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florting おだやかに……
人ごみに紛れて
しおりを挟むね、知ってる?
水槽のメダカって、水流いらないんだって。
あったらひたすら逆流して泳いで、
泳ぎ疲れて、
……死んでしまうんだって
ーーー
私は、いつも 流されてる。
人混みにも、 時の流れにも。
これが私っていう人間の人生なんだろうなって、
26歳にもなれば諦めに近いものが出来上がっている。
けして、うまく世間を泳いでるわけじゃない。
ただ、浮いてるだけ。
ーーだけど、……思う。
「間もなく一番線に白○○行きが、各駅停車6両編成で到着しますドアから離れて……」
今から乗るこの満員電車が、突如テロ攻撃にあったとしたら……。
グズで、人の流れに身を委ねてただけの私は、真っ先に逃げ遅れるだろうなって。
そして、あっという間に命を落とすんだろうなって……。
都内のディーラー向け管理システムのメーカー会社に勤めて六年。
庶務事務員として、代わり映えのない毎日を送るために、私はこの満員電車に押し込まれるように乗り、
そして、最寄り駅に着くと、放出されるように同じ所へ向かってホーム内を歩いている。
ラッシュ時。
後に続く人に押されないように、そのためにはどのくらいのスピードで歩けばいいか体が覚えていた。
いつものように、迷うことなくスマートに改札口に向かっていると、
「伊織……!」
誰かが、私の名前を呼んだような気がした。
″ いおり……″。
今の、声。
先生……?
思わず立ち止まって、声の聞こえた背後を振り返り、通学通勤者達の流れを止めそうになった。
「おっっ……! と」
すると、やはり人と接触。
「……あ!」
肩が当たった。
「ごめんなさっ……」
同時に、バサバサッ!と音が聞こえた。その人は手荷物が多かったようで、ビジネスバッグと一緒に持っていた紙袋をホームの床に落としていた。
「あ、いいっ!大丈夫!」
しゃがみこみ、それを拾おうとした私の手を遮って、己の荷物を拾うその手は、色白でとてもキレイだった。
女の人かと思うほど。
でも、スーツ姿の若い男性だった。
顔は良く見えなかったが、拾いながら口にSuicaのカードをくわえる様は、ちょっと面白い。
「どーもね!」
私に怒りをぶつけるわけでもなく、Suicaを右手に持ち直して、颯爽と改札口に向かうその人からは、ほんのりと深煎り珈琲の匂いがした。
それにしても、何で先生の声が聞こえたんだろ?
まさか、先生がホームにいた?
……空耳?
懐かしい低い声は、高校時代の恋を思い起こさせた。
けして、甘酸っぱいだけの淡い恋じゃないけれど。
「って、時間やば」
立ち止まっていた時間はそんなに長くはない、ましてや会社に遅刻しそうなわけでもない。
それでも、ロスタイムがあると人生損したような気持ちになる。
元々マイペースな私も、六年の間にすっかりポジティブ社蓄となりつつあった。
そのOLライフも、あと一年もすればサヨナラ……かな?
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