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血
しおりを挟むシ……ン……。
けれども、物音一つ返ってこない。事務所にも応接室にも人の気配はない。
「急にデカイ声出すな」
さっき、この男も二人きりだって言っていた。加納の少し荒くなった呼吸だけが背後から聞こえてくる。
どうにかして私の頭を押さえている手を退かしたい。
そうしたら、逃げることだって出来るのに。
「やっぱり……生で触ると違うな……男を知らない固さがいいんだよ」
益々興奮してきた加納は、頭を押さえていた手も胸にあてがい始める。
首から上を動かす事が出来た私は、加納のデスク下に置いてあるダンベルに気づき、それに手を伸ばした。
この人、こんなもの会社に持ってきて鍛えてたんだ……。
なんのために?
まさか、女を組伏せる力をつけるため?
「俺はゴムボールみたいな処女の胸が好きなんだ」
胸を弄る事に夢中になってる加納は、私が指先でダンベルを握っていることに気がついてはいない。
加納の手がスカートの中にまで達しようとしたその時、
「ヴッ……!!」
当てずっぽうで後ろに投げたダンペルか、鈍い音を出して、加納の体の一部を直撃したもよう。
押さえられていた体が、ふっと自由になった。
「……ってぇ……!!」
恐る恐る後ろを振り返ると、加納が脛を押さえて痛がっていた。
脛は、人の脚が当たっただけで痛いのだから、鉄のカタマりなら尚更だ。
逃げるなら今しかないと思って、ブラをつけ直す事もなく、慌てて入り口に向かう。
「てめっ!ふざけんなよっっ」
けれど、鬼のように真っ赤になった顔で私を追いかけてきた。
脛、足は痛くないの?!
加納の執着心に恐怖を抱いた瞬間、
「キャァっ!」
脚を両腕で捕まれ、また、前方に倒れこんでしまう。
前、スタンディングライヴで切ったのと同じ所をドアのノブにぶつけて、激痛とともに、血が床を汚しているのを目にした。
「……ここまで本気にさせたあんたが悪いんだからな」
「……」
抵抗する力なんて、萎えた。
再び、荒くなった加納の息だけが耳元に降りてきて、されるがまま仰向けで天井を見ていた。
帰ったら、このスーツ捨てよう、とか、今度こそ退職願い書こうとか、こんなひどい目に合うくらいなら、ヨシに抱かれていればよかった、とか――
せめて、本当の恋愛をしてみたかった――
そんなこと、思ってた。
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