ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

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fluctuation 変動

クリスマス・イヴ

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  室岡さんからの自主退職を促された立道は、葉築さんの助言もあり、四月までは、この三田営業所に所属。
  それ以降は、葉築さんがいた千葉の支店に異動する旨が決まった。

 「俺なら辞めるけどなぁ」

 「やりづらいだろうに」

  接待の話は、室岡さんや葉築さん、私も他言してはいない。

  でも、噂って、どうしても広まってしまうもの。

  立道は、同僚の痛い視線を浴びつつも、何故か退職を決意しなかった。
  安易な考えだけど……。
  まだ、荒城さんの事を諦められないのかな? なんて思ってた。



「鷲ちゃん、研修の日程決まったぞ」


  室岡さんが、営業研修の日程を、社内メールで送ってくれた。

 「12月23日、24日、…そして1月の17、18日……」

  四月まで月に一回実施されるようだ。それを背後から見ていた荒城さんが、

 「クリスマス・イヴに研修だって、かわいそうー」

  楽しそうに笑っていた。

 「ま、結婚もやめて、人の男にしか興味ない女には、クリスマスとか関係ないんでしょうけどね」

  ムッとしたけれど、元々そんなにクリスマスを満喫した覚えもないので、とりあえずシカト。

  毎年、信とは24か25、どちらか会ってはいたけど、私がケーキを買って、いつものラブホデートをするだけだった。

 「何よ、シカトー? 鷲塚さんて最近、ちょっと態度が……」

  まだ物足りずに絡んでくる荒城さんに、通りすがりの小村さんがボソッと、かなり低い声で囁いた。

 「そんなフリーの荒城さんはイヴどうすんの? 街コンでも行くの? それとも去年と同じように一人で映画でも行くの?」

  これには、たまたま後ろでコピーをとっていた葉築さんも笑っていた。

 「ちょっ?!何でそういうこと言うわけ?!」

  顔を紅くした荒城さんは、「休憩行ってきます!」と、少し早めの昼休みを取りに、外へ出てしまった。

 「荒城さんでも一人で映画とか観るのね」

  意外過ぎて呟くと、小村さんが首を横に振りながら教えてくれた。

 「去年ね、クリスマス直前に男にフラれて、急遽、友達と女子会を開く事にしたらしいけど、皆からドタキャン食らったのよ。ああいう性格の人だから、表向きだけ華やかな人生を送ってるんじゃない? 私もうわべだけの付き合いだし」


  ……うわべだけ。

  てっきり小村さんと荒城さんはウマが合う人達だと思ってたので、世の中わかんないなぁと思った。

 「鷲塚さんは、クリスマスどうするの?」


  小村さんに聞かれても、何も予定の無かった私は、

 「きっと、家で研修のレポートでも書いてるんじゃないかな?」

 リアルな現実を予想した。

 「ま、そんなもんよねー。大体ここも忙しくて残業だろうし、私も仕事に徹するわ。……でも、葉築さんは美人な彼女とデートなんでしょ? スカイツリーでも行くの?」

  突然のフリに、葉築さんは、ちょっと困っていたけど、

 「スカイツリーはもう行かないと思うけど、東京タワーには行くかもしれない」

  誤魔化すわけでもなく、まともに答えていた。

  ″ 東京タワー ″……

 「いいわねー! リア充は! 仕事も出来て、そこそこイケメンだもん!そうこなくっちゃ」

 「そこそこは余計だよ」

  私と浮気してるなんて噂があったのが嘘みたいに、彼の恋愛は順風満帆のよう……。

  少し、虚しい気持ちになりながら、間近に迫った研修のために事務処理の調整をはかった。




ーーーー


   12/24。

  本部で行われた営業研修二日目。

  一日目の、対顧客対応マナーなど、一般企業と変わらない内容の時はまだ良かった。

  事務員でも、入社前研修で似たようなことを経験したので余裕だったからだ。



「まず、商談の工程をはっきりさせます。アプローチから、クロージングに至るまで、何をやっていくのかのステップを明確にします。これをセールスステップといい、……営業マン個人の自己管理ツールにもなりますし、何よりも、管理職にとって……」
 

  営業職員を対象としてるので当たり前だけど、マニュアル本と変わらない専門用語が頻繁に使われる講習になると、眠気まで襲ってくる始末だった。



「ありがとうございましたー」

 そして、PM 7:30。予定よりも遅れて講習終了。

  室岡さんに、直帰の許可を得るために電話をすると、想定外の返事がきた。


 「鷲ちゃん、もし、このあと予定無かったら飯でもどう?」
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