ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

link 繋がる過去

連絡先

 「伊織……」

  先生の腕から戸惑いが伝わる。

  あんな思いをして別れたのに、今さら、こんな風に出会ってしまった私が、再び弱さを見せたから。


「……今だけでいいです……ほんのちょっとだけ……」


   先生は何も言わずに、腕から胸へ私の体を回転させるように持ってきて……。

  そして、力強く抱き締めた。

  とうとう、我慢していた涙が溢れ出す。

   けして、私は不幸ではないのに、どうしても、心が満たされない。


 「なんかあったら何でも言え。俺はお前の味方だから」


   先生が、新しい連絡先を私に教えてくれた。


   橋元先生は、けして、私とまた会いたいと言ったわけじゃない。
   元教え子として……、そして、心も身体も許した昔の女として、私を心配してくれただけだ。


   それでも、先生からたまに来るメールは楽しかった。


 【先生、なんでラインしないんですか？】

 【良く人にアナログマンて言われるよ。でも、別にしなくても困ってない。俺は昔から通話専門だ、知ってるだろ？】

   当時も、生徒にメアドを教えない先生で有名だった。

   なのに、私にだけは教えてくれた。

  嬉しかった。皆が好きな先生を独り占めできたみたいで。


  でもーー

   橋元先生は、今、その教師という職業から離れたのだそう。


  【今は役所とかの臨時の仕事とかしてるよ。あとはサッカーばっかりやってる】


  先生は、今、全てがフリー。


  【だから気兼ねなく電話してこい】


   時を経て。
   私にとって、また、お父さんみたいな存在になった。