ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

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fluctuation 変動

サプライズ

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  でも、不平等じゃない。

  お母さんは、朝から夜までずっと働きづめで、女としてお洒落することも、色恋に走ることもなく私を育てて、すっと一人、今に至っている。

  お父さんだけ、ずるいーー。

  そう思ったら、この寒空のクリスマスに、お母さんを一人にしている事がとても親不孝に感じて、実家に電話をかけた。

 「あら、なに?どうしたの?」

  お母さんは、とても賑やかな所にいるようで、電話からガヤガヤとした雑音が聞こえてきた。

 「……別に。どうしてるかな?と思って。今、インフルエンザ流行ってるから」

 「どうしてるって、パート先の忘年会で飲んでるのよ」

  忘年会?

 「クリスマスに……?」

 「クリスマスなんてもう関係ない年代ばっかりの仕事場だからね! それより、伊織、あんたは何してんの?」

  ……なんだ。
  そっちはそれなりに宜しくやってるのね。

 「仕事だよ、仕事。異動前で忙しくて」

  逆に心配されてしまいそうなので、電話は手短に切った。

  ……さて。帰ろ。

  まさか、こんな夜に信も待ち伏せなんてしてないだろうから。

  コンビニで小さいケーキとシャンパンを買ってアパートに向かった。




  まず、アパート付近に信の車が止まっていない事に一安心し、そして、玄関の鍵がこじ開けられてない事を確認。

 「……しまってる」

  当たり前の事にホッとした。

  それでも、不法侵入者がいるかもしれない。用心して玄関のドアを開けていると、

 「鷲塚さん! 鷲塚伊織さんですか?!」

  大きな声で呼び止められて、ビクッとなった。

「……はい?」

  振り返ると、若い、宅配便のおにいさんが立っていた。

  なんだー……。もう、びびらせないで。

 「お荷物が届いてます。夜の18時から21時の時間指定で」

  荷物? なんだろ?
  通販とか頼んだ覚えはないし。

  宅配便のお兄さんが持ってきたのは、電器屋さんの箱だった。


  差出人は、ーー橋元先生。



  一体、何?

  まさか、クリスマスプレゼント?

  受取印を押して、部屋で箱を開けてみた。

 「……窓用フィルターに補助施錠、人体感知センサー……ダミーカメラ、カード式補助施錠」

  中には、色んな防犯グッズが入っていた。

 「催涙スプレーまである」

  クリスマスっぽくないのに、こんな日に配達指定するのも先生らしいし、心配してくれてるんだと思うと嬉しくて、直ぐにメールをした。


 【ありがとうございます。休みの日に取り付けますね】

  普段はあまりつけないデコメ。
  ツリーと、星を散りばめながら走っていくトナカイの絵文字。
  可愛すぎた?

  シャンパンとケーキで、ぼっちクリスマスを満喫。 
 送信したメールを確認していると、先生からもメールが来た。


 【できたら、今すぐ取り付けて欲しいんだけどな。年末になると、世の中ますます物騒になる】

  泥棒のつもりなのか、サングラスしたモグラの絵文字も。

  ……先生は、今、一人なのだろうか?

  フッと、先程見かけた、父の幸せそうな顔を思い出し、やりきれなくなった。


  離婚して、双方幸せになるのも、逆に不幸になるのも、なかなか無いのかもしれない、と。

 【不器用なので、ちゃんと取り付けできるかわからない。先生、付けてくれますか?】


  橋元先生の元奥さまに、心で謝りながら、イケないメールを送ってしまった。



  こんなの、きっと先生は困るに決まってる。
   送ったあと、後悔するようにシャンパンを一気に開けた。
  ケーキしか口にしていなかったので、いつもより酔いが早い。

  うとうとしかけていると、スマホに着信音が。
  メールではなく、橋元先生は電話をかけてきた。


 「取り付け、面倒だろぉな、俺なら付けねーなって思いながら買ってたんだ。だから、俺がやるよ。いつが空いてる?」

 程よく気分が緩くなっていた私は、

「……今、今から来てください」

 こんなことを口走ってしまう。



 「じゃ、取り付けて、速攻帰るから」

 先生は、そう言って電話を切った。


  ーー嘘。

  本当に来る。

   再会して、ラーメンを食べてからは電話やメールで話をしても、直接逢ったりはなかった。
  電車でくる? それとも昔みたいに車?

  ソワソワして落ち着かないものの、シャンパンとケーキを片付け、テーブルには今日の研修の資料と、ノートパソコンを置いて、″ たいして待ってませんでした ″ をアピール。

   けれど、レポートを作ろうとしてるのに、頭は全く集中できなかった。

  先生が帰ってから、真面目にしようかな?


  ピンポーーン!

 そうしてるうちに、先生が来てしまった。


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