ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

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トラブルの予兆

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   一つ年下の上司との、ややアブノーマルなセックス。
    先生との再会ーー

    心が乱れるようなことばかりで、気持ちは乗らなかったけれど、仕方なく信に電話をかけた。

   そして、すぐに後悔した。

 「指輪だけ受け取って、話ぜんぜん進めてないだろう?」

    信の責めるような声に、昨夜の罪悪感が込み上げてくる。
     指輪はアレルギーではめられないので、本当は返品したいところ。
   それも、きっと彼の両親が購入したものに違いなかった。

    だからこそ、心底嬉しくなかったのかもしれない。

 「わかった。うちのお母さんに伝えてみる。 土日も仕事だから、夜になると思うけど」

    それでも、やっぱり結婚はするものだと思い、親同士を正式に会わせる約束をした。

    そのあと、離れて暮らす母に電話をすると、とても喜んでいた。


「あんたもようやく人並みに幸せになれるね」



母は、私と先生の過去も、知っていたからだ。






    月曜日。
    朝の通勤ラッシュの中、今まで気にしなかった葉築さんの乗車を確認する。

    ″ なかなか同じ車両にならないな ″


    そう言っていたので、彼の方は気にしてくれていたんだ。
    そう思うと嬉しい。

    だけど、やっぱり彼とは同じではなくて、気がけて見たホームにも、葉築さんの姿はなかった。






 「おはよう」
 「おはようございます」

   着いて事務所を見渡しても、やはり居ない。
   ちょっと肩透かしを食らったような気分で、メダカのお世話をしていると、室岡支店長が近寄ってきた。


   「鷲ちゃん、おはよう。メダカまた一匹だけ弱ってるよ」


  「え、本当ですか?」

   言われて見たら、確かに動きの悪い、鱗が変色しているメダカが一匹いた。

 「隔離してないと、あっという間に食われちまうぞ」

    室岡さんもそう言うので、稚魚を育てている水槽の方へ移してやった。

    普段なら、あまりメダカに関心のない室岡さんが、私の隣でずっと見てるので気になった。


  「……な、なんですか?」

  「いや、なんか今朝の鷲ちゃん、綺麗だからさ」

  「はいっ!?」

    今まで、生臭いとか、悪態しかつかなかった上司から、まさかそんな言葉が出るなんて思ってなくて、ビックリした。

  「……なに言ってるんですか?」

  「まぁ、俺の目の疲労だろうなぁ。鷲ちゃんがやけに色っぽく見えるなんてオカシイもんなぁ」

    失礼な撤回をして去っていく室岡さんは、

  「オー、荒城ちゃん、今朝も化粧のノリいいねぇ!」

    女子社員、皆に適当な挨拶をしながら、デスクに着いていた。

   「……」

    ホッとした。

   ……何か気が付かれたかと思ったから。


   
     朝礼で、葉築さんはクライアントとの打ち合わせで既に現場に向かってる、と室岡さんが話してた。

     ……だから、いなかったのね。

    早く会いたいのに、どういう顔をして会えばいいのか分からなかったので、これもまたホッとした。


 「室岡さーん、スミマセン! この新規ディーラーの代表者名簿、少し古いみたいなんで見てください」

    甘い声を出して、荒城さんが室岡さんのそばに駆け寄っていく。

  「PCで送ってくれれば、わざわざここまで来なくていいのに。どら? チェックしようか?」

  「ありがとーございまーす!」

    強目の香水の匂いを振り撒いて、本命を室岡さんに定めた荒城さんは、チェックするその横顔を、じっと見つめていた。
     度々、長いまつ毛エクステを瞬きで揺らしながら……。

   すご……室岡さんに穴開いちゃうよ?

    あまりに分かりやすいアプローチに不快を示したのは、経理の小村さんと、荒城さんに想いを寄せる立道さんだ。

  「あの子。この前の飲み会で宣言してたからね、一週間で室岡支店長をおとすって。どこまで自分に自信があるんだか、ちっとは謙虚に生きろって話」

    小村さんがコピーを取りながら、近くの私に珍しく影口をたたいてきた。

     正直、どうでも良かったのだけど……。




   「鷲塚さん、ちょっと頼みがあるんだけどいいかな?」

    普段あまり話をしない立道さんにお願いをされて、そ知らぬ振りができなくなる。



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