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地獄
しおりを挟む体当たりした、黒レースづくめのバンギャとそれに押されたヨシが、あっという間に落ちて私の背中を押していく。
一瞬、飛んでるみたいに思えた。
ロビーにいる人達が何か叫んでいたけど口パクみたいに聞こえなかったし、目覚め間際によく見る落ちていく夢みたいだと落ちながら思った。
「ヨシ!」
だけど、突如目の前に現れたあの人の声だけは届けられて、
「後……藤っ!!!」
ヨシと私の名前を叫んでいたのは分かった。
月山さんの胸に、私だけじゃない、三人分の身体が飛び込んだ。
落ちた時に衝撃はあっても痛みはあまり感じなかった。
でも、床に打ち付ける鈍い音は確かに聞こえて、恐る恐る顔を上げた。
私の上にヨシが、そして、前方にファンの女の子が落ちて倒れているのが見えた。
頬に、体温を感じる。
恐る恐る見ると、私は、月山さんを下敷きにしていた。
「……って……」
ヨシのうめき声も聞こえる。
月山さん、本当に月山さん?
意識とかなく、死んでるみたいだった。
「キャァァァァーーー!」
戸崎さんの悲鳴で、ハッと我に返った。
ロビーの床には、血の海が出来ていた。
「……っつ、月……」
月山さんの後頭部から溢れていた。
震えて声が出なくて、駆け寄る係員の前に、ヨシがそのグッタリした身体を抱き起こしていた。
悲しそうだった。
血だらけの二人を見ていたら、目眩がした。
私はケガなんかしていないはずなのに気を失って、そこからの記憶を無くした。
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