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第七章 紫都の新しい旅
部屋呑み
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ラインや電話してこないところも岡田らしい。
私は、念のために【今からそっちに行きます】と打って送った。
部屋に鍵をかけて、隣のドア前で、やっぱり躊躇う。
鹿児島で、お客様の木下さんに部屋に入られたこと、岡田に叱られたっけ。
隙があるって。
そんな人だから、余計に色々考えちゃうのよ。
私を部屋に招いたのは、自身が完全に安全な男だから?
それとも、男女の関係になることを前提として誘った?
わからない。
私は、息を吸って、吐いたのと同時にドアを二回叩いた。
鍵は開いていたみたい。
解錠の音はせずにドアノブが動いた。
「遅かったな、先にやってた」
岡田が扉を大きく開けて、私を招き入れる。
部屋が薄暗くてドキッとした。
「………すみません、テレビに観ハマってて」
嘘だけど。
「何か面白いのやってたか? 俺は即効、消した」
そう言う岡田の部屋のテレビには、有料の映画が………。
「これ、なんですか?」
「いや、タイトル分かんない。好きなの無かったから適当に選んだ。ボンヤリ観てるだけ。多分、ヒューマン系かな」
「…へぇ………」
お金払うのに、適当に選んだんだ。
アダルト観てたら、それはそれで引いたけど。
「つっ立ってないで、好きなの取れよ」
岡田が冷蔵庫を開けた。
サイドテーブルを見ると、飲みかけのビールがあったので、私もビールを取った。
「無理して合わせなくていい、女はチューハイやカクテルが好きだろ?」
「そこまで甘いものが好きなわけじゃないです」
「………あ、そう」
とりあえず、椅子に腰をおろして乾杯する。
仕事のような、そうじゃないような旅の夜に。
「お疲れ」「お疲れさまです」
初めて見る岡田の飲酒姿に、やっぱりプライベートなんだなって思えて、また少し緊張してきた。
呑みながら、始めはやっぱり仕事の話になった。
岡田自身が添乗員をしていた事もあり、思いの外、盛り上がる。
「講習受けて、資格取って、先輩添乗員についてツアー回ってさ、三回目からは一人立ちだったよな」
「そう! 私も! 無謀だなぁって思ったけど、逆に鍛えられた感じがする」
「実際、添乗員は不足してるからそうしないと回らないのかもしれない。特に海外は………」
海外にも行っていた岡田の話はとても興味深かったし、国内の身近な話もお互いに共感できた。
「対客電話って休みの日にしてるだろ?」
「そうですね、それをしないと最終確認できた事にならないので」
「あれって、ボランティアじゃん、客が出ない時って無駄だと思わね? オレオレ詐欺が横行してたし、警戒されて電話すら取って貰えなかった」
「私もですよ、最近は携帯にかけてもなかなか…それで休みが潰れたり………」
はぁ、と私がため息をつくと、岡田がハッとしたように私を見た。
「そういえば、よかったのか? 次のツアーの対客電話………」
「打ち合わせが明日なので、それ以降で大丈夫です」
今日は、たまたま、ツイていた。
もし、仕事 が入っていたら、赤石さんの迎えには行けなかった。
「そっか、ラッキーだったな、俺も」
「………え」
岡田が、二本目のビールを空けて呟くように言った。
「じゃなきゃ、この時間、一人で後悔してた」
「………後悔? 何を?」
この前、ツアー終わりのバスの中で見たような、暗い陰が岡田の顔に表れた。
「過去、を」
「… …どうして?」
私は、ピーナッツの殻を剥いていた手を止めた。
「赤石婆さんを見ていたら、元嫁の事を何となく思い出すから………」
そっか。この人、バツイチだった。
言葉の端に刹那を感じさせる岡田は、私が殻を剥いたピーナッツを、一つ摘まんで口に入れ、
「赤石さんと奥さんって似てるの?」
私の質問が悪かったのか、それを喉に詰まらせていた。
「そういう意味じゃない!」
咳き込みながら、涙目で首を横に振る。
そんな全力で否定したら赤石さんが可哀想だ。
「………俺と離婚してから、誰かと再婚してたり、子供を授かったりしてくれていればいいけど、そうでなかったら救われないなって話」
…あぁ。
だから、赤石さんには親身なんだ。
夫を失い、 独り身になった女性だから。
ずっと聞きたかった事が聞けて、ちょっとスッキリした。
「奥さんから連絡は、ないの?」
「ないな。元々関東の女だったし」
「心配?」
「ちょっとは………でも、実際は女の方が立ち直るのが早いのかもしれない」
そう言うと、岡田は冷蔵庫から缶チューハイと日本酒のカップを取り出して見せた。
私のビールが空いたのを気が付いていたらしい。
「あんたの場合もそうだろ、男の方が未練タラタラだった」
私は、念のために【今からそっちに行きます】と打って送った。
部屋に鍵をかけて、隣のドア前で、やっぱり躊躇う。
鹿児島で、お客様の木下さんに部屋に入られたこと、岡田に叱られたっけ。
隙があるって。
そんな人だから、余計に色々考えちゃうのよ。
私を部屋に招いたのは、自身が完全に安全な男だから?
