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afterimage 残像

屋上

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   う……わー、

「今、聞きますか? 今さら、仮にも仕事中に」

   こんな明るい、性の匂いの欠片も漂わない時間帯に。
    唐突過ぎてビックリした。


   「いや。エレベーターでヤるより刺激的な所だったら、ちょっと悔しいなぁと思って」

    ボタンの【閉】を押したまま、葉築さんは私の回答を待っている。


   「……刺激的も何も……会う時間も限られてたし」

   「まぁ、十六才じゃ門限もあるしな。で、どこなの?」

   「と、時にはホテルにも行ってたんですよ?」

   「学校内では?」

   「……ではって」

    ここはオフィスビル。
    うちの会社以外にも複数の会社が同じフロアにある。

    人が来ないか気になって、早く解放されたくて、つい、

   「体育倉庫、とかトイレとか」

    恥ずかしげもなく、いや、相当恥ずかしかったんだけれども、正直に話してしまった。

    葉築さんはニヤリと笑い、「ちょ、想像するから」と、目をつむって、妄想タイム。


   「ヤバ……。ヤりたくなってきた」


   「なに言ってるんですか? 思春期じゃあるまいし」

    話した事を後悔し、ずっと【閉】を押さえていた葉築さんの指を、無理やり離そうとしたら、

   「5分、ちょうだい」

    葉築さんは、それも許さず、屋上階のボタンを押してしまった。


 「屋上?」
  
   なんでまた……。

  「エレベーターの中って防犯カメラあったんだよな」

  「え、そうなの?」

    六年間、全く気にも止めなかった。
    キョロキョロと見上げると、確かに小さなカメラがあった。

    今は、街中、どこでも防犯カメラが設置してあるものね。


   「なんで、チューもできないな、と思って」

   「……そんなの」

   「″ いつだってできるのに ″ って?」

   「……」

   「俺は今したくなったんだよ。まだ、鷲塚さんの温もり覚えてるうちに」


     ーー ″ 温もり ″ 。

    リアルな言葉に赤面する。

  「運良く誰も乗ってこなかったな」

    そんな私をからかうように、エレベーターを降りると同時に、背後から抱きついてきた。

    葉築さんの柔らかい髪が、今日は違う香りを放って私の鼻をくすぐった。

    こんなに、欲情って継続するの?

    あのあと、彼女とも会って、セックスしなかったんだろうか?

    葉築さんは私を抱きすくめるように、無人の野外に連れ出す。

    最近のオフィスビルの屋上は、テラスや庭園があったりお洒落な所もあるけれど、このビルは違う。


    少し錆びた、高い鉄製の柵に、貯水タンク。

    屋上中を張りめぐる配管。

    まともに座る場所もないけれど、死角は沢山あった。

   タンクの裏で、強風を避けて抱き合いながら、同じ珈琲の匂いのする唇を合わせた。

    角度を変える度に、葉築さんの背後に見える赤い東京タワーが視界に入ってきて……。

    それがまるで表情を持ってるかのように、怒ってこちらを見ている気がした。


     私たちは、イケないことをしてるーー。


    そう言われてるような気がして、目を閉じて、それを視界から消した。


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