピチピチスーツに盛りヘア。
 瞬きするたびに、まつ毛がバサバサ羽ばたいている。

 しかし、仕事はかなり出来ると月山さんが紹介していた。


「本当に能力で引っ張って来たの? どう見たって月山さんがお色気に負けたって感じじゃない?」

「見て!営業の男たちのニヤケ顔!不快の一言!」

「後藤さん、うかうかしてたら月山さん取られちゃうわよ」

 余計なお世話だと思いつつも、月山さんが戸崎さんに近寄って仕事の説明をしてたりすると、やはり、胸がチクリとする。

 自分はヨシと、キス以上のこともしたくせに、だ。









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