それとも、男女の関係になることを前提として誘った?
わからない。
私は、息を吸って、吐いたのと同時にドアを二回叩いた。
鍵は開いていたみたい。
解錠の音はせずにドアノブが動いた。
「遅かったな、先にやってた」
岡田が扉を大きく開けて、私を招き入れる。
部屋が薄暗くてドキッとした。
「………すみません、テレビに観ハマってて」
嘘だけど。
「何か面白いのやってたか? 俺は即効、消した」
そう言う岡田の部屋のテレビには、有料の映画が………。
「これ、なんですか?」
「いや、タイトル分かんない。好きなの無かったから適当に選んだ。ボンヤリ観てるだけ。多分、ヒューマン系かな」
「…へぇ………」
お金払うのに、適当に選んだんだ。
アダルト観てたら、それはそれで引いたけど。
「つっ立ってないで、好きなの取れよ」
岡田が冷蔵庫を開けた。
サイドテーブルを見ると、飲みかけのビールがあったので、私もビールを取った。
「無理して合わせなくていい、女はチューハイやカクテルが好きだろ?」
「そこまで甘いものが好きなわけじゃないです」
「………あ、そう」
とりあえず、椅子に腰をおろして乾杯する。
仕事のような、そうじゃないような旅の夜に。
「お疲れ」「お疲れさまです」
初めて見る岡田の飲酒姿に、やっぱりプライベートなんだなって思えて、また少し緊張してきた。
呑みながら、始めはやっぱり仕事の話になった。
岡田自身が添乗員をしていた事もあり、思いの外、盛り上がる。
「講習受けて、資格取って、先輩添乗員についてツアー回ってさ、三回目からは一人立ちだったよな」
「そう! 私も! 無謀だなぁって思ったけど、逆に鍛えられた感じがする」
「実際、添乗員は不足してるからそうしないと回らないのかもしれない。特に海外は………」
海外にも行っていた岡田の話はとても興味深かったし、国内の身近な話もお互いに共感できた。
「対客電話って休みの日にしてるだろ?」
「そうですね、それをしないと最終確認できた事にならないので」
「あれって、ボランティアじゃん、客が出ない時って無駄だと思わね? オレオレ詐欺が横行してたし、警戒されて電話すら取って貰えなかった」
「私もですよ、最近は携帯にかけてもなかなか…それで休みが潰れたり………」
はぁ、と私がため息をつくと、岡田がハッとしたように私を見た。
「そういえば、よかったのか? 次のツアーの対客電話………」
「打ち合わせが明日なので、それ以降で大丈夫です」
今日は、たまたま、ツイていた。
もし、仕事 が入っていたら、赤石さんの迎えには行けなかった。
「そっか、ラッキーだったな、俺も」
「………え」
岡田が、二本目のビールを空けて呟くように言った。
「じゃなきゃ、この時間、一人で後悔してた」
「………後悔? 何を?」
この前、ツアー終わりのバスの中で見たような、暗い陰が岡田の顔に表れた。
「過去、を」
「… …どうして?」
私は、ピーナッツの殻を剥いていた手を止めた。
「赤石婆さんを見ていたら、元嫁の事を何となく思い出すから………」
そっか。この人、バツイチだった。
言葉の端に刹那を感じさせる岡田は、私が殻を剥いたピーナッツを、一つ摘まんで口に入れ、
「赤石さんと奥さんって似てるの?」
私の質問が悪かったのか、それを喉に詰まらせていた。
「そういう意味じゃない!」
咳き込みながら、涙目で首を横に振る。
そんな全力で否定したら赤石さんが可哀想だ。
「………俺と離婚してから、誰かと再婚してたり、子供を授かったりしてくれていればいいけど、そうでなかったら救われないなって話」
…あぁ。
だから、赤石さんには親身なんだ。
夫を失い、 独り身になった女性だから。
ずっと聞きたかった事が聞けて、ちょっとスッキリした。
「奥さんから連絡は、ないの?」
「ないな。元々関東の女だったし」
「心配?」
「ちょっとは………でも、実際は女の方が立ち直るのが早いのかもしれない」
そう言うと、岡田は冷蔵庫から缶チューハイと日本酒のカップを取り出して見せた。
私のビールが空いたのを気が付いていたらしい。
「あんたの場合もそうだろ、男の方が未練タラタラだった」
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