美獣と眠る

光月海愛(こうつきみあ)

文字の大きさ
133 / 172

最後のキス

しおりを挟む
 
 「ちょっと? 寒いからやめて……」

 涙なんか、見られたくない。ヨシの手から逃げるようにパッと顔を背ける。

「俺のマフラーで鼻水拭いてんじゃねぇよ」

「鼻水なんかっ……」

 ズルッ……。

「……めっさ出てるやん」

 ……。

「寒いからよ。 誰かさんがこんな真冬に展望デッキに行こうなんて言ったからっ」

「はぁ??  誰がお前なんか誘ったよ?」

「というか、くっついてきたでしょ? もぉ限界! 飛行機なんてどうでもいい!無事に着いてさえくれたら。もう下に降りる」

 ロケ初体験の、こんな日にまでシンミリしたくはない。

「待てって!」

 離れようとした私の腕を、ヨシが力強く引っ張り戻す。

「な、なに?  」

「もうお前がアイツとくっつこうが離れようが着陸地点間違えようが知ったこっちゃねーんだけど!」

 人を飛行機みたいに言わないで。

「……″ けど ″ ?」

「最後に謝りたかった」 

「……え……」

 ……最後に……。

 ヨシの低い声に、足が立ち止まる。

「謝罪なら、さっき……」

「ついでに御礼が言いたかった」

「……なんの……?」

「新曲のこともそうだし、CMのことも……」

 こんな日に湿っぽくなりたくないのに、

「俺の可能性、方向性、広げてくれたのは、お前じゃん」

 なんで、そんな事、今、言うのよ?

 乾き始めた目元が、また、濡れてしまう。


「……そして、最後にキスしたかった」

 ヨシの低い声が、離陸していく飛行機の音にかき消されていく。

  ……″ どうして、最後なの? ″

 聞きたかったけど、……言葉は飲み込んだ。

 ヨシは気づいてるんだ。

「ここで、最後にキスしたら、もう俺とお前は、CM出演者と作り手に戻る」

「……ドライなんだね」

「いや、ミュージシャンと、元ファンか」

「″ 元 ″ じゃないよ、今だってVirtueのファンだよ。Virtueのヨシの大ファン……」

 ずっと、美しくて、儚い、壊れそうなものが大好きだった。
 ありふれた現実の恋なんて、望んでもいなかった。

 非現実な夢を、長い間、Virtueのヨシに見させてもらっていた。

「戻るも何も、それ以上にはなれなかったのにな」

 そんな私は、ヨシに魅力的な人間味を多く感じても、憧れのアーティスト以上の思いを抱くことが出来なかった。

「それでも、俺からしたら、初めての恋愛だったから……思い出にな……」

 私のリアルな恋は、ヨシと出会う前に始まっていたんだから……。

 ヨシの冷えきった手が、私の濡れた頬を包んだ。

  風になびくヨシの髪と私の髪が、何度も唇に侵入してくるのを指先で排除しながら、ヨシは、ゆっくりと顔を近づけてきた。

 鼻先が頬に触れるとくすぐったくて、冷たくて、ここに長居し過ぎたことを気付かせてくれる。

「一応、芸能人だし、人がいるから……」

 コートを広げて、それで私を包み込み隠すように、唇を重ねてきた。

 冷たいけれど、温かな唇だった。
 コートの中で、二人分の体温が逃げていかないように、私はヨシを抱き締めた。

 最後の抱擁だった。















しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

6年分の遠回り~いまなら好きって言えるかも~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
私の身体を揺らす彼を、下から見ていた。 まさかあの彼と、こんな関係になるなんて思いもしない。 今日は同期飲み会だった。 後輩のミスで行けたのは本当に最後。 飲み足りないという私に彼は付き合ってくれた。 彼とは入社当時、部署は違ったが同じ仕事に携わっていた。 きっとあの頃のわたしは、彼が好きだったんだと思う。 けれど仕事で負けたくないなんて私のちっぽけなプライドのせいで、その一線は越えられなかった。 でも、あれから変わった私なら……。 ****** 2021/05/29 公開 ****** 表紙 いもこは妹pixivID:11163077

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

こじらせ女子の恋愛事情

あさの紅茶
恋愛
過去の恋愛の失敗を未だに引きずるこじらせアラサー女子の私、仁科真知(26) そんな私のことをずっと好きだったと言う同期の宗田優くん(26) いやいや、宗田くんには私なんかより、若くて可愛い可憐ちゃん(女子力高め)の方がお似合いだよ。 なんて自らまたこじらせる残念な私。 「俺はずっと好きだけど?」 「仁科の返事を待ってるんだよね」 宗田くんのまっすぐな瞳に耐えきれなくて逃げ出してしまった。 これ以上こじらせたくないから、神様どうか私に勇気をください。 ******************* この作品は、他のサイトにも掲載しています。

処理中です...