美獣と眠る

光月海愛(こうつきみあ)

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リタイア

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 あのタコ課長のせい?

「悪いのは明らかにあの課長じゃないの。 私は皆の前でキスされたんですよ?  酔っているといっても訴えたらこっちの勝利じゃないですか!」

  ニヤニヤする加納に食って掛かる。

「そーんなこと俺に言ったってしょうがないじゃん! あの課長は立場は強くないけど、人事に関しては長年権力持ち続けてるからさー」

「……だからって、あまりにも露骨……」

 あのタコ課長。
 飲み会のときも、やたらと月山さんのこと目の敵にした発言してたっけ。とことん嫌なやつ。
 

「いくら酔ってても、上司に酒かけたら、そりゃ笑い事じゃ済まされなくなるよな、あの件で課長が普段、ハゲ隠しのパウダー振ってたことも明らかになったし」


 プッ!
 とあの時の事を思い出したのか、本山さんたちが笑っている。

「すごかったよねー、後藤さんにビールかけられた時の課長の髪……ワカメみたいなのが、ぴろんって張り付いててさ……」

「ワカメほどもボリュームなかったじゃない、茎ワカメとかヒジキくらいのが乗っかってたよねー」

「アハハ! そうそう!」

「しかも、急! 来月からなの?」


 打診もなく理不尽に決定された異動、腑に落ちない。


「急じゃないっしょ、人事異動なんてこんなもん」

「だけど、Kanedoの仕事もまだ残ってるのに……」

「あ、それ、心配要らねー、俺と戸崎で完璧に引き継ぐから!」

「え」

「これも本部からの決定事項、だから後藤さんは気にせずに庶務のお仕事、まっとうしてきてよ」


 愕然と、せずにはいられない。

 なぜなら、うちの庶務は、お払い箱された人間の墓場だと言われてるから。

  ううん、お払い箱は言い過ぎかもしれない。
 庶務といっても、資料整理や備品の発注以外にもちゃんとした仕事はある。営業が持ってきた申し込みの登録とか、原稿の締切の際の数字合わせとか……。

 だけど、

「才能のないオペレーターが行くにはピッタリのところじゃないの? 若いだけで変な期待されて、重要な仕事を失敗するような社員が納まるにはベストな席さ」

 加納が言うように、わたしの中では、庶務といえば、リタイヤ組が行くというイメージがあった。


「おはよう、後藤さん」

 最近は好意的な印象を持っていた戸崎さんにも、嫉妬に近い感情が生まれて、普通に挨拶が出来なかった。

「…おはよ………います」


 こんなとき、そばに月山さんがいてくれたら、なんて思ってしまう。


 ブブ♪

『……あ』

 ーーーー美徳ーーーー

 そして、追い討ちをかけるようにヨシからのメッセージ。



【ピアス、忘れてるぞ。あと、大事な話もある】


……逃げないで、ヨシにちゃんと伝えなきゃ……







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